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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #13
62/164

Part 13-2 Intimidation 威喝(いかつ)

1 Cavalry Regiment Camp 6th Squadron 1st Armored Division Ⅲ Corps Army Commands US.Army Company Training Ground East of Fort Bliss, TX. 22:08 Jul 13

7月13日22:08 テキサス州フォート・ブリス東方アメリカ陸軍 陸軍コマンド第3軍団第1機甲師団第6戦隊第1騎兵連隊野営地



 迎え撃つはM1A2C/SEPV3エイブラムス27輌、M1036HMMWV──TOW対戦車ミサイル搭載ハンヴィー11輌、M1134ストライカーATGM4輌。陣営後方には第1野戦砲兵連隊のM142ハイマース・ミサイル部隊18輌、及び3・7マイル先の8カ所に索敵さくてき車輌のM3A3BFISTブラッドレー騎兵戦闘車が展開していた。



 それだけの火力を意識しても野営地作戦指揮テントにいるダイアナ・イラスコ・ロリンズ──ルナは胸騒ぎが収まらなかった。



 突如とつじょ、連隊野営地の指揮テント内に異空通路ことわりのみちを開いて現れた民間軍事企(PMC)業セキュリティのスターズに将校や下級兵士は大騒ぎになった。



 複数のMPにM4A1アサルトライフルを向けられた一行の指揮をするルナはその場の士官に怒鳴った。



「我々はNDC民間軍事企(PMC)業のセキュリティです。陸軍の被害調査をしにこの地に来ました。事は火急の重大な報告があります。連隊指揮官を!」



 MPを指揮する中尉(1LT)は、躊躇ちゅうちょしたが場が収まりそうにないと見ると指揮テント内に入り夜勤中の中佐(LTC)に報告した。



「報告します。テント前にNDC民間軍事企(PMC)業を名乗る集団が現れ、偵察隊の損壊に関する話があるそうです」



 デスクワーク中のブレンドン・ダリモア中佐(LTC)はすぐに席を立ちテントを出た。テント前のスペースに20名ほどのウエットスーツのような服装の集団がおりMPからアサルトライフルを向けられていた。



「責任者のカーライルだ。部隊の被害について話があるそうだな」



 数名の下士官を引き連れた連隊指揮官が姿を現しルナはうなづいて報告と意見を進言した。



わたくしはNDC民間軍事企(PMC)業調査隊を率いているNDC副社長のダイアナ・イラスコ・ロリンズです。陸軍の被害に関わった集団がまもなくフォート・ブリスへと進軍してきます。至急、大隊規模での臨戦態勢を取って頂きたい。わたくしの話に信憑性がないと判断される前に国防長官にお問い合わせ下さい」



 偵察隊と対応増援部隊に被害が出ていることはまだ国防総省(DOD)にしか通達していなかった。それをどうして民間軍事企(PMC)業が知っているのだと中佐(LTC)が野営地の照明でわかるほどに顔を強張らせた。



 彼はそばに居合わせた大尉(CPT)に命じて夜分ということもあり国防総省(DOD)へ連絡を取るように命じた。



 すぐに大尉は暗号化無線機を担いでテント前に姿を現し受話器を差しだされた中佐(LTC)は開口一番に謝罪した。



「フォート・ブリス野戦野営地夜間責任者のブレンドン・ダリモアです。准将(BG)夜分恐れ入ります。NDC民間軍事企(PMC)業のものが現れまして、今夜機甲師団第6戦隊が被害を受けた件で敵対勢力がフォート・ブリスへ向かい進軍していると訴えています──はい────そうです。NDC副社長のダイアナ・イラスコ・ロリンズを名乗っています────は!? 本当によろしいんですか? ────了解いたしました。即座に実行します」



 受話器を大尉に戻した中佐(LTC)は、事態の重大さを鑑みて大隊連帯長の大佐を呼びに下士官を向かわせ緊急で野営地を即応戦闘警戒レヴェルに引き上げるべくNDCの副社長をテントに招いた。







 大型デスク上のB0の大きな地図にこぶしを叩きつけ耳目を集めた。



危険見積(CRM)を無視した部隊の悲惨さは古今東西の戦歴を紐解ひもとくまでもなく旅団規模の兵員を死傷させ貴重な装備品である兵器をただの鉄くずに変えてしまいます! いいですか! ここで議論しているその数分数秒で主力戦車(MBT)を紙のように切り裂く怪物の軍団がフォート・ブリスに押し寄せて来ます!」



