Part 9-1 Reinforcement 増援
Armored Reconnaissance Unit 1st Company 6th Squadron 1st Cavalry Regiment 1st Armored Division Ⅲ Corps Army Commands US.Army Company Training Ground Fort Bliss, TX. 20:56 Jul 13/
22:56 Hummingbird 2 over Ohio
7月13日20:56 テキサス州フォート・ブリス アメリカ陸軍 陸軍コマンド第3軍団第1機甲師団第6戦隊第1騎兵連隊第1中隊機甲偵察部隊の演習地/
22:56 オハイオ州上空ハミングバード2
崩壊した車列に戻り先頭のM1A2C/SEPV3エイブラムスに辿り着いた操縦士のエイミー・キングスリー曹長は唖然となった。砲身が付け根から切れ落ちていた。
砲塔を切り裂く能力を持つ怪物らだ。砲身を切り落とすのも無理なかった。
だが星明かりに見えている2輌目の戦車のシルエットは砲身が無事だった。
エイミーはその戦車まで足音を殺し向かうとほどなくして辿り着いた。見上げた砲塔が無事かはシルエットからだけではわからなかったが、とりあえずジャベリンの発射ユニットだけを手にキャタピラの転輪に足をかけフェンダに登り砲塔に這い上がると車長用キューポラのハッチを開いて砲塔に入り込んだ。
室内灯を一瞬点けて消した。
このエイブラムスも前面から左手装甲が裂けていた。乗員はそこから攫われたのだろう。
エイミーはジャベリンの発射ユニットを手にキューポラから上半身を出し蠍野郎を探し始めた。連中は互いに連携が取れているのか1体が殺られると残りがミサイルや砲弾の発射地点を調べにくる。1激加えたらまた逃げ出さないと捕まってしまう。もうあのすえた臭いはごめんだった。だが2体殺るも3体やるも大差なし、要領は同じだと自分に言い聞かせる。対戦車ミサイルのサーマル画像で探し始めるとチョッパーの爆音が聞こえだした。やっと航空支援がやって来たのだ。敵の居場所を無線で知らせようと車列を中心に蠍野郎を探すが一向に見つからず苛立つと700ヤードほど先の地上に爆炎が広がり次々に同じ規模の爆炎が遠方に生まれては消えた。
ヘルファイア対戦車ミサイルだろうか。
エイミー・キングスリーは砲塔内に下りるとこの車輌も電圧が低下しておりトラバースハンドルをハイスピードに切り替え一生懸命に回し始めた。ゆっくりと砲塔は回転し1分余りで爆炎の向きに砲身が向くと車長用の統合モニタユニットの電源を入れモードを暗視に切り替えた。
すぐに下火になった爆炎が見えると傍にアパッチの残骸が落下しており対戦車ヘリが格好の餌食なのだとエイミーは思った。
だが蠍野郎の姿は1体もなく見当たらないのは怪物らの動きが速いからだと彼女は判断した。そりゃあヘリを飛び道具なしで落とせるんだから照準機に追えるわけがない。
エイミー・キングスリー曹長は取りあえず装填手の席に下り砲塔バスル部(:後部張り出し)の弾薬庫の扉を開き装弾筒付翼安定徹甲弾を1弾取り出し薬室に装填すると自動で垂直式鎖栓が閉じ射撃準備を終わると砲手の席に移り蠍野郎の姿をサーマルビジョンで探した。
マスターブラスタを回し点火エネルギーを蓄え今一度照準機で怪物を探すとほどなくして落ちたアパッチから乗員を引きずり出している化け物を見つけた。砲身の向きと仰角を手動で微調整し照準する。レーザー測距儀は使わず落ちたアパッチの機体の画像からおおよそ800ヤードと目測し間髪入れずに射撃トリガーを入れた。
爆轟が響き渡りエイミー・キングスリー曹長はジャベリンの照準ユニットをつかみ車長用キューポラのハッチへ登ると大急ぎで砲塔前部装甲の傾斜を滑り降りて車輌側面に下りた。悠長に敵撃破を確認にしているといつ残りの蠍野郎がやって来るかわからず、エイミーはキャタピラーの側面に置いていたジャベリンのラウンドを担いで走って車列から逃げだした。
残り2体の内、1体がエイブラムスを調べにくる。それを倒すために100ヤード走りその場で射撃準備を始めた。
ジャベリン発射筒に照準ユニットを取り付け地面に伏せた状態でエイブラムスをサーマルビジョンにとらえるとすでに怪物の1体が来ており乗員を探していた。
ヘリ攻撃に3体。1体を撃破し、ヘリ攻撃に1体を残しエイブラムスに来ているのは1体。いただきだとエイミーはトリガーを押し込んだ。直撃モードで飛翔した対戦車ミサイルは大して高度も取らず怪物にストレートにヒットするとタンデム成型炸薬弾頭が化け物の胸板を撃ち抜いて火炎と火の粉が広がった。
