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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #5
25/164

Part 5-5 Legio レイジョ(レギオン)

Armored Reconnaissance Unit 1st Company 6th Squadron 1st Cavalry Regiment 1st Armored Division Ⅲ Corps Army Commands US.Army Company Training Ground Fort Bliss, TX. 20:14 Jul 13

7月13日20:14 テキサス州フォート・ブリス アメリカ陸軍 陸軍コマンド第3軍団第1機甲師団第6戦隊第1騎兵連隊第1中隊機甲偵察部隊の演習地





 停車させガスタービンを切ったエイブラムスから降車すると地上部隊の惨状が迫った。



少佐(MAJ)、ぜ、全滅じゃないですか!?」



 陸軍の全滅は全数が戦闘不能になった場合とは限らない。3分の2が戦闘不能におちいっても部隊としては作戦能力を失い全滅になる。操縦士のエイミー・キングスリー曹長(MSG)から言われなくともアンドリー・ヘイゼル少佐(MAJ)は12台のM1A2C/SEPV3エイブラムスと6台のM1036HMMWV──TOW対戦車ミサイル搭載ハンヴィーが動かぬ残骸となっているのを困惑げに見つめた。



 交戦開始から5分あまりでこの有り様だった。



 車列の火焔で照らされたわずかな場所に人影はなかった。他の車輌からも乗員が連れ去られたのだろうかと少佐(MAJ)は顔を強ばらせた。



曹長(MSG)、持っておけ」



 そう小声で伝えヘイゼル少佐(MAJ)はもう1挺のM4A1を曹長(MSG)に渡して敵である怪物の気配をさぐった。



 あの図体だ。歩けばそれなりの足音がするはずだった。



「キングスリー、敵は人ではない。ニューヨークで暴れまわった怪物を知ってるか」



「知ってます少佐(MAJ)蜘蛛くも百足むかでが合体した象ほどもある奴でしょう。もしかしてそいつですか」



「ああ、蜘蛛くもでも百足むかででもなかった。かにの様なはさみにつかまれセイヤーズ1等兵(PFC)さらわれたんだ」



「ヴィンセントを探しましょう少佐(MAJ)



 暗がりでアンドリー・ヘイゼルはかぶり振った。



「中隊は火砲でやられたんじゃない。ニューヨークで暴れていた奴は警察官の銃弾数千発にも倒れなかったんだ────」



 否定しかけて少佐(MAJ)は小隊長としての責務を感じた。



「そうだな。何とか救いだそう」



 そう奮い立ったものの予備弾倉は2人合わせて6本。240発の銃弾しかない。あまりにも心もとなさすぎた。



少佐(MAJ)、ハンヴィに行ってみましょう。携行兵器が何かありますよ」



 死の行軍。またあの車列に戻るのかと一瞬アンドリー・ヘイゼルは遠くもないほのお上げる車輌を見つめ踏ん切りをつけるために部下に言い切り歩きだした。



「ついて来いエイミー。銃口をあっちこっちに向けるなよ。助かった連中を撃ちかねない」



「だって────」



 怖いのは俺も同じだとアンドリー・ヘイゼル少佐(MAJ)は思った。だがここで怖じ気づいたら兵隊としての上下関係が崩壊し敗戦を受け入れる事になる。



「撃つときは俺が狙う奴にしろ」



 まあそれが正しいとは言えないがと思いながら1番近いハンヴィに80ヤードに迫ったときその向かっていた汎用車が爆轟を上げ後部が吹き飛び、アンドリー・ヘイゼル少佐(MAJ)とエイミー・キングスリー曹長(MSG)の2人は驚いてアサルトライフルを構え上げたた。だが車体を2つに分けた爆発はそれっきりで後は燃えはぜる音の繰り返しになった。



