Part 10-3 Relative Combat Power 相対戦闘力
Hummingbird 2 over Illinois 22:15 Jul 13/
Armored Reconnaissance Unit 1st Company 6th Squadron 1st Cavalry Regiment 1st Armored Division Ⅲ Corps Army Commands US.Army Company Training Ground Fort Bliss, TX. 21:08
7月13日22:15イリノイ州上空ハミングバード2/
21:08 テキサス州フォート・ブリス アメリカ陸軍 陸軍コマンド第3軍団第1機甲師団第6戦隊第1騎兵連隊第1中隊機甲偵察部隊の演習地
戦術攻撃輸送機ハミングバード2のカーゴルームランプゲート前に出現した黒い霧の中央に開いた三重の黒い魔法陣が広がり異空間ゲートを前にしてシルフィー・リッツアは両の腕を振り向けていた。
「移動しながら異次元の通路──理の道を開くのは初めてだ。どれくらい保つか解らないから早くしてくれ」
輸送機の巨体を通過させる事は出来なくとも武装した兵士ならカーゴルームからでも異空間通路を利用できるとルナが言い出したのが始まりだった。
リアルタイムで戦地へ兵士を送り込めたら事案鎮静化できるのではと彼女が思いつくのに時間がかかったのは攻撃輸送機であるハミングバード2の対地上攻撃能力にこだわっていたからだった。
地上兵力である装備を十分に持ち込めるなら魔法の力を使うのも厭わない。
「通路は10ヤードほどで現地へ抜ける。即応体制で移動!」
かさばるジャベリン対戦車ミサイルやハイパワー・ビームライフルのエネルギー供給炉を手分けして持ち、十分な弾薬をアリスパックで背負いFN SCARーHを片手に布陣する。
駆け足で22名のセキュリティ達が理の道へ駆け込むと最後にM-8マレーナ・スコルディーアとルナ、シルフィー・リッツアが入り甲高い音を発して三重の黒い魔法陣が霧散すると黒い霧が吸い込まれる様に口が閉じられた。
三重の黒い魔法陣が広がり通路が開くと25名のスターズ中隊が暗がりの荒れ地に下り立つ。
「──ダイヤ隊形展開!」
ルナが無線通信で命じると菱形陣形で隊員が展開し警戒態勢を取った。
東 麗香はパワーサプライにハイパワー・ビームライフルをケーブルで繋ぐとライフルのスコープの画像をヘッドギアへリンクさせた。
大破した車列のシルエットを流し見して、異体の生命体を探った。その直後、M1A2C/SEPV3エイブラムスに馬乗りになった1体の怪物を見つけ出した。
『1時方向400ヤード、エイブラムス上2体認知』
続いて2名のマーガレット・パーシングとデイビッド・モーアもビームライフルのスコープで怪物を見つけ出した。
『3時方位570ヤード3体、横転した車輌脇に確認』
『11時方向510ヤード2体、エイブラムス上──確認』
「索敵継続」
北側の東西に即座に自動人形は怪物の容姿と数を掌握するため指示をだし、自身は上空を通過するNDCの観測衛星の赤外線カムを使い怪物らをマークした。
事前情報では既存の生物の姿にない容姿のはずだった。だが高精細暗視照準器の画像は極めて人に近いもので判別はその鋏み状の両腕だった。
即座にマースは衛星画像でさらに5体の異体生命体を見つけ出した。
「ルナ、全部で12体の敵を確認した」
12体!? そんなにとルナは危機感を抱いた。陸軍機甲中隊が全損した理由として数は想定内のはずだった。魔界からの来訪者なら人の英智を越えたニューヨークの惨劇がその十数倍に膨れ上がり襲い来る。その不安が言葉をついた。
「マース、用心深くやりなさい」
「了解」
3人のスナイパーと9人の対戦車ミサイル・ハンドラーが照準するのを自動人形は辛抱強く待った。
砲弾射出の爆轟と振動に抗いエイミー・キングスリー曹長は車長用ハッチを開き急いで外に出ると車輌前部の傾斜に滑り降りてそのまま車体前部の地面に足をつくと車列から離れるように駆けだした。40ヤード走りきる前に背後に何か落ちてきた音にエイミーは足を止めうつ伏せになり気配を探った。間をあけて戦車の装甲に何かが当たる音が聞こえ怪物が来たのだと曹長は気づいた。
エイミーは手のひらを動かし身体の周囲の砂を戦闘服にかけ少しでも身を隠そうとした。
ほんの目鼻先に怪物がいる。
気配をけさないと見つかってしまう。息を殺せ。死体になりきれ。
背後から4つ足の不規則な足音が近づいていた。死体になれと言い含めているのに心臓が高鳴った。気がつかれる。いいやもう気づかれている。
立ち上がり駆け出したい欲求に鷲掴まれた。
息を止め心臓を押さえ込もうとした。その足掻きさえ感づかれる恐れさえ気づかれる。
気づかれる────!!!
