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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #15
73/164

Part 15-3 Long Range Bombardment 長距離砲撃

1 Cavalry Regiment Camp 6th Squadron 1st Armored Division Ⅲ Corps Army Commands US.Army Company Training Ground East of Fort Bliss, TX. 22:48 Jul 13

7月13日22:48 テキサス州フォート・ブリス東方アメリカ陸軍 陸軍コマンド第3軍団第1機甲師団第6戦隊第1騎兵連隊野営地



 怪物らの初撃をまんまと陸軍の防衛陣で撃退でき半時間余りが過ぎようとしていた。



 M-8マレーナ・スコルディーアが衛星画像で確認していた新たに具現化した怪物らの後続が現れないことにルナは逆に不安を募らせていた。



 怪物らは恐ろしく動きが速く、一瞬にして防衛に当たるM1エイブラムスに取り憑いて攻撃を仕掛け罠にかかり一気に殲滅された。



 だが2撃目はそうはいかない。



 怪物らが学び襲撃方法を変えてくることが想定されたが、即応以外に有効な手をルナは思い浮かばず、陸軍野営地の作戦指揮テントに足を運んでいなかった。



 100ヤードのをおいて南北に並ぶ主力戦車の後方にマースとジェシカを除いたルナ達スターズ20名と異界からのマリア・ガーランドは陣営を保ち怪物の襲撃に備えた。



 仮に白兵戦ディフェ(DCC)ンスとなれば陸軍の中隊規模以上の火力はあった。レーザーに耐性をつけた40騎の怪物らを押し返せる保証はなかった。それでも陸軍の被害を幾らかは減らせる可能性はあるが、それはスターズのセキュリティ達に被害が出ることを意味している。



 ルナはマリア・ガーランドが連れてきた異界の彼女の意見を求めようかと思った。だがなりが同じだからと思考も同じだということではない。



 ではハイエルフはどうだと考え、半年余りでこの人の世界を多く学んだとはいえ、人の戦術というものをどれほど把握してるか怪しかった。



 中、遠距離の攻撃の手立てを失い、速さや筋力で勝る怪物らを倒す手立てが欲しい。



 ルナが策略を考えあぐねていると、いきなり並んだM1エイブラムスの1輌が轟音を放ち火柱を上げた。



 ルナは咄嗟とっさにヘッドギアのフェイスガードを跳ね下ろし状況観測用のCCDカムを中倍率にして地平の広い範囲を探った。





 起伏のわずかにある丘のいただきに2つの自然物と思われない異物を見つけ出しそこを拡大視した。





 暗闇で増感ノイズに紛れ見えたシルエット────液晶画面に映る戦車状の形状にルナは青ざめた。



 やられた! 近接戦闘(CQB)で多大な被害を出した怪物らが戦闘車輌をもちいてきた! まさか怪物らがそんな機械を用意しているなど想定外だった。それで進軍して来るのに時間がかかっていたのだ。



 数人のセキュリティがその戦闘車輌をCCDカムでとらえその異相角からヘッドギアのAIが瞬時に距離を割り出し各人のフェイスガードの有機液晶モニタに距離とゲージを表示した。



 距離5470ヤード! M1A2C/SEPV3エイブラムスの有効射程を軽く上回っている! ゲージから敵主力戦闘車輌の大きさは20フィート近かった。幅がそれなら車輌規模でエイブラムスの2・5倍以上は大きいことになる。その車格で120ミリ砲のわけがなかった。最低で130ミリ、砲身が耐えるのなら150ミリまで考えられる。



 M1エイブラムスの車列が一斉に敵発砲方向へ砲塔を旋回させ始める。どの車輌も90度砲塔を回さなければならなかった。



 その4秒足らずの合間にさらに2輌が轟音と火花を撒き散らし火柱を上げた。



「駄目だ──止まって撃ち合うなんて!」



 ルナがフェイスガードの内でつぶやいた刹那せつなさらに150ヤード先のM1A2C/SEPV3エイブラムス2輌が爆発した。



 おかしい!? 敵砲弾は音速の2倍を優に超えているはずなのに、ソニックブームの破裂音がまったく聞こえてこない。



 砲弾じゃない!?



 ビーム系の砲を持っている!



 M1エイブラムスが一斉に射撃を始めた。敵の初撃から10数秒でM1エイブラムス5輌が戦闘不能になっていた。野営地にはまだ多くのエイブラムスがあったが防御線についているのは残り22輌。



 ルナはフェイスガードの液晶モニタがM1エイブラムスの爆発と主砲発砲の合間、ホワイトアウトの間隙かんげきに5470ヤード先の丘陵地の敵車輌を数えた。いつのにか6輌に増えていた。



 彼我ひがの員数差がなくなるにつれ、陸軍主力戦車の被害は急激に増す。この調子だと2分()たないとルナが判断した矢先、陸軍野営地の反対側に布陣したM142ハイマース・ミサイル部隊が一斉にミサイルを飛ばし始めた。



