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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #11
51/164

Part 11-1 Savage Battle 死闘

Armored Reconnaissance Unit 1st Company 6th Squadron 1st Cavalry Regiment 1st Armored Division Ⅲ Corps Army Commands US.Army Company Training Ground Fort Bliss, TX. 21:21 Jul 13/

Atlantic cruise ship 17:20 Jul 11

7月13日21:21 テキサス州フォート・ブリス アメリカ陸軍 陸軍コマンド第3軍団第1機甲師団第6戦隊第1騎兵連隊第1中隊機甲偵察部隊の演習地/

7月11日17:20 大西洋上の客船





 増援の雷球が20に増して現出した刹那せつなM-8マレーナ・スコルディーアは全員に移動を宣言した。



『緊急! 東南に300ヤード移動! 静かに移動(ムーヴ)!!!』



 武器や装備をつかみ上げ立ち上がった22人と陸軍機甲中隊の生き残りの女性兵は一斉に走り出した。展開し退却しないのは集合体としての防御力の維持が狙いだったが、囲まれる危険性があった。



 走りながらアメリカ陸軍の生存者──エイミー・キングスリーはルナに問うた。



「どうして航空支援(CAS)を用意しなかったんですか!?」



「制空権の確保が保証されてなかったからよ」



 それは真実ではなかった。まさか戦術輸送機から魔法による手段で侵攻してきたとは言えなかった。それにアパッチなどのヘリが落とされている事から怪物らが対空能力を備えている可能性もあった。



 息も切らさず300ヤード走りきりセキュリティは布陣を広げた。



「雷球20拡大!」



 ライフルのスコープ光学照準器(FOV)視野をヘッドギアのフェイスガード下の液晶モニタで見ぬいたレイカ・アズマが宣言した。



「スナイパー各人、攻撃開始」



 M-8マレーナ・スコルディーアが命じた直後最初にトリガーを絞ったのはレイカだった。遅れてデヴィッド・ムーア、ジャック・グリーショック、コーリーン・ジョイント、アニー・クロウらがレーザー・ビーム・ライフルを発砲し始めた。ジャベリンをになったもの達の射撃は遅れた。最初の数体は12体を倒した様にあっさりと倒す事ができた。だが7体を倒した時点で変化が起きた。











 12体目が倒される直前それ(・・)は、増援の要請を発し同時に現状のデータを共有した。即座に20のそれぞれ(・・・・)が現界した。原住民(アルケティトス)の使う強勢仕掛け(サスペンデシギミック)の原理がわかりかけた。



 高エネルギー単一波長の電磁波(コヒーレント光)を破壊に使っていた。



 רטט פגז

(:外皮振動)



 それぞれ(・・・・)外殻がいかくを構成する微細構成要素を振動させ表面を極限まで滑らかに変化させた。それぞれ(・・・・)の表皮が反射率コンマ6ー9に達すると襲いかかった電磁波(コヒーレント光)を蹴散らした。布陣しているそれぞれ(・・・・)の受けた電磁波(コヒーレント光)の発射地点を測方した。サウティーストゥ500アールマの距離しか離れていなかった。



 原住民(アルケティトス)は防御率も低くゆえに遠中距離の強勢仕掛け(サスペンデシギミック)を多用する。したがって距離を縮めれば戦況は優位に展開する。



 קרב מטווח קרוב

(:近距離戦闘)



 一体が思念した一閃いっせん13体がそれを共有し、攻撃を受けてない9体がそこへ向け一斉に跳躍ちょうやくした。大地を離れ風をなびかせ夜空に飛び上がると原住民(アルケティトス)の陣営に降下に入った。











「まずい! レーザーに耐性をもたれた!」



 ヘッドギアのフェイスガードに埋め込まれたマイクに告げレイカ・アズマはレーザー・ライフルのエネルギー・ケーブルを小型原子炉パックから引き抜いて立ち上がった。



 2秒。2秒しか猶予はなかった。



「全員退避!!!」



 状況を理解しているのはレイカと指揮するM-8マレーナ・スコルディーアだけだった。自動人形(オートマタ)が陣営の全員に無線で報せた直後、陣地の前面に9体の怪物らが飛び下りてきて同時にルナが叫んだ。



「下がりなさい!!!」



 間合いを取った一方的な戦術があっさりとくつがえされた。星明かりのわずかなシルエットが数十ヤード先に乱立する。ヒューマンを真似、2つの足で立ち、2つの腕を持つ。ただ大きく違うのはその腕にさそりごとはさみを持つ醜悪な造形。



 闇の中での近接戦闘(CQB)など存外だった。格闘を避けられぬと悟った瞬間、シルフィー・リッツアは光の魔法を高速(ファースト・)詠唱(チャンティング)しきった。



"Leggja til pöntun byggt á eið með mér,Morgunstjarnan sem lýsir kolsvartan, dekkri en myrkrið.Bylta svarta heiminum með flæði hvíts ljóss.Sólin Sprakk Áberandi!!!"

