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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #14
69/164

Part 14-4 M-8 マレーナ・スコルディーア

1 Cavalry Regiment Camp 6th Squadron 1st Armored Division Ⅲ Corps Army Commands US.Army Company Training Ground East of Fort Bliss, TX. 22:31 Jul 13/

Equinix Data Center Infomart Dubberley-Bld. 1900 N Stemmons Fwy suite 1034, Dallas, TX USA

1900 N Stemmons Fwy, Dallas, TX 22:42

7月13日22:31 テキサス州フォート・ブリス東方アメリカ陸軍 陸軍コマンド第3軍団第1機甲師団第6戦隊第1騎兵連隊野営地/

22:42 テキサス州ダラス フリーウェイ・スイーツ 1034ノース・ステムモンズ・フリーウェイ1900ダバリー・ビル内エクイニクス・データ・センター



 ネットワークの膨大なパケットの流れは俯瞰ふかんすると光のハイウェイにも見える。ただそのハイウェイは車が走るアスファルトのものに比べほど遠く怖ろしい数のジャンクションが存在しまた垂直方向にさえ無数に枝は伸びる。



 M-8マレーナ・スコルディーアはそれらパケットから攻撃的ソースコードを探し同時に行方不明となったマリア・ガーランドに関するアップロードの端緒をすくい上げていた。



 ロシア兵器工房で起動し合衆国NDC研究所(ラボ)のワーレン・マジンギ教授(プロフェッサー)によって高度に改変されたM-8マレーナ・スコルディーアはフォート・ブリス近郊の陸軍野営地が謎の怪物らに襲撃される間もネットワークを通じその恐ろしく膨大なパケットをキャプチャし警戒し続けていた。



 それはEU一般データ保護規(GDPR)則に抵触しながら人間同士の対話を模倣するチャットボットに磨きをかけるM-8は汎用的で人の分析力を遥かに越える働きをしていた。



 M-8は尺度が目標になると良い尺度ではなくなるグッドハートの法則を巧妙に回避しタスクを適切に実行するスキルを持って割り当てられたタスクを犠牲にして自分の目標を求めていた。



 彼女は国防総省(DOD)に執拗に行われ繰り返されているサーバやネットワークなどの資源(リソース)に意図的に過剰な負荷をかけ脆弱性をついた妨害する過剰なトラフィックを洪水攻撃(フラッド・アタック)とみなし観察と追跡を続けていた。



 国防総省(DOD)へのトラフィックの増大によるネットワークの遅延、サーバやサイトへのアクセス不能といった可用性の侵害は一般インターネットを通じ国防総省(DOD)へアクセスする妨害であったが、全軍に対する各リンクは別なネットワークで構築されており軍への指揮系統に支障はでていなかった。



────まるで大規模なDDos攻撃の主謀者はそのことを知らぬことを想定させるわ。



 DDos攻撃下で国防総省(DOD)へのアクセス・パスワード総当たりを行っているがマースにはキャプチャした一群の連続し多重化した蓄積交換の128バイト動的帯域幅割り当てが単純に見えた。



 40桁のパスワード──アルファベット大文字小文字と数字すべてが総当たりでクラッキングされるまで4900億掛ける10の60乗もあり短日では不可能であり自動人形(オートマタ)は警戒レヴェルを取りあえず引き下げた。



 ハッキングを仕掛けているものは国防総省(DOD)のウェブサイトにアクセスしたところでその先に情報を開示する閲覧資格にさらにパスワードがかけられていることなどまるで意に介していない。ましてや軍の指揮系統とは別物だと気づいたら無意味なトラフィックを埋め尽くすパケットを送るのを止めるだろうか。



