Part 17-4 Over and over again メビウス・リンク
1 Cavalry Regiment Camp 6th Squadron 1st Armored Division Ⅲ Corps Army Commands US.Army Company Training Ground East of Fort Bliss, July 14 00:26 ∞ 00:37
7月14日00:26 ∞ 00:37テキサス州フォート・ブリス東方アメリカ陸軍 陸軍コマンド第3軍団第1機甲師団第6戦隊第1騎兵連隊野営地
遠まわしに敵に圧されているのだと知って、マリア・ガーランドは気持ちが落ち込んだ。平行世界から持ち込んだパワード・プロテクト・スーツ1騎で戦況をひっくり返せるなどと甘くは思わなかった。
「ルナ、敵の数はどれくらいなの?」
「現在の敵員数──60」
いま先に倒した蟷螂に似た大型の怪物が60体も押し寄せたら陸軍の損害も大きいだろう。だが襲ってくる数は最初より増えていた。
「それくらい我が連隊の機甲部隊でどうとでもな────」
マリーとルナのやり取りを聞いていたパトリック・ネルソン大佐が口を差し挟んでいる最中にマリーの着た人型戦闘装甲の前に倒れたコクピットの一部が警報音を鳴らし始めた。
まだ要領を得ないマリーは人型戦闘装甲を制御するAIに問うた。
「何の警告なの!?」
「複数の敵、上空2、地中1」
「コクピット閉鎖」
空からも来るのかと思いながらマリーは人型戦闘装甲にコクピットを閉じるように命じながら両脚を踏み換え司令部テントに背を向けた。
右太腿ホルスターからショットガンを引き抜いた寸秒、球体関節装甲前方10ヤードに2体の怪物が飛び降りてきた。
その2体がまったく同時にマリーの着る人型戦闘装甲へと鎌振り上げ襲いかかった。刹那左の1体の胸を40ミリもある大口径のウィンチェスターM12の倍以上もある似た形状の型番も聞いていないショットガンで撃ち抜き、その大型蟷螂が瓦解を始めた寸秒に右の怪物へマリーがショットガンの銃口を振り向けかかった瞬間、その右の怪物の振り下ろした右腕の鎌にバレルを阻止された。
だがマリア・ガーランドの比類稀なる格闘のセンスが怪物を上回っていた。
人型戦闘装甲はショットガンを投げ上げ大型蟷螂の振り下ろした右鎌の手首を両手でつかみ、相手の太腿の付け根を蹴り上がり怪物の側面を回り込みながら高く上げた左足を振り回し怪物の頭頂部を飛び越えそのまま左足の踵を怪物の顔の左側面に引っ掛け振り下ろした鎌の右腕に馬乗りになった。
寸秒そのままマリーは前へ空転するように丸めた背中を急激に落とし込み先に地面に落下する人型戦闘装甲のマスに振り回され蟷螂の姿の怪物は遅れて恐ろしい速さで空転し背中から地面に叩きつけられた。
マリア・ガーランドは怪物の背が地面に叩きつけられる寸前に怪物の右手首から右手を放し落ちてきた回転するショットガンのスライドポンプを右手でつかむなり手首のスナップでスライドさせリロードしスライドポンプから手を素早く下げくびれたストックを握りしめるなりスナップさせ倒れた大型蟷螂の胸に斜め上からショットガンの銃口を押し付けトリガーを引き切った。
爆轟の直後、押さえ込んだ怪物が黒い砂状のものに崩壊した。
もう1体は!?