顔の真横に鉤爪の足が下ろされた。
指1つ動かせば見つかってしまうという危機感に金縛りになった。
エイミー・キングスリー曹長は息を止め傍にいる怪物に気づかれまいと堪えた。
傍らにある足に気配に悟られる。
微かでも息をした瞬間に怪物は気づきその鋏みでまた自由を奪われる。身を起こして駆けだしてもその動きの速さの差で一瞬で捕まってしまう。
ならと僅かずつ腕をずらし腰ベルトに下げた手榴弾へと指をかけた。投げ上げても破砕片を自分も浴びて命を落とすだろう。なら一方的に蹂躙されるよりも共倒れを選ぼう。
一気に仰向けになったエイミー・キングスリー曹長は引き抜いた手榴弾を投げ上げようとして固まってしまった。
蠍でなく人のシルエットをした怪物の胸から首、頭部に火花が走り斜めに切れ落ちてきた上半身が手榴弾を握りしめた腕に被さり曹長は慌てふためいた。
それでも立っている黒いシルエットの残された左肩からわき腹へ火花が走り左腕も切れ落ちた。
誰かが攻撃している!?
困惑に代わり確信にいたると、エイミー・キングスリーは被っていた砂を弾き飛ばし、友軍のいる場所を探そうと身を起こした。その直後、南へ400ヤード離れた場所から10発近い数のミサイルが火焔を吹き出し戦車とハンヴィの残骸残る車列目掛け飛翔するのが見えた。
直後、味方に向かってエイブラムスの操縦士である曹長は駆けだした。
油断という言葉はない。
十分にそれぞれは警戒していた。原住民は脆弱だがそれなりに攻撃力を持っている。原住民を模倣した躯は構成微細要素が減り原住民の攻撃力には脆弱になる。それを踏まえ警戒はしていた。
だが同時に3体のそれらの共有が不能に陥った。
用いられた強勢仕掛けの詳細もわからず残り9体のそれらは警戒強度を引き上げた。そこへ一斉に飛翔する原住民の強勢仕掛けが襲いかかった。残り9体の内7体が躱す事もできずにコアを破壊され残された2体が不明な強勢仕掛け手段で破壊された。その破壊の手段情報だけ中継者へ引き継ぎ次手を任せると新たなそれぞれに目的を引き継いだ。
破壊した原住民の移動仕掛けの周囲に分散して青紫の雷球が出現するとその消滅した雷球の中から12体の次手が現界すると雷球は消滅した。
目的は原住民の攻撃手段の特定と破壊だった。
大地に立ったそれらは直前に倒された仲間を攻撃したものを目指し一斉に跳躍した。
星空の下、一気に風の唸りを引き連れてジャンプしたそれらはほぼ同じ場所に下り立った。
「移動を急げ! 走れ! 走れ!」
狙撃とジャベリン対戦車ミサイル攻撃を行ったスターズ中隊のセキュリティは装備を手に南へ200ヤードを目指し一斉に駆けだした。
少しでも早く移動する事で次の攻撃手段を構築する余裕をつかむ。
息も荒く30秒台で走り抜いたセキュリティはハイパワー・ビームライフルを構え次のジャベリン対戦車ミサイルを用意した。
「第1攻撃地点に10数体の敵」
衛星画像とライフルのスコープ画像をモニタリングするマースはルナにそう報告した。だが狭い場所に乱立する敵を重複せずに攻撃し倒すのは困難を極める。
「ハイパワー・ビームライフルのパルスモードのみで打撃を与える」
マースがそう命じるのを耳にしてルナは妥当だと思った。ビームライフルなら射撃地点を気取らる事が少ない。敵が怪物であろうとレーザー警報装置を装備しているわけがなかった。
「任意に標的を決め射撃。他のものは近接警戒!」
自動人形が命じた直後、3人のスナイパーがフッ化水素レーザー・ライフルのトリガーを引き絞った。Qスイッチパルスの増強された3.8μm帯域のコヒーレント光が唸りも上げずに人の形を模した怪物を次々にヒットしてゆく。
第2波の攻撃に謎の怪物らは混乱した。
右往左往する化け物の様子を暗視装備を兼ねるヘッドギアで観察していると第1セル・ガンファイター──ポーラ・ケースが押し殺した声を上げFN SCARーHを振り向けた。
「動くな!」
「助けて下さい」
やり取りに気づいて数人がバトルライフルを振り向けた。
「どうしてこんな場所をうろついている!?」
「アメリカ陸軍コマンド第3軍団第1機甲師団第6戦隊第1騎兵連隊第1中隊のエイミー・キングスリー曹長です。怪物に襲われて中隊で唯一生き残ったんです」
それを聞いてルナが応えた。
