Part 1-4 Spezielle Fähigkeit 特技
5 يوليو 2019 11:14 في مكان ما في المملكة العربية السعودية/
10. August 1998 22:31 Autobahn 6 in den östlichen Vororten von Nürnberg, Deutschland/
7 يوليو 2019 9:21 المملكة العربية السعودية الرياض مطار الملك خالد الدولي
2019年7月5日11:14 サウジアラビア某所/
1998年8月10日22:31 ドイツ ニュルンベルグ東部郊外ハイウェイ6号線/
2019年7月7日9:21 サウジアラビア リヤド キング・ハーリド国際空港
────見上げる空には無限ともとれる広大なフロンティアが待っており、1番大事なのはそれらは幸せな事ばかりでなくそこには人々に牙を剥く近代兵器が無力に思える生き物が多数存在するのです。人が一丸となってそれに向き合わねば容赦なく異界の存在は全人類を根絶やしにするでしょう────。
流れるビデオにはスタジオで語る女が映し出されており、画面下にアラビア語でテロップが流れ続けていた。画像を見つめるマルジャエ・モハンマド・ハーンは権威あるイスラム教シャーリア派の宗教学者の1人であり、彼自身は神学、法学、ハディース講釈など広範囲の知識に富み英語も理解し女の言ってるニュアンスがテロップのアラビア語と微妙に違う事に気づいていた。
أمير. تتمتع الشركة الدولية التي تتصدرها المرأة بنفس القوة الاقتصادية التي تتمتع بها الصين.
(:王子よ、この女が支配する国際企業は今や中国の侵出と並び危惧する力を持つ──)
أكثر من ذلك، المرأة تجعل الناس يضلون طريقهم بمثل هذا الكلام الخفيف.
(:──その上、この様な戯れ言を世の中に垂れ流しております)
声かけられた白の木綿でできたトーブを着てアガールの黒い二重の輪で止めたガトラを被った男が執務デスクの奥の椅子に深々と腰掛け遠目にその大型液晶テレビに映し出されている女を見つめながらイランから招いたシャーリア派宗教学者に答えた。
علاوة على ذلك ، تحاول الشركة النسائية الترويج للمواد الكيميائية الخالية من البترول والمركبات الكهربائية الجديدة.
(:その上、あの女の企業は石油を使わぬ化学製品や新型の電気自動車を普及させようと企んでおる)
يمر إخوتي بأوقات عصيبة مع الشركة ، لكن في الولايات المتحدة وأوروبا ، أصبح النفط الخام المنتج في الولايات المتحدة كافياً الآن.
(:兄達もその会社には手を焼いているが、アメリカや欧州は現在アメリカ産出の原油で事足りており──)
الدول العربية المنتجة للنفط تعاني من الانهيار.
(:──アラブの産油国は暴落を苦慮している)
サウジアラビアの第3王子は宗教学者と録画に映し出されているセット奥に出現したジャングルとその先にある連峰を見やり、目にしたこともない恐竜の如き怪物がスタジオへ突進してきて爆死したのを王子は笑いとばした。
واحد مزيف. إنه رمز لسقوط الوثنيين.
(:まがい物。異教徒の堕落の象徴だな)
انه مزعج. هل ترغب في محوه؟
(:目障りですな。消しましょうか?)
カメラの前で語る女の起こした変化を小馬鹿にした王子に宗教学者はテレビを消そうかと持ちかけた。
ومع ذلك ، فإن تلك المرأة لديها جيش مماثل لجيش بلد صغير وتتمتع بالحماية.
(:だがあの女は小国なみの軍を持っており護られている)
マルジャエ・モハンマド・ハーンは忙殺の持ちかけだととった王子が手があれば下すつもりだと理解した。
الأمير، الثمن مرتفع قليلا، ولكن هناك شيء مناسب للوثنيين.
(:王子、いささか値は張る異教徒ですが適任がいます)
王子は執務デスクに身を乗りだし天板に両肘をついて組み合わせた指に顎髭を乗せ尋ねた。
اها؟ هل تقدم مثل هذا الاقتراح؟
(:ほう? 宗教学者がその様な提案を?)
هل تريد أن تراه؟
(:ご覧におなりになりますか?)
雨降る中、ニュルンベルグ郊外の国道6号線を急ぐフォルクスワーゲンがあった。ハンドル握る調えた髭に丸眼鏡をかけた男がルームミラーで後席を見た。
"Elisabeth, es tut mir leid, dass es spät ist. Bist du müde?"
(:エリーザベト、遅くなってすまない。疲れただろう)
"Mama und Ricarda schlafen. Es ist meine Behandlung, also ist es meine Schuld, dass ich zu spät komme."
(:母さんとリカルダは寝てるよ。僕の治療だから遅くなったのは僕が悪いんだよ)
父は激しく動くワイパーの先を見やりもう一度ルームミラーで後ろを見やった。
"Samuel, du bist nicht schlecht. Es ist unsere Schuld, dass Sie eine Behandlung benötigen."
