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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #9
43/164

Part 9-3 Smell of trap 罠の匂い

NBC HQ. Comcast Bld. Midtown Manhattan NYC., NY. 13:27 Jun 30/

NDC HQ.-Bld. Chelsea Manhattan NYC, NY. 13:27 Jun 30

6月30日13:27ニューヨーク州マンハッタン ミッドタウン ロックフェラー・センタービルNBC本社/

13:27ニューヨーク州マンハッタン チェルシーNDC本社





貴女あなたの知り合いを名乗る男────神が貴女あなたを追い込め──と」



 プロデューサーのクリフトン・スローンがそう言うと受話器の先で女社長は鼻を鳴らし教えた。



『ミカエルの親玉よ。生きて会えるなら奇跡だと思いなさい』



 ミカエル!? 大天使ミカエルのあるじ!?



「ミ、ミカエル!? 天使ミカエル!? あんた一体何ものなんだ!?」



『よく言われるわ。私はマリア・ガーランド。敵対するものはすべてぎ払うもの。神よりも上かも。よろしいかしら?』



 ハンズフリーの音声に続きマリア・ガーランドは鼻で笑うと一方的に通話を終わらせた。すべてぎ払うものだと。おごりか、真実かを試そうというのだ。クリフトンは発信履歴からNDCの代表番号を選び通話ボタンを押し込んだ。



『NDC本社代表番号です。どうぞ』



「NBCネットワークのクリフトン・スローンです。もう一度社長にお取り次ぎお願いします」



『お待ち下さい』



 だが10秒と待たされなかった。



『マリア・Gです。まだ何か?』



「クリフトン・スローンです。先ほどはどうも。実はあなたのインタビューを企画してまして。世の中で話題のたえないあなたの有り様を知りたがる視聴者が多いので企画した次第です」



『インタビューは構いません。広報と打ち合わせしてください。そのむね話を下ろしておきます』



 女社長があっさりとインタビューに応じたことにクリフトンは安堵した。これでマリア・ガーランドを吊し上げる一歩を踏みだした事になる。



「ありがとうございます。ではのちほど」



のちほど』



 通話が切れて事が運び出したので、クリフトンは制作打ち合わせで作成した社長に行うごくありきたりの質問リストに目を下ろした。質問は通り一辺倒でも、暴力的な動画に繋がる様に巧妙に組み立ててある。



 その背徳感に背筋に何か冷たいものが走った。



 超巨大企業のトップといっても消費者の反感を買えば無事では済まない事を知るがいい、とプロデューサーは悦に入った。敵対するものはすべてぎ払うもの。ぎ払われるのはお前さんだ。











 マリア・ガーランドのインタビュアーに抜擢された人気女性キャスター──シャロン・ベンサムは大っ嫌なあの女社長の化けの皮をはぐことが出来るなら大金を払っても惜しくないと思っていた。



 シャロンは以前の取材で知り合った民間軍事企(PMC)業──ブラック・スワンの社長の名刺を取り出しセリーに通話番号に続き通話ボタンをタップした。



 そのブラック・スワンは軍が二の足を踏む非人道的な作戦を請け負う極めてダークな企業だった。



『はい、ブラック・スワン社代表です』



「以前、取材しましたNBCネットワークのシャロン・ベンサムです。仕事の依頼の件で社長にお取り次ぎお願いします」



『お待ち下さい』



 30秒ほど待たされ聞き覚えのある声が応じた。



『やあ、シャロン。ケヴィン・サイクスです。また取材の依頼ですか』



「社長、お久しぶりです。実は取材でなくそちらの得意分野での依頼をと思いましてお電話した次第です」



『得意分野? 民間軍事企(PMC)業としての? それは電話で打ち合わせられないことでしょうか?』



「ええ、1度お会いして詳しいお話をしたくアポを取りたいのですが、よろしいでしょうか?」



『ええ、構いません。いつがよろしいでしょうか』



 ブラック・スワンは本社がワシントンDCにあった。移動時間に半日かかる。



「明日の午前中、お時間よろしいでしょうか」



『それでは11時にお待ちしております』



 シャロンは礼をのべ通話を切った。



 そうして社の総務を通さず偽名で航空チケットの予約を入れるとロックフェラー・センタービルを後にした。万が一捜査されることになっても足のつかない様に航空チケットは空港カウンターでキャッシュで支払うつもりだった。



