Part 6-3 FGM-148 Javelin ジャベリン対戦車ミサイル
Armored Reconnaissance Unit 1st Company 6th Squadron 1st Cavalry Regiment 1st Armored Division Ⅲ Corps Army Commands US.Army Company Training Ground Fort Bliss, TX. 20:19 Jul 13
7月13日20:19 テキサス州フォート・ブリス アメリカ陸軍 陸軍コマンド第3軍団第1機甲師団第6戦隊第1騎兵連隊第1中隊機甲偵察部隊の演習地
揺すられていた。
すえた匂いに意識が戻ると怪物の脇に抱きかかえられていた。
そう──怪物の顔を手榴弾で吹き飛ばしたのにエイブラムス操縦士のエイミー・キングスリー曹長はまだ鋏みで挟まれ身動きが取れなかった。
蠍の様な怪物1体の顔を手榴弾で粉々にしたはずなのに────別のもう1体に捕まったのだ。
少佐は!? とエイミーは思いだしてもがき横を見ると別な鋏みにアンドリー・ヘイゼル少佐が挟まれぐったりしていた。
酢の様なすえた匂いが鼻をついた。それが怪物のものだとなんとなく気づいた。どこかに運ばれていた。キングスリー曹長は化け物から逃れようともがき続けた。鋏みの拘束具はあまりにも頑強で緩みそうになかった。
そうだ銃がある。ホルスターにM17が。エイミーは鋏みの外からなんとか手を伸ばしホルスターに指が届いた。フリップを外しM17を引き抜くと怪物の顔を狙おうと顔を上げ怪物の顔を確かめようとした。揺れに首の定かでない頭部に照準できそうにない。
曹長は鋏みに繋がる腕の付け根に銃口を押し付けた。
引き金を引いて1発が食い込むと続けて連射した。7発目に鋏みが緩むとエイミー・キングスリーは地面に落とされ肺の空気を絞り出し現実だと思い知った。
顔を振り上げて星明かりに照らされた怪物のシルエットを見上げエイミーはハンドガンを振り上げた。
脇に7発も撃ち込んだのに怪物は立ち止まり振り向いていた。出来れば手榴弾を投げつけたかったがもう持っていなかった。
7発も撃たれればグリズリーでも怯むだろう。だがこの巨大蠍は痛みの素振りすら見せない。撃つなら砲弾じゃないとと思いながらキングスリー曹長は後退さった。
エイミーは特番でやっていたニューヨークの怪物を思い出しながら肩に載った怪物の頭部へ照準し連射した。夢中で今になって気づくと首に負い革でM4A1をぶら下げていた。
地面に座り込み肩付けしたアサルトライフルの銃身を振り上げフルオートに切り替え撃ち始めた。
蠍の側頭部に火花が散りつかんでいた少佐を鋏みから落としその両腕の鋏みで顔を庇うと怪物が進み出てきた。その直後曹長はアサルトライフルを撃ち尽くし彼女は慌ててポーチから予備弾倉を引き抜き空の弾倉を落とし新しいものを叩き込んでチャージングハンドルを引き放った。
顔を庇うのは弱点だからだ。1匹目も手榴弾で顔を破壊し殺した。エイミー・キングスリーは回り込み鋏みの陰になっていた顔が見えるとまた撃ち始めた。
顔と鋏みから多量の火花が飛び散り弾の多くが跳弾している事に今になって気づいた。銃弾が銃創から体内に入ってない!? それで致命傷とはならないのだと曹長は気づいた。
端を狙っていなかった。横倒した枕ほどもある顔の中央を狙っているのだ。外すほどの距離でもない。なのに命中しない。
「ジーザス! どうなってるの!?」
後退さらない敵を撃ち続け呟いたエイミーは意識を戻さない少佐の戦闘服をつかむと後ろに引っ張りだした。その目前で片腕の鋏みを大振りしそれはエイミー・キングスリーのアサルトライフルを弾き飛ばした。
どうするの!?