 敵の上面装甲が弱ければ、怪物らの戦闘車輌が下がる可能性があった。



指揮官(コマンダー)! セキュリティを下げさせないと全滅します!」



 ロバート・バン・ローレンツの声にルナは我に返った。



「全員、退却!」



 無線の一斉通信でルナがすべてのセキュリティに命じた直後、190ヤード先のM1エイブラムス3輌が爆発し砲塔を横に落とした。



 だが退しりぞかない女が1人いた。



 シルフィー・リッツアが爆発する陸軍主力戦車越しに遠く丘陵地の敵車輌をじっと見つめていた。



退きなさい、シルフィー!」



 ルナはエルフが無線を切っていることを考えフェイスガードを跳ね上げ大声で命じた。そのハイエルフが半身振り向きルナに大きな声で説明した。



「撤退は駄目だ! 敵車輌に肉迫すべきだ。敵は遠距離戦に特化して近接戦闘(CQB)には太刀打ちできない!」



 聞いた瞬間、ルナは見落としに気づいた。



「接近戦でどう戦闘不能にするの!? 敵戦闘車輌の装甲はわからず、上面やエンジン・カバーの装甲が薄いとは限らない!」



 その指摘にシルフィー・リッツアは即答した。



「あの車高を見るがいい──底面は大した装甲ではない」



 ハイエルフはルナらと同じヘッドギアを装着していた。ルナはすぐにフェイスガードを跳ね下ろしシルフィーの電子光学照準器(FOV)視野の映像を自分のフェイスガードに表示させた。



 丘陵地に1台、正面を向いている敵戦闘車輌がいた。画像は鮮明ではなかったが、車高がかなり低いのが見て取れた。



「シルフィー。我々の兵装に対装甲車輌用地雷はないわ」



 シルフィー・リッツアは右腕を振り上げルナの背後を指さした。







「爆薬や地雷が多くあるじゃないか」







 ハイエルフが陸軍のM795E2砲弾とM15やM19地雷のことを言っているのだと気づきダイアナ・イラスコ・ロリンズは瞳を大きく見開いた。











 フォート・ブリス国際空港に着陸した合衆国空軍第436空輸航空団第9空輸飛行隊のフレッド──Cー5Mスーパー・ギャラクシーが駐機エリアに止まり扉を上げた前部開口部奥から高速タービンのような甲高いインバータ磁励音(じれいおん)を響かせランプを降り立ったそれはアスファルトに無限軌道(クローラー)の跡を刻み派手に超信地旋回(スピンターン)し向きを東に変えた。



 M1エイブラムスの相似デザインのより一回り大きな戦闘車輌には回転砲塔ではなく大きな台形の固定砲塔の屋根に食い込む形で12メートルの六角柱が3本組み合わさった多角形柱が前方に伸びていた。



「ようしィ、アームぅ伸張固定ィ」



 砲手席に座るアン・プリストリは操縦席に座るレギーナ・コンスタンチノヴィッチ・ドンスコイに巻き舌でインカムを通し命じた。



 捕らわれびととなって久しい元女大佐は、スカイレストランのウエイターの仕事をさせられるより戦闘車輌の操縦士をさせられる方がどれだけマシかと命じられた通りスイッチを跳ね上げ車輌四方の伸縮アームを伸ばし接地させると21万6千ポンドの超重量級の車体を浮かせた。



 レギーナはこの戦闘車輌を初めてA・Pに見せられた時に唖然となった。既存の東西のどの主力戦車より遥かに大きな化け物だと感じた。



 車格や原子力の動力源、ギアを介した巨大モーターがその動力をにない尋常でない兵装を戦場いくさばで運行できるようにバランスが取られていた。



 だが搭載された主砲はもっと化け物だった。



 NDC民間軍事企(PMC)業の暴力権化のガンスミスがどこで用意してきたのか、テストを終えた状態のそれはこの化け物車輌に搭載されぶっつけ本番の運用となった。



 インカムからA・Pの鼻歌が聞こえてきてレギーナは眉根をしかめた。



 スナイパーより雑。



 それでいながらに350マイルという巡航ミサイル並みの射程で、その10分の1の射程なら0.02ミルという途方もない精度を成し遂げようとしている。



 今、ねらっている敵がどれほどの距離にいるかレギーナは知らなかったが、自分の監視者が得意気に説明した照準システムを意識した。



 1撃目を撃って、2撃目を275インチ以内に収めるつもりだ。それも衛星観測値のデータだけで。



「チャージ! レギーナぁ、耳塞いでェ口開けェ!」



 対衝撃対応を命じられ刹那せつな、まるですぐ頭上でKABー1500LGーODーE(ロシアの1500kg精密誘導燃料気化爆弾)が起爆したような衝撃がバケットシートのからだを激しく揺すりレギーナは脳震盪のうしんとうに一瞬、気が遠のいた。



 気違いじみてる!



