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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #11
52/164

Part 11-2 Point of Sight 照準の先

F-16(/Viper)C Block50B Near Washington 79th FS.(/Fighter Squadron)20th Fighter Wing Shaw AFB.(/Air Force Base) USAF, SC.(/South Carolina) USA 14:21 Jul 13/

Hasbrouck Heights East Teterboro Airport, New Jersey 14:22

7月13日14:21 アメリカ合衆国サウスカロライナ州ショー空軍基地所属アメリカ空軍第20戦闘航空団第79戦闘飛行隊Fー16C ブロック50Bワシントン近空/

14:22 ニュージャージー州ハスブラック・ハイツ東部テターボロ空港





『アローズ・トゥーよりウイングリーダー。サドル完了』



 2番機が編隊ポジションに着いたとコール(:無線)が入る。



「アローズ・ワンよりアローズ・トゥー。FO(/フェンス・アウト:作戦空域外)。今日のCAP(:戦闘空中哨戒)は終了だ。戦術スプレッド(:隊形の1種)でRTB(:帰投)」



 アメリカ空軍第20戦闘航空団第79戦闘飛行隊第11戦隊ウイングリーダーのトレーシー・ソマーズ中尉(1LT)は横1列に150フィート間隔で並ぶ僚機のF-16を視線を振り一瞬で並ぶアローズ・トゥーを確かめた。ONE(:ノーブル・イーグル作戦)における民間旅客機のテロリストのハイジャックから首都圏を護る哨戒任務が終了した。



 レーダー画面の端に2つのシンボルが現れトレーシーはCDCに問い合わせた。



「アローズ・ワン、空路に交差するアンノウン(:未確認機)2機確認。民間機か」



『マザー(:CDC)よりアローズへトランスポンダ信号無し。呼びかけに応じない。方位285、高度2万6千、距離90マイル、速度──音速の20倍で接近中』



 音速の20倍だと。そんな民間機があるものか。敵味方識別の必要はなかった。中尉(1LT)はレーダーを操作しシンボルをマークした。2日前にメキシコ湾上空で音速の40倍を出す謎の飛行体が空軍のFー22とF-35を多数撃墜していた。



 BVR(:視程外)戦闘は望めるのか。AIMー120(AMRAAM)C-6の処理対空速度は音速の7倍までだった。それを越えると急激に命中率が落ちる。レーダー、飛行システム、僚機のクロスチェックを継続しながら僚機へ無線で指示した。



「ウイングリーダーよりアローズ・トゥー。方位285より接近中のアンノウン1、2はエネミーだ。実弾射撃を許可する。ウォール隊形でFO(:攻撃態勢)。エネミー1、2はマック20。19秒でME(:接敵)。フォックス・スリーで先制。仕損じた場合WVR(:視程内)戦闘で仕留める」



『アローズ・トゥー、コピー・ザット。エネミー、フォロー。シーカー・インプット。ターゲット01、02、フォックス・スリー』


(:2番機、了解。敵機追尾、弾頭情報入力。敵1、2へAIMー120C-6発射)



 指示してわずか3秒。2機のステーションNo1、9から4発のAIMー120C-6が爆煙を広げ放たれた。追い風に急激に加速して13秒で4462フィート毎秒まで達すると5Gで弧を描き相対速度マック24で起爆した。



「マザー(:CDC)、アローズ・ウィング・リーダー、フォックス・スリー・タイム・アウト。WVRBフェンス・イン」


(:ベース、編隊長AIMー120C-6到達。視程内空戦域突入)



 目視内戦闘空域に達した事をコントロールに宣言しクロスチェックで前方空域に敵機影を探した。やや低い高度で2つの影が急激に大きくなりそれがブレイクし左右に分かれた。



「アローズ・トゥー、ブレイク・ライト。ボギー、シックス・オクロック、スリー・マイルズ、ロウ」


(:2番機、右へ展開。敵、後方3マイル下方)



 後方に回られた! ソマーズ中尉(1LT)はRWR(:レーダー警戒受信機)とレーダーを注視しつつ。CATーⅢからCATーⅠへと切り替え無制限機動にし直ちに高Gブレイクターンを左へと行った。VID(:目視確認)したボギーは減速のため急激に引き起こしに入っていた。ターン・サークルの内側に入ってくる! クロスチェックするといったんブレイクし回避行動に離れた2番機が戦術位置に戻りエレメントを構成するのが見えた。急激な機動を続けながらドッグファイトモードに切り替えTMS(:目標指示スイッチ)を前に押し込みWEZ(:兵器発射可能領域)に入ろうとする9Gに近い旋回を続ける(ボギィ)をヘルメットのバイザーにあふれかえるボックスの1つ目標指示の楕円に捕らえようとした。



「ターゲット、インゲージ。フォックス・トゥー!」


(:捕らえた。サイドワインダー発射!)