「大丈夫だ。搭載していた対戦車ミサイルが誘爆したんだ」



「今の音でその怪物来ないですかぁ?」



「来るものか。連中も爆発に巻き込まれたくないだろう」



 それは怪物に人並みの知性がある前提に立った話だった。2人が次に向かう汎用車を決めているとき曹長(MSG)が小隊長のひじをつかんだ。



「何だ曹長(MSG)!?」



少佐(MAJ)、最後尾のエイブラムスを見て下さい」



 アンドリー・ヘイゼルが振り向くと砲塔に異物が張りついていた。その車並みの図体をしたものが巨大な黒いさそりだと気づき少佐(MAJ)はエイミー・キングスリーに小声で指示した。



「エイミー、1番近いエイブラムスに乗り込んであいつに一撃喰らわすのはどうだ。お前が装填手をやれ」



「賛成です少佐(MAJ)



 意見が合い2人は爆発したハンヴィのすぐ後部に動かなくなってているM1A2C/SEPV3に小走りで急いだ。幸いに停車しているそのエイブラムスはエンジンが回っており操縦席に乗り込んで起動させる手間が省けた。そのM1A2Cも砲塔が裂けており無理せずに裂け目からも入れそうだったが2人はそれぞれが砲塔の2つのハッチから乗り込んだ。



「いいかエイミー。ハッチは開いておけ。一撃喰らわせたら急いで逃げだす。砲塔を裂いて乗員を連れだす手合いだ。すぐにここへやって来るぞ。2輌前のエイブラムスの腹下に隠れる」



 砲塔下部のバスケットに立った曹長(MSG)は頷いてた。



了解(コピー)です。何を喰らわせますか?」



「装弾筒付翼安定徹(M829A4)甲弾を静かに(・・・)装填」



了解(コピー)、M829をサイレント・リロード」



 エイミー・キングスリー曹長(MSG)は装填手席で身体をひねり閉栓機のレバーを操作しチャンバーを開くと後方へ向いてバスル閉鎖ドア開放スイッチを膝で押さえ弾薬庫ドアを開いた。その後部左手ラックから1本のM829A4を引き抜き身体をひねりチャンバーガイドに砲弾を乗せ押し込み閉栓機のレバーを下げ宣言した。



「M829装填!」



 砲手席についたヘイゼル少佐(MAJ)が正面のプライマリー照準機をのぞきながら砲手操縦ハンドルで砲塔を回転させ仰角を低めにし120ヤードでほぼフラットの弾道で最後尾のエイブラムスに取り付いたさそりの怪物の背中へ照準すると曹長(MSG)に命じた。



「脱出しろエイミー!」



 装填手席に曹長(MSG)が立ち上がってハッチから出掛かった一閃いっせん、120滑空砲が吠え砲口先端に火球が膨らみ荒い空気の波動にエイミー・キングスリーは砲塔から転げ落ちそうになった。



 その火焔の灯りのずっと先で甲高い音がして火花が広がったのが見えた。



 命中! どんな生き物だろうと120ミリ徹甲弾(AP)を喰らい生きてるはずがなかったが、曹長(MSG)はエンジンナセルから地面に滑り下りて尻餅をつくと横にヘイゼル少佐(MAJ)が飛び下りてきた。



「急げ。隠れるぞ」



 少佐(MAJ)に言われキングスリー曹長(MSG)は立ち上がり少佐(MAJ)と共に1輌先のエイブラムスへと走り2つの覆帯の間に滑り込むと後から少佐(MAJ)が入ってきた。



 ものの数秒、近くでものが落ちてきた音がして主砲を撃ったエイブラムスがわずかに揺れた。



少佐(MAJ)、来まし──」



「静かに」



 戦車の下から様子をうかがうアンドリー・ヘイゼルは撃たれた奴とは違う奴が来たのだと思い逃げだしてきた車輌を見つめていると暗がりに怪物の足が見えた。1組みでなく2組みの4本が地に着いたその足から間違っても人ではないと思った。2体いる。倒した奴を入れると3体いたのだ。寸秒、先のエイブラムスに緑色のネオンの様な光が踊りエイブラムスが左右に分かれくずれた。





