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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #6
28/164

Part 6-3 FGM-148 Javelin ジャベリン対戦車ミサイル

Armored Reconnaissance Unit 1st Company 6th Squadron 1st Cavalry Regiment 1st Armored Division Ⅲ Corps Army Commands US.Army Company Training Ground Fort Bliss, TX. 20:19 Jul 13

7月13日20:19 テキサス州フォート・ブリス アメリカ陸軍 陸軍コマンド第3軍団第1機甲師団第6戦隊第1騎兵連隊第1中隊機甲偵察部隊の演習地





 揺すられていた。



 すえた匂いに意識が戻ると怪物の脇に抱きかかえられていた。



 そう──怪物の顔を手榴弾で吹き飛ばしたのにエイブラムス操縦士のエイミー・キングスリー曹長(MSG)はまだはさみで挟まれ身動きが取れなかった。



 さそりの様な怪物1体の顔を手榴弾で粉々にしたはずなのに────別のもう1体に捕まったのだ。



 少佐(MAJ)は!? とエイミーは思いだしてもがき横を見ると別なはさみにアンドリー・ヘイゼル少佐(MAJ)が挟まれぐったりしていた。



 酢の様なすえた匂いが鼻をついた。それが怪物のものだとなんとなく気づいた。どこかに運ばれていた。キングスリー曹長(MSG)は化け物から逃れようともがき続けた。はさみの拘束こうそく具はあまりにも頑強がんきょうで緩みそうになかった。



 そうだ銃がある。ホルスターにM17(ハンドガン)が。エイミーははさみの外からなんとか手を伸ばしホルスターに指が届いた。フリップを外しM17を引き抜くと怪物の顔をねらおうと顔を上げ怪物の顔を確かめようとした。揺れに首の定かでない頭部に照準できそうにない。



 曹長(MSG)はさみに繋がる腕の付け根に銃口を押し付けた。



 引き金を引いて1発が食い込むと続けて連射した。7発目にはさみが緩むとエイミー・キングスリーは地面に落とされ肺の空気を絞り出し現実だと思い知った。



 顔を振り上げて星明かりに照らされた怪物のシルエットを見上げエイミーはハンドガンを振り上げた。



 脇に7発も撃ち込んだのに怪物は立ち止まり振り向いていた。出来れば手榴弾を投げつけたかったがもう持っていなかった。



 7発も撃たれればグリズリーでもひるむだろう。だがこの巨大(さそり)は痛みの素振りすら見せない。撃つなら砲弾じゃないとと思いながらキングスリー曹長(MSG)後退あとずさった。



 エイミーは特番でやっていたニューヨークの怪物を思い出しながら肩に載った怪物の頭部へ照準し連射した。夢中で今になって気づくと首に負い革(スリング)でM4A1をぶら下げていた。



 地面に座り込み肩付けしたアサルトライフルの銃身を振り上げフルオートに切り替え撃ち始めた。



 さそりの側頭部に火花が散りつかんでいた少佐(MAJ)はさみから落としその両腕のはさみで顔をかばうと怪物が進み出てきた。その直後曹長(MSG)はアサルトライフルを撃ち尽くし彼女は慌ててポーチから予備弾倉を引き抜き空の弾倉を落とし新しいものをたたき込んでチャージングハンドルを引き放った。



 顔をかばうのは弱点だからだ。1匹目も手榴弾で顔を破壊し殺した。エイミー・キングスリーは回り込みはさみの陰になっていた顔が見えるとまた撃ち始めた。



 顔とはさみから多量の火花が飛び散り弾の多くが跳弾ちょうだんしている事に今になって気づいた。銃弾(ブレット)が銃創から体内に入ってない!? それで致命傷とはならないのだと曹長(MSG)は気づいた。



 端を狙っていなかった。横倒した枕ほどもある顔の中央を狙っているのだ。外すほどの距離でもない。なのに命中しない。



「ジーザス! どうなってるの!?」



 後退あとずさらない敵を撃ち続けつぶやいたエイミーは意識を戻さない少佐(MAJ)の戦闘服をつかむと後ろに引っ張りだした。その目前で片腕のはさみを大振りしそれ(・・)はエイミー・キングスリーのアサルトライフルを弾き飛ばした。



 どうするの!?