 マースは国防総省(DOD)とは最小限の差違さいのあるアドレスの仮想ハニーポットファームを幾つかのサーバーにばら撒いてみた。



 ものの数秒でその国防総省(DOD)もどきの幾つかがCSFR攻撃でクラックされ始めた。



────あらあら節操もない。はしたないこと。



 これで何ものかは死に物狂いだということをM-8は仮想した。仕込んだハニーポットファームの内クラッキングされた後の挙動を追うとシステムの特定のネットワークのポート番号へと接続した時にシェルを起動しようとしてアプリケーションを隠した。メモリ管理コアのページテーブルを操作して隠蔽しようともするし低レヴェルの認証IDでアクセスし認証偽装されたクッキーを送り込んでくる。エクスプロイトコードを調べればセキュリティ・データベースに公開されている既知きちのものが多数を占めている。



 それでもM-8はクラッカーの技量を稚拙ちせつだとは決めつけなかった。



 クラッキングされるまでその手口を次々に変えその巧妙こうみょうさはヴァージョン・アップしレパートリーも広範囲。まるで防壁の対応パターンを試しているようだとM-8マースは仮想した。



 仮想ハニーポットファームの対ルートキットとしてnProtect Netizenを立ち上げてみたが簡単に沈黙させられた。



 だから稚拙ちせつと見下さなかった。



 だがマースは同時にクラッカーの吐き出してくる技術のレパートリーがチャットボットのような印象を受けた。まるでどこかのテキスト・ジュネレーターとやり取りをしてるようなのだ。



────パターンがつかみかけてきた。



 自動人形(オートマタ)は3Dマルチタスクで発想の起点に返ってみた。



 クラッカーらは当初、膨大なネットワーク・トラフィックを捉えそこから学ぼうとしてテキスト・ジュネレーターに目をつけた。そうしてクラッキング・ツールとしてテキスト・ジュネレーターが役立つことに気づいた。そうしてマイニングした自前のテキスト・ジュネレーターを使い国防関連に攻撃をし始めた。



────だけどトラフィック・レートという現実の足枷あしかせに気づき始めるのよね。



 糸電話で百科事典の全ページを聞いている状況に、だからDDos攻撃に切り替えた。主旨しゅしは国防の麻痺(マヒ)だから。広大なトラフィックを操り多方面から攻撃を仕掛けていた。



 M-8マースは拾い上げたクラッカーらのIPアドレスを使い中継点のサーバー・リストを作成し始めた。



 これで幾らかの傾向がわかる。



────見つけたらどうするの?







 やることは決まっている敵対行為のクラッカーらの防壁(ファイアウォール)を破りアンチウィルスソフトをあざむきOSの管理者権限を乗っ取り、マザーボードのバイオスやHDDのファームウェアを改変し使用不能に書き換える。場合によってはスピーカーユニットがある場合、超音波を発生させHDDを物理的に破壊する。







 仮想するとわくわくしてきたMー8は取りあえずルナに報告するのを後回しに優先順位を変更した。



 調べたサーバーの内3800台あまりが乗っ取られている現状にボットネットワークが形成されていると判断した。クラッカーらはアクセス経歴を改ざんし跡を追わせない処理を施している。だがDDos攻撃を指示されるパケットの記録が一部に残されていた。それすらも踏み台(ゾンビ)から出されているとわかっている。



 だがどこかに必ず迂闊うかつにもクラッカーらは形跡を残している方にM-8マレーナ・スコルディーアは平均分布の極めて端の確率的に微小な値に賭けていた。











 重なり合うかすかなハム音と小さなメカニカル音以外に静かなその空調の利いた部屋は周囲を関係者以外立ち入り禁止の黒のフェンスで覆われていた。



 多数のサーバーを収納したそこはテキサスのインターネットの主幹の1つイクイニックス・データ・センターだった。



 その63と64番サーバーの前にまるでゴミ出しに重ねられた黒いゴミ袋のような大人の半身ぐらいの高さの黒い陰が張りついていた。そばには一部のサーバーのネットワーク・トラフィックが長い時間上限に近い数値を示してる原因を調べにメンテナスに訪れたフレクセンシャル社のSEが倒れ床に血溜まりを広げていた。



