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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #15
75/164

Part 15-5 Bewilderment 困惑

يوليو 10، 2019 16:07 منطقة جبلية بالقرب من الرياض ، المملكة العربية السعودية شمال دالامان /

Equinix Data Center Infomart Dubberley-Bld. 1900 N Stemmons Fwy suite 1034, Dallas, TX USA

1900 N Stemmons Fwy, Dallas, TX 23:07

2019年7月10日 16:07 サウジアラビア リヤド ダラマン北部付近の山岳地帯/

23:07 テキサス州ダラス フリーウェイ・スイーツ 1034ノース・ステムモンズ・フリーウェイ1900ダバリー・ビル内エクイニクス・データ・センター



 恐ろしい速さで視野ぎりぎりまで拡大した火焔は真っ白なフレアになり一瞬で20000ケルビン(:約19700℃)以上の熱を放射するなり爆轟を放ち安定を失ったプラズマが急激に四散し熱を撒き散らした。



 降り注いだあまりにもの白光に眼がくらみ、直後爆轟の津波が地面を揺すり砂塵の壁を急激に広げ拡散すると怒り狂ったように空気が吹き戻り砂嵐の状態になった。



 マリア・ガーランドはおのれが放ったエネルギーの結果に驚いた。カナダで無人島を半壊させた魔法よりも強烈な威圧感を抱いた。



 こんな大それたことをするつもりではなかった。



 2頭のけものを脅し追い払うだけでよかったのだ。だが実際は骨も残らぬ怒りの熱射をぶつけてしまった。



 いいや、あれらホワイト・タイガーは逃げ出し無事なはずだと自分に言い聞かせても、眼にした小型太陽のような熱の怒りに生き残れるはずはないと、おのれを脅し続ける。



 フレアは地表でなく空中で四散した。紛れもなく地表から500フィートは離れていた。いいや、もっと高かったはずだ。



 そう自分に都合よく思っても眼に見える地表に起きた乱流の規模が与えた熱エネルギーの大きさを物語っている。



 あの2頭のけものは私のせいで命落としたのだとマリーが眉根寄せたその時だった。





 山裾やますその平地になるきわどい辺りに砂を跳ね飛ばし身を起こしたものを見た。その20ヤードほど離れた場所からも土埃つちぼこりを巻き上げもう1頭がからだを起こし身震いして身に降りかかった砂塵を振るい落とした。





 生きていた!





 やはり大きくフレアを上空に逸らしたことがあの2匹に致命傷にならずにすんだのだった。マリーが斜面で見つめているとすぐに2頭のホワイトタイガーは顔を上げマリーの存在に気づいた。そうしてゆっくりとマリーの方へ斜面を登り始めた。



「来るな────お前らを殺すつもりは──ないのよ」



 マリーのつぶやが届かぬとばかりに、2匹は登る速さを上げまた躍動し始めた。



 今度こそ無益な殺生をしてしまう。いや、シールドがまた護ってくれるはずだわ。爆殺することはない。でも、もしあの淡い青色のスクリーンが現れなければどうするの?



 自分に何ができるのだと記憶を探ったが、まだ思いだせないことが多く有効手段を欠いた。



 丘陵きゅうりょうを登ってくるホワイトタイガーらを見つめ背後に逃げようとして街に戻るわけにはゆかないと気づいたマリア・ガーランドは傾斜を横切るように駆け始めた。



 ともすれば何度も片足を横に滑らせかかり駆けながら1度半身振り向くと、斜めの傾斜が登りにくいのか2匹との距離はそう縮まってはいなかった。



 こんなことなら殺してしまうべきだったと後悔が強く湧き上がってくる。



 気がついたら右手にこぶしよりも大きな石をまだ握りしめていた。走りの邪魔だとばかりにそれを投げ捨て走り続けた。



 斜面を斜めに駆け下りる記憶が一瞬蘇り、銃弾(ブレット)が追い迫ったことが走馬灯のように蘇った。



 その辿たどり着く先が殺戮さつりくの予兆に胸が締めつけられるのは、走り続けて息が切れるためではないとマリーは思った。



 NDCの社長(COO)職を押しつけられ、ふたを返せばマンハッタンへの核テロが待ち受けていた時に腹をくくったはずだと眉根寄せた。



 核テロ!?



 その記憶の断片が、この中東の地に関係あるのかと一瞬困惑した。



 こんな荒廃した場所で肉食獣に追われている。



 マンハッタンだけでなく、他の年も標的にされた。



 そうだ! 戦略原潜を強奪したテロリストらが合衆国政府を脅して金をせしめようとした。その記憶が寸秒で蜘蛛くも百足むかでのキメラのような怪物にすり替わった。



 銃弾(ブレット)どころか、ジャベリンでも倒せない化け物。



 その襲いかかってくるさまに、駆ける足元の不注意を呼び込んでしまった。咄嗟とっさにリカバリーしたもののマリア・ガーランドは左足を滑らせ、派手に斜面を転がり落ちた。



 身体を転がるに任せ地面に手足を突っ張らないように本能で受け身をとった。



 斜面の途中で転がり止まると、マリーは両手をついて上半身を起こし急いで立ち上がろうとして右足首の激痛に唖然となった。



 虎に追いつかれる!



