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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #7
35/164

Part 7-5 VBSS 海上臨検捜索

605 North More St. Atmore 69mile Northwest Eglin-AFB(/Air Force Base) FL 12:45 Jul 11/

NDC-HQ Chelsea Manhattan NYC, NY 13:59

7月11日12:45フロリダ州エグリン空軍基地北西西69マイル アトモア・ノースモア605番地/

13:59ニューヨーク州ニューヨーク市マンハッタン・チェルシー地区NDC本社ビル




 割れんばかりに窓の硝子(ガラス)を響かせ住宅の男が驚いて外に出て見上げると6機の戦闘機が空中戦を行っていた。



 その1機がいきなり錐揉きりもみしながら残害がガレージをつぶひょうのような黒い小さな粒が屋根をたたいた。



 男は足元に転がった黒いひょうを片手ですくうと驚いた。



 粒1つが無数の砂に分解するとわらわらと手首を乗り越えてひじによじ登り始め住人は驚いて叫び片腕を振り回しながら家に駆け込んだ。



 地面に落ちた殆どのひょうが流れる水のように一カ所に集まり始め男が逃げ込んだドアへ流れると殺到しその下の隙間からアスファルトの様な液体化したそれらが流れ込んだ。



 ドアの裏で腕をい上る砂を振り払っていた男は足元に流れてきた粒子の大群に囲まれるとそれらが男の脚へ一斉に駆け上った。



「ジーザス! な、何なんだこいつらは!?」



 まるで砂糖に群がるアリの様に両脚からい上る黒い砂の大群はまたたく間に腰から下を覆い尽くした。男は洗い流そうと風呂場へ向かいかけて両膝をカーペットに落とした。床についた両腕からも黒い砂の群れが駆け上りみるに首を覆い尽くしうつ伏せに倒れ込んで頭まで呑み込まれた。



 黒い砂の大群はしばらく人の形を保っていたが床に広がり始めて家具を覆い尽くし壁に広がりだした。それは天井まで広がり部屋全体を黒く染めるときしみ音をともない天井が落ちてきた。その音に近所の住人達が外に出てきて自分達の家も侵食されているのを眼にして青ざめた。



 家数軒を呑み込んだ黒い砂の大群は最初の家の方へ集まりだし形作りだし瞬く間に大型ピックアップトラックよりも大きなはちの形に成ると砂粒が滑らかになりチャコールグレーの鈍い灰色になり羽根を広げ羽ばたいた。



 その巨大なはちが100フィートの高さでホバリングを始めるとすぐに5匹の同じ大きさのはちが集まり東へと飛び去った。



 家を食い尽くされ辛うじて逃げだした住人達はモバイルフォンで911に通報した。



『はいこちら911の担当エレーナ・スザーレです』



「家がありの大群に襲われたんだ!」



『蟻の大群? 蟻ですか? 住所を』



「アトモア・ノースモア605番地」



『有害昆虫の駆除ですか?』



「そんな簡単な話じゃない!」



 ありのままを告げたがなかなか理解してもらえず、取りあえずパトロールを回すと言われ住人はそれで妥協した。



 通話を切り土台だけ残された家屋を前に途方に暮れる住人達はなくなった家や自家用車をなげき飛び去った昆虫の化け物がいつ舞い戻るかとおびえ時折空に視線を戻した。



 一方、911コールセンターには同様の申告が数軒あり対応に苦慮したが警察車輌からの報告でも家屋が崩壊しており原因となった黒いありの姿はなく飛び去った大型のはちの姿も見当たらなかった。











 その巨大なはちの一群は東のエグリン空軍基地と隣接するノースウエスト・フロリダ地域空港の地上機に襲いかかっていた。



 数匹の黒い巨大なはちは駐機した旅客機や軍用機に飛び付くと瞬く間に全体を覆い尽くし新たなはちを生みだし瞬く間に数十匹に増えた。



 空軍基地の警護隊兵士らが銃器で応戦するもブローニングM2重機関銃の50口径弾ですら効果がなく、1機2機と戦闘機や輸送機があり状の粒に覆い尽くされ呑み込まれる中、エンジンを始動していた機が火焔を上げるとはちは飛び離れ、逃げ遅れほのおあぶられたはちからこぼれ落ちたありらはバラバラに分かれ地上に逃げだした。それを集めるごとくはちらは交互に地表に降り立ち脚にありからませ拾い上げた。



