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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #16
79/155

Part 16-4 Fact 事実

Hummingbird 2 over the Mediterranean Sea 150 nautical miles northwest of Cairo, Egypt July 11, 2019 18:11/

Equinix Data Center Infomart Dubberley-Bld. 1900 N Stemmons Fwy suite 1034, Dallas, TX USA

1900 N Stemmons Fwy, Dallas, TX 23:24

2019年7月11日 18:11 エジプト・カイロ北西150海里かいりの地中海上空ハミングバード2/

23:24 テキサス州ダラス フリーウェイ・スイーツ 1034ノース・ステムモンズ・フリーウェイ1900ダバリー・ビル内エクイニクス・データ・センター



 ヘルメット2つになみなみとがれた10本に近いミネラルウォーターをむさぼるように飲んだ。



 マリア・ガーランドはNDCの特殊戦術輸送機ハミングバード2に乗り込む際に2匹のホワイト・タイガーを貨物室(カーゴルーム)に乗せ込んだ。



 けものらは突如とつじょ砂漠に出現した大きな軍用機に警戒したが、マリーは砂漠に接するランプにペットボトルのミネラルウォーターを垂らして2頭の肉食獣を誘い込んだ。



「どうするつもりだ?」



 自分もミネラルウォーターをむさぼりながらマリーは機首側へ振り向いた。NDC会長のヘラルド・バスーンはマリーが連れ込んだけものらを面白がるようにマリーかたわらの閉じたランプ近くでヘルメットに入れられた水を激しく舐める大きなベンガル虎らを見つめていた。



「だって──砂漠に残しておけなかったのよ」



 そう告げながら3本目のボトルのキャップをひねり開けマリーはそれをまたむさぼるように飲み始めた。



「それより──どうして私が中東にいると気づいたの?」



 ボトル半分まで飲んで一息ついたマリーはヘラルドに尋ねた。



「マリー、君が作戦中に突如とつじょ現地から消えたからだ。パティが捜索したが数10億人の中に君が埋没したので30時間以上あらゆる手で探し続けた」



 それを耳にしてマリーは眉根を寄せた。自分が現れたのでこの世界の自分が他の平行世界(パラレルワールド)に飛ばされた可能性があった。



「ヘラルド、私はあなたのこの世界のマリアではないわ。戦闘中に受けた脳震とうか何かの理由で意識を混濁させて違う次元からここに記憶を失って滑り込んだのよ」



 その説明だけでヘラルドは納得した。



「そうか。君が来たことで自然はパラドックスを回避し辻褄つじつまを合わせるために我々のマリーを他の世界に飛ばしたか、もしくはみずから飛んでしまったのだな」



 マリーはかぶり振った。



「同じ人物が2人以上同時存在してはならないパラドックスはないのかもしれない。いいえ────それにはもっと違う発動条件が存在するのかもしれない。私は現に私の世界へ他の平行世界(パラレルワールド)から別な私を連れ込んでテキサスに現れた怪物らとの戦闘になったから」



 ヘラルドは瞳を細めて考えうる数多あまたの理由を模索しているように見えた。



 突然、プラスチックと金属がこすれる音が聞こえマリーは背後へ振り向いた。2匹のホワイト・タイガーがヘルメットのミネラルウォーターを空にしてその仮の器を転がしていた。マリーはまだ飲み足らないのだと思って貨物室(カーゴルーム)側壁の折りたたみ座席に置いてあるクーラー・ボックスから4本のペットボトルを取り出し3本をわきに挟み虎達へと近寄ると彼らが後退あとずりをしたので2つのヘルメットに交互に水を注ぎ込み始めヘラルドへ補足した。