 ルナは都度口を差し挟む防護将校(PO)の陸軍付上級曹(SMA)長をあごを引いて半眼で冷ややかに睨みつけ一気にまくし立て黙らせた。叩き起こされて作戦指揮テントに出向いたコンスタント・ギャヴィストン上級曹長(SMA)明白あからさまに顔を紅潮させ噛み締めた唇を震えさせた。



 何なのだこのウエットスーツのような着衣を身にまとう女は!? 国防総省(DOD)きもいりとはいえ陸軍大隊の防護将校(PO)に命令のように物言いするこの女は何様のつもりだ!!! そうは思ったもののそばでパトリック・ネルソン大佐(COL)が黙って聞いていることに彼は抑えて説明に努めた。



「ですが彼我ひがの兵力を比較すれば敵陣営に主力戦車(MBT)どころか兵員輸送車もなく中隊規模の機械化兵力が我が野営地を中央突破するには明らかに兵員不足であり──」



 ルナはいきなり振り上げた右手人さし指でその陸軍付上級曹(SMA)長を指さしエメラルドグリーンの三白眼で睨みつけすぼめた唇で息を吸い込んで反論を装填(リロード)した。



「貴君は一介いっかい防護将校(PO)でありながら戦史と兵器体系の生き字引のごとき我に決定マトリック(DM)スにおいて異論を差し挟む愚行を繰り返し大隊どころか西の街フォート・ブリスの多数の市民の命を窮地に追い込むことの責任追求を軍事裁判だけで済ませられるとお思いでしょうが、上院公聴会に召還され、この先、安眠が2度と訪れることのない訴追を受けることを我こと────ダイアナ・イラスコ・ロリンズが保証しましょうぞ」



 押し殺した声で淡々と丁寧に語られた口上の意味を遅れて気づいたコンスタント・ギャヴィストン上級曹長(SMA)はついに激昂して国防総省(DOD)が回してきた大将(GEN)気取りのダイアナなにがしの女に怒鳴り返した。



「何を抜かすか、この民間人(シビリアン)がぁ! 反乱者──いいや! テロリストとして扱うぞ!」



 ギャヴィストン上級曹長(SMA)の怒りに連隊指揮官は困惑げな面もちを浮かべ申し訳程度の兵員と装備を用意させようと口を開きかかった矢先にルナは胸のパウチからICレコーダーを取りだしてそれを突き出して全員に見せテーブルを囲む将校や下士官に言い渡した。







「警告はしました。大隊規模で壊滅なさい」







 デジタルの録音時間が17分を表示しその末尾の秒がさらにカウントしていた。











 演習で敵進軍方面へM256・120ミリ滑空砲を向けていないことが理解できないテレンス・ベルナップ少尉(SL)は、身動きを制約するIOTVを揺すり上半身に馴染ませ野営地東半マイルに単横縦陣で100ヤードおきに並んだエイブラムス27輌を意識した。そのどの主砲も東へではなく横へ並んだ味方各個戦車へと向けられていた。



 壊滅したと噂される機甲偵察部隊のM3A3BFISTブラッドレーと第1機甲部隊4小隊のM1A2C/SEPV3エイブラムスや501航空連隊のアパッチが昨年末ニューヨークに現れたような怪物にられたという噂が広がっていた。



 合衆国陸軍の誇る主力戦車(MBT)が高々昆虫のでかくなった程度のものにられるわけがないと第6小隊第2戦闘車の車長のテレンス・ベルナップ少尉(SL)は思った。



少尉(2LT)、作戦指揮テントの前に現れた民間軍事企(PMC)業のリーダーが銀髪の──まるで魔女のような感じがしたと第7小隊のマッキンリーが言ってました」



 砲手のウォーレン・ブラッドショー曹長(MSG)に言われベルナップ少尉(SL)はこんな夜遅くに第7小隊のエイブラムス砲手が指揮テント近くで何をしていたのだと眉根を寄せた。



 だがまともな夜ではなかった。



 多数のエイブラムスとM1036ハンヴィーが帰投していなかった。それなのに仮想敵が進軍してくる東へ27輌のエイブラムスどれもが砲門を向けていない。



 敵の情報も、味方戦車へ砲塔を向ける意味も知らされずに困惑し続ける寸秒、厚い装甲越しに連続した爆轟が聞こえ始めた。



 ベルナップ少尉(SL)は驚いてサイドステックを操作し砲塔上部のプロテクターRWSを右に旋回させた。90度向きを変えた瞬間、爆炎と落下してくる227ミリのロケットの火焔が白いハレーションとなりサーマルサイトが捉えた映像が車長用独立熱線映像(CITV)装置の画像で確認できた。