 恐るおそる右足をついてみて立てると判断したマリア・ガーランドは少しでも急ごうと斜面を斜めに片足を引きりながら下り始めた。



 顔を横に向け流し目で背後のけものを盗み見た。



 200ヤード以上離れていたホワイトタイガーらがマリーが転がった間に70ヤード近くまで間合いを詰めていた。



 生唾を呑み込み懸命に坂を下りるマリア・ガーランドはいきなり下りる脚を止め振り向いた。



 一気に肉食獣らが迫ってくるのだと身構えたが、2頭とも足を止めてじっと見つめている様子に困惑した。



 なぜ迫らない!?



 諦めたのか!?



 だがホワイトタイガーらは顔を逸らさず気配をうかがいいつでも駆けようというのか1匹は片前足をわずかに上げて身構えている。すきを見せたら一気に襲いかかって来そうだとマリーは思った。



 右足を引きり数歩後退(あとず)さると肉食獣らも数歩出てきた。



「諦めてくれない────でもシールドで弾かれ爆殺されようとしたことは理解してる」



 つぶやくように見たさまを口にしたものの背を向けてしまうと後ろから跳びかかられそうだとマリーはさらに後退あとずさった。



 肉食獣らは数歩進み出るが警戒心全開で間合いを詰めようとしない。



 そのままマリーは10ヤードほど後退あとずさりゆっくりと背を向けた。



 砂を踏むホワイトタイガーの足音に耳を集中させながら、マリーは時間をかけ平地に下りた。途中何度か顔を向けたがホワイトタイガーらは同じ間合いでいた。



 足をかばいマリーは踏みだす歩幅を短くしゆっくりと歩きだした。陽の高さを見るとかなり落ちていた。陽が暮れれば夜どうするかとマリーは思案した。野宿は大丈夫だが、眠り込んだが最後、あれらが襲いかかってきそうだと思った。



 休まずに夜通し歩き続けることはできない。そんなことをすれば遅かれ早かれ明日、立ち往生してしまうだろう。



 もたもたすればあの王室の兵士らに見つかってしまう可能性もあった。



 生唾を呑み込もうとするが、思うにまかせず乾ききった唇をひずめた。もう数日、満足するまで水を口にしていなかった。



 記憶の断片をつなぎ続け逃げてきた街から少しでも遠ざかろうと頑張っていると夕焼けの中にいた。



 草葉があれば夜露を期待もできるが、砂と土埃つちぼこりだけのデザートに何も期待できない。それどころか夜になれば一気に気温が下がり震えるかもしれなかった。



 寒ければホワイトタイガーらに温めてもらえばとマリーは苦笑いを浮かべた。



 しかし兵士に追われるよりけものに付いてこられる方が遥かに厄介やっかいだとは意外だったとマリーは思った。



 マリーは陽が暮れると星を目印にした。そうでなければ右足を引きっているので右に向かって弧を描きいずれは街の方へ近づいてしまうかもしれないと危惧した。



 兵士としての知識と思われるものが幾つも意識に浮かび上がってくる。



 マリーは大企業の社長(COO)の地位を思いだしたが、それが兵士の知識とどうして共立するのかと思案した。



 知識どころか訓練のきつささえまざまざと思いだす。



 最高業務執行責任者(COO)の仕事よりも兵士としての生き様の方がしっくりとする違和感はどこからくるのだと思った。



 陽が暮れて4時間ほど歩き、マリーは立ち止まり地面に座り込んだ。空気が冷え込んで幾分乾きがおさまると思ったが、唇だけでなく喉も痛み始めた。



 あの爆炎を放つ能力でスコールを降らせられないかとマリーは星空に向かって両腕を広げてみて声を上げた。



「雨よ────降れ!」



 雨どころか雲1つない空を恨めし顔で見回しマリーは唇をひずめた。



 爆炎を放ったのは魔法のたぐいだろうか? だが魔法呪文の詠唱(えいしょう)などしなかった。それに自分自身が怒りを転換したような覚えがあった。



 ならこのかきむしるような喉の乾きが雨雲を呼び寄せてもよかった。



 マリーはふと自分だけではないと思い振り向いてホワイトタイガーらの様子を見た。2頭とも腹ばいになり前足に顔を載せてじっと見つめているのか星明かりに見えた。目が光っている。こちらの油断する一瞬を待ってるようだとマリーは思った。



