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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #7
33/164

Part 7-3 Fury 怒り

Armored Reconnaissance Unit 1st Company 6th Squadron 1st Cavalry Regiment 1st Armored Division Ⅲ Corps Army Commands US.Army Company Training Ground Fort Bliss, TX. 20:39 Jul 13

7月13日20:39 テキサス州フォート・ブリス アメリカ陸軍 陸軍コマンド第3軍団第1機甲師団第6戦隊第1騎兵連隊第1中隊機甲偵察部隊の演習地





 M1A2エイブラムスの砲塔に入り込んだエイミー・キングスリー曹長(MSG)はまずM829A3を装填し尾栓を閉じた。



 続いてバッテリーが生きているか確かめた。エンジンが停止していてもオイルポンプをバッテリー駆動し砲塔旋回させる事ができるが、規定の電圧に達しておらず断念した。



 それでも手動で照準や発射はできる。ジャベリンを放ったハンヴィの方を見ると2体のさそりの化け物がおり何かを探すように見回していた。



 仲間を撃ち倒した敵を探しているのだ。



 ジャベリンで撃ち倒した怪物のいたハンヴィを見るともう1匹の怪物が倒れた兵士に向かって何かをしていた。先に倒すべきは近い2匹だとへエイミー・キングスリー曹長(MSG)は優先順位を決め砲塔を向けるためにトラバースハンドルをハイスピードに切り替え一生懸命に回し始めた。2分近くかかり砲塔を後方に向けると汗だくになった。別なハンドルでわずかに仰角を与え、怪物が元の場所にいることを信じて照準器を見た。



 空中から産み落とされたさそりの化け物の内2体はハンヴィのかたわらにまだいたのだ。



 その手前側の1頭に照準するためにトラバースハンドルと仰角ハンドルを微調整しマスターブラスタを回し点火エネルギーを蓄え今一度照準し上手くやれば1撃で2体を倒せると照準に2匹が重なる瞬間を待ち近い方の1匹の後方にもう1匹が重なった瞬間にトリガー・ボタンを押し込んだ。



 120ミリ滑空砲が甲高い爆轟を放ち5512フィート毎秒(:約1680m/s)で射出され装弾筒が分離した装弾筒付翼安定徹(APFSDS)甲弾は照準距離からほぼフラットな弾道でマック5近い音速で飛翔した。



 射撃後エイミー・キングスリー曹長(MSG)は急いで砲塔から出ると車列中ほどで号音が響き火花が散ったが命中を確認している余裕はなかった。車体添いに滑り降りてエンジンユニット後部に立てかけてあった対戦車ミサイル・ジャベリンの発射筒(ラウンド)2本とM98A2光学照準ユニ(CLU)ットをつかみM1エイブラムスから走って逃げた。



 さそりの化け物らは砲撃を行った場所に襲撃をかけて来るがそれは被害を受けなかった場合に限られる。ジャベリンで倒れるなら装弾筒付翼安定徹(APFSDS)甲弾でも甚大な被害を受けるはずだった。



 ミサイルをかわせないなら5倍以上の飛翔速度を持つM829A3をかわせるわけがない。



 キングスリー曹長(MSG)は6輌先のくすぶるハンヴィに辿たどり着くとボンネットバンパーに回り込み息を潜めた。これ以上遠くへ逃げようとすると走っているところを見られそうな気がしたしジャベリン2発を背負って息が続かなかった。



 ジャベリンの光学照準ユニ(CLU)ットのナイトモードで射撃したエイブラムスM1A2の方を見ると緑のモノトーンのシルエットで怪物は見られなかった。なら照準したハンヴィの方はと怪物の姿を探したがモノトーンの上に倍率が低くよくはわからなかった。1匹は間違いなく倒した。だが2匹目がエイブラムスにやって来てないという事は2匹を1撃で倒したと思っていいのかとキングスリー曹長(MSG)は思った。



 他の兵士らが数匹、合わせて4、5匹は倒したはずだった。



 いったい何匹いるのだろう。デザートのどこかに巣穴がありそこが車列に近かったのだろうか。



 わらわらと出て来られたらとてもじゃないが第1中隊の兵力では倒せない。



 そうだ! 無線で状況を報告すれば野戦砲や航空支援で叩ける。エイミー・キングスリー曹長(MSG)はジャベリンの発射筒(ラウンド)を地面に置いてハンヴィの助手席に回り込んだ。静かにそっとドアを開き手探りでシートを調べると野戦無線機が助手席の後ろの席に載ったままになっていた。



