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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #10
47/164

Part 10-2 Suicidal ideation 自殺願望

Private Military Company-Black Swan HQ. Military Road NW 2701 Washington, DC, Jul 14/

NBC HQ. Comcast Bld. Midtown Manhattan NYC., NY. 13:54 Jul 12/

NDC HQ.-Bld. Chelsea Manhattan NYC, NY. 13:01 Jul 7

7月14日ワシントンDCミリタリー・ロードNW2701民間軍事企業ブラック・スワン社本社

7月12日13:54ニューヨーク州ニューヨーク市マンハッタン・ミッドタウン ロックフェラー・センタービルNBC本社

7月7日13:01ニューヨーク州マンハッタン チェルシーNDC本社





 NBC人気女性キャスターのシャロン・ベンサムは前回の取材の時、民間軍事企(PMC)業とはこの様なものだとの思い込みがあった。



 だからブラック・スワンの本社が小ぢんまりとした建物でも何の違和感もなかった。実際、普通の住宅5、6軒ほどの建物だった。タクシーから下りてすぐの正面玄関を開くと見覚えのある1人の事務員兼受付が顔を上げた。



「こんにちは。いらっしゃいませ」



「11時にケヴィン・サイクス様にアポを取っていたNBCキャスターのシャロン・ベンサムです」



「少々お待ちくださいませ」



 事務員はそう告げキーテレフォンを操作して連絡を入れた。



「社長、NBCのシャロン・ベンサム様がお見えになっております──はい、承知いたしました」



 受話器を置くと事務員は立ち上がりカウンターの横を回り込んできた。



「どうぞこちらへ」



 カウンター横のドアから中へ入ると短い通路を通り奥の扉をノックして事務員が待った。



「どうぞ」



 そう中から声が聞こえて事務員がドアを開いた。



 社長室は2年前と代わり映えしなかった。



「ようこそ」



「お久しぶりですケヴィン・サイクスさん」



 シャロン・ベンサムが室内に入り挨拶すると事務員は扉を閉じて出て行った。



「取材の時はどうもありがとうございました」



「とんでもない。民間軍事企(PMC)業というと誤解を招かれてしまう部分もあるのでご紹介くださり助かりました」



「どうぞお掛けになって下さい」



 執務デスクから回り込んだケヴィンはソファへと手を振った。



「また取材のお申し込みですか」



 ソファに腰を下ろしたシャロンは目的を切りだした。



「いえ、本日は仕事の依頼をと」



「NBCがですか? どこかの紛争地での取材警護などでしょうか」



 ここまでは何ともないとシャロンは思った。



「いえ、個人的な依頼です」



「荒事という事なんですね」



 ケヴィン・サイクスという男は話し易いとシャロンは感じた。



「ええ、個人的怨恨(えんこん)を晴らしたくお願いにまいりました」



「ほう? 人気あるキャスターの貴女あなたがその様な事を。ですが我々はギャングスタではないのですよ。お話だけはうかがえますが」



 やはり非合法だと拒絶するかとシャロンは奥歯を噛み締めた。民間軍事企(PMC)業といえば危ない橋を渡るのもいとわないというイメージがあったが思い違いだったのだ。



「相手はマリア・ガーランド。NDCの社長です。ですがこのわたくしを標的にして頂きたいのです」



 社長の顔色を見ながらシャロンは最低限の話をした。



「NDC──か。商売敵しょうばいがたきだな。その社長に何かのうらみがあるのですか」



「何の努力もなく巨大企業のおさについたマリア・ガーランドという人物が目障りなだけです」



 途端にケヴィン・サイクスは笑い声を上げて謝った。



「いやぁ失礼。MGが目障りなだけでどうして貴女あなたを殺してしまうなど理解出来かねます」



「そうですね。誰でもどこでうらみ買うかわからない時勢です。あの女社長にインタヴュアー1人を護りきれない事を思い知らさせるのです」



 などと軽い話に見せかけようとするシャロンの魂胆を見透かす様にケヴィンは指摘した。



「ひと1人殺す意味がおわかりですか?」



 そんな事十分に理解してるとシャロンは思った。



わたくしの息の根を止めるだけです」



 その意気込みにケヴィン・サイクスはしばらく黙り込んだ。



「──シャロン、法的な話は抜きにして、ねたみで殺し出したらきりがないでしょうに」



「あらねたみじゃないです。高々1社長がマスメディアにちやほやされて目障りなんですよ。なんですかあの就任記者会見。テロリストに喧嘩を売ったせいでニューヨークのテロ被害が上がったんですよ」



 ケヴィン・サイクスは話を聞きながらまるで違う事を考えていた。マリア・ガーランドが創設した事になっている民間軍事企(PMC)業は人員機材規模で世界でも有数の民兵機関になっていた。そのガードの堅いトップであるマリア・ガーランドが居る場でこのキャスターに手を出す困難さ。



