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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #11
54/164

Part 11-4 Twins 双子

Armored Reconnaissance Unit 1st Company 6th Squadron 1st Cavalry Regiment 1st Armored Division Ⅲ Corps Army Commands US.Army Company Training Ground Fort Bliss, TX. 21:30 Jul 13/

NDC HQ.-Bld. Chelsea Manhattan NYC, NY 23:32

7月13日21:30 テキサス州フォート・ブリス アメリカ陸軍 陸軍コマンド第3軍団第1機甲師団第6戦隊第1騎兵連隊第1中隊機甲偵察部隊の演習地/

23:32 ニューヨーク州ニューヨーク市マンハッタン・チェルシー地区NDC本社ビル





 M-8マレーナ・スコルディーアが見つめる衛星画像の中心に20の稲光放つ球体が葡萄の房のように現れた。まずい事態だった。頼みの綱のレーザー・ライフルに耐性をもたれ、近接戦闘(CQB)に持ち込んでくる。



「ルナ、戦略的撤退を推奨すいしょうするわ」



 自動人形(オートマタ)の提案に暗闇の平原を見つめているダイアナ・イラスコ・ロリンズが口を開いた。



「マース、撤退した場合、怪物らが襲う街と確率は?」



「西のフォート・ブリスに78パーセントの確率で侵攻します」



 陣営の先端にいるシルフィー・リッツアが耳にして遠方を見つめたまま異を唱えた。



「生存者1人を除いて遺体1つ見つけられない状況に、連中が街へ行けば大虐殺が起きる」



 兵は敗退した可能性もあるじゃないのとルナは思った。だが侵攻の予測をするときは最悪の状況も想定すべきだと経験が警告していた。武装も弾薬も心許なかった。敵方てきがたの能力は機甲中隊を壊滅させる力がありながら白兵戦の能力を探られるような攻撃を受けた。



 戦場は片手落ちの連続が常況じょうきょうであり片手落ちの少なき陣営が勝利する。また戦場は集散動静の集約だと古今東西の戦史を研究してきたルナは思った。集まれば強さを増し散れば弱体化する。動く兵は強さを発揮し戦闘力が静止すれば衰運にみまわれる。



 あの怪物らはセオリーを知っているような気がする。



「南へ400ヤード移動する」



 ルナは命じ攻撃手段を考えた。火器はバトルライフルとハンドガン。それにグレネードが数えるほどとRDX(:軍用高性能爆薬の一種)が110ポンド。加えてジャベリンが19基。



 20体の怪物らを倒し、さらに20体現れたらどうするの。万に1つすべてを倒せても、その後に20体──怖気おぞけが背を這い上がり腕組みして平原を見つめるルナは鳥肌立った。



「移動後、ジャベリンを6基用意」





 マリア・ガーランドを連れて来るべきだっただろうか。











 作戦指揮室、情報6課のブースに陣取っているヴィクトリア調の冥途めいど服を着たアン・プリストリをスタッフらは遠巻きに監視していた。



 アンは23時の遅がけに作戦指揮室にフラッと現れて夜勤の情報6課のスタッフらを遠ざけた。



「AP何やってるんでしょ?」



 情報4課のルシール・ガターリッジと3課のイーサン・デラニーは5課のブースから怖いもの見たさにブースを8等分する仕切りから眼から上をのぞかせてルシールが丸眼鏡のブリッジを人さし指でり上げ眼を細めイーサンに尋ね彼は答えた。



「アン王女は検索にご熱心」



 ルシールは肩でイーサンを小突いた。



「検索ぐらい作戦指揮室に来なくてもできるでしょ!」



 聞こえたのか6課のブース仕切りから見えるアンの頭部が振り上げられルシールとイーサンは慌てて5課ブースの仕切りに首を引っ込めた。イーサンはそっぽを向いて立ち上がると何気なくデスクのファイルを手に取り6課のブースを観測した。アンはふたたび頭を下げ何かにご熱心だった。イーサンに肩をたたかれルシールはまた仕切りから顔をのぞかせた。



