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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #11
55/164

Part 11-5 התקפת מלקחיים 挟撃

NDC HQ.-Bld. Chelsea Manhattan NYC, NY 23:18 Jul 13/

Armored Reconnaissance Unit 1st Company 6th Squadron 1st Cavalry Regiment 1st Armored Division Ⅲ Corps Army Commands US.Army Company Training Ground Fort Bliss, TX. 21:37

7月13日23:18 ニューヨーク州ニューヨーク市マンハッタン・チェルシー地区NDC本社ビル/

21:37 テキサス州フォート・ブリス アメリカ陸軍 陸軍コマンド第3軍団第1機甲師団第6戦隊第1騎兵連隊第1中隊機甲偵察部隊の演習地





 逃げ惑う空気をうならせて現在時刻に戻ってきた暗殺者(アサシン)ザームエル・バルヒェットとリカルダ・バルヒェットは相変わらず人気のない社長室フロアの通路に現界した。



 ザームエルは目眩めまいを覚えふらつきかかり1歩足を踏みだし時間跳躍(ちょうやく)をやり過ぎたと不安を覚えた。



 暗殺対象のあの女社長を探し時間跳躍(ちょうやく)をすること34回を重ね不意をついて襲いかかったが殺す事ができず元の時間に戻ってきた。



 ボディガードを必要とするひ弱な女だという先入観は6回目の奇襲をしくじった時点でかなぐり捨てた。2人がかりで銃器を使えばあの女は青いスクリーンに護られ、刃物を使えばとんでもない身体能力でことごと退しりぞけられていた。



"Ist diese Frau eine Kampfmaschine?!"

(:あの女、戦闘機械か!?)



 ザム忌々(いまいま)しい母国語の悪態に後ろにいる(リカルダ)が応えた。



"Meine Gedankenkontrolle funktioniert nicht."

(:私の精神支配も効かないわ)



 ザームエルは左手に提げたコンバットバッグ床に置いて中からモスバーグ500クルーザーを引き抜き抜きフォアエンドを引いて装填した。スラグ弾でも青いスクリーンを破る事は出来ず仕切り直し効果があるかとかなり近距離の背後から撃ったが一瞬であの女の背後に青いスクリーンが現れ盾になった。



 厄介やっかいな障害になっていた。



 ザムはノックもせずに社長室のドアを開き部屋奥にある両袖机の中央にモスバーグ500クルーザーを振り上げた。



 またハズレをつかませられた。



 マリア・ガーランドは度重なる襲撃を警戒し雲隠れしたのか? 社長室に足を踏み入れ後ろから(リカルダ)が入室すると銃器を構えたのが音でわかった。



 方針を変更する必要があった。



 ザムは執務デスクへ行くと反対側に回り込み引き出しを見下ろした。おもむろに右袖の最上段の引き出しを開きそこに回転式名刺ホルダーを目にとめそれをつかみ取った。ショットガンを提げたまま名刺ホルダー横のダイヤルを回転させ名刺を送ってゆく。NDCの管理職の1人を選び止めた。



 ハーバート・ポーター、総務部長だった。



 デスクにはキーテレフォンがなかったがデスクトップの右手にほのかな受話器の赤いマークが映り込んでいた。手をかざすと他のアイコンが浮かび上がった。通話アイコンにタップし続けてリダイヤルのそれにタップするとデスクのどこかから信号音に続き呼び出し音が聞こえ始め4秒で誰かが出た。



『はい、サポートです』



 女性の落ち着いた声だった。サポートだと苦情処理の部門かとザムは思った。



「総務のハーバート・ポーターです。社長に連絡を取りたいのですが、どちらに見えますでしょうか?」



 直ぐに通話相手が切り替わって別な女の声が聞こえた。



『情報2課のエレナ・ケイツです。社長は只今、テキサスのフォート・ブリスに行かれてます』



 見つけたぞ!



「ありがとう」



 礼を告げザームエル・バルヒェットは通話終了のアイコンをタップした。いくら探しても標的がいないわけだった。1900マイルも遠くにいたのだ。



"Ricarda, Ich mache einen Raum-Zeit-Sprung!"

(:リカルダ、時空跳躍するぞ!)



"ja Bruder!"

(:はい、兄さん!)