 暗がりでスイッチをまさぐっていてアンテナが付け根から折れている事に気づいた。



「そんなぁ──」



 ため息混じりにつぶやいたキングスリー曹長(MSG)はふとモバイルフォンを思いだした。急いでポケットからセリーを取り出し電源ボタンを押し込んだ。暗がりに顔が浮き出てその瞳が画面に食い入った。



 アンテナのバーが1本も立っていない。こんなデザートに中継局があるわけがなかった。



 もう一度無線機に意識を戻し火の手をあげてないエイブラムスにも無線機があるのを思いだした。だが暗がりとはいえ歩いて行く間にさそりの化け物に見つかりそうな気がした。ハンヴィの中にM4A1の予備弾倉を探し4本見つけ、乗員の安否を気遣った。



 そうして車外に出るとジャベリンの照準ユニットの夜間モードで車列の向きを確認し歩きだした。



 夜になっても荒れ地の熱気に風もなくいつ現れるかわからない怪物にビクつきながら荒れ地を歩いた。走りたかったがジャベリン発射筒(ラウンド)2本と照準ユニットは重く女では無理な相談だった。



「くそっ」



 小声で悪態をつきながら歩いていると石に足を取られ派手にひっくり返った。



「痛ぁ──痛たぁ」



 声を上げ慌てて言葉を飲み込んだ。暗がりにこうべ巡らせ星空を隔てる黒い上背のある化け物を探した。物音は車列で燃え弾ける車輌の音が不気味に聞こえるだけでビクついているのが馬鹿らしくなった。



 火の手は上がってないが傾いたM1エイブラムスをかわし前に出ると戦車はハンヴィにぶつかり片側のキャタピラーが地面から浮き上がっていた。



 エイミー・キングスリー曹長(MSG)は戦車のかたわらにジャベリン発射筒(ラウンド)と照準ユニットを下ろしその傾いた戦車の後方からよじ登り砲塔に上がり車長キューポラからハッチを引き上げて中に入り込んだ。入ってわかったが砲塔前部が大きく裂けて星空と地平線が見えていた。



 エイミーは車長用のパネルからヘッドセットをつかんで耳に当て電源を入れ通話ボタンを押した。



「フォート・ブリス──39アルファ、こちら31ブラボー第2分隊のエイミー・キングスリー曹長(MSG)。全小隊──第1中隊機甲偵察部隊増援地にて壊滅。敵は怪物です! 支援部隊を! 数名が命の危険にさらされています。オーヴァー」



『31ブラヴォー、こちら39アルファ。怪物の報告は入っている。敵は何体いる? オーヴァー』



「1匹じゃありません。もう4、5体倒しました。生存者は極めて危険な状態。至急支援部隊を! オーヴァー」



『31ブラヴォー、航空支援(CAS)を出す。座標は? オーヴァー』



「座標149リマ、エコー47(/GARS:米国防省で標準化された地理空間参照システム:32.001350 -105.709850)。オーヴァー」



 航空支援(CAS)なら助かる。だがアパッチがすでに来てるはずではないのかと考えジャンプするさそりに落とされたのだと腑に落ちた。



「パイロットらに警告を。怪物らはかなりの高さまでジャンプします。オーヴァー」



『警告する。2105まで持ちこたえろ31ブラヴォー。オーヴァー』



了解(コピー)39アルファ」



 20分、冗談じゃない。5分でさえ持ちこたえるか怪しいとエイミー・キングスリー曹長(MSG)は思った。長居しすぎた。破壊されたこのエイブラムスに怪物らが戻って来るかもしれなかった。



 曹長(MSG)はキューポラのハッチから顔を出して周囲を見回した。地面からの輻射熱に焼かれ汗が吹き出した。音はなくそれが逆に不信感を募らせた。車外に出てフェンダーから地面に飛び下りて車輌後部に置いたジャベリン発射筒(ラウンド)と光学照準ユニ(CLU)ットを拾い上げ、一旦、車列から離れる事にした30ヤードほど歩くといきなり後方で大きな鈍い音がしたのでキングスリー曹長(MSG)は足を止めた。砲塔の上のシルエットから何かが砲塔に乗っているのがわかった。



 さそり野郎だ!