 兵士らや旅客機の乗客は逃げ惑い騒ぎがピークに達すると短い襲撃は前触れもなくいきなり幕を下ろし巨大なはちの一群は飛び去った。基地指令が国防総省(DOD)に緊急の連絡を入れたのはその昆虫らがいなくなってからであり、メキシコ湾にとどがまっていたAWACSの400マイル(:約640km)のレーダー圏内を隠れる事もなくはちの群れは嘲笑あざわらう様に一直線に北西へかき消えた。



 レーダーに映るからには実在であり固形物ならミサイルで撃ち落とせると幾つかの基地よりFー22、Fー35、F-15、F-16──70機余りが迎撃に飛び立ったが機別のレーダーにはちら一群はとらえられず遅れて上がったAWACSの強力なレーダーをもってしても昆虫状の飛翔物を取り逃がしてしまった。



 後手に回った合衆国空軍は埋め合わせをするように10機のAWACSを合衆国の中、南部に飛ばし未確認飛翔物を捜し求めるも民間ATCトランスポンダと軍のIFFモード1、2の返ってくる信号ばかりでUNは向かった戦闘機の目視確認(チェック)でライトプレーンなどとはちの姿は見られなかった。



 どのみちはちらは音速の40倍という非常識の極超音速を出せる事が通達で知らされており米軍代表の中距離対空ミサイルAIMー120 スラマーの最大速度で10分の1、正対した場合でも信管動作の制約から破砕弾頭を浴びせる事が困難であるが飽和攻撃のまぐれ当たりを期待しての邀撃ようげき機の数を上げた。



 だがそれら努力も空振りに終わり2時間後には通常警戒に戻された。



 この時点で国防総省(DOD)は敵であるはち型飛翔体のサンプルすらなく打撃が不可能どころか索敵の時間余裕すらない事を理解しており空軍と海軍、陸軍、海兵隊の4軍では立ち向かうすべがなく、唯一の対抗手段がNDCの新型戦闘機の試作機しかなくその導入は議会の承認すら受けていなかった。











『──以上です』



「ご苦労さま」



 ルナからの連絡通信を切りNDC本社のマリア・ガーランドは眉根を寄せた。



 はち型の機体がロシアか中国の新型戦闘機という可能性をかんがみNDCの新型戦闘機シルフィに当ててきた事がわずかにも考えられるのはおおやけにその存在をさらし大西洋でロシアと合衆国海軍の戦闘機をたたき落としたからに他ならない。



 だが音速の40倍以上という速度を易々(やすやす)と達成できるとは思えず、その形状も飛行機離れしていると考えると安易に異界の怪物のたぐいかと考えかなぐり捨てた。



 何でもかんでも異界に結びつけるのは悪癖あくへきだと現実の範疇はんちゅうでと考え、行き詰まった。



 取りあえず被害は合衆国空軍の数機で試験模擬空中戦内の不慮の事故という事で国防総省(DOD)には補償を打診しておくべきだとマリーは事後策を決めはち型の航空機は意識の隅に追いやった。