 野営地後方のM142ハイマース・ミサイル部隊に砲撃の指示が出たことは、前衛偵察隊のM3ブラッドレー騎兵戦闘車が敵を捉えたということだった。だが中隊指揮車輌から砲の旋回指示が出されていないことに車長のテレンス・ベルナップ少尉(SL)は焦った。











 陸軍の石頭将校を暗に脅して指揮テントを出てきたルナにセキュリティのロバート・バン・ローレンツが声をかけた。



「基地司令官は納得しましたか?」



 ルナはかぶり振った。



「いえ。やれるだけのことはしました」



 そうセキュリティのサブリーダーが告げた寸秒、指揮テントから数名の尉官が出てきて野営地の様々な方向へ走って消えた。



「どうやら動くらしいわね」



 そうルナが元SAS中佐(LTC)に告げると彼は難しい顔をして話した。



「ダイ、エイブラムスの残骸を見たでしょう。厚い前面装甲がえぐられていました。ここ野営地の全兵力を持ってしても防ぎきれないでしょう。どうなさるおつもりですか?」



「大丈夫です。1度の攻撃には陸軍が堪えられるようにアドヴァイスはしました。幸いに彼ら陸軍は3.7マイル先に哨戒のM3ブラッドレーを早い段階で布陣させていましたし──」



「サブチーフ」



 話しに割って入りレイカ・アズマがルナに声をかけた。



「何かしらレイカ?」



「ジェシカ・ミラーから衛星通信が入っています」



 ルナはうなづいて左手首に近いソフトキーを操作し暗号化バースト無線通信の回線を開いた。



「ルナです。何ですかジェス?」



『ダメだぁ! 今、3人で全速力で駆けて敗走してる。40の敵を倒したが、灰色頭が逃げ出したんだ!』



 ジェスが常々、マリア・ガーランドのことを灰色頭と呼んでいることをルナは知っていた。だがどちらのマリーが逃げたというのか? 自分のよく知るMGなのか、マルチワールドの異なる時間から彼女が連れてきたもう1人のMGなのか。だが敵を殲滅しながらなぜ敗走するとルナは目まぐるしく考え、あの大きな怪物がさらに多数現出したのだと結論に達した。



「逃げ出したとはどういうことなの? 貴女あなた方とはぐれたの? 今、貴女あなたと走るマリアはどっちのマリアなの?」



『そんなこと知るか! 見分けなんてつかない上に周囲は真っ暗なんだぞ!』



『──割り込み──マースです。私たちのマリーが超空間回廊(かいろう)でどこかに飛ばされたの。新たな敵員数40騎。今、一緒に走ってる異世界のマリーは超空間回廊(かいろう)を開けないらしいから走るしかないの!』



 ルナは目眩めまいを覚えた。異世界のMGが同じ能力を持っていると早勝手していたことを今、理解した。双子のような有り様だが才能も同一ではない。



「今、しばらく走ってなさい。回収します」



 そう告げてルナは通信を切った。



「シルフィー!」



 野営地を物珍しそうに眺めているハイエルフが腰までの見事なブロンドを振ってルナへ顔を向けた。



「どうした?」



「ジェス達が敵に追われて逃走してます。異空通路ことわりのみちで出迎えて下さい」



 異空通路ことわりのみちをどこかに開けと言われシルフィー・リッツアは率直に問い返した。



「どこに?」



 問われルナは左腕のソフトキーを操作し左腕にホログラムのウインドを立ち上げた。そこにはジェスやマースの目まぐるしく値の変わっているGPSデータが表示されていた。



「南東東に7.6マイルよ」



 即座にシルフィーは指を開いた右腕を真っ直ぐ前に伸ばし高速(ファースト・)詠唱(チャンティング)を唱え始めた。



"Opnaðu fyrir mér í sáttmálanum við brautir jarðarinnar, læki himinsins, göngum ólíkra heima, leiðsögn brautanna sex..."