「ねえ、アンが何にアクセスしてるか調べてみましょうよ」



 イーサンがうなづいたのでルシールは椅子に腰を下ろすとトラックボールを軽く回してPCをスリープから立ち上げた。6課の端末にローカルホストとしてsshコマンドを打ち込みパスワードを聞いてきたのでルシールは16桁の英数字を打ち込んだ。表示されたものが何なのかルシールはすぐに理解できず眼をおよがせた。



 ロール/ピッチ制御、ヨー制御? 碁盤目のグラフに波打ち流れるライン。PFP? AIA? CEP?



「ねえ、イーサン。PFPやCEPって何だと思う?」



 仕切りに顔を下ろしイーサンが応えた。



「PFPはパウンド・フォー・パウンド、ボクシングや格闘技の用語かな。それか平和のためのパートナーシップ。あと命中予測位置。CEPは複合イベント処理、コンピューター用語。炭素排出権なんてのもある。それと平均誤差半径、兵器用語だ」



 言いながらイーサンがルシールの操作する端末のモニタをのぞき込んでボツリとつぶやいた。







「やべぇ────アンの奴、衛星軌道兵器をイジってる」







 イーサンとルシールは眼を丸くして顔を見合わせた。



「マリーかルナに知らせないと!」



 ハモった直後、即座にイーサンはデスクのキーテレフォンの受話器を取るとAIの音声対応に命じた。



「至急、マリア・ガーランドに繋いでくれ」



 15秒ほど待たされて音声対応AIが告げた。



『内線にお出になりません。モバイルフォンは圏外もしくは電源が入ってません』



「それじゃあ作戦行動中のダイアナ・イラスコ・ロリンズに繋いでくれ」



 7秒ほど待たされてテキサスとの衛星通信が確立した。



『ルナです』



「情報3課のイーサン・デラニーです。今、APが6課の端末で衛星軌道兵器にアクセスしています!」



 一瞬、沈黙がありルナが命じた。



『6課のキーテレフォンに切り替えて、アンに出るように命じて!』



 イーサンは立ち上がり6課のブースへ怒鳴った。



「アン! ルナから緊急の無線だ!」



 アン・プリストリは仕切りボードの上に両手を上げ無言でクロスさせた。



 な、なにがダメだ! イーサンは呆れかえった。



「衛星軌道兵器のことで緊急通信だ!」



 今度アンは右手だけを仕切りボードの上にのぞかせて手のひらを振って払う仕草をしたので顔を引きらせたイーサンは脅しをかけた。



「ルナはカンカンに怒ってるぞ!」



 いきなりヴィクトリア調の冥途めいど服姿のアンが立ち上がり押し殺した声で言い返した。



「うっせィ! 今、微妙なことをォ、やってんだァ! 邪魔したらァ──殺すゥ!!!」



 言うだけ言うとアンは仕切りの陰に姿を下げた。



「イーサン、落下予測位置がどこかわかったわ。テキサス州フォート・ブリスの東方35マイル余りの場所よ。ハミングバード2が向かってる目的地」



 耳にしたイーサン・デラニーは作戦指揮室の内壁に広がる巨大な液晶モニタに顔を振り向け眼をおよがせた。数百表示される大小のウインドの1つが真っ暗な何かを映していた。イーサンは自分の前の端末を操作し今、1度視線をその暗いウインドに向けAIが彼の視線を計測し巨大な液晶モニタのくだんのウインドを判断しイーサンの操作端末に画像と情報を表示した。



 真っ暗な中に炎がくすぶっていた。イーサンはキーボードを操作し画像を増感処理させた。デジタルのモザイクがうごめき小さなドットになり画像にシャープネスがかかると燃えているのが戦車の残骸だとわかった。



Satellite Image:NDC Surface observation satellite S-197 No. 3 cam.