「私は離れた場所を瞬時に移動できる能力があるだけでなく、次元もまたぎ越えることができるみたい」



「我々の世界のマリーも昨年のシルフィー・リッツアやベルセキアとの戦闘で魔力を身につけた。だが不安定でエルフのように正確無比な能力となっていない」



 マリーは3本目のボトルを空にしてわきはさんでいた1本のキャップをひねり苦笑いした。



「ひとつ聞きたいのヘラルド──あなたのこの世界の私は死んだ人を蘇らせることができて?」



 彼が驚きもせずに逆に問い返した。



「君にはできるのか?」



 その彼の問いかけでマリーは平行世界(パラレルワールド)の存在が精巧なレプリカでない自信がついた。



「何かのしばりはあるけれどNSAのヴェロニカと自分自身を──まだ他の人では上手くいかないけれど」



 ヘラルドは腕組みすると眉根を寄せた。



「それには様々な問題が派生する。物理的、倫理的、哲学的────あげればきりがないだろう。それは魔法の極限の能力なのか?」



 魔法────きっと違うとマリーは思った。いきなり虎の1頭がマリーの手を甘噛みしたのでマリーはペットボトルの底で虎の頭を小突いた。



「私はシルフィーに魔法の操り方を半年教わったけれど、急場ではいつも魔法呪文詠唱(えいしょう)なしで考えられないほどの力を引き出せた。だから根本が異なるのかもしれない。でも精霊との加護の盟約で私は護られるし、攻撃もできる────のだと思う」



 そう自信なく伝えると彼が興味深いことを話しだした。



「魔法とは一種のフィールドワークだ。自然の摂理を利用する閉じられた中で構築された能力だろう。魔法は術者と共にあるように。だが境界があるように外が存在するのもしかり」



 マリーは毛の荒いホワイト・タイガーの頭を片手でなでながらヘラルドの説明に聞き入った。



「君の場合────魔法は閉じられた集合体でそれ(・・)全体を内包しているのかもしれない。俯瞰ふかんし高い次元から操ってしまう。だから呪文詠唱(えいしょう)など細かい規則にしばられないのかもしれないし、違うフィールドワークのまったく異なる魔法大系を乗り越えて発動させてしまう」



「シルフィーから習ったことに魔法には属性があり通常はどれかに隷属し火焔系が使えるなら氷の魔法は使えないと言ってた。だけど私は気をゆるせば何でもやってしまえそうな気がする。現に半年前のシルフィーとの戦闘で私はマイクロブラックホールを幾つも生みだして恐ろしくなりあわてて消し飛ばしたけれど」



「驚きだ。我々のマリーとは遥かに能力が異なる」



 いや、違う。この世界の自分がまだ気づいていないだけだわ。私に手ほどきを受ければ、雪崩のように一気に開花しそうな予感があった。



「だけど、今の私は遥かにポンコツだわ。失った記憶のせいでどうやって元の次元に戻ったらいいのかすらわからない。それどころか、砂漠に雨ひとつすら呼び起こせない。頭をそこら辺に2、3度ぶつければひらめくかも」



 吐露とろのように冗談にして苦悩を吐き出すとヘラルドが手を差しだした。



"Adversity is the best teacher."

(:逆境は最良の教師だ)



"If you overcome the situation, you will acquire power on several levels."

(:乗り越えたら、君は遥かな力を身につけるだろう)



 明日のミリオン・ダラーよりも今の1セントが大事だとマリーは思った。



「それよりも、この世界に怪物らは現れてないの?」



 素朴に思いマリーは尋ねた。



「現れてないかだって!? とんでもない。メキシコ国境に現れた異空間からの怪物らは北へ広がりアルバカーキまで侵攻している。合衆国全軍が34時間抗戦を続けている」



 マリーは鳥肌立った。事態はより広い次元に渡り起きていたのだ。だが日時も規模も私の世界とは大きく異なる。平行世界(パラレルワールド)によってはより酷い世界も軽微な──怪物の出現すらない世界もあるのだろう。