(:ザームエル、お前は悪くない。治療が必要なのはパパ達のせいなんだ)
そう謝罪しフロレンツ・バルヒェットは6歳のザームエルが学者らの研究まがいの治療を受けないといけない事に心から済まないと思った。
息子は時々夫妻の目の前からいなくなる事があった。
それは赤ん坊の頃からで、まだベビーベッドを抜けだせないはずの子が泣き声に探すと家の別の部屋から見つかるという奇異な現象だった。
その理由がわからずザームエルが成長しやっと会話できる歳になったある日、いだずらの度が過ぎた息子を説教している父の目前で起きた。
目の前からいきなりザームエルが消えてしまったのだ。
夫妻は息子が善からぬものに憑依されているのではと怯え、まず医者に診せた。だが医者はその現象も原因も確認できず首を傾げ大学医を紹介し手を引いた。
苦労した末、大学医はザームエルが消える瞬間を録画する事に成功したが、原因のわからぬ現象に治療法は見つからず物理学者に相談を持ちかけた。
大学の厳重な研究室からも息子は幾度となくいなくなった。
空間相転位と物理学者が説明するその現象がザームエル自身の能力であるらしいとわかってはきたが、それを治療する方法は雲をつかむばかりだった。
そうしてその力がテレポーテーションというらしと周囲の大人らは勘違いした。
フロレンツ・バルヒェットがルームミラーで息子がいるのを確認し視線を雨垂れの先に戻した寸秒、その先で横転したタンクローリーが路面を擦り飛ばす盛大な火花が見えた。
彼がフルブレーキをかけたフォルクスワーゲンはタイヤ滑らせながら満載のガソリンタンクに猛速で激突した。
リヤドのキング・ハーリド国際空港の到着ロビーに着いたその若い男女はサングラス越しに周囲を見やりそれぞれがスーツケースを曳いて歩き始めた。
入管審査を揃って受けビザを見せその若い男と女は審査官が確認し易い様にサングラスを鼻先にずらし目を見せた。
هل أنت صموئيل بارشيه وريكاردا بارشيه؟
(:ザームエル・バルヒェットさんとリカルダ・バルヒェットさんですか? ご兄妹?)
発音から男は自分の名前だろうと肩をすくめ女は頷いてみせた。
ما هو الغرض من الدخول؟
(:入国目的は?)
アラビア語が理解できずザームエルは審査官に頼んだ。
「悪いが、ドイツ語か英語で頼む」
「どんなご用でサウジに?」
英語だったが十分に理解できた。
「招かれて来たんだ。取引先に」
しばらくパスポートとモニタを見比べていた入国審査官は2人にパスポートを返し付け加えた。
「良いご商談を」
礼を述べ彼らはロビーへ向かった。
ザームエルとリカルダがタクシー乗り場を目指しロビーを歩き始め長いロビーには人が疎らだったが注意を引いているつもりは彼にはなかった。だが離れた場所から3人の男らが目で追っておりその1人がスマートフォンを取り出し連絡を入れる先で彼がロビーを出て表でタクシーを拾いトランクに荷物を入れ乗り込み走り出すと直後男らも急ぎ足で出てきて2台の黒のアウディ・セダンが止まり分乗しタイヤを鳴らしタクシーを追い始めた。
دخل الضيف طريق المطار السريع. إنه متجه إلى المدينة.
(:ゲストはエアポート・ハイウェイに入りました。街へ向かっています)
助手席の男が前を走るタクシーを見据えスマートフォンで電話すると指令が下った。
اقتل الرجل
(:殺れ)
彼はスマートフォンをジャンパーに仕舞い運転する男に命じた。
تجاوز تلك السيارة وأوقفها
(:あれを抜いて止めろ)
そう命じて助手席の男はジャンパーのファスナーを開き腋に吊しているFN P90のカラビナを外し湾曲したグリップを握りしめ引き抜いた。その間にも先頭を走るアウディはタクシーを追い抜いた。
指示された白人の男は空港の通関を抜け武器は所持してなかった。
止まったタクシーの前でハイウェイを塞いだアウディから3人が武器を握りしめ下り、後ろを塞いだ同じセダンからも銃器を握った2人が下りタクシーに迫った。
逃げられぬ様にまずタクシーのタイヤを撃ち抜き、2人人がタクシー後席の左右ドアを開き別の2人が同時にその開口部から後席に座る白人の男女に銃口を向けた。
その若い2人はこれから起こる事を知り受け入れているのか、一切の動揺を見せていなかった。
アラブ人の男らは躊躇なく引き金を引き絞り銃口が火炎を引き伸ばしPDWのストック下から勢いよく空の薬莢が流れ落ち、重なる発砲音に襲撃を受けた男の呟きが掻き消された。
"Neustart!"
(:再起動!)
入管審査を受けビザを見せその若い男は審査官が確認し易い様にサングラスを鼻先にずらし目を見せた。
هل أنت صموئيل بارشيه وريكاردا بارشيه؟ أخ و أخت؟
(:ザームエル・バルヒェットさんとリカルダ・バルヒェットさんですか? ご兄妹?)