「しかし相手が不明では軍も上げたこぶしのやりどころに困るだろう──」



 そうつぶやきマリーは仮想の敵機(アグレッサー)がロシアか中国の可能性を情報部に探らせる事でキーテレフォンの内線アイコンをタップし情報2課のレノチカを呼びだした。



「2課のレノチカを」



 わずかに呼び出し音が聞こえ相手が出た。



『はい2課のエレナ・ケイツです』



「レノチカ、今日メキシコ湾上空での仮想戦闘空域で米軍機が謎の機に落とされた事案をつかんでいるの?」



『それなら5課です。課長(GM)のハリー・スウィフトに代わります』



 すぐに課長が見当たらないのか声が聞こえるまでに十数秒の開きがあった。



『ハリー・Sです。社長(COO)、メキシコ湾のうちの試作機のデモ・アグレッサーの件ですね』



 レノチカがすでに伝えたらしかったが、内容が変わっていたのでマリーはもう一度説明する事になった。



「今日メキシコ湾上空での仮想戦闘空域で米軍機が謎の機に落とされた事案をつかんでいるの?」



『メキシコ湾の訓練空域で昆虫状の敵対機の件なら、AWACSが国防総省(DOD)に連絡した内容でしたら。社長(COO)、それ以外にエグリン空軍基地と隣接するノースウエスト・フロリダ地域空港が奇襲され民間機と軍用機に多数の被害が出ています』



 マリア・ガーランドは息を呑んだ。空軍基地や民間空港襲撃についてはルナはまったく触れていなかった。ルナが要点を抜かす事はない。なら空軍基地や民間空港襲撃は米軍機が落とされた後の事なのだ。



「概要をハリー」



『1314、かなり大きなはち状の飛行体が多数飛来し、エグリン空軍基地とノースウエスト・フロリダ地域空港に駐機していた30機ほどが破壊されました。15分ほどで昆虫らは逃走。国防総省(DOD)は迎撃しようとして他の基地から戦闘機を出しましたが失敗しています。元となったのは空港の西住宅から派生したはち状の飛翔体6体で、住宅を呑み込んだありが集合しはち状となったものが飛び去ったと出動した警察が報告しています』



 軍用のみならず民間にも被害を出していると知りマリア・ガーランドは視線を落とした。



 住宅を呑み込んだあり? そのありが集合しはち状となった!? 昆虫繋がりとは短絡的たんらくてきではないのか。一体、はちだのありだのマイクロマシンの集合体ではないのか。機械と言うのであれば受け入れられる気もするとマリーは思った。



「ハリー、そのありというありでないもののサンプルを入手できないか段取りを」



ありですか──捕まえて──探してみます』



 探して、捕まえるの間違いだと思いながらマリーはキーテレフォンの通話終了のアイコンをタップし違和感を抱いた。



 襲いかかって来ながら時を見て退路を開く。まるで威力偵察だと感じた。人が関与しているならそれもあり得るだろうけれども、異界のものなら知能があると警戒すべきだ。



 取りいて取り込んで新たな同族を構築できる。まるでバンパイアみたいだと思って否定した。バンパイアはものに取りいたりしない。あれは迷信の産物だ。



 機械や家屋かおくに取りいて取り込むなら迷信のたぐいではない。ルナが戻ったら重要懸案として対策を模索もさくしなければ。



 マリーは執務デスクを離れルナやヴィッキーがそのはちに取りかれないで良かったと思った。まあ精霊シルフィが具現化した戦闘機が取りかれたりする事もないだろう。それよりもポーランドでバイオウエポンにより怪物と化した女テロリストの件はどうなったのだと思いだした。フローラ・サンドランから受けていた情報だと多数の被害を出した後、行方をくらませたまま1週間以上たっていた。



 家を食らうありはちよりもそのバイオウエポンにより凶悪化した女テロリストの方がよほど物騒だった。大西洋を挟んでいるからといって油断大敵だった。女の怪物という報告からベルセキアを思いだしたがベスのコアは胸の中にあるので欧州のは別物だとマリーは思った。



 怖いのは人をも怪物に変える技術を人が持っているということ。シルフィー・リッツアの姉が生みだしたホムンクルスの魔術よりもよほど厄介やっかいだ。マリーは無害化したベルセキアとの死闘を思いだした。あんな事が度々(たびたび)あると身がもたない。







────本当にそうか?