(:我、盟約に基づき解き放つ。黒より黒く闇より暗き漆黒を照らす明けの明星。白光の流出をもって、黒き世界を覆さん。サン・バースト・プロミネンス!)



 数千の閃光手榴弾を同時に起爆させた輝きが陣形の頭上30フィートに出現し拡散する真っ白な輝きで全員を包んだ。



 ルナらスターズのセキュリティは自分達を狩ろうとしている獣らの姿を初めて目の当たりにした。



 表皮は滑らかな曲線を持ったカーボンファイバーのごとき艶のないもので腕の先には太腿ふとももよりも太いはさみが左右にあり、ひじの先には鋭利な棘が突き出ている。顔はなく目鼻も無い滑らかな額に一角が伸びていた。その造形だけでなく脅威をもたらしているのはその身長差だった。大柄なハイエルフが子供に思えるほど上背があった。



 その9体に立ちはだかったのはシルフィー・リッツアとレイカ・アズマ、自動人形(オートマタ)の3人。それを見つめて動けないでいるルナら数名にM-8マレーナ・スコルディーアが叫んだ。



「走れ! 逃げて!!!」



 その叫び声がゴングになった。刹那せつなハイエルフが両手から緑色のネオン光を放つむちを振り出し、レイカがレーザー・ライフルを頭上で回転させ金属ソケットの付いたパワー・ケーブルを振り回した。マースがゴスロリのスカートを叩きワイヤーの付いたサヴァイヴァル・ナイフがスカートの中から足元に吊り下がるとワイヤーに両手の指を絡ませた。



 異形の怪物との白兵戦ディフェ(DCC)ンスに勝てる見込みなどなかった。だが3人それぞれが3体の化け物を迎えうった。



 火蓋を切ったのは同時だった。



 シルフィー・リッツアが振り回した先鞭せんべんうなりを上げ加速すると波が集束し突っ込んで来る3体の1つの怪物の片膝かたひざかすり巻きつき足がれ1体が砂塵を巻き上げ倒れた。だが他の2体ははさみでむちを弾き飛ばした。シルフィーは両腕を急激に引き加速させ前に突き出した。2条の緑光る波が進み出た2体の怪物の右腕と左腕を肩から引き千切った。それでも残った腕のはさみを振りかぶり怪物らは素早く踏み出してきた。



 目前にまで迫ってきた右の化け物が開いたはさみでシルフィー・リッツアの顔を狙い、左から回り込んできた異界の怪物が開いたはさみでエルフの左肩を狙い腕を振り回してきた。



 咄嗟とっさにハイエルフはバク転し地面に着いた片手をひねり斜め後ろに跳びす去りその残像に2つのはさみが空を切った。その横でレイカがレーザー・ライフルを振り回しパワー・ケーブルのコネクタが2つのはさみをかすり2体の怪物らの顔をたたいた。



 った2体の怪物の横で踏み込んだレイカ・アズマが振り出したレーザー・ライフルのバレルが1体の怪物の頭部を打撃しひるませた。その1体をかわし別の2体が踏みだしてくる。レイカは両脚を大きく開き腰を下げ上半身をらして襲ってきたはさみを目鼻先ぎりぎりでかわすとライフルを胸の上で振り回した。そのケーブルが詰め寄ろうとした怪物の4脚に巻きつき横様に2体を倒した。



 その怪物2体を飛び越えたM-8がゴスロリのフリルのスカートをなびかせ前方に空転し黒のパンプスが地面を捉えた瞬間、2本のワイヤーを引き回した。うなりを上げ加速した2振りのサヴァイヴァル・ナイフが2体の怪物の顔面に命中しその2体が両膝りょうひざを地面に落とした。その真横でシルフィーの放った光るむちが別の怪物の首に巻きつき乾いた音を放ち1角の突き出た頭部を斬首ざんしゅした。真横ではレイカがバレルの曲がったレーザー・ライフルを投げ捨て腰から両腕を素早く振り出すと左右の手から特殊警棒が甲高い音を上げ数段延びた。



 日本人のスナイパーは眼にとまらぬ高速で左右の腕を交互に振り回し走り込み同時に前方にいた2体の怪物の鳩尾みぞおちに特殊警棒の先端を突き立て刹那せつなコアを損傷した2体はひざを落とし前のめりに倒れた。



 その背を飛び越えて自動人形(オートマタ)の振り回すワイヤーを追いサヴァイヴァル・ナイフが残像を引き連れ空を切った。その切っ先が一瞬で、立ち上がりかけた怪物とシルフィーに跳びかかろうとする怪物の側頭部に突き立った。



 レイカが間合いを取り下がった左右にハイエルフとM-8が並んだ。



「見て! 再生してるわ!」



「むかつく」



 レイカに言われシルフィーが悪態を吐き捨てた。



 首を落とされた怪物の胸部が波打ち紫にも見える微細なしわが枝の様に伸び絡み首から上を形作り始めていた。同じ様に別の1体もひざから下を再生しかかっていた。だがレイカが鳩尾みぞおちに打撃を与えた2体はうつ伏せに倒れたまま変化を見せなかった。



 7体の怪物らがシルフィーらに向かって進み出た瞬間、レイカ・アズマが宣言した。



"There is a vital point in the abdomen.Take Two! "

(:腹部が弱点! やるわよ!)