「陣形に入りなさい。我々はNDC民間軍事企業のものです。怪物を掃討にきました」
ルナの命令にバトルライフルを向けていた数人が照準を外し曹長を迎え入れた。
「無理です。3体倒すと別の3体が現れ、それらを倒すと10数体に膨れ上がって────」
「倒した? どうやって?」
「対戦車ミサイルや戦車砲弾で」
「聞いたかマース! ジャベリン残弾は?」
「7発です」
「足らない。それじゃあ足らない」
エイミー曹長にそう言われルナが説明した。
「先の12体は全滅させた。今、敵対してるのは後続の12体だ。あの怪物らはどこから現れている?」
「わかりません。倒すと雷球が産み落とすんです。元は蠍の化け物でしたが、今は両腕が鋏みの人の形をした化け物になりました」
「残弾は心配いらないわ。我々にはレーザー・ライフルがあるから」
ルナがそう説明すると自動人形が報告した。
「ルナ、最後の1体を駆除」
「雷球が次の照準点だ──」
ルナがそう指示するとM-8マレーナが付け足した。
「11時方向雷球8、13時方向雷球4。共に300ヤード、スナイパー隊左翼を照準!」
12を倒しての12。ルナは不安になった。12体補充出来るならさらに12体増やせもするだろう。スナイパー4人ではじきに追いつかなくなる。
「撃つな。距離を取る。200ヤード後退」
「立ち上がれお嬢さん達! 静かに移動! 移動だ!」
M-8マレーナ・スコルディーアの復誦した命令にスターズ中隊全員はさらに南へ200ヤード駆けだした。
戦闘力には8つの要素がある。
火力、戦闘力維持、機動、防護、作戦情報、作戦指示、リーダーシップ、インフォメーション。それら戦闘力を最も効果的に発揮する部隊編成がコンバインド・アームズと云われる。今日の編成は独立した師団司令部に複数のコンバインド・アームズ(旅団戦闘チーム)を編成投入し状況に応じた任務をこなす。
それらの戦闘力概念は大きく異なっていた。全体と個体の差別がないためリーダーシップとインフォメーション概念はなく作戦情報に対する作戦指示は個という全体で行う。一瞬の情報伝達による情報共有。最小の機動による最小の火力がもっとも効果的に戦闘力を発揮する。
それぞれが個にして全体。1匹の獣の様に振る舞うそれらは自らの躰を撃ち抜く武装の判別はつかなくとも、集合隊の一部分の個が殺られている方角が、原住民の強勢仕掛けを有する部隊の方向を示していた。
その向きに1体のそれが跳躍した。
着地した場所には何もなくその1体のそれはさらに跳んだ。
それをスコープで見ていたコーリーン・ジョイントは後を追いながら自動人形に報告した。
「連中、索敵してます。1匹が10時方向へ」
あれらの左翼を集中攻撃した効果があったと自動人形は想定した。
「敵本隊を集中して攻撃! 一気に畳みかける!」
マースの命令に3人のスナイパーにもう1人のスナイパーが加わり一気に残り6体となった怪物らを叩いた。
その様をヘッドギアの暗視装備で見ていたルナは呟いた。
「脆い。こんな連中に陸軍機甲中隊が負けたというのか?」
「ルナ、敵対したのが戦車より小さく機敏だったための敗因でしょう」
ロバート・バン・ローレンツがそう説明してもルナの胸騒ぎは治まらなかった。まだ正面切っての戦いになってはいない。戦闘の一手段──不意打ちの有利さが勝ちを引き寄せてはいたがそんなもの簡単に裏返ってしまうのが戦場だった。
まだ敵の火力を見てなかった。
異界の化け物であっても魔法など使わなければ遠距離攻撃はできないはず。その間合い1つでスタンスが変わる。
だが火力を見せないのは本当にこちらの姿を見つけていないということ。ルナは機甲師団の生存者に尋ねた。
「エイミー、怪物らの武器は見たの?」
「対戦車ヘリや戦車を破壊するのに光る鞭を使っていました」
「光る鞭?」
ルナは興味を抱いた。シルフィー・リッツアも同じ様な武器を持っている。その仕組みは魔法によるものだとハイエルフから説明を受けていた。
「ルナ、12体殲滅。移動しますか?」
マースに問われルナは思案し、結局用心深い対応を取る事にした。
「9時方向300ヤードに新しく陣地を構築」
M-8マレーナの復誦する号令でセキュリティ全員が移動し始めた寸秒、殲滅した辺りに雷球が予測よりも多量の20以上出現した。