 イエローキャブを拾い、ラガーディア空港へと告げ車が走り出すと気持ちが浮き立っていることにシャロンは気づいた。やろうとしている事は非合法な事なのだが背徳感はまったくなかった。民兵を雇い入れあの女社長を追い込むのだ。成り行き次第で自分が命落としたりM・Gの命奪うことになっても構わない。要はあの女が失墜すればいいのだ。その為に100万ドルを支払ってもいいとシャロンは思った。



 取材中に襲撃され人道を説くお前さんが私の命を守れず、自身の命を落とす瞬間をカメラに収められると文句なしだった。プロデューサーの持ち込んだ動画はそれはそれで魅惑あるものだったが、あれはM・Gを追い込めても蹴落とすにはいたらない。視聴者は今の女社長の一挙手一投足を見つめるのだ。



 あの殺し屋の本性を暴いてやる。



「お客さん、良いことでも? ご機嫌なようですから」



「え? ああ、仕事が上手くいってるのよ。仕事が」



 シャロンの意識の中で拳銃を手にするマリア・ガーランドが追い詰められる画が鮮明に浮かんでいた。











「ええ、NBCネットワークのインタビューで申し込んでくるから、内容を確認して話を進めてちょうだい」



『かしこまりました社長。詳しい日程が決まり次第お取り次ぎいたします』



 キーテレフォンの通話終了アイコンをタップした直後、ドアがノックされたので入るようにマリーは告げた。



 ドアが開き情報2課のエレナ・ケイツが顔をのぞかせた。



「どうしたのレノチカ?」



「チーフの近辺を探っているものがいるのでその注意喚起に」



「近辺を探る? 何の為に?」



「理由は不明ですが、探らせているのがNBCネットワークのプロデューサーでクリフトン・スローンという男です」



「あぁ、知ってるわ。先ほどインタビューの申し込みをしてきたのよ」



 それを聞いてエレナ・ケイツ──レノチカは眉根しかめた。



「それがスターズの戦闘経歴などを社員を抱き込んで調べさせて」



「戦闘経歴? それを渡したの?」



「渡すわけないじゃないですか」



 それを聞いているマリーは両(ひじ)を机について組んだ手のひらの甲にあごを載せた。



「何で戦闘経歴を? 意味がわらないわ」



 思案顔のマリアに、いいや、そこんとこじゃないとレノチカは腕を組んだ。



「インタビューも胡散臭うさんくさいですしお断りしたらどうですか」



「断った後の方が怖い気がする」



 いいや、そうじゃないとレノチカは思ったが言い出せなかった。チーフは人はいいのだが、そこをつけ込まれる。その事を傷つけずに伝えるのにはどうしたらと考えた。



「チーフ、あなたインタビューを断ったとしてもマスコミはたたく手段を持ちません。だからこそ隅をつつくような手段にでているんです。それでもご心配でしたらパティに命じて調べるという手段もあります」



 手のひらの甲に載せているあごを外しマリーはため息をついた。



「わかったわ。パティにNBCネットワークの真意を探らせましょう。レノチカ────」



「何でしょうか?」



「私が何かでたたかれる事があれば指揮に差し障るかしら」



おおむね影響はでないと思われます。ですので安心して采配をふるって頂いてよろしいかと。それとも何か特別ご心配な事が?」



 マリア・ガーランドはかぶり振った。



「ありすぎて困るわ」





「マリア、あなたが折れると困る人が多いんです」











 見つめるパティが瞳を開いてパスカル・ギムソンはホッとした。



「クリフトン・スローン・プロデューサーの隠し武器が何かわかったわ」



 その言葉にパスカル・ギムソン──パーシャルは食いついた。



「え!? 何だ!?」



「まずいわ。マリーの昔の動画を持っている」



「昔の動画? マリファナ・パーティーの動画とか?」



「もっとまずい」



 ブースの椅子を回しキーテレフォンに手を伸ばしたパティはその手を引いて意識をハイパーリンクに集中した。



 マリー、NBCネットワークの狙いがわかりました。



────何なの?