(:大地の間道かんどう、天空の流れ、異空の路盤、六道のしるべを持って盟約において我に開かん──)



 黒い耀かがやきの三重の魔法陣(マジックサークル)が彼女の目前に立ち上がり空気が渦を巻き込み始めると中央に暗雲の取り囲むゲートが開いた。



 そこへシルフィー・リッツアが駆け込み7秒ほど経つとゴスロリのフリルスカートをなびかせたM8マースを先頭にジェスとマリア・ガーランドが走り出ると、最後ににハイエルフが戻ってきて後手に魔法陣(マジックサークル)を消してゲートを霧散させた。



 ルナはマースを捕まえるとマリア・ガーランドが消えた詳細を問いただした。



「マース、MG失踪(しっそう)報告(リポート)を!」



 わずかな光にも耀かがやいて見える自動人形(オートマタ)のダイヤモンドのような虹彩を振り向けて少女は状況を説明した。



「ジェスを助けようとしたマリーが敵怪物の閉じたはさみで頭部を強打され飛ばされたあと、上半身を起こして呆然となった彼女に別な怪物が襲いかかった瞬間、空間にマリーが吸い込まれたの」



 空間に吸い込まれたと聞いて、ルナはマリーが異空通路ことわりのみちを開いて敵の攻撃を回避したのかと思った。



「シルフィー、異空通路ことわりのみちが開いた先を見つけられる?」



 ルナにたずねられハイエルフは眉根をしかめマースに問いただした。



「たしかに異空通路ことわりのみちなのか? 近隣でゲートが開くと我は感じることができるが、10マイル四方でそんな気配はなかった」



 エルフの意見にマースが補正した。



「マリーが空間転移したときに魔法陣(マジックサークル)が現れてなかった」



 2人のやり取りを聴いていたルナは、チーフが連れてきた異界のマリア・ガーランドの双子のような女に問うた。



「マリア、貴女あなた異空通路ことわりのみち以外に空間転移の法を知らないの?」



 異界のマリア・ガーランドは眼を細めた。



「私にその手のことを聞くな? お前たちのリーダーみたく派手な魔法は使えない。せいぜい敵を燃やしたり氷柱を飛ばして串刺しにする程度だ」



 ルナはとりあえずマリア・ガーランド捜索を棚上げした。その刹那せつな、キャンプ頭上を飛び越える無数のミサイルの火焔の群れを眼にしてみなは顔を上げ東の夜空に消えるほのおの筋を眼で追った。



 いよいよあの怪物らが押し寄せて来たのだとルナは東の空を染める爆発の耀かがやきを睨みつけた。



 白兵戦ディフェ(DCC)ンス以外で敵の破壊力を眼にしてないルナは、戦場前線(FOE)で撃破された陸軍の主力戦車(MBT)の有り様からだけで想定しこの野営地の将校らに対抗策を指示した。M1エイブラムス戦車隊がどれだけ活躍してくれるかと不安になった。



 1度だけ────殲滅できるのは。



 ギリシャ神話のヒュドラーのように倒してもさらに現出する怪物らはこの40体の後にさらにどれくらい控えているのだろうと有限の火力をあやぶんだ。











 単横縦陣で100ヤードおきに並んだエイブラムスの中央、第6小隊の3輌のM1エイブラムスに闇から躍り出たそれら(・・・)が緑色のかがやむちを振り上げ取りくとその落下エネルギーに主力戦車(MBT)の前部回転式ショックアブソーバー付高硬度鋼トーションバーが縮体し高速走行から急停止したように大きく前傾ぜんけいした。












☆付録解説☆


☆1【危険見積】(CRM/Composite Risk Management)合衆国陸軍の軍作戦班(COC)の統合危機管理です。情報見積(IPB)により作戦に想定される危険要因(Hazard)を検討し危険レヴェルを数値化し実行可能な行動(COA)方針の比較や対策に役立てます。


☆2【PO/Protection Officer】合衆国陸軍の防護将校です。旅団本部で情報見積(IPB)により危険要因(Hazard)を検討し危険レヴェルを数値化する役割を担います。リスク・マネジメントを知り尽くした古参専任幕僚、陸軍付上級曹(SMA)長などが指名され防護班(PO)に所属します。


☆3【決定マトリックス】(DM/Decision Matrix)複数の作戦を数値化で比較するための表です。陣形変化、機動、火力、奇襲、戦闘力継続など複数の項目に対し数値評価しその累計を作戦ごとに行い実行作戦の比較をし決行作戦を決定します。


☆4【ヒュドラー/ヒドラ】(Hýdrā)ギリシャ神話に登場する怪物です。伝承により容姿は様々ですが蛇の複数の頭を持ち切り落としてもそれが際限なく復活します。ヘラクレスにより成敗されます。







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