そう曹長が思った刹那返された鋏みに再びとらわれその激痛に彼女は仰け反った。少佐だけでも逃がしてやりたいと思ったエイミーはすでにアンドリー・ヘイゼル少佐が事切れている事を知らなかった。
星明かりで微かにしか見えないが怪物は動かないアンドリー・ヘイゼル少佐を鋏みで掴みあげた。
「どうだ? 捉えているか」
「ばっちりです」
「エイミー・キングスリー曹長に当てずに狙えるか?」
M110E1SDMR狙撃銃を構えるカッパー・ウィルソン伍長の傍でナイトヴィジョンで確認しているストレイヤー・ホプキンズ大尉は救援隊を襲った怪物から襲撃されたハンヴィから逃れる事ができ怪物の行動を追い続けていた。
「よし! 撃て」
「アイサー、大尉」
AN/PASー13Cを使い伍長は怪物の側頭部に照準していた。歩き揺れ動く怪物の頭に合わせタイミングを取っていたマークスマンはゆっくりとトリガーのファーストステージまで人さし指を引き頭の揺れが戻ってくる直前にセカンドステージまで引ききった。
抑制器に減音されても大きな射撃音にM118LR弾が射出され330ヤードを飛翔しそれの側頭部をヒットした。衝撃に微かに上半身を揺すったもののそれは歩むのを止めようとはしなかった。
「引き続き撃て!」
「アイサー、大尉」
命じられカッパー・ウィルソン伍長は連射し始めた。
5発が頭部に命中すると怪物は歩むのを止め鋏みにつかんでいた兵士を2人放り出し振り向いた。
「移動するぞ伍長」
「アイサー、大尉」
大尉と伍長は怪物の跳躍力を知っていた。その移動力で短時間に増援部隊は壊滅したのだった。腹ばいの姿勢から身を起こし2人は横へ走り始めた。直後蠍の化け物は尻尾を地に叩きつけ砂塵を巻き上げ飛び上がると一瞬で2人の兵がいた場所に降り立った。
素早く200フィート離れていた2人はこの瞬間を待っていた。
怪物が手ぶらの状態。
発射ラウンドを肩に担いだ大尉はジャベリンで照準していた。一瞬のチャンスにコールドランチされ飛び出した対戦車ミサイルはメインサステーナの暴力的な推力により1秒余りで怪物の胴体に命中しその背から火焔とメタルジェットが噴き出した。
怪物は一歩踏み出したがそのまま両の鋏みを地面に落としうつ伏せに倒れ砂を巻き上げた。
「やったぞ! 倒したぞ!!」
「大尉やりましたよ!!!」
「カル、もう1体いたはずだ。燃え上がってないハンヴィへジャベリンを取りに向かうぞ」
2人が後にした場所に数秒後、砂塵が舞い上がり別なそれが飛び下りてきた。
ハンヴィに向かうストレイヤー・ホプキンズ大尉もカッパー・ウィルソン伍長も3体目のそれに追われているとは思いもしなかった。
3体目のそれは対戦車ミサイルに倒れた仲間のところへ行くと骸背の孔へ手を差し入れ紫色に明滅するコアを取りだした。
コアは欠損していたが得られた情報に原住民の絡繰──で大して速くはないが破壊力の大きな武装があることをそれは知った。共有前の情報であり近隣に共有情報を持つレイジョがいなくなった今ではとても有益だった。
では近辺に絡繰を持つ原住民の生き残りがいる事をそれは理解し索敵を開始しした。ほどなくオチデンタリスへ駆ける原住民2体を見つけ躯を曲げ力を解放しその先へと跳躍した。
一方、エイブラムス操縦士のエイミー・キングスリー曹長はよろめきながらも立ち上がり倒れたままのアンドリー・ヘイゼル少佐へと歩み寄ると揺すり起こそうとした。そう離れていない場所で爆発が起きたが敵のものとも見方のものともわからぬ状況でもたもたとしていられなかった。
一向に目覚めない少佐の首に触れ脈がないことに気づいたキングスリー曹長は呼吸もないのを確かめ爆発が起きた方位とは逆の方へ歩き始めた。彼女もまた燃え残ったハンヴィに行けば何か武器が残っているかもと考えていた。ジャベリンでも手に入れれば心強い。
「くそっ、蠍野郎」
悪態を吐き捨てエイミー・キングスリーは爆発は砲弾やミサイルが焔で誘爆したのだと思った。この状況で生き残って戦っているものなどあろうはずがなかった。ニューヨークで警官や海兵隊がてこずった怪物とテキサスで戦う事となった。ニューヨークと違うのは逃げ惑う巻き添えの民間人はおらず、戦いのプロフェッショナルだけが相手をしてそれなのにこの状況はなんだ。
たった数体の化け物に数小隊の対装甲部隊が壊滅していた。
だが生き物。対戦車ミサイルに耐えられるわけがない。
「ジャベリン──ジャベリンATM────」
呟きながらエイブラムスの陰に横転しているハンヴィへと辿り着いた曹長は荷台へ回り込んでニヤついた。
燻ってる汎用四輪駆動車へあと20ヤードと迫り急いた足音を殺した矢先にその屋根に飛び下りてきた怪物に驚いて立ち止まったストレイヤー・ホプキンズ大尉の背にM110E1SDMR狙撃銃をぶつけカッパー・ウィルソン伍長は立ち止まった。
それはハンヴィの屋根を潰し2人を見下ろしていた。
M17ハンドガンを引き抜いて撃ち始めた大尉の脇に出てカッパー・ウィルソン伍長は狙撃銃を連射しだした。その2人の銃弾を受け鋏みで庇う事もせずに赤い複眼で睨みつけていた。
不規則に弾倉が空になり9ミリやM118LR弾だけの銃撃になってもその怪物は動きだそうとしない。いよいよ2人揃って弾倉が空になるとそれは鋏み振り上げボンネットに下りてきた。
弾倉を換え銃口を振り上げた刹那、暗闇から空気引き裂く爆音を放つ火焔が飛んできた。その寸秒怪物の胸元にそれがぶつかると背から火花を吹き出し化け物がボンネットから落ち2人の男らは驚いて跳び退いた。
「い、今のATMじゃないんですか!?」
カッパー・ウィルソン伍長に問われストレイヤー・ホプキンズ大尉は上擦った声で認めた。
「た、多分そうだが、くっ、くたばったか確かめるぞ」
怪物の背に開いた射出創はまだ高温のジェットライナーの影響で真っ赤な熱を帯びていた。その穴の中間で紫色に明滅するソフトボール大の球体が見え大尉は生唾を呑み込んだ。
「カッパー、ヤバそうだ。明滅してるのは爆発物かも────」
男らが顔を見合わせ踵を返し走りだした後方で突如ハンヴィの周囲空気が歪み始め放電の青白い火花が飛び散りだすとその3つの空間開口部から3体のレイジョが抜け落ちた。
その1体がハンヴィの前に倒れた同胞へ近寄ると触肢を背の穴に差し込みコアを引き抜いた。鋏みから無数の触手がコアを被うとこの世界に入ってからの最初からの状況を共有した。
須臾、前方から焔が飛んできた。目視できる速度で飛んでくる強力な武装とはこれだ!