 そう曹長(MSG)が思った刹那せつな返されたはさみに再びとらわれその激痛に彼女はった。少佐(MAJ)だけでも逃がしてやりたいと思ったエイミーはすでにアンドリー・ヘイゼル少佐(MAJ)が事切れている事を知らなかった。



 星明かりでかすかにしか見えないが怪物は動かないアンドリー・ヘイゼル少佐(MAJ)はさみでつかみあげた。











「どうだ? 捉えているか」



「ばっちりです」



「エイミー・キングスリー曹長(MSG)に当てずに狙えるか?」



 M110E1SDMR狙撃銃を構えるカッパー・ウィルソン伍長(CPL)そばでナイトヴィジョンで確認しているストレイヤー・ホプキンズ大尉(CPT)は救援隊を襲った怪物から襲撃されたハンヴィから逃れる事ができ怪物の行動を追い続けていた。



「よし! 撃て」



「アイサー、大尉(CPT)



 AN/PASー13Cを使い伍長(CPL)は怪物の側頭部に照準していた。歩き揺れ動く怪物の頭に合わせタイミングを取っていたマークスマンはゆっくりとトリガーのファーストステージまで人さし指を引き頭の揺れが戻ってくる直前にセカンドステージまで引ききった。



 抑制器(サプレッサ)に減音されても大きな射撃音にM118LR弾が射出され330ヤードを飛翔しそれ(・・)の側頭部をヒットした。衝撃にかすかに上半身を揺すったもののそれ(・・)は歩むのを止めようとはしなかった。



「引き続き撃て!」



「アイサー、大尉(CPT)



 命じられカッパー・ウィルソン伍長(CPL)は連射し始めた。



 5発が頭部に命中すると怪物は歩むのを止めはさみにつかんでいた兵士を2人放り出し振り向いた。



「移動するぞ伍長(CPL)



「アイサー、大尉(CPT)



 大尉(CPT)伍長(CPL)は怪物の跳躍ちょうやく力を知っていた。その移動力で短時間に増援部隊は壊滅したのだった。腹ばいの姿勢から身を起こし2人は横へ走り始めた。直後(さそり)の化け物は尻尾を地に叩きつけ砂塵を巻き上げ飛び上がると一瞬で2人の兵がいた場所に降り立った。



 素早く200フィート離れていた2人はこの瞬間を待っていた。



 怪物が手ぶらの状態。



 発射ラウンドを肩に担いだ大尉(CPT)ジャベリン(FGMー148)で照準していた。一瞬のチャンスにコールドランチされ飛び出した対戦車ミサイルはメインサステーナの暴力的な推力により1秒余りで怪物の胴体に命中しその背から火焔とメタルジェットが噴き出した。



 怪物は一歩踏み出したがそのまま両のはさみを地面に落としうつ伏せに倒れ砂を巻き上げた。



「やったぞ! 倒したぞ!!」



大尉(CPT)やりましたよ!!!」



「カル、もう1体いたはずだ。燃え上がってないハンヴィへジャベリンを取りに向かうぞ」



 2人が後にした場所に数秒後、砂塵が舞い上がり別なそれ(・・)が飛び下りてきた。



 ハンヴィに向かうストレイヤー・ホプキンズ大尉(CPT)もカッパー・ウィルソン伍長(CPL)も3体目のそれ(・・)に追われているとは思いもしなかった。









 3体目のそれ(・・)は対戦車ミサイルに倒れた仲間のところへ行くとむくろ背の孔へ手を差し入れ紫色に明滅するコアを取りだした。



 コアは欠損していたが得られた情報に原住民(アルケティトス)絡繰からくり──で大して速くはないが破壊力の大きな武装(アールメド)があることをそれ(・・)は知った。共有前の情報であり近隣に共有情報を持つレイジョ(レギオン)がいなくなった今ではとても有益ゆうえきだった。