「仮に受けるとしてマリア・ガーランドには手練てだれのガードがついているでしょう。それを乗り越えて貴女あなたを暗殺するには相応に報酬も高くつきます」



 すかさずシャロンはバッグから厚いマニラ封筒を取りだした。



「16万ドル用意しました。それとあの社長の警固の心配は不要です。無防備な状況を局の方で用意します」



 ケヴィンはキャスターの用意してきた現金よりも無防備な状況を局の方で用意という文言もんごんが気になったので尋ねた。



「どうやってマリア・ガーランドのボディガードをない状況にするんですか」







「あの社長の取材インタビューという無防備な状況でわたくしを殺して下さい」







 取材中の暗殺。カメラに撮られている時に狙う事になる。まあ、実行すれば目だし帽(バラクラバ)を着用してるので取り押さえられない限りはテロリストか犯罪者の所行になってしまうし数人規模の実行者で事足りる。ケヴィン・サイクスは腕組みして思案した。



「それでは他の収録者に危険がおよぶ」



「構いません。インタビューするのは私ですし、暗殺し易い様にマリア・ガーランドを無抵抗な状態にします」



 報酬から使用できる人員は中堅のセキュリティ5名までだとブラック・スワンの社長は思った。法に触れる事は国外で散々やっていたし数えるほどだが国内でもやっていた。問題はカメラが回っている事だったが顔をさらさなければいいと念押ししケヴィン・サイクスは自殺願望のキャスターに問うた。





「もう少し具体的な事を──」











 ヴァレンタイン・カニンガムはクリフトン・スローンから盗んだファイルの使い道を数日間あぐねいていた。



 10代の頃のマリア・ガーランドが大量虐殺を行う戦闘記録。



 これはとんでもなくヤバく──だが、価値ある情報だった。



 いいや。



 これがマリア・ガーランドのものとは限らないではないか。だがクリフトン・スローンに親しいものらにそれとなく尋ねたところ、彼が企画しているのはあの巨大企業の社長のインタビューだった。それを期を同じくしてのこの動画ファイルの存在。



 ヴァレンタイン・カニンガムは経験からくるかんでクリフトンがこのファイルを使うつもりだと感じた。



 ではクリフトンの目的はなんだ?



 マリア・ガーランドを追い込めば相当な視聴率を稼ぐことができる。それだけだろうか。業界の誰もが望むのは企画した番組で圧倒的な視聴率を得ることだ。それ以外のことは2つも3つも後に追いやり飛びつく。わきまえを追いやり汚いことも辞さない制作者魂を持つものいるが、不法行為すれすれの材料を使う合法性を弁護士に確かめているはずだった。



 ならNBCお抱えの弁護士カーティス・プレスコットやオスニエル・アイヴズには確認を入れられない事になる。



 だが企画を進行させているからには法的ネックは確認済みのはずだった。



 これを自分のワイドショーで取り上げてみるか。



 クリフトン・スローンは青くなるぞ。



 ヴァレンタイン・カニンガムは配下のディレクターに話を持ちかけてみようとビジネスフォンの内線ボタンを押し込んでヴァレンタイン・プロデュースのデスクを呼びだした。



『はいVPD』



「クレイグを呼んでくれ」



 10秒ほど待たされ後輩のディレクターが出た。



『何ですかヴァン』



「ちょっと来てくれるか」



 呼びつけて3分ほどしてクレイグ・ギネスがヴァレンタインの部屋にやって来た。



「何でしょう?」



「いいか、今から見せるものを口外するなよ」



 そう告げてヴァレンタインはノートパソコンのファイル再生操作をしてクレイグの方へ振り向けた。最初は興味なさげに見つめていたクレイグだったが、すぐに理解して食い入る様に見つめ始めた。