マリーは全周囲モニタの右へと振り向き司令部テントの方へ視線を振り向けた。
陸軍大佐を護ろうとルナとセスがその怪物と近接戦闘を行っていた。ルナはFiveーseveNをセスはFN SCARーHで素早く左右に揺れ動く怪物の胴体を撃とう発砲を繰り返していた。
大型蟷螂が姿勢を下げ伸び上がるように鎌を横様に振った瞬間、セシリー・ワイルドの首が刎ねられネルソン大佐を護ろうとするルナのハンドガンの弾薬が切れスライドストップが掛かった一閃、怪物が踏み込み恐ろしい速さで鎌を2度振り回した。
マリーは球体関節装甲の首に負い革で下げたFN SCARーHに似たサイズで2倍強あるバトルライフルを左手でつかみ上げ75口径の銃口を振り向け引き金を絞り込んだ。
その大型蟷螂を粉砕するよりも寸秒早くルナと陸軍大佐や他の兵士数人の首が刎ね飛んだ。
「ダイアナ!!!」
名を叫び駆け寄ろうとした刹那マリア・ガーランドは意識がブラックアウトした。
刹那、見えたのは全周囲モニタに映る斜め前6ヤードの地面にコーション・マークが立ち『不明』と注釈が付いた瞬間だった。
その硬そうな地面が罅割れ隆起し中央から球体関節装甲よりも一回り大きな何かが飛び上がった。
それが間髪入れず間合いを詰めてくると液晶モニタに警告が表示され『近接戦闘』と注釈が並んだ。
マリア・ガーランドは一瞬、愕然となった。
何だこれは!? まるで既視感みたなと思った寸秒、マリーは確信を持って自分の身体のように人型戦闘装甲を動かせると強く意識した。
咄嗟にマリーは人型戦闘装甲の左手に握った盾を投げ捨て、右太もものクイックドロスターからウィンチェスターM12の倍以上もある似た形状の型番も聞いていないバレルを切り落としたショットガンを引き抜き身体を捻り倒しながら空転しポンプアクションを行い両足を横様に振り上げ逆さまに見下ろしながら高位から飛びかかってくる敵へ40ミリ口径の大きなショットガンを発砲した。
大砲の片手撃ちと変わらないフィードバックの衝撃に一瞬、コントロール・アームに差し入れた右腕が跳ね上げられ激しく痺れた。
その爆轟と同時に飛びかかってくる蟷螂のような逆三角形をした顔が急激にモニタ下部に拡大し怪物の胸から上の細い上半身が爆砕し黒い霧状の破片が飛び広がった。
怪物の残骸が落下するよりも速くマリーは球体関節装甲を側転し着地させ同時に金庫でもぶち抜けるようなショットガンをリロードさせ間髪入れずにもう1発そのビッグショットガンを落ちてきた蟷螂の怪物の腹部へ横へ振って発砲した。
爆発するように怪物の名残りが砕けるとマリア・ガーランドは人型戦闘装甲の太もものホルスターにショットガンを戻した。
ビープ音が鳴り全周囲モニタ右側から斜め後方の映像がスライドしてきた。
ルナはFN SCARーHの銃口を下げていたがその斜め後方のセシリー・ワイルドがジャベリンの発射筒を横へ投げ捨て首に負い革で下げていたバトルライフルをつかみ肩付けする瞬間が見えマリーは咄嗟にAIに怒鳴りながら思った。
同じことの追体験!? 時間を遡ったのか!?
「コクピット前部を開放!」
次の攻撃をセスから受ける前に球体関節装甲を振り向かせマリーはAIに命じて寸秒高圧ガスが抜ける音と共に腹の前の複雑な形状の外殻が前に倒れるように開き眼の前のルナがフェイスシールドを跳ね上げ驚いた顔を見せ、続いてセスがFN SCARーHの銃口を反射的に上に跳ね上げた。
開口一番腹心の右腕が言ったのはマリア・ガーランドが着ているパワード・プロテクト・スーツへの非難めいた口調だった。
「マ、マリア────これは────いったいこれは何なのです!?」
そうだ。ダイアナから装備についての詰問を受けマリーは面倒くさいと単純化した名称で着ている試作機を教えたのだと答える前に思いだした。
「人型戦闘装甲よ」
歩き寄ってくるルナはつま先で蹴った12ゲージ・ショットシェルの3倍以上はある大きなビールのロング缶みたいな空の散弾シェルに顔を強ばらせ視線を上げるなり質問をマリーに浴びせ始めた。
「H──CA? いったいこんなものを────どこでこれを────?」
ルナは好奇心の視線をマリーが着る巨大な球体関節装甲の爪先から兜左右にある流線型の通信アンテナまで走らせ最後に前に倒れている胸当の内側に付いた複合ディスプレイを見つめながらさらに何か聞こうと唇を開いた。
この兵器マニア! とマリーは眉根しかめ嫌みをルナに告げたことを反復した。
「ルナ、あなた私が戻ったことよりもこんなBJAに興味ばかり向けて!」
「BJA? それって球体関節装甲ということですかぁ!? そ、そんなことあり────」
戸惑うルナを今度は面白がる余裕などマリーにはなかった。時間を飛び戻ったのか、別な平行世界に入り込んだのか早急に識別する必要があった。
そうマリーが考えている直後、ルナ背後の指揮司令部テントから佐官ら数人と武装した兵士が出てきて兵士ら数人がM4A1を人型戦闘装甲の背に振り向けたのでルナが慌てて両腕を振り上げ手のひらを向けて大声で止めに入った。
「止めて下さい! これはNDCが造った戦闘用装甲服なんです!」