エイミー・キングスリー曹長は起き上がると空のラウンドから照準ユニットを取り外しそれだけを持って新しい対戦車ミサイルを手に入れるために車列の高機動多用途装輪車両へ向かって走った。
敵は人にあらずで、ジャンプしヘリに襲いかかる。
事前警告に匍匐飛行よりも高度をとり450フィート(:約137m)の高さを飛んでいた501航空連隊のアパッチ・ガーディアン6機はウイングリーダーの1機が一気に地上へ堕ち爆炎を上げると編隊を散開しさらに高度を上げた。
索敵レーダーには車輌なみの大きさの怪物らが映っていたが、動きがヘリ並みに速くしかもレーダーエコーが乱れる事に各攻撃ヘリの攻撃手は戸惑った。
3体の敵がヘリの軌道を読み回り込み編隊長機に1体が急激に接敵すると地上に落とされた。それに連なりさらに2機が落とされた。
敵が機械でなければ飛翔兵器も持たず、それなら飛びついて落としに来るのかと1500フィートに高度を上げたもののさらに1機落とされ各機の判断で2000フィート以上に高度を取りレーダー画面を乱れ動く敵を近い方からロックオンした矢先に爆轟が聞こえ地上に放火が見えた。エイブラムスの主砲だと気づいた残りのパイロットや砲手は2つになった敵のマーカー目掛けヘルファイアを2発ずつ6発放った。
地上からのデータリンク・サポートがなくともレーダーレンジを30度に狭め精度を上げ3機が改良型データモデムを介して優先射撃ゾーンを共有し熱源がないのかFLIRの暗視装置でとらえられなくともミリ波レーダーで怪物らを捕捉し1体に3発の対戦車ミサイルが群がった。飛翔距離も短く見下ろしの重力加速度も加勢してチオコルTX657固形燃料の燃焼加速中にマック1.4まで達したほぼ同時に2発が命中し動きを止めた怪物に3発目が命中し胴体を粉砕した。
1体は打ち損じたが1体に3発のヘルファイアが命中し優先射撃順位が残りの1体をマークし2機が合わせて4発のヘルファイアを放った。
人間の英智を舐めるな。
どれほど追い込まれても反撃を止めないこの種族は真の怪物である。
異次元か宇宙からか飛来した進んだ能力を持ちし異界の生命体であっても轡並べ競い合い叩くことを止めぬ人類を畏怖せよと最後の1体に4発の対戦車ミサイルが炸裂しソフトボール大のコアを粉砕した。
そのレイジョという生命体は粉砕間際に戦いの全記録を転送した。
3体2組の同族を失い、なら倍の数ならと集合体は思考した。
送り出すのは簡単だった。ただ無駄にならずにフィードバックを返す事こそ重要なのだ。原住民の強勢を受けたレイジョのその数体は外骨格に重篤なダメージを受け行動不能に陥った。
各個に対応する能力を授け送り出す事とする。
総体は柔軟であり変容は最適化の帰結である。
遠雷の様な音が広がり周囲に放電を広げる青紫の輝きの球体が12が広がりそれぞれがハンヴィを飲み込める大きさに拡大するといきなり消えて静かな闇夜に戻った。
だがそこには12体のレイジョが起動する。
12体が見上げた空に回転する翼を持った原住民の移動仕掛けが飛翔していた。それらから一斉に24の小さな飛翔体が放たれた。それらは戦闘全記録にあった原住民の強勢道具でありコアをも破壊する能力があった。12体は一斉に微小構造体を操り強靭な楯を生み出し構えた。
原住民の破砕飛翔体に堪えうる能力がどれほど必要かはわかっていた12体のレイジョは特殊で外殻の周囲に新たな構造体を構成できる量の微小構造体を装備していた。
人の世界で知られるナノマシンよりも複雑な微小構造体は個々の強靭力は劣れども集まり結晶構造を取ることで強靭な外殻となる。
その楯に飛翔してきた強勢道具が命中すると爆轟のスピアが楯を貫通した。タンデム成形炸薬の2段目が吹き出しレイジョの外殻が穿たれたがそれで影響は終わった。楯の別な部分にもう1つの飛翔してきた強勢道具が命中し同じ様にレイジョの外殻の一部を損うに終わった。
レイジョは2体一組になり1体を打ち上げた。
6体倒してその倍近い数の怪物が放電する球体から産み落とされるのを眼にしてエイミー・キングスリー曹長は苦笑いを浮かべた。
拾い集めるジャベリン対戦車ミサイルにも限りがありもう止めて欲しいと逃げだすしか道は残されていなかった。
3機のアパッチ・ガーディアンが放った20発余りのヘルファイアは殆どが命中したにも関わらず蠍野郎は1体も倒れなかった様に見えてエイミーは固唾を呑んだ。
まるで抵抗力を身につけるウイルスだと彼女は思った。
