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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #2
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Part 2-1 Tumma Scorpion 暗黒のさそり

2 lipca 2019 10:11 Instytut Biotechnologii Laurus nad brzegiem jeziora Wadag na przedmieściach Olsztyna w północnej Polsce/

10:38 Warszawa Rakobietsuka 2A Centrala ABW(/Agencji Bezpieczeństwa Wewnętrznego) DSA(/Departament Śledczy Antyterrorystyczny)/

11:48 Instytut BT Laurus nad brzegiem jeziora Wadag na przedmieściach Olsztyna w północnej Polsce

2019年7月2日10:11 ポーランド北部都市オルシュティン郊外バドンク湖の湖畔ラウルス・バイオテクノロジー研究所/

10:38 ワルシャワ ラコビエツカ2Aポーランド内部安全保障局本部対テロ捜査部/

11:48 ポーランド北部都市オルシュティン郊外バドンク湖の湖畔ラウルスBTL





 寝ても覚めても意識に染み込んだそれを切り離せない。



 シンパサイザーの中では過激でも穏健でもないはずなのにいつも危険思想の持ち主だの急進派だのと揶揄やゆされてハウスとマゾみたく引き下がる。



 2階建てのエアバスを武力で乗っ取り乗客諸共(もろとも)首都中心部に堕とす。英仏海峡トンネルを通過するTGVをトンネル内で足止めしトンネルを爆破落盤させる。



 あいつらが街角で路線バスを狙ったりモールのごみ箱を爆破するのとどの程度違う?



 銀行強盗とストアの押し込みぐらいの差しかないとなぜ理解できない?



 大衆へのアピールなどどうでもいい。政権奪取が無理なのも理解する。援助国の勢力優位確立なんて子供の理屈だ。報復ならまだ少し望みがある。所詮しょせんは理屈、理由、感情は後から追いついてくる。



 爆発するような衝動に飲み込まれ突き動かされる。



 それは単純明快でいいのかもしれない。



 君の横で眠らさせて欲しいと恋人に懇願こんがんするように思想にしがみつくなんて無神経過ぎて反吐へどが込み上げてくる。



 所詮しょせんテロリズムは犯罪だとなぜ認めない!? ノワールには美学があり美しさの追及こそすべてだとなぜ言い切らない? そこに一線引いて押し寄せては下がってゆく波に浸かる事を拒んでも砂地は塩を含み足は濡れている。



 突きつけられる現実に気づいたのは7歳の時だった。



 残酷すぎるリアルは成すべき事を迷わせるとその時知った。







 それ以来──主役である事に陶酔とうすいし覚悟してる。







 脇役らよ私について来いと目出し帽(バラクラヴァ)を下ろし下界からの接触を制限した。



 妥協の女神が差し伸べてくる甘い限界の手を跳ねつけタングステン・グレイ・カラーの個人防御火器(PDW)──LWRC ICーPSDのセレクタ・レバーが後方へ向いている事をグリップ握る親指を上げ指の腹で確認(チェック)し、流れるように左手でマガジン底部を手のひらでたたきマグプルCTRもガタつかない事を確認(チェック)する。



 続いてフォアエンド後端近くのレールに取り付けた45度オフセットマウントに載ったトリジコンSROレッド・ダットサイトのスイッチを入れカービンを左に傾けほお着けしてライトブラウンの瞳でのぞき込む。半円形の光学照準器(FOV)視野に2.5MOAの赤いダットを確認した。射撃精度をとちまたでは1MOAのダットがもてはやされる。だが殺しの現場では一瞬のエイミング遅れが生死を分ける。小さすぎるダットで視認が遅れれば精度の意味がない。時にはダットサイトにたよらずマンシルエットにバーストの数発撃ち込み脅威とならなくなった相手のバイタルゾーンを正確に撃ち込むほどなのに。



 イソテナーの中の薄明るい照明下で適した明るさから2段明るい方へセットし直した。突入先は明るい壁に照明が十分過ぎるからダット光度を落とし過ぎると認知が遅れるからだ。ダットは顔半分までなら130ヤードほどでおおよそフラットな弾道になるしそれよりも顔が小さく見えるなら照準をスコープに切り替える。