 (ボギィ)1を楕円に捕らえた瞬間TMS(:目標指示スイッチ)を放した。ビッチング・ベティ(:自動音声システム)がロックと告げ中尉(1LT)はピックル・ボタンを押し下げた。



 右翼端レールからAIMー9Xが爆煙をなびかせ飛びだした。











 戦闘精霊シルフィの弾倉の確認(チェック)をしている最中に誰かから声をかけられヴィクトリア・ウエンズディは顔を振り向けた。事務所の男だった。



「あん? 何だよ」



「ヴィッキー、大変です。ワシントン近空で哨戒中のFー16が空戦に入りました!」



 聞いた瞬間、ヴィクは冷や汗が吹き出した。フェンス・インしたのならここテターボロ空港から今からでは空に上がっても間に合わない。いいやそうとは限らない。メキシコ湾上空で襲いかかった連中とは限らなかった。だが哨戒中の編隊に襲いかかったら待機中の予備機にアラートがでる。テロリストなどではなかった。それを意図ともしない。



 指示を仰がないと。



 マリア・ガーランドとは暗殺者の本社襲撃以来連絡を取れなかった。ヴィクはセリーを作業着から取り出すとルナに連絡を取ろうと本社作戦指揮室の代表番号をタップした。



『はい、サーヴィスです』



 不慮の漏洩を避けるために代表番号を受けたものはサーヴィスを名乗る事になっていた。



「ヴィクです。ルナを」



『お待ちください』



 まるで通話口で待っていたと言わぬばかりにルナの声が聞こえた。



『ヴィク、ワシントンの事案ですよね』



「ああ、そうだ! どうするの!?」



『今からシルフィで出ても現場空域まで1分はかかる。間に合わないわ。それに単独で貴女あなた1人を出すわけには──』



「見殺しにはできない。戦闘が長引けば間に合う! D.C.の警護には多くの周辺州軍機があるんだ。また片っ端に堕とされる。出るぞ!」



 そこまで言い切りヴィクはセリーを切った。格納庫に戻りながら整備用繋ぎ服の袖から腕を引き抜いた。ドアを押し開けるなり戦闘精霊シルフィの整備に付いてる3人の整備士に声を張り上げた。



「3分で上がるぞ! 対空B兵装フル準備!」



 呆気に取られた男らが顔を振り向けると手が放され閉じ揺れるドアがあった。



 ヴィクはAFE(:飛行装備)ロッカールームに駆け戻ると整備用繋ぎ服を脱ぎ捨て自分のロッカーを引き開け耐Gスーツを引き出し飛び込む様に脚を通した。ジッパーを手荒く閉じてハーネスを接続するクリップの硬質の音が響く。ヘルメットの動作確認(チェック)をし、片手で尿パックと手袋を耐Gスーツのポケットにねじ込んで駆け出した。



 DVR、DTCなどの任務資料はなかった。ヴィクが通路を走り格納庫に戻ると整備士長兼クルー・チーフが駆け寄った。



「WA(:機外点検)、Arming(:兵装使用準備)終了。コクピットの準備が出来たら上がれ、ヴィッキー」



 戦闘精霊シルフィの機首へ向かいながらヴィクはうなづいてラダーを回り込んだ。整備上問題があればこの時点でクルー・チーフが言ってくるはずだった。燃料の心配はない。精霊シルフィードの無限に近いエナジーが供給される。ヴィクはラダーを駆け上がりヘルメットをキャノピィ・レールに乗せDTC(:情報転送ハーネス)を接続し浅い機内に乗り込んだ。25度に倒された射出座席に背を預け支えさせる。手早く耐Gスーツを固定しラップベルトを接続するとモーターが自動調整を行いテンションが掛かった。パラシュートをハーネスに固定しながら片手で酸素ホースを接続し、JHMCS(:統合ヘルメット装着表示システム)をヘルメットに接続し頭をヘッドレストから浮かせそれを被った。



 ヴィクはじりじりとしながら素早く手順を遂行していた。どれが抜けても上空で困る事になる。インターコム・ケーブルを接続しヘルメットのあごのストラップを繋ぎ指を掛けテンションを確かめる。足下のラダー・ペダルがせり出しヴィッキーの身体に合わせた。



 一瞬、ヴィクは揃えた右手の人さし指と中指に意識を集中しフライトスーツの喉元に添え喉に青いクレストが浮かび上がった。刹那せつな、両肩を滑らせるように風の精霊シルフィードが両腕を回してきて抱きしめた。