 音速の10倍でサボが大型の翼付き鉄鋼弾(APFSDS)を弾き出した。



 またインカムから鼻歌が聞こえてきてレギーナは身構えて失禁に備えてしまった。











 原住民(アルケティトス)移動仕掛け(モビリスマキナ)に取りいたすべてのレイジョ(レギオン)が至近距離からの運動エネルギー(キネティック)投射体でコアが粉砕された。



 40いた最後の2の情報共有体は撃破するその運動エネルギーを計測した。



 百2十9万125ユーリオス。



 これは初遭遇した同種の移動仕掛け(モビリスマキナ)強勢仕掛け(サスペンデシギミック)が投射してきた運動エネルギー投射体と同じ数値だった。



 なら原住民(アルケティトス)がこの地域で用意できる強勢仕掛け(サスペンデシギミック)の破壊力だとレイジョ(レギオン)は共有した。



 40が壊滅した要因は原住民(アルケティトス)が多くいるこの方面の戦線でこちら側の戦略──近接戦闘(コミノス・プーニャ)の選択に不手際があったことになる。



 一部のレイジョ(レギオン)が想定した遠中距離戦闘(エミノス・プーニャ)を一瞬で共有し全レイジョ(レギオン)は採択した。



 新たに限界した40のレイジョ(レギオン)はそれまでに地域で破砕しコアを失った総体の微細素材を呼び集め原住民(アルケティトス)遠中距離戦闘(エミノス・プーニャ)強勢仕掛け(サスペンデシギミック)を模倣し再構築した。



 動輪は複数の回転体を、装甲は原住民(アルケティトス)強勢仕掛け(サスペンデシギミック)の運動エネルギーから侵徹速度と侵徹深さを予測し貫徹させずそれを上回る強度を得るためにレイジョ(レギオン)は原子結合と結晶構造を操作し十分必要な表面強度を得た。



 肝心かんじん強勢仕掛け(サスペンデシギミック)の威力は、原住民(アルケティトス)強勢仕掛け(サスペンデシギミック)投射体の最大有効射程が4千4百アールマであったため、レイジョ(レギオン)の選択した強勢仕掛け(サスペンデシギミック)は中性粒子砲だった。高エネルギーにより加速した多量の陽子と電子をミックスし投射するプラズマ粒子は、7000アールマの射程と原住民(アルケティトス)の防御層を貫徹する能力を発揮するはずだった。



 まずレイジョ(レギオン)らは1の移動仕掛け(モビリスマキナ)強勢仕掛け(サスペンデシギミック)の砲塔だけを丘陵きゅうりょういただきから出し5470アールマの距離から打撃を与えた。



 原住民(アルケティトス)強勢仕掛け(サスペンデシギミック)の装甲を撃ち抜き、レイジョ(レギオン)らは次々に5の移動仕掛け(モビリスマキナ)強勢仕掛け(サスペンデシギミック)を丘陵地のいただきに上げ攻撃を加速させた。



 5の原住民(アルケティトス)強勢仕掛け(サスペンデシギミック)を撃破した直後、上空から飛来した原住民(アルケティトス)強勢仕掛け(サスペンデシギミック)化学エネルギー投射体の攻撃影響を受けたが、前側面強度に釣り合う上表面強度を即座に与え対応した。



 手も足も出せない一方的武力差に次々に原住民(アルケティトス)側の被害を増やしている刹那せつな、またしても無力な上空からの打撃を受けた。





 無力な原住民(アルケティトス)の投射体のはずだった。





 落下してきた投射体がレイジョ(レギオン)1の上面に命中し遅れて空気の波動が轟音を放ち押し寄せ移動仕掛け(モビリスマキナ)強勢仕掛け(サスペンデシギミック)が粉砕された。







 その投射体運動エネルギーはそれまでの5倍近い超高エネルギー投射体で、表面強度操作の限界点を越え続けざまにレイジョ(レギオン)らが撃破され始めた。











 衝撃波が走り抜けルナは顔を振り上げた。



 精霊戦闘機シルフィが戦域に極超音速で飛来してきたのかとルナはフェイスガードを振って液晶モニタに識別マークを探した。だがまだ対地兵装を付与してないあの戦闘機に何ができる!? そうルナが思った矢先。



 寸秒、遠く丘陵地で火柱が上がった。



 陸軍のミサイル攻撃をも生き延びる怪物らの戦闘車輌。



 10秒足らずの間合いでまた上空に爆轟が響き渡り一瞬で丘陵地のいただきに次の火柱が噴き上がった。





 陸軍の兵器じゃない!?





 まるで極超音速ミサイルに撃破されているように見え、燃焼を終えているのかミサイル後部の噴射炎がまったく見えないことにルナは状況をつかもうとフェイスガードに映る液晶モニタに次々に指示を与えミサイルの形状を捉えようと懸命になった。



 だが弾道予測値から、陸軍野営地の遥か後方からの打撃であるとルナは判断した。直後、遠く丘陵地に2つめの火柱が噴き上がった。







 誰かが怪物らに一方的な打撃を与えている!







 ルナはこの優位な状況に真逆のことを考え怪物らの対応する次手に鳥肌立った。












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