 そうしてレシーバー上部にマウントで載せた同じメーカーのACOGライフルコープ3.5x35BAC .223/5.56 BDC TA11の外観を打痕などないかざっと見てストックにほお着けしてFOVをのぞき込んだ。電源不要のトップにあるファイバーから集光しシンプルなセンターに赤のOリングその下に1本だけ5つの目盛り付くレティクルが光りしっかり見える事を確認した。レティクルはM4に装着して使う事を想定してあるモデルなので弾種弾道が違いエレベーションを調整し直してあるが、どの道ショートバレル・カービンで200ヤード越しのヘッドショットは考慮しないから問題ない。一瞬でエイミングしトリガーが引ければいい。



 照準器は今までトラブルを起こしていない堅牢けんろうなトリジコン製にみな統一してある。費用はかさむがスポンサーは確実な仕事の代償に目をつむってくれていた。



 照準器を確認し終わるとチャージング・ハンドルを左手でつかみ勢いよく引いて指を開いた。貫通力とストッピングパワーで選択した6.8ミリ・レミントンSPCが薬室(チェンバー)に装填される。使い慣れた5.56ミリとサイズがそう変わらず相変わらず手応えは同じに感じた。



 ぶら下げたスタングレネードに隠れているチェストリグに横向きに着けた競技用クイックドロウホルスタからSIG P229を引き抜きスライドに載せたトリジコンSROを確認(チェック)する。.40S&Wを使うものをサイドアームにしたかったが、スライドスプリングが硬すぎてコッキング出来ないので9ミリヴァージョンにしていた。1発装填しデコッキングしホルスタに戻す。



 手早く視野の広いガスマスクを確認し、プレートキャリアの上に回したチェストリグに付けたマガジンパウチとスイベルに3個まとめてセーフティ・ピンのリングをつるしたスタングレネードの位置を腕と指で再確認(チェック)する。それは合わせて9個提げている。



 同じ段取りをイソテナーに乗る他の17人が同時に進めていた。徹底して仕込んだ連中だと意識しながら編み上げ巻き止めたブロンドの髪の上にマスクのバンドをかけ被り右(こぶし)を肩の前に振り上げ合図する。わずかに遅れ他のものが(ナックル)振り上げ追従する。それをそれぞれが見回し確認(チェック)した。



 誰も喋らない。



 この時点で質問する奴は容赦なくメンバから外す。日頃から口だしするやからは手加減せず粛清しゅくせいしてきた。



 トレーラーが止まる音と揺れを感じて個人防御火(PDW)器のセレクタに親指をかけ縦に下ろし待つと扉が開かれた。



 迷彩服の袖上に回し手首内側に向け着けたTIMEの数値だけが白抜きの黒いフルサイズデジタル腕時計のカウントダウンタイマー・モードを呼び出す。8分にしてありそれをスタートさせた。



 制限時間は480秒。



 それを越えると地元警察が押し寄せ正面切ってヒートする事になる。



 真っ先にクラーラ・ヴァルタリはコンバットブーツでアスファルトに跳び下りるなり、研究棟玄関先へ45度左に倒したIDーPSDを振り向けた。ホルスターのハンドガンに手をかけ出てきかかった警備員(セキュリティ)をSROの光学照準器(FOV)視野の赤いダットに捉え硝子(ガラス)越しにセミオートで2発トリガー・タップで撃ち殺し"Asia Selvä!!!"(:クリア!)と後続に報せる。男ども11人を率いてANSIZ535規格の生物学的危害・関係者以外立ち入り禁止警告表示のかたわらを走り抜け突入した。



 クラーラは棟内通路とすべての部屋を暗記していた。



 鉄筋コンクリート建ての研究棟は地上10階。地下は隔離レヴェルごとに3階あり、最下層は設備フロアまでで合計13層ある。170余りの部屋と合わせ600に近い通路など普通では憶えられない。だがクラーラはそれくらい簡単だった。子供のころから見たものを1度で暗記しそれを数年忘れない。彼女を診断した脳外科医が絶対記憶だと親に告げる光景を18年過ぎても憶えていた。医師の胸ポケットにはモンブランの万年筆が刺してあった。キャップデザインをリアルに思いだす。



 奥の通路から現れた警備員(セキュリティ)1人を倒し3基ある内のC号エレベーターへ急いだ。



 床は完全洗浄仕様の目地のないPタイルに近い感触の樹脂。靴底の張り付く感覚がショッピングモールの床にかなり近くステップを繰り出す都度にリズミカルに小さく鳴く。



 途中にあるセキュリティ・ロックは電子デバイスに詳しい仲間の1人が次々に開錠してゆくのだがここはまだ隔離レヴェル1にもならない気密室すらない事務フロア。



 ガスマスクなど役に立たないフロアまで下りなければならない。



 それを半数の男らは緊張し数日前から言葉少なだった。だがクラーラは高ぶる気分を抑えるのに逆に苦労していた。



 テロに走る奴、大犯罪に手を染める奴、大なり小なりこれと同じ気分を感じていたはずだと思う。世の中が平坦にまるでビニール越しに見てる様に現実味がない日常に埋没したすべて。