 では近辺に絡繰からくりを持つ原住民(アルケティトス)の生き残りがいる事をそれ(・・)は理解し索敵を開始しした。ほどなくオチデンタリス(西)へ駆ける原住民(アルケティトス)2体を見つけからだを曲げ力を解放しその先へと跳躍ちょうやくした。









 一方、エイブラムス操縦士のエイミー・キングスリー曹長(MSG)はよろめきながらも立ち上がり倒れたままのアンドリー・ヘイゼル少佐(MAJ)へと歩み寄ると揺すり起こそうとした。そう離れていない場所で爆発が起きたが敵のものとも見方のものともわからぬ状況でもたもたとしていられなかった。



 一向に目覚めない少佐(MAJ)の首に触れ脈がないことに気づいたキングスリー曹長(MSG)は呼吸もないのを確かめ爆発が起きた方位とは逆の方へ歩き始めた。彼女もまた燃え残ったハンヴィに行けば何か武器が残っているかもと考えていた。ジャベリンでも手に入れれば心強い。



「くそっ、さそり野郎」



 悪態を吐き捨てエイミー・キングスリーは爆発は砲弾やミサイルがほのおで誘爆したのだと思った。この状況で生き残って戦っているものなどあろうはずがなかった。ニューヨークで警官や海兵隊がてこずった怪物とテキサスで戦う事となった。ニューヨークと違うのは逃げ惑う巻き添えの民間人はおらず、戦いのプロフェッショナルだけが相手をしてそれなのにこの状況はなんだ。



 たった数体の化け物に数小隊の対装甲部隊が壊滅していた。



 だが生き物。対戦車ミサイルに耐えられるわけがない。



「ジャベリン──ジャベリンATM────」



 つぶやきながらエイブラムスの陰に横転しているハンヴィへと辿たどり着いた曹長(MSG)は荷台へ回り込んでニヤついた。











 くすぶってる汎用四輪駆動車へあと20ヤードと迫り急いた足音を殺した矢先にその屋根に飛び下りてきた怪物に驚いて立ち止まったストレイヤー・ホプキンズ大尉(CPT)の背にM110E1SDMR狙撃銃をぶつけカッパー・ウィルソン伍長(CPL)は立ち止まった。



 それ(・・)はハンヴィの屋根を潰し2人を見下ろしていた。



 M17ハンドガンを引き抜いて撃ち始めた大尉(CPT)の脇に出てカッパー・ウィルソン伍長(CPL)は狙撃銃を連射しだした。その2人の銃弾(ブレット)を受けはさみでかばう事もせずに赤い複眼で睨みつけていた。



 不規則に弾倉が空になり9ミリやM118LR弾だけの銃撃になってもその怪物は動きだそうとしない。いよいよ2人揃って弾倉が空になるとそれ(・・)はさみ振り上げボンネットに下りてきた。



 弾倉を換え銃口を振り上げた刹那せつな、暗闇から空気引き裂く爆音を放つ火焔が飛んできた。その寸秒怪物の胸元にそれがぶつかると背から火花を吹き出し化け物がボンネットから落ち2人の男らは驚いて跳び退いた。



「い、今のATMじゃないんですか!?」



 カッパー・ウィルソン伍長(CPL)に問われストレイヤー・ホプキンズ大尉(CPT)は上擦った声で認めた。



「た、多分そうだが、くっ、くたばったか確かめるぞ」



 怪物の背に開いた射出創はまだ高温のジェットライナーの影響で真っ赤な熱を帯びていた。その穴の中間で紫色に明滅するソフトボール大の球体が見え大尉(CPT)は生唾を呑み込んだ。



「カッパー、ヤバそうだ。明滅してるのは爆発物かも────」



 男らが顔を見合わせきびすを返し走りだした後方で突如とつじょハンヴィの周囲空気がゆがみ始め放電の青白い火花が飛び散りだすとその3つの空間開口部から3体のレイジョ(レギオン)が抜け落ちた。



 その1体がハンヴィの前に倒れた同胞へ近寄ると触肢を背の穴に差し込みコアを引き抜いた。はさみから無数の触手がコアを被うとこの世界に入ってからの最初からの状況を共有した。





 須臾しゅゆ、前方からほのおが飛んできた。目視できる速度で飛んでくる強力な武装(アールメド)とはこれだ!