(:衛星画像:NDC地表観測衛星S-197第3カメラ)


MGRS:13RDR1962240312

(:軍用座標参照システム:フォートブリス北東東35マイル)



 PFPと衛星カメラの照準位置がMGRSで僅差イーサンは慌ててキーテレフォンの受話器を手に取るとAIに命じた。



「ルナとの保留回線を接続」



『アン! どこの衛星軌道兵器にハッキングして──』



 回線が繋がった瞬間、ルナに怒鳴られイーサンは大声で言い返した。



「イーサンです! アンが使っているのは我が社のエリア・ショットです! 狙っているのはフォートブリス北東東36マイル。座標を転送します!」



 告げながらイーサンはアンの操作している端末のMGRSのグリッドを衛星通信に転送し同時に6課のブースからアンの巻き舌の声が聞こえた。



「シュートォ!!!」



 イーサンが慌てて隣のルシール・ガターリッジのモニタをのぞくと目標突入体(TEV)──1がパージされたと警告が点滅していた。











 全長500フィート、全幅720フィート、高さ100フィートにもなるダークグレーの巨大なNDC軌道上スター・ショット01TAKEMIKADU(タケミカヅチ)TIはスラスターを噴射し終わり平均高度500kmの低軌道(LEO)を毎秒2万5千フィート余りで飛びながら設定された軌道に変移すると下部の9フィート径のシャッターが開き4本の電磁ガイドレールが下へ伸びた。



 フライホイール姿勢安定機構(スタビライザ)が設定された回転数に達すると8.2フィート径の長さ17フィートの流線形の砲弾を電磁射出した。急激に加速してゆく砲弾は毎秒2万4千フィートに増速し華氏6100度に達したセラミック・カーボン・タイルが真っ赤に焼けた。標高26万フィートに達し熱圏から中間圏に落下すると先端外核のセラミック・カーボン・タイルがサボットごと8片の外殻がいかくに花びらのごとく分離しエジェクション・ユニットが外気にさらされクラスター爆弾の子弾散布の様に7千本のタングステン・フレシェットが一瞬で周囲に広がり音速の21倍で指示標的へと向けて降下した。











『──っているのはフォートブリス北東東36マイル。座標を転送します!』



 TAKEMIKADU(タケミカヅチ)TIを! ルナは青ざめた。



 そのそばで上空を見つめている自動人形(オートマタ)つぶやいた。



「あぁ、ヤバい──」



 本社作戦指揮室のイーサンが言い切って4秒。ヘッドギアのフェイスガード液晶モニタに表示された15桁のMGRS座標の値を眼にした瞬間、ダイアナ・イラスコ・ロリンズは全緊急通信で命じた。



「全員南へ走れ!!!」



 20体の光球が出現した方へ攻撃準備にジャベリンを用意していた全員が一斉に立ち上がり暗がりを駆け始めた。3千平方フィート(:約289平方m)は絶対殲滅エリアになり、気流で逸れた人の身長ほどもあるフレシェットが暗数4千平方フィートにも落ちる危険性があった。



「な、何なのですかルナ!?」



 隣を素早い大股で駆けるシルフィー・リッツアが大声で問いかけた。ルナはフェイスガードを跳ね上げて怒鳴った。



「空から7千本のタングステン・フレシェットが凄まじい速度で降ってくるのよ!」



 直後、懸命に駆けるNDCの民間軍事企(PMC)業セキュリティらの背後から落雷の轟音を響かせ空気と砂塵の波が襲いかかった。



 半数が足をすくわれ、残りの半数が転がり込むように地面に倒れた。唯一立っているのがゴスロリのスカートを前後に押さえたM-8マレーナ・スコルディーアだけだった。











 原住民(アルケティトス)の増援が打ち倒したレイジョ(レギオン)を補完する20の共同体は、近接戦闘で原住民(アルケティトス)に9体が倒された事を承知していた。だが原住民(アルケティトス)は近接戦闘において脅威とならないと判断していた。武力では中遠距離に原住民(アルケティトス)が用いる強勢仕掛け(サスペンデシギミック)の方が遥かに危険だった。