「ヴァン、これって衛星録画ですか? り殺して回っているブロンドショートカットの子ども、いや、小柄な大人、何百人も────」



「誰だか知ったらおどろくぞ」



 クレイグは生唾呑み込んで顔を上げた。



「マリア・ガーランド──NDC社長だ」



「はぁ!?」



 クレイグはあごを落とした。



「シンデレラですか?」



 そういう通り名があったとヴァレンタイン・カニンガムは思い返した。



「とんだ奴だと言ったら言い返されるかもしれないが、あの女やっぱり何かあるとにらんでいたんだ」



「これ使うんですか?」



「ああ、クリフトンがこれを使ってあの社長を揺さぶるつもりだ。うちのワイドショーで先手打てないか?」



 問われクレイグは言葉に詰まった。クリフトン・スローンといえば看板プロデューサーで怒りを買えばNBCに居られなくなる。その足元をすくおうというのだ。



「ヴァン、まずいですよ。クリフの企画をひっくり返したら揉めますよ」



「臆病風に吹かれるな。視聴率で記録作ったら役員達も抱き込める」



 焚きつける上司に首を振って見せる事も難しくクレイグ・ギネスは猫なで声で様子をうかがった。



「いやぁ、難しいです。荷が重すぎですよ」



「俺が仕切ってもいいんだぞ」



 逃げを打とうにも上司の絡み口調にクレイグは困惑してしまった。



「ヴァン、私には手に負えない。辞退させて下さい」



「そうか。仕方ないな。それじゃあ俺が仕切るか。だが口外しないでくれ。やりにくくなる」



 そう告げヴァレンタイン・カニンガムはノートパソコンを閉じた。



「企画会議を開くんでディレクターらを集めてくれ」



 クレイグ・ギネスが出て行くとヴァンは椅子にふんぞり返って考えた。動画ファイルを誰に見せるかは難しいところだったが見せない事には話が進まないだろう。制作サイドのかなめには見せた方が良いのはわかっていた。だが誰がクリフトン・スローンに密告するかわかったものでもなかった。あのNDCの女社長がショックを受ける動画があるという事で企画を進行させ収録ギリギリでスタッフに動画を見せる事にした。



 あとは出たとこ勝負だとヴァレンタイン・カニンガムが腹を据えた。











 NDC本社の広報室課長(GM)マイルズ・キンバリーは部下のクラーラ・ギャレットから上がってきたNBCによるマリア・ガーランドのインタビューの懸案に眼を通した。



 NBCのプロデューサー──クリフトン・スローンによるインタビュー企画は通り人気キャスターの一辺倒の差し障りのないインタビューとMGの生い立ちや社長就任後の仕事ぶりを視聴者に届けるものとして、不都合な点は見あたらなかった。



 インタビューのNBCの日程はライブ配信が14日の19:00に予定が組まれていたが変更になる場合もあるとの事だった。だが事前連絡があり日程的にも不都合はなくインタビュー内容はあらかじめNBC側から知らされるとの事であり、これも問題にはならなそうだったのでマイルズは了承した。



「クラーラ、インタビュー内容がわかったら社長に見せる前に眼を通させてくれるか」



かしこまりましたマイルズさん」



「それとインタビュー当日の社長の着衣は君が確認し問題ないと判断したらそれで構わない」



「はい、ありがとうございます。課長(GM)、インタビュー当日の着衣は就任式の時のネイヴィー・ブルーのスーツに致します」



 マイルズ・キンバリーはうなづいてインタビュー企画の書類にサインした。



「それと社長からの意向がある場合の対応は?」



「NBC側にその旨伝えますが収録に問題ないとの許諾きょだくを取りつけます」



「うむ。3大ネットワークだからと言いなりではダメだからな」



 マイルズはNBCに渡される予定のマリア・ガーランドの履歴表に眼を通しながらクラーラに指示した。



「ハイスクール時代のエピソードを添えておきなさい」



「はいマイルズさん。他にありませんでしたら、履歴表のお目通しを社長にお願いしてまいります」



 そう告げクラーラは履歴表をフォルダーに挟み席を立った。そうして社長室のある上階のフロアーへエレベーターで上がると目的の部屋を目指した。



 社長室の扉の前に立ちノックすると天井のスピーカーから入るように言われた。



 ドアを押し開くと奥行きの広い向かい奥の執務デスクにMGがいるのを見てクラーラは所属を告げた。



「社長、広報室のクラーラ・ギャレットです。お時間を少しよろしいでしょうか」



「構わないわ。用件は?」



「NBCのインタビューに提出する履歴表の確認をお願いにまいりました」



 執務デスクまで歩くとクラーラはフォルダーを開いてファイルをマリア・ガーランドへ差し出した。



 しばらく黙って社長がそのファイルに眼を通す間クラーラは手持ち無沙汰にデスクを眺めると袖に詰まれたフォルダーの山に彼女は驚いた。



 やっぱり社長は大変なんだとクラーラは思った。



「これで結構よ」



 そう告げマリーがファイルを返した。



「社長、課長の意見ですがハイスクールの頃のエピソードを加えられたら如何いかがと──」



「ハイスクール? ああ、運動に明け暮れていたわ」



「バスケットですか? テニスでしょうか?」



「運動よ。ハードな」



 クラーラは社長が具体的にどんな運動をされていたのかそこを聞きたかった。



「陸上ですか?」



「毎日9マイル、ウエイトの詰まったアリスパックを背負って走っていたのよ」



 クラーラはアリスパックがどんなものかがわからずバックパックの1種だと思った。でも陸上の長距離の選手でも重りの入ったバックパックを背負って走らない。



「有意義なハイスクール生活でしたんですね」



 クラーラに言われマリア・ガーランドは小首(かし)げた。



「今、考えると有意義かも。当時は心折れて運動しなくなったわ。途中から大学受験に備えたし」





 マリア・ガーランドはシールズの訓練を投げだした事を思いだしていた。レバノンのベッカー高原から帰った直後だった。












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