 素早く両手のはさみを重ね合わせその甲で火焔を受け止めた寸秒衝撃にはさみは砕け散り顔を火焔のスピアが蹂躙じゅうりんした。



 はさみ2つと顔の半分を失いそれでもそのレイジョ(レギオン)は立っていた。胴や腕が紫色に小波始め無数のありの様に移動し損害した部分を被うと元の形状を取り戻した。攻撃を受けなかった2体も情報を受け取りコアに近い部分に損害を受けなければ恐れるに足りない原住民(アルケティトス)武装(アールメド)だと知った。



 だが威力偵察を行う3体がこうも容易たやすく倒されるのは問題だった。



 襲撃を受けたレイジョ(レギオン)は即座に別のそれら(・・・)と意識の共有化をはかり2体が火焔放つ攻撃兵器を放った原住民(アルケティトス)の方へ、1体が直前に逃げだした原住民(アルケティトス)へとねらいつけ尻尾を地面に叩きつけ跳躍ちょうやくした。



 眼下の光景をそれぞれ(・・・・)が共有する。



 まず2つの原住民(アルケティトス)の駆ける目前に着地したそれ(・・)は小型の絡繰からくりで物理攻撃を受けたが2つを殴り飛ばした。



 ぎ払ったそれ(・・)はこんなひ弱な種族に3体も同族が負けたのが信じられなかった。



 火焔を引き伸ばし飛んできた何かはたった今飛礫つぶてを放った絡繰からくりよりも大きかった。大きさで勝る絡繰からくりがより強い力を持つなら、原住民(アルケティトス)はさらに大きな絡繰からくりを組んでいる可能性があった。



 女王に危害がかかるリスクは避けねばならぬが、そのリスクを調べるための威力偵察だった。



 ここの原住民(アルケティトス)がどの程度の絡繰からくりを操るのか攻めてみなければ分からず、思考中枢を触肢で調べねば対策が立てられない。



 それ(・・)は殴り飛ばした原住民(アルケティトス)の1つへ向かいいずって逃げようとする背を踏みつけ自由を奪った。そうして触肢から検針を伸ばし後頭部から差し込んだ。



 原住民(アルケティトス)の軍団の概念や武装(アールメド)の事をすでに第1陣のコアとの共有化で知っていたそれ(・・)はさらに大型の絡繰からくりがあることに驚いた。それは大規模な破壊力を有し基礎となる営巣をも一撃の元に破壊する。



 だが空間を曲げる術をここの原住民(アルケティトス)が持たぬ事は不幸中の幸いだった。



 脳という神経系中枢から乱暴に検針を引き抜くと、近くに倒れ動かないもう1つの原住民(アルケティトス)へと向かった。











 命中したぞ! やった!



 ハンヴィからうつ伏せに落ちた怪物を暗視装置で見ていたエイミー・キングスリー曹長(MSG)はその汎用輪駆動車の周囲がゆがみまるで空中から産み落とされる様に新たな3体の化け物が現出したので顔を引きらせた。彼女がジャベリン・ユニットを引き抜いたハンヴィには後2発のラウンドしかなかった。



 1発で1体倒しても次々に現れたらジャベリンが尽きてしまうし今の時点で1発足りない。



 キングスリ曹長(MSG)は光学ユニットを空になったラウンドから取り外し。荷台にある2発のラウンドの負い革(スリング)で背にかつぐと急いで別のハンヴィの所へ走った。



 タンデム成形炸薬弾頭で効果があるならもしかしたら命中させれたら120ミリの翼付き鉄鋼弾(APFSDS)で倒せるかもとエイミー・キングスリーは思い向きを変え斜めに傾いたエイブラムスの方へ駆けた。



 電源さえ生きていれば1人ででも装填、発砲ができる。



 撃って即座に他の車輌に移動すればいい。



 曹長(MSG)はエンジンユニットの際にジャベリンの発射ユニットを置くとトラックベルトの転輪にブーツの爪先を引っ掛け砲塔のパックリ開いたエイブラムスによじ登り戦車長ハッチから内部に潜り込んだ。












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