 久しぶりのベルセキアの声にマリーは眉根寄せた。



「当たり前でしょう。人を戦闘フェチみたく言うなんて」



────われと戦いし時に胸弾まなかったなどと言わせるな。われは楽しかったぞ。



「ベス、それはあなたが戦闘狂だからよ。あなたを含めて人は自分の価値基準で物事を推し量ろうとするけれど、人は他人の立場になって推察することもできるのよ」



────だからわれに同情してくれたのか。



「同情、スオメタル・リッツアがあなたに課した仕打ちがあんまりだと感じたからよ」



────ありがとう。そこで代わりと言ってはなんだが。礼をしようと思う。



「礼なんて──気にしないで」



────この世界に妹がいることに最近気づいた。



「妹!? ベス冗談でしょう。スオメタル・リッツアの生みだした戦闘ホムンクルスは1体のはずよ」



────以前は不確かだったが、最近強く感じる様になった。われも1人だと聞かされていたので困惑している。喜べ。われは2人だ。



 マリア・ガーランドは寒気を感じて執務デスクに両手をついた。



 もしもベスの言ってる事が間違っていなければ、野放しの戦闘狂がいるという事になる。彼の言い回しから正確な位置や容姿などは不明でもベスの妹が存在しているのは確かだ。



「ベス、方角は?」



────あっちだ。



 マリーが上げた腕の向きは大西洋の方だった。



「距離は?」



────まだ遠い。600海里かいり(:約1111km)はある。



 海上だわとマリーは不安になった。ベスの説明からだと徐々に近づいてきているので海上──船で移動しているという事になる。



「ベス、1つ教えて。その妹からあなたも見えているの?」







────無論だ。







 それなら探さぬとも相手から近づいてくるという事だ。顔を合わせた直後、抱きしめあって喜びあえるとは思えなかった。もしもベルセキアと同じ戦闘力があるのなら相応にヒートする事が想定できた。



「ベス──妹は何を望むの?」



────勿論、力比べだろう。それをひしひしと感じるぞマリア。



 冗談じゃない。顔を合わせた瞬間にまた壮絶な争いになるなんて。だがベスが事情を知らなかった様にその妹も詳しい事を理解せずに探し求めてくるなら先手を打てる可能性があった。2対1での優勢だ。



────いや違うぞマリア。相手も2だ。2対2だ。





「ベス! どうして妹が2なの!? 誰かに取り込まれているの!?」





────ただ分かるとしか言いようがない。純粋な1体ではない。ピュアではないのだ。



 話が複雑になってきた。海路を利用するからには人の体をなしているのだろうが、ベスが容姿を好き勝手にできた様にその妹も人に成りすましている可能性があった。しかし寄りによってニューヨークにマンハッタンに来るなんて。ベスと戦った時にニューヨークとニュージャージーで多くの犠牲者が出た。その二の舞になるのだけは避けなければならない。船を特定して洋上で迎え撃つ事はできるだろうか。貨物船ならまだしも、客船ならとマリーは顔を強ばらせた。



 おおよその距離から船舶を特定できるかもしれない。



 マリア・ガーランドはデスクトップのキーテレフォンの内線通話アイコンをタップしてAIを呼びだした。



「2課のレノチカを」



『はい、エレナ・ケイツです』



「船舶を特定して。距離600海里かいり。寄港地ニューヨーク」



『2、3分お待ち下さい』



 見つけてどうするとマリーは葛藤かっとうした。ベスの事は誰にも話していなかった。シルフィー・リッツアに知られれば彼女と揉めるのは明白だからだ。



『MSCオリバー、地中海海運会社所有の大型コンテナ船です。ニューヨークへは53時間後にニューアーク入りします』



 どうする。貨物船だ。わずかな乗員の安全を確保して臨検するか。2日以内に決めなければならない。もしもベスの妹が密航していれば探しきれないかもしれない。





「レノチカ、洋上臨検を行う。セキュリティには人を探しての臨検で30分で出発。22名近接戦闘(CQB)装備と通達。私も立ち合う」





 さあ、さいは振った。被害者を最小限にする────そうマリア・ガーランドは決め込んだ。












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