 私が戦場前線(FOE)に立ち爆裂魔法で数平方マイル吹き飛ばしたところで、合衆国全土を怪物らが覆い尽くす世界もあるのだ。



 だがマリーはその怪物らの根本が同じような気がした。



 奴らは次元を超えて侵食してきているからだ。



「怪物らはがん細胞を攻撃するマクロファージのような気がする。まるで自然を侵食する人類を淘汰とうたしようとしているみたいだ」



 この人は恐ろしいことをすらりと言うとマリーはヘラルドのことを思ってホワイト・タイガーの頭に乗せた手を止め彼に告げた。



がん細胞や侵入細菌が裏をかけるように、私たちにも何かしらの手段があると思うわ。でもホストを殺してしまうのはきっと怪物らよ」



「どうしてそう思う?」







俯瞰ふかん的視線というやつよ」







 そう告げてマリア・ガーランドは根がもっと奥深いと感じた。怪物らを仕向けたのが(God)でなければいいのだがと思い神の御業みわざはいつも不可思議なのだと気づいた。











 事前に得ていた管理者権限を上書きされセキュリティ・ロックの開錠が不可能だと硝子(ガラス)ドア前で気づいた。



 黙って身動きしないM-8マレーナ・スコルディーアの肩越しにジェシカ・ミラーが尋ねた。



「暗証番号がわからないのか?」



「うるさいわね。今、総当たりしてるところよ」



 自動人形(オートマタ)は眉間にしわを寄せダイヤモンドの耀かがやきあふれる瞳を細めた。



「で、時間はどれくらいかかるんだ?」



「確率的に68%開錠できるのが4086万9千6百82時間37分と17.9998秒後よ」



 ジェスはFN SCARーHのフォアエンドに付けたバーチカル・グリップでゴシック娘の後頭部を小突いた。



「お前────それって開けられないってことじゃんか」





 マースは半眼になると気忙きぜわしい女にぼそりと告げた。





「同義語ではないわ。いずれ開くの」





 それを聞いてジェスは今度はバレルのフラッシュ・ハイダーをマースの頭の上に乗せて言い張った。



「いずれ開くってのは、当分開けられないの同義語(・・・)だぁ」



「うるさいわね。小皺こじわが増えるわよ」



 ジェシカはむかついてバトル・ライフルのマガジンの角で生意気な小娘の左肩を小突いた。



 いきなりだった。



 眼の前でゴス娘が強化硝子(ガラス)こぶしたたき割りジェシカ・ミラーはフェイスガードの裏で眼を丸くした。



「開いたわ」



 ジェスはフェイスガードを眼の前のくるんくるんの金髪に寄せて押し殺した声で警告した。



「ばっかやろうぅ! 今ので怪物に気づかれたじゃねぇかぁ」



「細かいことを気にすると小さく見られるわよ」



「細かくねぇ! 大事なことだぁ!」



 全面割れ砕けた自動ドアの枠をまたいでマースが入ってゆく後をあわててバトル・ライフルを構えたジェスが追った。



 データ・サーバー室は夜間でも空調がフルに利いておりジェスはバトルスーツの温度調整機能が取りこぼした冷気に鳥肌立った。



 中は広く廊下ほどの間隔でサーバーの入れられたスチールラックが列んでいた。そのどの列を見回すのでもなくマースが奥から3列目の通路に曲がって入ったのでジェスは小走りに寄り棚列角から通路奥へと45度に傾いたアングルに載ったダットサイトの光学照準器(FOV)視野を振り向けた。



 通路にはマースの後ろ姿しかなく拍子抜けしたジェスは用心深くバレルを連なるラック頂部を奥へと追い向け端まで確認すると人さし指をトリガーから離した。



 ゆっくりと歩いていたマースは中ほどを過ぎて立ち止まり左肩のラックと天井との空間へ視線を振り上げた。





 刹那せつな、轟音を放ち左側のラックとサーバーが倒れ込みその谷から手足のある黒いかたまりが躍り出た。





 その異物が見えた瞬間、ジェシカ・ミラーはマースの左腕をつかみ引き戻し片腕でバトル・ライフルをフルオートで発砲し始めた。揺れるマズルフラッシュが狭い通路を縦に横に素早く動く敵を追いかけた。最低でも弾倉の半分は命中していた。それなのに黒いかたまりは気ぜわしくかわし回りジェス達に詰め寄ろうと前へ出てきた。



 ひと弾倉撃ちきる前にジェスの斜め後ろにいるマースが彼女のバトル・スーツの背とアリスパックの間に片手差し入れ水平ダブルバレルを半分の5インチ(:約12.7cm)に切り詰めたサーベージ・スポーター411熊爪(ベア・クロゥ)をホルスターから引き抜き、折り千切った手すり握る左手でジェスを横に押しのけその腕の下から短銃身散弾銃(ソードオフ)を振り向け迫る怪物へと発砲した。