 そう返事をし兄のコンバットバッグの握り手を肩にかけ提げた(リカルダ)は自分のバッグを左手でつかみ上げデスクを回り込んで負い革(スリング)でM4A1を首に下げ右手でザムの腕に触れた。



 直後、2人は一瞬で消え去り残された空間に空気が急激に流れ込む鋭い音が広がった。











"LUNA,Report!"

(:報告をルナ!)



 異空通路ことわりのみちとは違うゲートから突如とつじょ現れた2人のマリア・ガーランドのうちマジック・サプレス(MSC)・チョーカーを首に付けた方が身をお越しかかったルナに声をかけた。



「陸軍に大規模な損害を与えたテロリストを特定。攻撃を仕掛けるも11体倒した時点でLBRに耐性を持たれ残り9体は近接戦闘(CQB)で倒しました。ですがさらに雷球から20体が現界しそれはタケミカヅチで殲滅しました。問題はその後です。さらに40体が現界したのを確認しました」



 北西の闇に明るくはない青い輝きの一角があった。それをMSCを付けたマリーが視線を向け眼を細めルナに問うた。



「テロリスト? 現界? 暴れまわったのは人間じゃないのか」



 ルナは返答に困った。陸軍の兵士らは怪物にやられたとマリアに告げると嬉々として無謀な行動にでるに決まっていた。



「その────貴女あなたに瓜二つのそちらの方は?」



 ルナは意図して話を逸らしたが、マリーが遠方へ向けている視線をあえて副官に向けないことに気まずい思いがこみ上げてきた。



「白兵戦ディフェ(DCC)ンスできると判断したのなら人と同じくらいの大きさだったのだろう」



 顔を向けずに指揮官が指摘した内容に、ルナは困惑した。とんでもない! 大柄のシルフィーですら大人と子供ほども敵は上背があり両腕が────ロブスターの様なはさみだと言いかけて口をつぐんだ。



「ミュウ! 敵にサイコダイヴできたの?」



 マリーがマルチテレパシストに尋ねると彼女は首を振った。



「情報もつかまずに正面から火蓋を切るなんてルナ──あなたらしくない。それとも参謀の自動人形(オートマタ)に問題があるの?」



 話の方向が見えてルナは先手を打った。







「マリア、チョーカーは絶対に外しません!」







 MSCを付けたマリーがため息をついた。



「西に陸軍の野営地があるはずだわ。全員、そこへシルフィーの異空通路ことわりのみちで布陣。私らが取りこぼした怪物を足止めしてエル・パソへの侵入を絶対阻止」



 ルナは青ざめた。



 取りこぼした? 2人であの怪物を倒すつもりだと思った。



「マリア────倒しても──どこかから際限なく現れる怪物なんですよ──いくら貴女あなたが2人だとしても────」



 もう怪物という事実を回避できなかった。



「痛いわね」



 ぼそりとマリーがつぶやいた意味がわからずにルナは眼をしばたいた。



「えっ?」



「これを外さなかったことを私の遺体を眼にしてあなたは後悔するのよ」



 マリーはマジック・サプレス(MSC)・チョーカーに人さし指を掛け引っ張ってみせた。



 意味がわかりルナはマリア・ガーランドを睨みつけたが、それを無視して問題多き指揮官はハイエルフに命じた。



「シルフィー、全員を西13マイルに異空通路ことわりのみちで」



 マリーに命じられて理解の速いシルフィーは即座に高速(ファースト・)詠唱(チャンティング)を唱え始めた。



「ねえ、ねえマリア」



 M-8マレーナ・スコルディーアが両手を上げてアピールしていた。



「ここの戦況をルナ達に知らせる必要があると思うの」



 自動人形(オートマタ)の言い分にマリーはうなづいて言葉の代わりにすると跳び上がって喜ぶ自動人形(オートマタ)の横をすり抜けレイカ・アズマが歩いてきてフェイス・ガードを引き上げた。



「チーフ、怪物の弱点だと思うのですが胸部と腹部の境に急所があるようです。それと手の内を探る様な襲い方をしてました。用心なさってください」



「了解したわレイカ」



 彼女の心情をマリーはよく理解していた。20ヶ月前のあの雪降る夜、核弾頭を破壊する必要に迫られレイカの類い希なるスナイパーの技術を手に入れるため精神をディープ・ダイブし彼女の記憶や技能、癖にいたるまで脳に刻み込んだ。感情を排し極限の瞬間を見極める女がアドバイスしてくれるのはただ1つ『会敵必殺』を告げていた。