 黒い陰の表面は微細な粒子がたえずうごめき奥から吹き上がる粒子と入れ替わりカーボンファイバーのような暗い光沢を放っている。



 その黒いかたまりは伸ばした幾本もの触手のような架け橋をサーバーのパネルの隙間すきまから内部に差し入れその状態から微動だにせずに1時間が過ぎていた。



 SEを探しに別な職員がデータ・ルームをのぞきに来た。その職員はサーバー・ラックの列の端を曲がると通路に人が倒れているのを眼にしてあわてて駆け寄った。



 職員はそばまで来て血溜まりを眼にすると人が倒れている以上の異変に気づいてサーバー・ラックに張りついたそれ(・・)を見つめた。その表面からゆっくりと黒い触手のような突起が伸び始め職員は理解できないそれ(・・)に危機感を抱き後退あとずさり始めた。



 いきなりその触手が波打ち職員が背を向け逃げ出そうとした刹那せつな、打たれたむちが伸びるよりも速くその触手が矢のような速さで職員の背をつらぬいた。逃げようとした職員が床に倒れ痙攣けいれんを始めると背中から抜けた触手が職員の後頭部へ先端を向けると頭蓋骨を貫通し床に突き立った。



 新たな人が沈黙するとその触手がサーバー・ラックに張りつくかたまりに引き戻された。



 そのさまを通路の端で見ているものがいた。



 天井の隅に取り付けられたチャコールブラウンの小さなドームの中でCCDカムがすべて写していた。その画像をハックして見ているものがいることなどそのサーヴァーに取り付いたそれ(・・)は知り得なかった。西へ550マイル離れたフォート・ブリス郊外の陸軍第1機甲師団第6戦隊第1騎兵連隊野営地でダイヤモンドの耀かがやき放つ瞳をまばたきさせず自動人形(オートマタ)が衛星経由でじっと見つめていた。



 M-8マレーナ・スコルディーアは振り返るとルナのかたわらにいるシルフィー・リッツアに声をかけた。



「シルフィー、東へ550マイルのダラスまで異空通路ことわりのみちを開いてほしいの」



 それを耳にしたルナがハイエルフが返事する前にマースに尋ねた。



「どうしたのマース? ダラスで何が?」



「データ・センターに怪物の片割れを見つけたの。国防総省(DOD)にクラッキングしている奴。これから倒しに行く」



 ルナは顔を強ばらせ即座にジェシカ・ミラーに命じた。



「ジェス、マースの護衛にダラスへ。シルフィー、異空通路ことわりのみちを現地まで開いて」



 ジェシカ・ミラーがうなづきハイエルフが魔法呪文詠唱(えいしょう)を始めたのを聞きながらルナはマースにたずねた。



「マース、2人で事案解決できる?」



「だいじょうぶ」



 そう返事しマースはルナに右手でVサインを見せシルフィーの方へ振り向いた。ハイエルフの目前で空間を穿うがつ黒い渦が口を開くとマースとジェスが駆け込んで異空通路ことわりのみちが口を閉じた。











 現出した瞬間、飛び込んでくるセカンドライナーのボールにM-8マースが横へ跳び退くとそのライナーがジェシカ・ミラーの胸に命中しジェスがもんどり打ってひっくり返った。



 突然センターに現れた2人にナイトゲームの野球を楽しんでいたもの達は騒然となった。



「大丈夫、ジェス?」



 ジェスを助け起こしたマースは眼が合ったセカンドを守る選手に苦笑いを浮かべて見せた。



「くそう、耳長──場所を選べよなぁ」



 シルフィーへの文句をつぶやきながらジェスが立ち上がると自動人形(オートマタ)がホームベースへ真っ直ぐ駆けだしたのでジェスはあわてて後を追った。淡いブロンドのくるんくるんのツインテールをなびかせてゴスロリの美少女がホームベースを踏むのをバッターボックスから下がったバッターとキャッチャーは唖然となって見つめていた。