 深く眠らなければとマリア・ガーランドは横になりまぶたを軽く閉じた。その刹那せつな、見えたものに意識を捕らわれた。



 大地に根づき視野に収まりきらぬ枝葉を広げる巨大な木が見えて声が聞こえた。







────ほら──あなたは──盟約──ちぎりよりも深い繋がりを──いま──理解した────。







 ガイアにそうつぶやかれ、マリア・ガーランドは飛び起きた。



 4つの要素(エレメント)の差異がわずかな違いである意味に戸惑った。











 エントランスに侵入した自動人形(オートマタ)の後に続いてジェシカ・ミラーはいつでもFN SCARーHを撃てるようにバットプレートを右の肩に押しつけマグプルのMVG/MーLOKバーティカル・フォアグリップを左手で引きつけ45度に左に傾けアッパーレシーバー・レイルの45度オフセットアダプタに載せたトリジコンRMRタイプ2光学ダットサイト光学照準器視野(FOV)を左右に素早く振り向けた。



 ダバリー・ビルのエントランス・ホールの照明は消されており各出入り口の上に設けられた非常誘導灯の淡い明かりだけで仄暗ほのぐらい空間が広がっていた。



「ジェス──あの怪物が出たら威嚇射撃をお願い」



 威嚇はいいが、ゴシック娘の動き次第で対応を考えておかなくてはとたずねた。



「マース、お前はどう出るんだ?」



「手近なものを引き剥がして振り回す」



 振り回す!?



 ジェシカ・ミラーはチークパッドに押しつけた顔を引きらせた。正面玄関の出入り口ドアを植木鉢を投げつけ破壊したやつだ。指でつかめるものなら何でも振り回しそうな気がした。お師匠(アン)もやたらと手近なものを武器にするのをジェスは思いだした。



 身長ではずっと劣るゴシック娘が意外なほど腕力があり──いいや、とんでもなくバネとパワーを兼ね備えているのをジェスは認めた。



 線路脇の傾斜地から4ヤード近くもあったのを腕の振りだけで跳躍ちょうやくし駐車場の建物の2階に易々(やすやす)と入りやがった。



 至近距離で銃で撃っても難なく銃弾(ブレット)かわしそうな気がするのは思い違いだろうかとジェスは眉根しかめた。



 マースは案内表示もないのにエントランスからどこへ行けばいいのかまるで知っているように階段を登り始めた。インドアアタックの時にエレベーターは極力使わない。箱は逃げ場を封じられるし、ドアが開く際に格好の標的にされる危険性があるからだった。それなら階上から狙われる方がまだ対処のしようがある。



「マース、エクイニクス・データ・センターを知ってるのか?」



 ジェスはマースが踊場から2つに別れている右の階段を迷わず選んだので聞いてしまった。



「知らん」



 こ、こいつ知ったビルを歩くみたいに行くから信用していたのに下調べもなしかよ!



「暗がりを行ったり来たりするのは嫌だからな」



「そんなもの出たとこ勝負でなんとでもするのがスターズの取り得だよな」



 そんな取り得があるかよ! 場当たり的な状況に追い込まれるのはだぞとジェスは鼻息を荒くした。プロは作戦通りにアタックを運ぶものだ。



 いきなりマースが階段の手すりを固定具ごと引き千切りジェシカ・ミラーは驚いてRMRタイプ2の光軸から右眼を離しあごを落とした。それは有りかとジェスはバーチカル・グリップから左手を放しかたわらの手すりをつかんで力をかけてみた。



 捻っても引っ張ってもびくともしない。



 固定金具はボルト2本でしか固定されておらず、ゴシック娘が体重をかけて壁からボルトを引き抜いたのだとジェスは考え階段を登りながらマースの引き千切った手すりがあった固定金具の固定されていた壁を見て眼を丸めた。



 ヘッドギアのフェイス・ガード液晶に映し出される壁のコンクリートがえぐれ取れてなくなっている。ジェスは信じられなくて左手の指で確かめるようになぞった。



 人さし指の第1関節までが入りそうなほど深い穴が空いている。



 うなる風音が聞こえ、ジェスは顔を振り向けた。



 ゴシック娘がスキップで階段を2段跳びで上がりながら引き千切った4フィートあまりの手すりを片腕で振り回していた。



 その振り回す手すりの輪郭が急激過ぎて曲がって見えるのが眼の錯覚だとジェスはまばたいた。寸秒、何かに気がつきジェスは視線で液晶表示を操り録画画像を5秒だけロールバックさせた。



 膨らんだマースのスカートが微動だにしていない!







 細腕の腕力だけで手すりを振り回している!?







 画像をリアルに戻した瞬間、マースがいきなり片腕の振りだけで5段も階段を飛び上がったのを眼にしたジェシカ・ミラーは援護射撃が必要なのかと顔を強ばらせた。












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