嫌な感じだとマリーは思った。何もかも繰り返している。直後、陸軍の佐官が問う質問もマリーは知っていた。
「これが戦闘服!? NDCはこれを陸軍に売りつけるつもりなのか?」
背後から指揮官らしき人物に問われマリア・ガーランドは人型戦闘装甲を振り向かせるとその男に言い切った。
「ご心配なく。ただの試験運用ですから」
直後、その轟音が聞こえる前にマリア・ガーランドは天空を見上げ、寸秒頭上を極超音速砲弾がソニックウエーヴを引き連れて凄まじい勢いで飛び抜けてゆきマリーは視線を振り戻し連隊長に尋ねた。
「で、怪物らに圧されているのですか? ああ、私はマリア・ガーランド──NDCの魔女です」
問おうとしたその大佐が質問を先読みされたとでも言うべき眉根寄せた表情を浮かべた。
その指揮官の戸惑う視線がマリーの顔でなく纏ったボロ布に向けられていることに気づきマリーは苦笑いを浮かべ一瞬超巨大複合企業の社長だと信じてもらえるかと危虞した。だがその上に着込んでいるユニットはジバンシーのどの服よりも高価なのだと1度同じ風に思ったのだ。
身分を聞いた瞬間、一瞬だがマリーは陸軍野営地の指揮官の顔が引き攣ったような気がしマリーは相手の名と階級を告げた。
「貴方はパトリック・ネルソン──大佐であり野営地連隊の指揮官ですね。そうして貴方はご自分の連隊が怪物ごときに押されたりしないと思われている」
ネルソン大佐の困惑げな面もちを見つめそれは自惚れか認識に誤りがあるかのどちらかの侮蔑だと意識しマリーは司令部テントの傍に怪物の侵入を許す時点で破綻してると思って片側の口角を少しだけ吊り上げ付け加えた。
「そうでないと西のフォート・ブリスに侵攻されたら大惨事です」
まだ野営地の外から砲火の爆轟がしきりに夜空に聞こえていた。
こんな間近にまで怪物らは押し寄せ野営地近隣の防衛は陸軍兵士が担っていても、ルナ達がなんとか怪物らを押し戻そうと堪えてここまで後退しているのだとマリーは状況を1度考えたのだと思った。でないとジャベリンを担いで野営地内をうろうろしてるはずがない。
"Luna, report. Which way is the situation tilted?"
(:ルナ、報告を。状況はどちらに傾いている?)
"Es ist wie La Belle Alliance."
(:ラ・ベル=アリアンスみたいです)
大佐の面目を保つためにルナがドイツ語で応えるのをマリーは知っていた。そうだわベルギーの地方の名前とマリーは一瞬考えた。ルナの知識すべてを受け継いでいるマリア・ガーランドは1つの地名から眉根を寄せたことを思いだした。
ワーテルローの戦い────ナポレオンが決定的に敗戦した時代の転換点を思い出させルナは戦況を説明している。
状況が最悪なのだと腹心の部下が警告するのをマリア・ガーランドは知っていた。
遠まわしに敵に圧されているのだと再認識して、マリア・ガーランドはまた気持ちが落ち込んだ。平行世界から持ち込んだパワード・プロテクト・スーツ1騎で戦況をひっくり返せるなどと甘くは思わなかったのと同時にこの後に起こることが鮮明な意識となり繰り返されようとしていた。
「ルナ、敵の数は60体?」
「ええ!? 現在の敵員数60ですが──」
いま先に倒した蟷螂に似た大型の怪物が60体も押し寄せ陸軍は多くの損害を受けているだろう。それよりも襲ってくる敵怪物の数が当初より増えているのが問題なのだ。まだ怪物らの前衛か? それともこれが本隊なのか? 真綿を締めてくるような怪物らの出方にまだ敵は真の力を見せていないとマリーは思った。
「それくらい我が連隊の機甲部隊でどうとでもな────」
マリーとルナのやり取りを聞いていたパトリック・ネルソン大佐が口を差し挟んでいる最中にマリーはそれを無視し人型戦闘装甲のAIに前部外殻を閉じるように命じた。その胸当がせり上がってくる最中にその裏側のコンソールが警報音を鳴らし始めた。
まだ要領を得ないマリーだったが、2度目のマリーは警報の意味を知っていたので時間を省略した。
私がヘマをやったからダイアナ達を死に至らしめたとマリーは思いながら両脚を踏み換え司令部テントに背を向けた。
今度は兵装のショットガンを選ばなかった。瞬殺するために球体関節装甲の首に負い革で提げたFN SCARーHに似た2回りも大きな75口径のバトルライフルのハンドルを右手に握りしめ大きなバットプレートを右肩に押し付け左手でフォアエンドのバーチカルグリップを握りしめ銃口を夜空に振り上げた。
刹那、空から落下してくる大型蟷螂のシルエットが増感され全周囲モニタの正面中央に映し出されマリア・ガーランドは機関砲のようなバトルライフルを速射し始めた。
3バースト射撃で1秒に1体を撃破しその横に落下してくる怪物へ照準しさらに打撃を加え1撃で粉砕した。
今度こそ余裕を持ってダイアナ・イラスコ・ロリンズを助けることができると球体関節装甲の脚を交差させ振り向かせたマリア・ガーランドは見えた光景に愕然となった。
地面を割って飛び出してきた怪物が3体もいた。