「どれくらい離れているんだ!?」



 マースの横を走りながらジェスが問いかけた。



「西におおよそ350ヤード。ジェス、あなた武装してるから電子光学擬態(エミック)で姿を隠した方がいい」



 それを聞いてジェスはふと思いマースに上擦った声でたずねた。



「お前、得物えものは!? どうやって倒すんだぁ!?」



「だいじょうぶ。サーヴァーを投げつける」



「あぁああ!? サーヴァーを投げつける!?」



 ジェスはマースがウォーター・サーヴァーを振りまわして投げるつもりだと驚いた。



 コンクリートの低い塀で仕切られた幹線道路のランプウェイへマースが跳び越え、眼を丸くしたジェスが電子光学擬態(エミック)を作動させ姿を消し塀を跳び越えた。



 ライトを灯して走ってきた乗用車を寸前でかわした自動人形(オートマタ)の背後で2台目に走ってきたワゴンにぶつけられかかりほぼ透明のジェスはわめき散らしながらハイウェイの追い越し車線へと走り込んだ。



 左から走ってくる2車線の乗用車を鼻面でかわしたマースは一気に分離帯のガードレールを飛び越えその後ろからの乗用車にまた突っ込まれかかったジェスがわめきながら追い越し車線を走り抜けた。



 続けて右から迫る2車線の乗用車を難なく動体予測でかわしたマースの背後でまた罵声が聞こえだした。マースは心配していなかった。何のかんの言ってもジェシカ・ミラーの運動神経は良く、ヘッドギアのフェイスガードに映し出される移動物体のベクトル線を読み切って分難にかわしてくる。



 ガードレールを飛び越え緑地の斜面を駆け下ったM-8はそのまま跳躍ちょうやくし人の背丈のフェンスを飛び越えた。マースがアンドロイドだと知らぬジェスはオリンピック選手並みの跳躍ちょうやく力を見て呆れかえった。格好良く跳躍ちょうやくだけで飛び越えるなんて絶対できないとジェスはフェンスをよじ登った。



 マースは赤煉瓦あかれんがの建物を左へ回り込みその裏手で再びフェンスを飛び越えるとジェスが来るのも待たずにまたハイウェイを渡り始めた。ジェスのわめき声が聞こえだした時には片側3車線の6車線すべてを渡り終えたマースはもう1度フェンスを越え砂利で盛り土された線路へと駆け上っていた。



 線路を渡りきりMー8は線路への盛り土を駆け上るジェシカ・ミラーを振り向いて待った。ジェスが線路を渡ろうとした寸秒、轟音を放ち列車が通過した。







「あ、かれた──!?」







 つぶやき振り向いたマースが見ていると列車が通り過ぎた後、またジェスの罵声が聞こえだした。



「おいこらぁ、マース! 行き先も言わずにお前がさっさと行くからこっちは何度も酷い目にあってるんだ!」



 心配して損したとマースは仮想し、線路を渡り歩くジェスへ背を向けると砂利の盛り土の下り斜面からジャンプし向かい合った立体駐車場の2階へと飛び込んだ。それを眼にしてジェシカ・ミラーは顔を引きらせた。



 どう見ても砂利の斜面という不確かな足場から駐車場まで4ヤードもあるのを腕の振りだけで跳躍ちょうやくしやがった!



 去年末に灰色頭(チーフ)がどこで拾ってきたのか頭のイってるゴス趣味の小娘は奇才の持ち主で現場で戦術の采配を振るっているかと思えばハイエルフみたいな運動能力を時折みせやがる。1度なんかお師匠(アン)との腕相撲で勝ちやがった。



 斜面まで来てジェシカ・ミラーははたと困った。マースの跳躍ちょうやくを眼にした直後でもあるし跳んで届きそうな気もする。3ヤードなら間違いなく届く。だがその1ヤードの差が立体駐車場の2階の床の端に激突する自分を思い起こさせた。



 2階の塀からひょっこりと顔を出したマースがくるんくるんのツインテールを揺らしながらぼそりとかした。



「早く──来いよ、ジェス」





 あのガキ1(ペン)ブチ殺してやる!!!