 得体の知れぬ怪物に今夜初対しそれでもレイカ・アズマは己と部隊が生存するために敵を観察し考察したのだろう。ルナも沈着冷静だが、恐らくは白兵戦ディフェ(DCC)ンスに直接加わってはいない。怪物の弱点にはまったく触れてなかったとマリーは思った。



 開いた異空通路ことわりのみちに部下達が消えてゆくに任せているとルナとジェシカ・ミラーがゲートに入らずに見つめていることにチョーカーを付けたマリーは気づいた。



「どうしたルナ、ジェス?」



 マリーが声をかけたその時だった。空気が波打ち波動が押し寄せマリーらは空気の波へ顔を振り向けた。一瞬で出現した青いスクリーンにぶつかった波動が轟音を放った。



 タケミカヅチ──! NDCの軌道衛星兵器!



 マリーはサンプル画像でしか見たことのない自社の軌道兵器の威力に眼を見張った。遅れて多量の土埃つちぼこりが空気の精霊のたてにぶつかり激しい砂の叩きつける音が競い合った。マリーはスクリーン外の土煙に注意を払いながら自動人形(オートマタ)に大声でたずねた。



「マース! 敵の残存数は?」



「現界した40の雷球消失! ──でもマリー、土埃つちぼこりの中を二手に東西800ヤードに別れ移動してくるものらが──」



 ルナの横でジェシカがアリスパックと背の間から両手で同時に凶器を引き抜いた。サーベージ・スポーター411熊爪(ベア・クロゥ)の水平ダブルバレルを半分の5インチ(:約12.7cm)に切り詰め、ショットシェルのパウダーをハンドガン寄りにリロード(:詰め替え)したソードオフ2(ちょう)だった。それを横目で見たマリーはぼそりと告げた。



「ジェス、生きて帰れないかもよ」



 指揮官の気遣いをジェスは鼻で笑った。



「残党(さら)いなんてやってたらお師匠に殴られる」



 言い返し押し殺した声でブルネットの前髪の間から見える瞳がマリーを挑むように睨みつけジェスは舌なめずりした。師匠とはアン・プリストリのことだとマリーは知っていた。



「マースとペアで背後を任せる」



 やる気満々のガンファイターにマリーは許可を与えた直後、ルナがマリーに右腕を振り上げ左手で右手手首のリングを操作した。刹那せつなマリーの首からマジック・サプレス(MSC)・チョーカーがピッと電子音鳴らし前後に別れ足元に落ちた。それを見下ろしたマリーはしゃがみ込んでチョーカーを拾うと戦闘服のポケットに仕舞い異空間ゲートへと顔を向け副官に頼んだ。



「ルナ、シルフィーのMSCも取ってあげて」



 ルナは返事もせずに魔法のゲートに足を踏み入れ背で警告した。



「10マイル以内に人がいることを忘れないでください」



 見境ない破壊は慎めと副官が暗に告げていた。そのルナの後ろ姿がゆがみ魔法が効力を失うとゲートは闇と見分けがつかなくなった。



「さて────」



 忌々(いまいま)しい頚木くびきがなくなり立ち上がったマリーは手のひらで喉をなでた。この喉が奏でるは極限の破壊。闇を引き裂く究極の魔法。



「マリー、口を差し挟まないでくれてありがとう」



 この世界のマリーは異次元の昨日から連れてきた自分に素直に礼を述べた。



「約束したろ。あんたの世界のトラブルを解決したらクラーラ・ヴァルタリを始末する手伝いをしてくれると。相互協力だ」



「チーフ、あんたら素手で戦うつもりかよ」



 ジェスに問われマリーは視線を暗い地面に落とした。素手ではない。魔法で戦うスキルはシルフィー・リッツアに念入りに教え込まれていた。ただ速度と予想外というのが常の実戦でどれだけものになるかわからなかった。