もう残されている方法といえば野戦砲やロケット砲による遠距離砲撃支援ぐらい。
残存しているアパッチも既にヘルファイアを撃ちつくし機関砲ぐらいしか攻撃手段が残されていない。成形炸薬が効果無しの状況で化け物個体に命中を期待できない155ミリ榴弾やロケットでは手の打ちようがない。
エイミー・キングスリー曹長はサバトから後退さり始めた。
「今度こそ──殺される────」
一方オハイオ州上空に達したハミングバード2では────自動人形M-8マレーナ・スコルディーアの報告に皆が顔を強ばらせていた。
「増援のアパッチ部隊、全機損壊」
衛生画像をリアルタイムで見ているのマースの報告にセキュリティ数名の顔色が曇った。
「3体いた怪物が倒され12体が新たに現出」
その過酷な状況にダイアナ・イラスコ・ロリンズがマースに問い返した。
「陸軍の対応は?」
「CASでアパッチ12機、ブラックホーク4機、エイブラムス12輌とハンヴィ6輌、ブラッドレー6輌を出しただけで及び腰」
及び腰とういうほど少数ではないとルナは思いながら、現時点で武力投入すべきかを悩んでいた。対戦車ミサイルが有効でない怪物の出現に用意している兵装では不十分だと考えた。ジャベリンどころか、レーザー・ライフルですら効果が得られない可能性があり、増援も用意できない。
何か方法はないか。そう作戦参謀は考えふと戦車の数に気づいた。
即席爆弾の材料がふんだんにある。搭載されている半数がタンデム成形炸薬なら1輌当たり20発余りの弾薬がある。射出用弾薬を利用すればその倍。武器の現地調達が優位に立つセオリーなら利用しない手はなかった。地上を歩き回る怪物なら歩行機構がありその分地上側の構造は脆弱だと思われる。
ただ難点もあった。
スターズのセキュリティは爆発物処理要員以外にもIED対処の訓練は行っているが、解除するのと作るのでは技量の差があるからだった。皆がみな、IEDを作れるとは限らない。誤った操作での誤爆もあり得た。それを前もって指摘しておく必要があった。
「全員聞きなさい」
ルナがそう告げても武器の手入れを止めないものもいる。
「敵員数に対して火力不足が考えられる。よって現地の戦車から砲弾を抜き仕掛け爆弾を作る。いいですね。ただ爆発物の扱いが不得意なものもいる。自信のないものはサポートに」
「陸軍に大隊規模の増援を出させる様に国防総省に圧力かけた方がいいんじゃないすか」
ジェシカ・ミラーがさらっと言った事にルナはそう簡単ではないと思った。
「次々に増援部隊を沈黙させている敵勢力は機甲師団並。しかも12体に増やし陸軍増援部隊を蹴散らしています」
「それを歩兵中隊の我々でどうにかしようとすると下手すると壊滅じゃないんですか」
第4セルのスナイパー──ビクター・ブーンが指摘した。
「私達の目的は威力偵察であり制圧ではありません。主力戦は陸軍でありその陸軍にも知られぬ様に隠密戦闘に徹します」
ロバート・バン・ローレンツが貨物室側壁の座席から立ち上がりルナに歩み寄った。
「ちょっといいか、ルナ──」
作戦参謀が頷き機体後部へ行くとロバートも付き従った。
「敵が増援を得ている現状、通常の偵察に留めておく必要がある。敵の本隊がどれくらいの規模かわからず手出しすれば撤退できなくなる」
「敵交戦能力の把握とその本隊規模を探り当てるのが狙いです。正面切った戦闘は私も避けるべきだと考えます。ただ──陸軍の偵察部隊が壊滅している現状、得た情報を陸軍に共有します」
ロバートから睨みつけられルナは困惑した。彼女はふとマリア・ガーランドならどうしていると思いだそうとした。いいや駄目だ。彼女は正面切って争いたがる。
今のところ怪物らが攻撃者の理論に立っている。有象無象の集ではなく効率的に陸軍を屠っている。化け物とみなしながら連中が理論的な行動をとっていると薄々気づいている。なら本体を叩かなければ事態は終息しない。
怪物らは人類に敵意を抱いてるのか。
悪意を持って敵対してくる。
鹵獲してその本意を確かめられるなら自ずと出方もわかるだろう。
理想は平和だが、歴史は残酷だわとルナは思った。
あの日、大西洋で合衆国海軍とロシア北洋艦隊の間に挟まれ悪戦苦闘していた時にマリア・ガーランドは孤軍奮闘し怪物と戦っていた。困惑と絶望に振り回されそれでも希望を信じて投げ出さずに事態終息を目指していた。
「ロバート、正面切って怪物らと争わないのは皆を無事に帰すためよ」
彼が頷いて離れてゆくその背を見て特殊部隊SASでロバートが経験していた不条理が垣間見えた。