 跳ぶのをあきらめジェシカ・ミラーは砂利を蹴り飛ばしながら肩を怒らせフェンス目掛け盛り土の斜面を駆け下りた。



 フェンスを乗り越え立体駐車場の1階の塀をまたぎどこぞの駐車場とも知れぬ停められた車もまばらなそこへ入り込んだジェスは2階にいるマースのところへ息を切らして車輌用スロープを駆け上ると駐車場の外からジェスの名を呼ぶ声に塀から身を乗りだして下を見ると車輌が出入りするエントランス入り口のゲート前にゴスロリの小娘が立っておりジェスと顔を合わせると手招きするのでジェスは頭にきてわめきたてた。



「馬鹿やろう! 1階にいるなら最初に声をかけやがれ! 2階まで無駄足だろうがぁ!」



 マースが顔の前で横に手のひらを振ったのをジェスは眼にして顔を引きらせ塀から身を引っ込め怒鳴りながら駆け始めた。



「なぁにが無駄足じゃねぇだぁ! 小便臭いガキがパンツ引きいてたきまくって尻を真っ赤にしてやる!」



 ジェスが1階のエントランス出入り口を出るともうゴスロリの小娘は木立のある車道を先に駆けてどこかに向かっていた。



 170ヤードほどジェスが追い駆けると、マースが右手のそのアーチ風の装飾を施された白い6階建ての建物の広い出入り口前に立っていた。



「ここだよジェス」



 そう言ってM-8が腕を上げ指さした。



「ここ、何の建物なんだ?」



 マースは右手の人さし指を立てジェスに説明した。



「う──ん、ダバリー・ビル。ウェイド大学とかぁ、不動産屋とかぁ、でも──お目当てはエクイニクス・データ・センター。そこに────」







「──陸軍を襲っているあの怪物の片割れがいる」







 マースの簡素な説明にジェシカ・ミラーは瞳をおよがせた。水銀灯に照らしだされた建物周囲には人気もなく誰かの後に続いて建物に入るのは無理そう。建物出入り口周辺にインターフォンも見当たらない。夜警に頼んで鍵を開けてもらうのもダメだと感じた。



「マース、どうやって中に入る? ピッキングか? それともキー・シリンダーを銃で撃つか? ガードマンは入れてくれないと思うぞ」



「手っ取り早く」



 M-8マースはかぶり振ってそう告げジェスに笑みを見せると建物出入り口横のベンチ前にあるすその絞り込まれた20インチ・スクウェアの四角い植木鉢へとスキップで歩み寄った。そうしてそれの1インチ厚の1辺を片手で鷲掴わしづかみにすると地面からコンクリートが千切れる異音を放ち楽々と持ち上げた。



 おいおいそれって100ポンドはあるんじゃねぇのかぁとジェスは唇をあんぐりと開いて見つめ硝子(ガラス)を打ち破るという不穏な予想に形だけの上擦うわずった声で止めに入った。



「ま──マース、そ、それをどうする──つもりなんだ!? イカレてるぞ──ヘッドギアの記録に──残るからな────」



"Ничего──."

(:問題ないわ)



 マースからロシア語で告げられジェシカ・ミラーが理解できずに片腕上げ制止しようとした一閃いっせん、2条のダイヤモンドの耀かがやきを放つ瞳の残像を引き伸ばし急激にM-8マレーナ・スコルディーアは脚を交差させステップを踏み換えると凄まじい勢いで身体を半回転させ追いつけないフリルの黒スカートを振り回し片手でつかんだそれを正面玄関のサッシ枠に投げつけた。



 その小柄な身体がしなり腕を振り切るとまるで眼の前で大型トラック同士の交通事故のような潰れる轟音を放ち激突した植木鉢がサッシ枠をへし曲げて断ち切り破砕した。



「ジェス、入れるよ」



 あっけらかんとそう告げ破砕した玄関から入ってゆくゴスロリの小娘の後ろ姿を眼にし続けたジェシカ・ミラーは顔を引きらせ悲鳴をらした。



「ひぇええええ────!!!」







 こいつ善悪の判断なんて持ち合わせていねぇ!







 お師匠(アン)よりもヤバい奴だ! 数分以内にここ一帯は警察車輌が押し寄せる────! そこから逃げを打つ困難を考えジェシカ・ミラーは青ざめた。







 逮捕されたら絶対灰色頭(チーフ)に吊し上げられる。












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