 ジャベリンでねらうには近すぎた。



 キングスリー曹長(MSG)はゆっくりとそばのサボテンの陰に入り姿勢を下げ光学照準ユニ(CLU)ットのナイトモードでM1エイブラムスの砲塔を観察した。



 さそり野郎のいびつなシルエットが薄い白で確認できた。冷め始めたエイブラムスの方がかなり明るい白色だった。さそりの体温がかなり低い事を意味した。



 このままサボテンの陰で身を潜めるか。それともゆっくりと距離をとるか。車列からあと40ヤードも離れればジャベリンを撃ち込める。こちらが熱画像をたよる様にさそりの化け物も夜間の視力に特殊なものを持っている可能性があるが音さえ立てなければ見つからない様な気がした。よく見えていればもっと効率よく人を捕まえているとエイミー・キングスリー曹長(MSG)は決心してそっと腰を上げ後ずさり始めた。



 70ヤード(:約64m)余り。ダイレクトモードで命中させれば倒せる。10ヤード毎に光学照準ユニ(CLU)ットで怪物がエイブラムスの砲塔に乗っているのを確かめながらキングスリー曹長(MSG)は遠ざかっていた。



 あと10ヤードも下がれば有効射程を確保できる。3度目に光学照準ユニ(CLU)ットのアイカップをのぞくとエイブラムスの砲塔にいたさそり野郎がいなくなっていた。



「どこ!? どこに行ったの!?」



 狂った様に周りを見回した。







 胴を挟まれジャベリン発射筒を落とした。はさみの感触に怪物に捕まったのだとエイミー・キングスリーは息を絞りきりわめき声を上げた。









「くそう! くそったれ!!!」



 腕を振り回し外骨格の様に硬い腕を殴りつけ胴をつかむはさみをつかみ開こうとした。



 口を左右に開きさそりの化け物がひずんだ声で笑いとばした。笑うがいい。無様な人間を笑い飛ばせ。手榴弾2個のセーフティー・ピンを引き抜きその左右に開いた口に押し込ん腕で顔をかばった。



 爆轟と衝撃に地面に落ちて胸を叩きつけエイミー・キングスリーはあえいだ。顔をかばった腕に突き刺さった手榴弾の破片のせいで両腕が痛んだが興奮で痛みはにぶく感じた。



 ジャベリンだけが秘策ではない。



 手榴弾で倒したのは2体目だった。



 外皮が頑強でも開いた口はそうではない。



 落としたジャベリン発射筒と光学照準ユニ(CLU)ットのを拾い上げ息を荒げ走り始めた。



 もう1匹────もう1匹いると自分に拍車をかけた。



 次は対戦車ミサイ(ATM)ルで倒す。その為にも逃げなければ。爆発した場所をもう1匹が見たはずだ。奴らは倒された仲間の元に行き胸から何かを引き抜く。その瞬間をねらうんだ。



 100ヤードを一気に走り抜け肺と心臓が張り裂けそうだった。



 ジャベリンの光学照準ユニ(CLU)ットを発射筒に取り付け電源を入れ振り向いた。おおよその駆けてきた方向へ立ったまま向きを変えた。



 照準視界に倒れた怪物のそばにかしずいた別な化け物がいるのがほのかな白いシルエットで見えた。





「外すもんか!」





 そう吐き捨てトリガー・ボタンを押し込んだ。薄板を叩き合わせた音にコールドランチで飛びだしたジャベリン対戦車ミサイルが2ヤード離れメインサステーナに点火し加速しだした。近距離でも1度高度をとりそこから斜めに落ちるように駆け下りてゆく。サーマルイメージのさそり野郎が一瞬真っ白に輝いて爆轟が聞こえてきた。



 終わった。



 エイミー・キングスリー曹長(MSG)は地面に座り込み脱力感に肩を落とし光学照準ユニ(CLU)ットを放りだした。



 さそり野郎は恐らく5、6体いたのだ。



 安堵あんどから手榴弾で怪我をしている腕が痛みだした。



 遠雷の様な音に顔を上げるとハンヴィに乗り上げたM1エイブラムスの周囲に放電を広げる青紫の輝きの球体が3つ広がりそれぞれがハンヴィを飲み込める大きさに拡大するとそれがいきなり消えて静かな闇夜に戻った。