素早く両手の鋏みを重ね合わせその甲で火焔を受け止めた寸秒衝撃に鋏みは砕け散り顔を火焔のスピアが蹂躙した。
鋏み2つと顔の半分を失いそれでもそのレイジョは立っていた。胴や腕が紫色に小波始め無数の蟻の様に移動し損害した部分を被うと元の形状を取り戻した。攻撃を受けなかった2体も情報を受け取りコアに近い部分に損害を受けなければ恐れるに足りない原住民の武装だと知った。
だが威力偵察を行う3体がこうも容易く倒されるのは問題だった。
襲撃を受けたレイジョは即座に別のそれらと意識の共有化をはかり2体が火焔放つ攻撃兵器を放った原住民の方へ、1体が直前に逃げだした原住民へと狙いつけ尻尾を地面に叩きつけ跳躍した。
眼下の光景をそれぞれが共有する。
まず2つの原住民の駆ける目前に着地したそれは小型の絡繰で物理攻撃を受けたが2つを殴り飛ばした。
薙ぎ払ったそれはこんなひ弱な種族に3体も同族が負けたのが信じられなかった。
火焔を引き伸ばし飛んできた何かはたった今飛礫を放った絡繰よりも大きかった。大きさで勝る絡繰がより強い力を持つなら、原住民はさらに大きな絡繰を組んでいる可能性があった。
女王に危害がかかるリスクは避けねばならぬが、そのリスクを調べるための威力偵察だった。
ここの原住民がどの程度の絡繰を操るのか攻めてみなければ分からず、思考中枢を触肢で調べねば対策が立てられない。
それは殴り飛ばした原住民の1つへ向かい這いずって逃げようとする背を踏みつけ自由を奪った。そうして触肢から検針を伸ばし後頭部から差し込んだ。
原住民の軍団の概念や武装の事をすでに第1陣のコアとの共有化で知っていたそれはさらに大型の絡繰があることに驚いた。それは大規模な破壊力を有し基礎となる営巣をも一撃の元に破壊する。
だが空間を曲げる術をここの原住民が持たぬ事は不幸中の幸いだった。
脳という神経系中枢から乱暴に検針を引き抜くと、近くに倒れ動かないもう1つの原住民へと向かった。
命中したぞ! やった!
ハンヴィからうつ伏せに落ちた怪物を暗視装置で見ていたエイミー・キングスリー曹長はその汎用輪駆動車の周囲が歪みまるで空中から産み落とされる様に新たな3体の化け物が現出したので顔を引き攣らせた。彼女がジャベリン・ユニットを引き抜いたハンヴィには後2発のラウンドしかなかった。
1発で1体倒しても次々に現れたらジャベリンが尽きてしまうし今の時点で1発足りない。
キングスリ曹長は光学ユニットを空になったラウンドから取り外し。荷台にある2発のラウンドの負い革で背に担ぐと急いで別のハンヴィの所へ走った。
タンデム成形炸薬弾頭で効果があるならもしかしたら命中させれたら120ミリの翼付き鉄鋼弾で倒せるかもとエイミー・キングスリーは思い向きを変え斜めに傾いたエイブラムスの方へ駆けた。
電源さえ生きていれば1人ででも装填、発砲ができる。
撃って即座に他の車輌に移動すればいい。
曹長はエンジンユニットの際にジャベリンの発射ユニットを置くとトラックベルトの転輪にブーツの爪先を引っ掛け砲塔のパックリ開いたエイブラムスによじ登り戦車長ハッチから内部に潜り込んだ。