発音から男は自分の名前だろうと肩をすくめ女は頷いてみせた。
ما هو الغرض من الدخول؟
(:入国目的は?)
アラビア語が理解できずザームエルは審査官に頼んだ。
「悪いが、ドイツ語か英語で頼む」
「どんなご用でサウジに?」
英語だったが十分に理解できた。
「招かれて来たんだ。取引先に。それとロビーに銃器を隠し持ったジャンパー姿の男らがいる。警察を呼んでくれたら助かる」
パスポートから顔を上げた入国審査官は彼に旅券を返しながら受話器を取り上げアラビア語で報告し受話器を顔から浮かせ彼に尋ねた。
「どうやってお知りになったんですか!?」
ザームエル・バルヒェットは片側に口角を吊り上げて見せて審査官に教えた。
「敏感肌なんだ」
そうして彼らは空港警備員が駆けつけるロビーへ悠々と向かった。
王子と来賓の法学者が話し中断すると付きのものが頭を下げたままドアを開いて入りその場で片膝ついて王子に報告した。
الزبائن من ألمانيا قادمون. ما الذي ينبغي علي فعله؟
(:ドイツよりのお客様がお見えになってます。いかがいたしましょうか?)
法学者の顔を見て王子が付き人に命じた。
أحضر هذا الشخص هنا
(:通せ)
すぐに頭下げ付き人が出て行き王子はマルジャエ・モハンマド・ハーンに尋ねた。
مندهش. تم إرسال حوالي خمسة أشخاص للتخلص منه. هل الاثنان قويتان؟
(:驚いた。5人ほど始末のために向かわせたのだ。その2人やり手なのか?)
法学者は困惑げな面持ちを浮かべ説明した。
لا أعرف ما إذا كانت قوية. لكنني سمعت أن الطلب لم يفشل
(:強いのかわかりかねます。ですが依頼に手落ちをした事がないと聞きます)
それを聞き第3王子は興味惹かれた。過去にもサウジアラビアは暗殺に情報局や陸軍の手練れを用いた事がある。それに王子自身陸軍の大尉なので使えるものとそうでないものの判別はつくと自信があった。
多くの人間は銃口を向けられると動揺を見せる。だが見せないものは3通りに分けられる。1つは銃の威力を知らぬか軽んじるもの。もう1つは蛮勇でなく向けられた逆境を乗り越えるチャンスを探る真に強きもの。もう1つは頭がイカレているかもしくは空勇気をもつもの。
暗殺を秘密裏に成功させるのは逆境を乗り越えられるものだった。
王子は部下に頼らず自らの手で試そうと思った。
王子の執務室に案内されて来たのはまだ若い落ち着いた男女だった。
「ようこそ。サウジへ」
王子と宗教学者が立ち王子が手を広げるとその若者らは一礼して顔を上げ挨拶を述べた。
「初めましてムハンマド・アール=サウード王子。英語でお話し頂けるとは恐縮です」
「このものは、マルジャエ・モハンマド・ハーン。イランの宗教学者だ」
若者らはまた一礼して男が述べた。
「存じております王子。今回の私どものクライアントですから」
両手広げ出迎えはしたが、所詮闇の人間だと王子はその白人の若者らを見下した。だが王子は今のところ非礼ではないと思った。
「ところで、そなたらは仕事に仕損じがないと聞く。誠か?」
質問にその殺し屋は微かに笑みを見せ頷いた。
「さようで御座います。私どもの仕事に失敗はありえません」
大した自信だと王子は思った。だが自分の手柄で大風呂敷を広げるものは多い。では少しばかりからかってやるかと王子は考え仕事を前にして男の方を屈伏させてみようと思った。
「そなた、大した自信のようだな。着手金はすでに受け取っており実質、もう仕事の枠組みに入っておるはずだ。では────」
「そなたが、ここで銃口を向けられ撃たれれば仕事にならず経歴に傷がつくであろう。どうする?」
そう告げムハンマド・アール=サウード王子はデスクの引き出し下に付けたホルスターからグロック17を引き抜き宗教学者が招いた暗殺者に銃口を向けた。それをイランからの来賓は黙って見ていた。
一瞬、ザームエル・バルヒェットは片唇を持ち上げ王子に告げた。
「お戯れを王子。その銃に装填された2発目までは儀典用の空包。3発目から実弾です。3発目をお撃ちになる前に私は間合いを詰めその銃を奪い取れます」
第3王子は表情に出さぬように務めたが、目が強張った。
装弾は確かに2発が空包でそれは儀典時に使う事もあれば、思い通りにならぬ相手を脅す時にも使う。だがその事は直近の部下にさえ教えていなかった。
それをこの暗殺者はどうして知ってるのだと興味を持った。
「なぜ────そなたは空包だと知っておった?」
暗殺者は1度息を吐いてから王子に応えた。
「王子に3度撃たれれば──でしょう」