 だが今、駆ける脚に、吸い込む肺に、引き金にかける指に、すべてがリアルを主張してきた。



 曲がった先の通路にファイルの山を抱いて驚く女社員が立ちふさがり似合わぬ眼鏡かけた眉間に1発送り込みもんどり打ってひざを床に落としたそいつを踏み越えてゆく。擦過音の乱れで背後の2人が跳び越えたのを気づいた。戦闘時にその様な余裕カマスと命堕とすぞと日頃から警告してやってるのに!



 踏めば一瞬でまだ命あるかどうか判別できる。



 生きてれば目撃者だ。



 7つ目の角を曲がると目的のエレベーター・ドアが見えた。乗り場前のスペースに駆け込み銃口振り上げ天井角にあるカメラを撃ち抜いた。



 その間に連れた1人がエレベーターの呼び出しボタンを押していた。



 ドアが開き4人で乗り込む。



 エレベーターは緊急時迅速に避難させる為に高速仕様になっている。地下12階のフロアに着くまで15秒を切る。ドア開く前に左手首を傾けリミットを確かめる。ここまで115秒。残り365秒を切った。



 ドアが開く前にセキュリティ・ブースある方へ銃口を立ち業務している大人の顔の高さに合わせる。ドア開きだしたわずかな隙間すきまから部下と2人で同時に2人の警備員(セキュリティ)を撃ち殺した。



 そうして警備員(セキュリティ)のIDを胸から引き千切りセキュリティ・ロックを開錠する。この警備会社は最低だと一瞬思った。



 バイオハザード・レヴェル4エリアの通路に入ると壁やドアに大きな窓がめ殺しになっていた。買収者の情報になかった光景に瞬時に手段を切り替え、小走りに駆けながら次々にドア・ロックを開錠して驚く研究員の合間に2個のスタングレネードを放り込んでドアを閉じてゆく。



 目的の部屋は最奥の左部屋だった。



 ドアを開き顔振り向け驚いた職員を射殺し即座にスタングレネードを放り込み爆音が響きとガスが拡散する中、踏み込んでゆく。



 部屋奥の実験室で安全キャビネットに向かい作業していた隔離服姿の男が硝子(ガラス)越しに見えた。ガスは効果なくとも爆轟の音響にたじろいでいる。さすがにその硝子(ガラス)越しに撃つわけにゆかず部下に命じて照準させ動きを封じた。



 クラーラ・ヴァルタリは壁際に並ぶサンプル常温保管庫を硝子(ガラス)越しに素早く見て行った。



 情報通りすべて略号でアルファベット2文字と数字7桁のコード表示になっている。



 硝子(ガラス)扉から離れ距離を取り1度に30の棚にある300余りのコードをすべてを同時に見て1発で目的のものを見つけた。



 硝子(ガラス)2重の扉にもセキュリティ・ロックがしてあり警備員(セキュリティ)のIDでは開かなかった。



 すぐに間近で床に座り込んで頭抱えている男の研究員の頭つかみデスクにぶつけ昏倒させIDを白衣から剥ぎ取った。そうして保管庫を開き、チェストリグの1番上のパウチから緩衝材と冷却剤入りの保護ケースを引き抜きサンプル棚から小さな試験管3本に入ったそれを抜き出してケースに仕舞い胸のパウチに戻し出入り口ドアへ振り向いて3人に短く命じた。





"Peruuttaa!!!"

(:撤退!!!)





 トレーラーのイソテナーに全員が戻って扉閉じられるとクラーラ・ヴァルタリは腕時計を見た。まだ89秒残っていた。



 走り出したトレーラーのイソテナーの中でガスマスクと目出し帽(バラクラヴァ)を外し日常に戻った彼女は不首尾はなくとも眉根しかめ不機嫌になった。





 現実世界が急激に遠のいたからだった。











 対テロ捜査部のデスクの電話が鳴り受話器取った職員が声をかけてきた。



"Telefon od dyrektora i wiceministra ds. administracyjnych!"