「わたし達2人はFiveーseveNとファイティングナイフしか持ってないわ」



 ジェシカはあんぐりとあごを落とした。シルフィーやゴスロリ娘、レイカと同じことを2人でやるつもりなのか!? さっきは9体だったがあれが40も来るんだぞ。終わったとジェスは思った。いくらソードオフ2挺とスラグ弾60発あっても迎え撃つのは無理だと思った。



「マリー、敵が200ヤードに近づいてる」



 M-8マレーナ・スコルディーアが警告を発した。



「ええ、そうね。知ってるわ。東西から20ずつ」



 覚悟はできてる。



 期待膨らむのを抑えきれない。



 知っていた。正真の戦闘狂なのかもしれないとマリア・ガーランドは思い闇を上目遣うわめづかいに睨みつけ腰のシースからファイティングナイフをゆっくりと引き抜いた。











 大気圏外からの金属製のサジータ()の大群が再び襲いかかって来るのが見えていた。



 40のレイジョ(レギオン)は雷球を割ってマイクロバスほどのサイズもあるさそりの形態で現界するなりオリエンテム()オチデンタリス(西)の二手に別れ空からのサジータ()を避けるなり共有情報にある原住民(アルケティトス)ミーリテス(兵士達)へ向け駆けだした。一気に跳躍ちょうやくすることもできたが、ミーリテス(兵士達)との間にエネルギー障壁が感知され警戒のための地上移動を選択した。



 強勢仕掛け(サスペンデシギミック)は感知してないのにエネルギー障壁がなぜ存在するのか過去の経験からは回答が得られない。原住民(アルケティトス)の能力で障壁が生み出されているのか。



 跳躍ちょうやくすれば空中で軌道を大きく変えることは不可能。エネルギー障壁に触れる危険性があった。



 毎時18アールマ(:約60km/h)で地面を駆けるレイジョ(レギオン)は万が一前方にエネルギー障壁が張られても緊急回避できる能力があった。それほどの反射神経と運動能力を兼ね備えていた。



 体格でもエネルギーでも能力すべてで原住民(アルケティトス)凌駕りょうがしているのは明確だった。9の近接戦闘で得られた情報から原住民(アルケティトス)の能力限界値も把握していた。8アールマ(:約7.3m)のこの攻殻では原住民(アルケティトス)に対抗するすべはない。







 強権支配(インペリオザレゴザ)へシフト。







 索敵(オスティスクワイレレ)の時は果たされた。



 オリエンテム()オチデンタリス(西)レイジョ(レギオン)が目標とする原住民(アルケティトス)ミーリテス(兵士達)に接敵したのは同時だった。広範囲波長の視野を持つレイジョ(レギオン)がとらえた生き物は4体。共有していた情報だと22体の原住民(アルケティトス)がいるはずだった。



 広野に待ち構えていたのは4体のミーリテス(兵士達)だった。背の低い1体は先の9のうち3をリセットした危険性をはらむ原住民(アルケティトス)だ。



 原住民(アルケティトス)の残り18体が潜伏し待ち伏せしている可能性を考慮しつつ、レイジョ(レギオン)が100アールマ(:約91m)を切った刹那せつな原住民(アルケティトス)そばに張られていたエネルギー障壁が突然消え去った。



 上空からの斬撃ざんげきの可能性が生まれた。



 東西20ずつのレイジョ(レギオン)はそれぞれ6が跳躍ちょうやくし残りがくさび隊形に変え一気にミーリテス(兵士達)へ迫った。



 後に続く現界するレイジョ(レギオン)全体のため、破壊行動の情報を取り続け空間転移で共有し続ける。



 嘆美たんびすべきは4体だけで迎え撃つ原住民(アルケティトス)の強い意志。



 両腕のはさみのマテリアルを極限超振幅させる。原住民(アルケティトス)の運動エネルギー物理強勢仕掛け(サスペンデシギミック)に対して侵徹深さを与えぬために運動エネルギーを分散させるためだった。



 跳弾ちょうだんに際して外殻がいかく表面が損なわれる可能性はあるが、コアをリセットさせなければ他の部位を破壊されても潤沢なマテリアルの再構成で自在に修復できた。



 残った40のレイジョ(レギオン)は同時に敵の間合いに浸透することに成功した。





 一閃いっせん、敵ミーリテス(兵士達)がいきなり6体に増え時空(ひず)みをレイジョ(レギオン)は感じ取った。












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