 こんな化け物が相手で1中隊規模の機甲部隊で勝てるはずがなかった。







 その四つ足の魔物1体が2人の隠れるM1エイブラムスの方へ近づいてきた。











 原住民(アルケティトス)移動仕掛け(モビリスマキナ)の1つにまだ標本化してない原住民(アルケティトス)が残されていた。



 その原住民(アルケティトス)移動仕掛け(モビリスマキナ)を操作をする入り組んだ狭いスペースに隠れていたので引きり出しそこねていた。もう少しでハンティング・トロフィーを取り逃がすところだった。移動仕掛け(モビリスマキナ)をスキャンしていて生命反応があり確認すると原住民(アルケティトス)が隠れていた。



 まさにその時、背後から化学エネルギーで撃ちだされた金属体を検知しながら至近距離の音速以上の猛速で迫るそれをかわす事ができずに背中に命中した。



 原住民(アルケティトス)の強勢を受けたレイジョ(レギオン)のその1つは外骨格に重篤じゅうとくなダメージを受けしがみついていた移動仕掛け(モビリスマキナ)から滑り落ちた。



 一瞬で他の2つと意識疎通(そつう)を図り強勢を行った移動仕掛け(モビリスマキナ)を特定すると2つのレイジョ(レギオン)がそこへ跳躍ちょうやくした。



 1つのそれが発砲したエイブラムスの砲塔にもう1つのそれが右覆帯のそばに着地し車体が揺れた。外殻がいかくは先の攻撃で裂け目があり、熱反応機関は動作しているが砲塔の1つのそれが触手を伸ばし裂け目から原住民(アルケティトス)を探ったが何も見つけられなかった。原住民(アルケティトス)がいない事を共有し砲塔の1つのそれが移動仕掛け(モビリスマキナ)の後方へ飛び下りると2つのそれらはプラズマ・アルモラ(プラズマの鞭)を振り出しその発砲した移動仕掛け(モビリスマキナ)を両断した。





 協議──移動仕掛け(モビリスマキナ)には自動の攻撃機構があり原住民(アルケティトス)が搭乗していなくとも敵を探し攻撃する能力がある。



 結論──残りの17の内、機能を残していると思われる移動仕掛け(モビリスマキナ)を完全破壊する必要がある。





 2つのそれは手分けして動かなくなった移動仕掛け(モビリスマキナ)を破壊し始めた。



 その1つから原住民(アルケティトス)い出し強勢機器で影響を与えて来たが修復中のそれ1つが受けた強勢に比べると雨に打たれ程度の影響しかない。だがハンティング・トロフィーにはなるとそれの1つが逃げ出した原住民(アルケティトス)を追い始めた。



 そこへ修復の終わったレイジョ(レギオン)跳躍ちょうやくし飛び下りて来て合流すると原住民(アルケティトス)狩りに加わりもう1つのそれ(・・)移動仕掛け(モビリスマキナ)破壊に戻った。



 被害をもたらした原住民(アルケティトス)がハンティング・トロフィーの為に集めた他の原住民(アルケティトス)とどう違うのか捕まえて調べる必要があった。生命反応を消さずに捕らえのは比較的難しいもののはさみでつかみ振り回せば殆どの生物は大人しくなる。小型の強勢道具を使い抗ってもさしたる抵抗ではない。そう────さしたるものではないはずだった。











 1輌前のハンヴィが破壊され次にこの隠れるエイブラムスが破壊されればいくら車外でも重量に押しつぶされるか、あの光るむちで車輌もろとも切り裂かれるのがおちだとアンドリー・ヘイゼル少佐は思った。せめてキングスリー曹長(MSG)だけでも逃がしてやりたい。少佐(MAJ)は部下の耳元に顔を近づけささやいた。



曹長(MSG)、私が弾幕を広げた隙に逃げろ。そう長くは引きつけられないが、遠くまで休むな。いいな」



「私だけが逃げられません」



「命令だ」



 そう告げヘイゼル少佐(MAJ)は荒く匍匐ほふく前進すると立ち上がった。怪物は2体いたが近い奴に猛然とM4A1を撃ち始めた。曹長(MSG)が逃げだした事も確かめられずに瞬く間に1弾倉撃ちきり、マグチェンジをし振り向いて迫ってくる化け物の顔目掛け引き金を絞った。