 心して聞いて下さい。あなたの十代のころの動画をプロデューサー──クリフトン・スローンが手に入れました。マリー、覚えがありますか? レバノンのベッカー高原でシリア兵と戦闘を行ったことを。



────。



 その戦闘の衛星録画画像のコピーをクリフトン・スローンは手に入れあなたを弾劾だんがいするつもりです。



────わかったわ。パティ。



 マリー、動画を消させる事も一切の記憶を消し去る事もできるのよ。



────いいのよ。1度そのように隠蔽してもどこかの誰かが手に入れて同じ事を繰り返すのを考えたら今、乗り越えておくべきだと思うの。そのままにしておきなさい。



 わかった。



 超空間ブレイン・リンクを切ってもパトリシアは釈然としなかった。マリアを苦しめる奴を野放しにできないと思った。テレビ局のプロデューサーは巨大企業の社長が殺人鬼であるがごとく扱おうとしてる。



「具体的にどの様な対応をするんですか」



 パトリシアがブレイン・リンクしていたのを知らないパスカル・ギムソン──パーシャルは年下のパトリシアに丁寧にたずねた。



「マリアは介入を望んでいないの。だけど悪い事態を少しでも穏やかにするのが私の務め」



 務め? この若い女はNBCネットワークのプロデューサーが行おうとしている事へ具体的に何をするのかパーシャルは興味を抱いた。だが相手は巨大TVネットワーク。打つ手立てはあるのか。



「私に手伝える事があれば言ってください。お役にたちたいです」



 落ち着いた声でパーシャルが持ちかけると少女がうなづいた。



「動画の事を何人が知ってるのか、それで事情は変わってくるわ」



「虎の子の動画なら内容を公開直前まで隠しておくと思います。企画会議で数人が知ってもそれが数十人にはならないでしょう」





「数人ならもみ消せる」





 パトリシアの意見にパスカル・ギムソンはいったいどうやるつもりなのだと興味を抱いた。











 番組構成は巨大複合企業社長のインタビューをメインとする穏やかなものだった。



 他局へ動画の事が知られたら逆手に取られ別な特番を組まれるかもしれない。そのためプロデューサーのクリフトン・スローンは事前に動画の公開を知らせたのは初回の会合に参加したものだけに限定した。



 特番の生中継公開インタビューは7月14日。



 プロデューサー・クリフトン・スローンは、そのために精力的に動いていた。ただ嫉妬やっかみは常にあった。別なプロデューサーヴァンことヴァレンタイン・カニンガムはクリフトン・スローンの売れ行きに神経を尖らせていた。



 ヴァンはクリフトン・スローンが人を集め新企画をたてているのをふと耳にした。空前絶後の視聴率を狙うその企画──知っておいて損ではないとヴァンは考えた。



 通常クリフトン・スローンは企画進捗管理をノートパソコンに入れている。その中身を確かめようと彼が部屋を後にするチャンスを待った。



 午後になってディレクターとの打ち合わせをするためクリフトンが部屋を出た。そのすきをヴァレンタイン・カニンガムは逃さなかった。



 ヴァンは部屋に入ると執務デスクに載っているノートパソコンに近づき自分の方へ向け液晶を開いた。もたもたとこの部屋で中身を見ている余裕はなかった。ヴァンはUSB──SDDを接続しHDDの中身をすべてコピーした。中身は場所を移してゆっくりと確認したら良い。それなりに容量があると時間もかかる。今、クリフトンが戻ると言い逃れできない現場を押さえられてしまう。



 10分して出入り口へ行きドアをわずかに開いて廊下の様子を確かめた。誰もおらずそれが余計に不安にさせたのでドアを開いたまま廊下の音に注意して作業を続けた。



 高速コピー・ソフトのパーセントゲージを見ると7割がたコピーが終了していた。終わりに近づくにつれ苛立ちが募ってもどうする事もできなかった。それから5分あまりでコピーが終了するとSDDを引き抜いてノートパソコンの電源を落とした。