 しかし同数の原住民(アルケティトス)なら一気に畳み掛ける事ができる。



 最早、原住民(アルケティトス)と同格の姿で探る必要はない。レイジョ(レギオン)らはこの地に散らばっている戦死した仲間のマテリアルを呼び集めるとまたパネルバンほどの大きさと昆虫の醜悪さにからだを構成し直した。



 この地の支配階級に恐怖をもたらすのだ。



 レイジョ(レギオン)は初手からの敗因に学び、広く1クルーラ(:約1.6km)の2次元半径45アールマ(:約41m)の高さの3次元空間の波動を敏感に精査していた。円筒形の空間に動く強勢仕掛け(サスペンデシギミック)はなく、歩行の原住民(アルケティトス)が20数体いるだけだった。



 方位も距離も把握していた。2度の跳躍ちょうやく原住民(アルケティトス)を包囲できる。後は一気に殲滅し、探索を原住民(アルケティトス)が多くいる遠方の場所へ振り向け出方を探る。



 作戦と意識を共有しレイジョ(レギオン)らは近隣の倒す原住民(アルケティトス)へと意識を集中した。



 刹那せつな、頭上の凄まじい圧力に20体すべてが上空を仰ぎ見た。







 かわす余裕は皆無だった。







 雨の様に襲いかかった硬質の金属に一瞬でボロボロになるまで凌辱りょうじょくされた。レイジョ(レギオン)らは個体の原形を失う寸前にすべてが10本近いタングステンの矢で音速の20倍以上という猛速で刺しつらぬかれた事を理解しまぐれにも難を逃れたコアの1つに意識を共有した。



 これは原住民(アルケティトス)強勢仕掛け(サスペンデシギミック)なのか。これまでに捕らえた原住民(アルケティトス)の記憶にはこの様な圧倒する強勢仕掛け(サスペンデシギミック)の記録は巨大な爆発物を除いてなかった。



 唯一残ったコアはあえてマテリアルを呼び集めずにエネルギーの輻射を最低限に抑え、増援のレイジョ(レギオン)を待つことにした。代替えは幾らでもきく。現界時に情報を共有すればこの威圧した強勢仕掛け(サスペンデシギミック)にも対応できるだろうとコアは思考した。



 次はもっと高空を用心して敏感に精査するのだ。



 頭上に40の雷球が現界しコアは新たなレイジョ(レギオン)を共有した。











 テキサスの衛星画像をじっと見つめるアン・プリストリは殲滅した怪物らに動く気配がない事にも満足していなかった。もともと体温の低かった怪物らはタングステン・フレシェットの洗礼を受けて一瞬にして地表と同じ温度になり赤外線カムで判別できなくなった。何だか砂の像が崩れ落ちた様な感じだった。



 だがネチっこいAPは数分たっても衛星画像から眼を離さなかった。



「ほ────らァ出てこいィゴブリンどもォ。もう1ショットォお見舞いしてやるぞォ」



 直後、画面の中心に葡萄のふさの様に光球が現れてアンは青い瞳を輝かせ舌なめずりし両手の人さし指でチマチマとキーボードを操作した。











 両手を地面について上半身を起こしたルナは、背後の宇宙空間から襲いかかった惨劇を見るよりも眼の前に広がる超空間回廊(かいろう)の出入り口に唖然となった。



 混乱したシルフィー・リッツアが魔法の退路を開いたのかとルナは一瞬、考えた。



 その空間の渦からゆっくりと脚を踏み出し姿を現したのは見知った戦闘服(バトルスーツ)姿のフェイスガードを引き上げた女だった。



 だが、ルナは開いた唇を震わせる事を止められなかった。





 渦からもう1人、同じ姿の瓜二つの人物が現れてその喉元にルナのおよがせていた視線は釘付けになった。







 もう1人のマリア・ガーランドは魔法抑制のマジック・サプレス(MSC)・チョーカーを首に付けていなかった。












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