 バトル・ライフルよりも大きな轟音を放ち12口径スラグ弾がマズルから飛び出し荒くれ馬の後足のように大きく跳ね上がろうとする銃身をM-8は難なく片手首で押さえ込んで、右胸の吹き飛んだ怪物の胸の中央に2発目のスラグ弾が大穴を開いた瞬間、黒い怪物が豹変した。



 バスケットボールでも呑み込めそうな縦に開いた大口にはピラニアのような牙が立ち乱れ、その口で噛みつかんばかりにすごむといきなり大型犬ほどの四つ足の何かに変化し押し倒してきた倒壊したラックの谷を飛び越え隣の列へ逃げ込んだ。



「追うぞマース!」



 大声でそう命じ通路の端まで走りだそうとするジェスのひじをつかんでマースが引き止めた。



「何だぁ!?」



 振り向いたジェスはゴス娘が散乱した床を見つめているので自分も視線を下ろした。



 散らばったサーバーとそのパネルやプラスチックに混ざり黒い流れが水流のようにラックの谷へと移動していた。



「これって──怪物の砕けたものか!?」



 フェイスガードを上げたジェスは誰にともなく問いかけ怪訝な面もちでそれ(・・)を見つめコンバットブーツの爪先の底で踏んでみた。



 黒い流れは即座に靴底から逃れジェスの靴を避けるように流れ続けた。



「な、何だぁこれは!?」



 ジェスが素っ頓狂とんきょうな声を上げるとマースがつぶやいた。



「マイクロマシンかも」



「フォート・ブリスで戦った怪物らも機械だというのか!?」



 残滓ざんしの流れをマースは汚いものでも触るみたいに足を離し左手に握る手すりの先でツンツンとつついてみながらジェスへ告げた。



「機械だとは言わない。だけど暖簾のれんに腕押しだわ。ジェス、7.62じゃ奴を倒せない。予備のスラグ弾を6発ほどちょうだい」



 マースが手すりをドレスのわきはさんでジェスに左手を向けた。ジェスはパウチから12ゲージのスラグ弾を6本抜くとマースの小ぶりの手のひらにつかませゴス娘にたずねた。



暖簾のれんに腕押しって──愚か者に与えたら全て無駄になるってことか?」



「そうよ。暖簾のれんに腕押しってレイカに聞くと詳しく教えてくれるわ」



 床に流れていたものが壊れたラックとサーバーの隙間すきまに消えきるとマースは通路の端へと歩き始めながらジェスに教えた。



「でも──奴は愚か者じゃないわ。今の戦闘に学びもっと厄介になる」



 それを聞きジェシカ・ミラーはFN SCARーHを負い革(スリング)右腋みぎわきつるすと右手を背中とアリスパックの間に差し入れ2連銃身のソードオフを引き抜きセーフティーを切った。



 マースに続きサーバーの列端まで来たジェスは左へ曲がるゴス娘に寄り添うように散弾銃を構え上げた腕を先に振り一緒に隣のPCの列をのぞき込んだ。



 またしても通路に怪物の姿はなく、列中央の左手のラックが隣へと押し倒されサーバーの棚がくずれていた。



 またさっきみたくラックを押し倒して怪物が現れるかもしれないとジェスは眼をおよがせていると斜め前のマースが警告した。



「ジェス、フェイスガードを下ろしておいた方がいいわよ。その方が全周囲警戒ができるから」



 確かにそうだとジェスは思った。ヘッドギアには前だけでなく左右と後方にもCCDが付いている。モーションキャプチャで肉眼の視野外に動くものが現れても装着者にAIが警告を発してくれる。



 フェイスガードを左手で下ろし液晶画面に映る8Kの映像を見つめた最中さなか、後方カムに切り替わりそれ(・・)が赤枠で囲まれコーションマークが点滅した。







 背後から先ほどよりも巨大化し手足が3倍の数になった怪物が忍び寄ろうとしていた。







 一閃いっせん、ジェシカ・ミラーは腕だけを背後に振り向けサーベージ・スポーター411熊爪(ベア・クロゥ)を2連射しながら左手でパウチから予備の12ゲージをつかみ取った。











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