 ヴァンは出入り口へ行き人の気配を探るとさっさと部屋を後にした。誰にも見られなかったので安堵あんどしたヴァレンタイン・カニンガムは浮き立ちながら自室に急いだ。



 部屋に戻ったヴァンは飛びつくように自分のノートパソコンに向かい電源を入れSDDを繋いだ。



 今、クリフトン・スローンが企画を進めているタイトルは不明だったが企画書(プロポーザル)というフォルダを見つけ出した。



 そこにマリア・ガーランドという動画ファイルを見つけた。その名前に覚えがあった。巨大複合企業の社長が確か同じ名だった。



 ファイルをクリックして再生させた。



 画面はオフホワイトで画面両サイドに幾つかのデジタル数値が変動しておりそれ以外、最初は何が映っているのか理解できなかった。その画面には斜めに数本のうねる線があった。



 画面が急激にズーミングしてゆき染みの様なものが見えだしその合間のオフホワイトのエリアに複数の長方形のバックグラウンドと微妙に1つひとつが色合いの違う図形の群生が判別できそれがすぐにテントだとわかるほどに拡大する。その近隣に軍用車輌がいるのが染みに見え衛星画像だと理解した。



 軍のキャンプか。



 テントの1つから誰かに肩を貸す小柄な──肩幅の狭さからそう思ったのだが──人が出てきてテントに離れ集まっているものらへ歩いて行く。



 その肩貸すものの方へ2人が走り寄り大柄の人を受け取り地面に寝かせ何かし始めた。



 ヴァンは大柄の方が手当てされており大人で小柄の方は年少者だと思った。





 一閃いっせん、小柄のものが両手を左右に振り出し何かを持って駆けつけ寝かしつけた大柄の方を治療していた大人2人の背後で急激に動くとその高高度の画像でもわかるほどに血飛沫ちしぶきが地面に広がり2人の救護者が倒れ動かなくなった。







 殺戮だとヴァレンタイン・カニンガムは鳥肌立った。



 その直後、ほんの一瞬、離れている兵士らが駆け出し向かってくる年少者へライフルを1度構えそれを下ろし銃先に何かしてる間に7人ほども倒されてしまった。



 寸秒、対峙していた兵士らがライフルの構え方で銃剣を装着したのだとヴァンは気づいた。



 凄いと彼はとりかれ画面を見つめた。小柄の兵士は稲妻の様に不規則に駆け止まる一瞬にも駆ける間にも斬りつけていた。そのものの走った動線の左右に人が倒れあるものは血を地面に広げている。



 まるで角砂糖に群がるアリのごとくその年少者へ大人の兵士らが群がった。だが一瞬もその小柄な兵士は動く事を止めず船が水面を進み波紋が三角形に広がる様に──倒れ動かない兵士らが増え続ける。



 衛星カメラが遠距離から左右に不規則に動き続ける小柄の兵士1人を追い続けられるのは、その三角の頂点にいるからだった。



 彼は無意識にその小柄の兵士が倒す人数を数え1秒に7、8人は倒してると背筋が凍りついた。その道具は機関銃などでなく両手握るナイフ2本だけで!?



 カメラが数回不均等間隔でズームダウンし小柄の兵士に群がる群集の様な兵士らを映し出す。



 100や200ではないもっと大多数の兵士らが蠢いてその小柄の兵士を探し求めていた。



 しかしながら、その間近、小柄の兵士は一瞬も休まず殺し続けていた。ヴァンはふと小柄の兵士と大人らが見分けつく事に気づいた。



 大人らはヘルメットを被るか黒い髪をしている。だが小柄の兵士は白い──モノトーンの画面から白にも見える恐らくは薄いブロンドの髪をなびかせ振り回し────────プロデューサーは愕然がくぜんとなった。



 ショートカットのプラチナブロンドだ!!!



 だれだ!? いったい誰がこの殺戮を行っているのだとヴァレンタイン・カニンガムは冷や汗を浮かべ画面に見入った。ふと彼はその薄いブロンドの年少者が誰なのかと思いにいたった。





 まさか──まさか────マリア・ガーランドなのか!?





 中隊規模の民兵を率いてテロリスト狩りをする女社長。マシンガン片手にマンハッタンを駆け抜ける戦闘狂。あの女社長の十代の時の大虐殺の記録。



 この画像が作り物でなく事実ならとんでもないスクープだった。



 動画に輸送機が映り込み側面から火砲が火花散らすと数十単位で兵士が吹き飛び始めた。












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