 エイミー・キングスリー曹長(MSG)は生唾を飲み込み暗がりを見つめた。



 手探りで光学照準ユニ(CLU)ットを拾い上げサーマルイメージで暗がりの中にM1エイブラムスを探しだした。





 すべて倒したはずの怪物の淡いシルエットが揺れ動いていた。





「そんなぁ────」





 もうジャベリン対戦車ミサイルは残っていなかった。落胆らくたんが重くのしかかって気力が失せた。化け物の巣穴が地面にあるぐらいに思っていた。空中から現れていたとは思いもしなかった。切りがない。3体倒すと3体現れる。6体倒すとまた3体現れる。



 エイミー・キングスリー曹長(MSG)は立ち上がると車列に背を向け歩きだした。



 手持ちの武器はM4A1カービンとM17ハンドガンだけしかない。これ以上ここにいても勝ち目はなかった。陽が上る前に遠くに離れておかなければ容易に見つかってしまう気がした。



 偵察中隊と31ブラボー中隊それに航空支援(CAS)に来ていたヘリ小隊も壊滅した。



 暗がりのデザートを歩きだして十数分。岩のようなシルエットを避けようとして足元を取られ倒れそうになった。モバイルフォンを取り出しそのライトで確かめると傾いたヘリのローター翼の1枚に足をひっかけていた。本体を照らすとAHー64Eアパッチ・ガーディアンだった。キャノピィはなくなり乗員の姿はなかったが、両翼のヘルファイア対装甲ミサイルは8発すべて残っていた。



 ジャベリンよりも大きな対戦車ミサイルが8発もあるのだ。



 エイミー・キングスリー曹長(MSG)はなんとかミサイルを使えないか頭をひねり始めた。



 まずヘリの向きが車列からそれていた。



 曹長(MSG)はアパッチの後部に回り込み向きを変えられないか尾部降着装置のフレームをつかみ持ち上げてみた。わずかに尾部が持ち上がり少しずつなら向きが変えられる事がわかり十数回繰り返し歩いて来た方向へ機首を向けた。



 後はコクピットだと機を照らしてみると右エンジンとメインローター基部が大きく裂けていた。M1エイブラムスの砲塔を引き裂いた怪物らのむちの様な武装を思いおこした。



 エイミー・キングスリー曹長(MSG)はどこからコクピットに上がればいいのかと左翼から見回し右翼へ行くと張り出し──スポンソンの後席下にステップの1段を見つけそこに足をかけコクピットフレームをつかみスポンソンに上がり射手の前席に入り込んだ。



 電源は入ったままでモニタや計器類の照明はほのかに点いたままだった。



 問題はアパッチのガンナー席に座る事など初めてなのでスイッチ類やミサイルの発射手順などを知らないという事だった。彼女はまず左右にある液晶パネルの左モニタから触れ始めた。モニタの外枠にあるスイッチを順に押してゆくと画面が様々に変わりだした。表示される略号が何を意味するのかわからないままに画面を切り替えてみると兵装画面と思われるものを見つけ出した。



 兵装画面を見つけだしたものの今度はどうやればヘルファイア対装甲ミサイルを選べるのかスイッチ類を順に押し込んでゆくが画面周囲のスイッチでは切り替わらずその左右にある操縦桿の様なORTスティックのスイッチを操作してみたが思うようにならなかった。



 どのみちエンジンが停止している状況で発射できるのかも不確かで、しかも特殊なヘルメットがないので攻撃対象をどうやって指示するのかもわからない。



 やっぱり無理かと考えエイミー・キングスリー曹長(MSG)はアパッチでの攻撃をあきらめシートから腰を上げコクピットから抜け出した。



 機体側面のスポンソンから下りてヘルファイア対戦車ミサイルのシルエットを恨めしげに見つめアパッチを後にした。



 もう被害はでるだけ出たのだ。この時点で2、3体倒せたところで死者が生き返るわけでもない。



「くそったれ!」



 忌々(いまいま)しさを吐き捨て戦場に背を向ける事を良しとしなかった。



 まだ使えるエイブラムスは残ってる。



 あそこに戻ってM829A3を撃ち込めば新手を倒せる。



 エイミー・キングスリー曹長(MSG)は苦笑いを浮かべ車列の方へ引き返し始めた。












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