 ハイエルフとレイカ、自動人形(オートマタ)がそれぞれの武器を振り回し足を踏みだした。



 真っ先に飛びだしたのは小柄なマースだった。いきなり前方へ空転すると着地した瞬間前方へ凄まじい速さで両腕を振り出した。ワイヤーに引っ張られ空中に浮き上がっていた2振りのサヴァイヴァル・ナイフが空を切りうなりを上げ2体の怪物の腹部に突き立った。残った5体がマースに襲いかかろうと左右から迫った一閃いっせん、ハイエルフの光るむちが2体の胴に巻きつき上下に両断し、怪物2体の腹部にレイカの特殊警棒が突き立った。残る1体が踏み出し片腕を突き出しはさみでレイカの顔をはさもうとした刹那せつな、腹部から手刀が突き出した。片腕をマレーナ・スコルディーアが引き抜くと怪物の最後の1体がひざを落とした。



「こいつの胴体、臓器や筋肉の感触がない。まるでタールに腕を突っ込んだみたい」



 マースが手応えをぼやくとハイエルフが周囲を見回して頭上の魔法の輝きを消すと応えた。



「飛び抜けた再生能力を持ってる時点で既存の生命ではないだろう」



「終わったの?」



 大声で問われマースとレイカが振り向くと30ヤード先に4人のセキュリティとルナがいた。



「状況終了よルナ」



「そいつら死んでいるの?」



「まあ生き物だったら死んでるな」



 ハイエルフに言われルナは無線でもっと遠くに逃げ出したセキュリティに命じた。



「全員、戻って来なさい。怪物は無害化した」



 歩き寄ってきたルナが倒れた怪物を見つめシルフィーに問うた。



「シルフィー、この怪物らは貴女あなたの異界から来たの?」



「いいや。こいつら見たこともない」



 倒された9体を取り囲んで見下ろすセキュリティらの背後に何の前触れもなく残っていた4体の化け物らが空を切り下り立った。瞬時にM-8がその両手で2体の怪物の腹部をつらぬき、ポーラ・ケースがFN SCARーHで1体の胸を連射で撃ち抜き、セシリー・ワイルドが引き抜いたサヴァイヴァル・ナイフで胸をつらぬいた。4体が倒れたのと同時にシルフィーがポーラとセシリーが倒した2体の腹部を緑光るむちで両断した。



「こいつら腹部に急所がある」



 ハイエルフが告げるとレイカが否定した。



「過信するな。レーザーに耐性を持ち、頭部まで蘇生する連中だ」



「持ち帰り調べれば──」



 ルナがそう言っている最中さなか、いきなり倒れた13体のむくろくずれ始めた。



「ああ、どうして────」



 ルナが嘆くとシルフィー・リッツアが教えた。



「敵に塩を贈らないつもりだ」



「助かったんですか?」



 陸軍のエイミー・キングスリーが呪いから解かれたとでもいうように誰にともなく問いかけるとハイエルフが応えた。



「お嬢さん、悪夢から目覚める時だ」



 だが衛星からの観測画像を見ていたM-8マレーナ・スコルディーアが恐ろしい事を言い始めた。





「逃げた方がいい」







「雷球が20体現出」







 西へみなが振り向くと暗闇に青白い輝きが浮かび上がっていた。











 客船のトップ甲板(デッキ)で途方にくれるこの世界のマリア・ガーランドらに離れて明日からやってきたマリーがいわれもなき不安に浮かない顔をしていた。



「どうした。クラーラ・ヴァルタリを逃がした事を後悔しているのか」



 この世界のマリーが未来からきたというマリア・ガーランドに問いかけた。



「そうでもないわ。私の世界ではクラーラとの接点はなかったから」



 胸騒ぎの理由はそうではないと未来のマリーは思った。もしかしたらクラーラが渡米して問題を引き起こすのかと考えた。この不安には覚えがあった。配下のセキュリティが窮地に立たされた時に限って感じるものだった。



「良くない事が起きる──そう感じるのよ」



「クラーラのあの体力は尋常じゃない。何かあるとすれば奴が絡んでくるんじゃないのか」



 手すりにもたれこの世界のマリア・ガーランドがたずねた。



 問われたマリーは鼻で笑った。



「ハン。そんな尋常じゃないものを感じるのよ」



 この時まだマリーは時間や距離に捕らわれず感覚が超越する事を知らなかった。



「何を感じているの?」





数多あまたの軍勢──ゲラセンの悪魔」





 つぶやくように答えた瞬時、時の回廊の門をマリア・ガーランドはみずからの力で押し開けた。












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