 その間隙かんげきに別な怪物が上空から飛び下りてきた。



 そのより近い化け物へアサルトライフルを向け撃ち続けた。また弾倉が空になり予備弾倉を取りだした寸秒横殴りにはさみが襲いかかった。



 一撃はかわしたが予備弾倉を叩き込んだ瞬間に詰め寄られ二撃目にヘイゼル少佐(MAJ)はさみに腹を挟まれ振り回された。



 地面に数回叩きつけられ朦朧もうろうとなった小隊長はフルオートの銃声(ガンショット)に気づいた。



 俺じゃあない。



 首を捻って背後を見るとエイミー・キングスリーが肩付けしたM4A1を高い位置へ撃ち放っていた。



「逃げろエイミー!」



「命令不服従で──! 少佐(MAJ)軍法会議に──だしてけっこう────!」



 銃声に半分も聞こえずそれでもアンドリー・ヘイゼルは自分がまだアサルトライフルを手放さずに持っている事に気づいた。それを怪物の顔に向けフルオートでライフル弾を浴びせた。ニューヨークの警察官らもきっと同じ思いだったろう。撃っても効かない怪物を相手するのは軍だと。



 今、その自分が救援を渇望していた。



 自分だけならまだしも部下をむざむざ差しだすつもりはなかった。



 その顔の近くで銃声(ガンショット)を耳にしアンドリー・ヘイゼルは顔を向けると、曹長(MSG)は距離をおくどころかはさみの届きそうな距離で発砲していた。その猛攻が弾倉が空になったことでが開いた。



 少佐(MAJ)は部下へM4A1を投げ渡した。



「その弾倉で最後だ!」



 小隊長がそう怒鳴ると若き曹長(MSG)が陽気に言い返した。



「最後じゃないです! ドーンと任せて下さい!」



 撃ちながら怪物のはさみにエイミー・キングスリー曹長(MSG)はさまれると叫聲おらびごえを上げた。



「糞たれ野郎! 喚いてみろ!」





 まるで意味を理解したように刹那せつな、その化け物は上下左右に開いた口で2人の捕らわれ人に咆哮ほうこうを浴びせた。





 セーフティーピンを引き抜きレバーを少佐(MAJ)の顔に飛ばしたエイミー・キングスリーは怪物の口に手榴弾を放り込み少佐(MAJ)の手を握りしめた。



「お前どこで!?」



「ハンヴィの近くに転がっていま──」



 至近距離で渇いた爆轟が広がり怪物の頭部を粉砕した手榴弾の破片が少佐(MAJ)曹長(MSG)にも襲いかかって深傷ふかでを負わせたさそりの化け物が仰向けに倒れてもはさみから逃げ出せなかった。



 そこへ別の1体が駆け寄り原住民(アルケティトス)を握りしめた1つのそれ(・・)から原住民(アルケティトス)2体を奪い取るとその原住民(アルケティトス)はさみで圧迫させ背の骨を砕いた。



 倒れた顔をなくしたレイジョ(レギオン)の1つを2人の兵士を殺した別のレイジョ(レギオン)は見下ろして訣別けつべつすると巨大なさそりは水にくずれる砂の城の様にくずれその黒いかたまりは細かなありうごめく様にそばに立つもう1つに集まり4本の足に次々に同化した。



 身体の大部分を失い最後に残ったのは紫色にかがやくソフトボールほどの球体だった。



 それを2つの原住民(アルケティトス)を両手にぶら下げたレイジョ(レギオン)は歩み寄り踏み潰した。



"השתלטתי על כל הרשומות שלך"

(:お前の記録をすべて引き継いだ)



 さあハンティング・トロフィーの解体だ。この2つの原住民(アルケティトス)は我が仲間であり兄弟であるレイジョ(レギオン)を倒すに値する何かを持っている。それは頭蓋骨の中にあるものをつぶさに調べれば明白となるだろう。



 そのレイジョ(レギオン)は残りの1つに移動仕掛け(モビリスマキナ)の完全破壊を任せトロフィー置き場に急いだ。





 情報は鮮度が大事だ。












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