(:部長、副大臣からお電話です)



 報告書類に目を通していたコンラート・バールタはすぐにビジネスフォンの点滅している外線ボタンを押し込んだ。



"Tak, to Bárta."

(:はい、バールタです)



"Raurus BTL został zaatakowany i obrabowany z tego, co dałby Rosji. Chcę, żebyś sprawdził to tak szybko, jak to możliwe."

(:ラウルスBTの研究施設が襲撃されロシアへ渡すものが奪われた。至急、調べてくれ)



"Zrozumiałem, Wasza Ekscelencjo. Od razu ruszam."

(了解しました、閣下。すぐに向かいます)



 受話器を戻すと6課の8人が彼の顔を見つめていた。コンラート・バールタが立ち上がると指名される前に2人の若い男が席を立って1人が尋ねた。



"Dokąd zmierzasz, Menedżerze?"

(:どこが現場ですか、部長?)



 歳嵩としかさの方へ部長は応えた。



"Rauls BTL. kapitan!"

(:ラウルスBT研究所だ、大尉!)



 大佐(PL)から不機嫌に言われたカレル・ヴラスチミルともう1人立ち上がっているミハル・レオポルトが理由はバイオ研究所だと気づき強張った顔を見合わせた。











 ポーランド内部安全保障局本部のある首都ワルシャワ北方170キロにオルシュティンという都市がある。さらにその北東8キロあまりにバドンクという湖があった。



 周囲は森が広がり人家はまばらで、それでいて刈り込んだ様なその野原の上に陸軍航空隊のMiー24Wハインドは下り立った。



 ダウンウォッシュの強風の中、対テロ捜査部の3人がスライドドアを開きキャビンから草原に足を下ろし振り向くと100メートルほどのすぐ近くにアスファルトが敷地を主張し周囲にフェンス張り巡らせた中央にそう大きくはないモダンなデザインの10階建てのビルがあり、敷地内には青のフラッシュライトを明滅させる警察車輌が20台ほどいた。



 ラウルスBT・コーポレーションは欧州1のバイオ技術研究所であり多くの国と企業への様々な特許供与で結ばれ世界有数の生物遺伝子工学の研究開発を行っている企業だったがその研究所が意外に小さいと部長の後に従うカレル・ヴラスチミル大尉(OF2)は思った。



 だが周囲は森と湖だらけで人目はなく、目撃したのは少数の職員と監視カムの録画だけになる。



 これは追跡が厄介やっかいだと大尉(OF2)は見回し状況を意識にり込む。



 開いたフェンス・ゲートからスーツ姿の男が警官2人引き連れ攻撃ヘリまで走ってきて部長が声をかけた。



"ABW(/Agencji Bezpieczeństwa Wewnętrznego) - DSA. Podwładni patrzą na scenę. Proszę, prowadź mnie."

(:内部安全保障局対テロ捜査部だ。部下が現場を見る。案内してくれ)



 そう命じるとスーツ姿の男が警官に指示してその警官が大尉(OF2)伍長(MS)を案内するため歩き出し部長はローターの回転を落とすヘリのそばで警察の責任者に告げた。



"Na pierwszy rzut oka laboratorium jest bezpieczne. W laboratorium musi być ktoś, kto kierował napastnikami. Prosimy o przygotowanie listy wszystkich pracowników. I trzymaj wszystkich pod obserwacją. Ile osób zostało zabitych lub rannych?"

(:見たところ研究所はセキュリティされている。襲撃者を手引きしたものがいるはずだ。職員全員の名簿と監視を。人的被害は?)



"Zginęło ośmiu strażników i sześciu pracowników. Potem jest około 10 drobnych obrażeń."

(:警備員(セキュリティ)が8人、職員が6人殺されています。後は軽微な負傷者が10人ほど)



 用意周到で迅速かつ容赦ないといった手口に、なら手引きしたものを襲撃に乗じて口封じした可能性があるとコンラート・バールタは思った。



"Zbadaj tych, którzy zostali zabici. Dowody mogły zostać usunięte..."

(:殺されたものをしっかり調べろ。証拠隠滅の恐れがある────)



"...Następnie przyprowadź kogoś, kto może wyjaśnić skradziony przedmiot."

(:──それと強奪されたものを説明できるものを)



 そう部長は告げると警察の責任者が立ち去り彼は研究所を見つめ思った。







 酵母菌を盗みに来たわけでもあるまい。












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