────こんにちはヴィク。



「シルフィ、上がるわよ」



 盟友にそう告げながらヴィクはキャノピィ閉鎖スイッチを操作し横を向いた。ラダーを離したクルー・チーフがサムアップしてみせ人さし指を上に向けて回した。



 冗談じゃない。格納庫内で2基のエンジンを点火したらアイドルでも格納庫の屋根や内部を破壊してしまう。



「シルフィ、歩く速さで前に」



 言い終えた直後、メインギアにモーターが仕込まれている様に機が進み始めヴィクはAPU(:予備動力)をスタートさせた。



「ジェイス、EOR(:滑走路端)に出す時間が惜しい。格納庫前から上がる!」



 無線でクルー・チーフに告げ機が格納庫から出ると即座にクルー達が巨大な引き戸を閉じた。



「止めてシルフィ」



 ヴィクは機が止まる前にコンソールのスキッド・スイッチをLUPに切り替えた。ほんの数秒で管制塔や滑走路逆にある格納庫がHUD投影ガラスの下に消えてゆく。頭が下になる苦しい姿勢でヴィクは左コンソールのメインパワー・スイッチをバッテリーからPWRES(:予備動力)に切り替えキャノピィ前方下端を取り囲む様に埋め込まれたMLCD(:多目的液晶カラー・ディスプレイ)に明かりが灯った。OSの起動が終了する所だった。JESスイッチを1に切り替えスロットルの半分をアイドルに進めると左エンジンに火が入った。プレッシャー・ゲージと回転数、タービン温度の変化に注意を払いつつJESスイッチを2に切り替えホームポジションに残ったスロットルの半分をアイドルに押し出すと鋭い音が立ち上がり右エンジンがスタートした。



 液晶ディスプレイに表示されたアングルゲージは80になろうとしていた。足首を吊され頭に血が登る。



「管制塔、NDCーFX00緊急離陸する。高度6万フィート無制限上昇許可を」



 ヴィクは無線で告げながらレーダー・レンジをワイドに切り替えた。テターボロ空港を中心に上空60マイルに機影はなかった。



 AF(:アフター・バーナー)は不要だった。通常推力だけで3600万ポンド(:約16330t)以上のたけり狂う力があった。



 身構えて2本のスロットルを軽く押し出した。



 暴力的な爆轟と振動に包まれ14Gまで耐性のあるヴィクの身体が座席に食い込んだ。光の濁流が飛びす去り3280フィート(:約1000m)の高度で音速の3倍を越えAIオートパイロットが戦闘精霊シルフィのエレベーターとエルロン、推力偏向ノズルを最大限に使い機に巨大なループを上空へ描かせ1回と2分の1ロールで機を立て直した。



────ヴィク、操縦を。



 シルフィードにささやかれ意識を取り戻したヴィクトリア・ウエンズディは高度と方位を確認し機が地上に水平である事を確かめた。上り詰める最高速度に備え右手のサイドスティックをわずかに引くと青い機体は幾つもの残像を引き連れ高空に突き進んだ。











 Mk.36固形燃料が燃焼しきる前、9Gで旋回するAIMー9Xの目前から(ボギィ)が急激に反転した。サステーナーの噴煙をかすめ標的が通り過ぎた直後、近接信管が作動し爆薬が起爆した。弧を描く爆煙を背に向かってくる(ボギィ)がスズメ蜂に見えた。



 トレーシー・ソマーズ中尉(1LT)は一瞬、機を反転させ敵機から逃れようかと考え、ミサイル直前でロールもせずに反転した(ボギィ)の機動を考えた。シャンデルやスライスバック(:180度向きを変える機動)ではなかった。ソマーズは咄嗟とっさにサイドスティックを横に振り連続的なエルロンロールを掛け背面飛行で(ボギィ)とすれ違った。



 交差する瞬間、彼は頭を上げ(ボギィ)をVID(:目視確認)した。主翼が4枚ありいずれも後退翼だった。水平、垂直尾翼もなくくびれた機体は蜂そのものの様な感じがした。メキシコ湾で空軍機を落とした敵も昆虫の様な外観だったと報告が上がっていた。昆虫ならエアインテークも排気口もない。水平、垂直尾翼はあろうはずがなかった。



 (ボギィ)の後方を取ろうと中尉(1LT)はインメルマンターンを掛けロールしながら前方に敵機を探した。交差した直後にも関わらず前面に(ボギィ)が見当たらず、右翼先の700ヤード先で僚機が(ボギィ)2と後方を取ろうと機動戦を展開しているのが見えた。



 ソマーズはヴァイパーを急激に反転させロールを繰り返す僚機と(ボギィ)2に斜めから接敵した。9Gの旋回で遷音速せんおんそく(:部分的に音速)に達した機体が過剰反応を見せピッチングを始める。ヘルメットを着けた頭部に110ポンドの加重が襲いかかり首を痛め続け、それでもバイザーに映る照準楕円を(ボギィ)2に合わせ続けた。



 残ったAIMー9Xを撃ち込めると(ボギィ)2を標的指示の楕円に追い込みTMS(:目標指示スイッチ)を前に押し込みかけた寸前、逆方向からAAM(:対空ミサイル)が弧を描き追い込んで敵機に命中した。爆煙が広がり避けるようにFー15がかすめ飛び僚機が交差した。どこかの州軍がスクランブルを掛けて空域にやって来ていた。



 広がり風に流される爆煙から突如とつじょ(ボギィ)2が突き抜けFー15へと反転すると追い始めた。Fー15が1機で来ているわけがなかった。数で2対1以上の優位に立てた。だがフォックス2(:AIM-9X)にしろ3(:AIM-120C-6)にしろ敵機を空から落とせなかった事になる。もう1撃浴びせればと意識した瞬間、(ボギィ)1に後ろを取られトレーシー・ソマーズ中尉(1LT)はヴァイパーを狂った様にジンギング(:不規則な高機動)させ始めた。












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