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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #5
23/164

Part 5-3 Metamorphosis 変身

2 lipca 14:11 Wandy-8 Katowice, południowa Warszawa, stolica Polski

7月2日14:11ポーランド首都ワルシャワ南部カトヴィツェ・バンディ8番





 捕らえたテロリストの1人──ダニエル・イソコスキがもたらした情報からアジトにしているのは手下を拉致らちしたクラクフの北西51マイルにあるカトヴィツェ郊外の倉庫だった。



 率いるはクラーラ・ヴァルタリ。17人を率いてヨーロッパを荒らしまわっている黒いさそりの異名を持つテロリスト。カレル・ヴラスチミル大尉(OF2)は部下2人とラウルス・バイオテクノロジー研究所から連れてきた職員ベンタ・ヘルナルを伴いアジトへと向かった。



"Tak, zgadza się, majorze.Jest 18 terrorystów.Chcę uchwycić wszystkich żywych tak bardzo, jak to możliwe.Czy pułkownik Konrad Baalta wydawał panu jakieś rozkazy?"

(:──ええ、そうです少佐(OF3)。テロリストは18人。できるだけ全員生かして捕らえたいんです。コンラート・バールタ大佐(OF5)から出動指示は?}



"Była instrukcja.Żołnierze sił specjalnych wysyłani są w kompanii.Kapitanie, czy jeden z terrorystów jest pewny w tym Valtali?"

(:あった。特殊部隊兵士を1中隊規模で向かわせている。大尉(OF2)テロリストの1人はあのヴァルタリで間違いないのか』



"Jak dotąd prawie bez wątpienia."

(:今のところほぼ間違いありません}



 そう聞いて念押しした少佐(OF3)が唸り黙ってしまった。



"Majorze, nie dotykaj terrorystów aż do naszego przybycia."

(:少佐(OF3)、くれぐれも我々が到着するまでに事を構えない様にお願いします}



"Są tu również specjaliści od broni biologicznej, więc nie martw się."

(:生物兵器専門もいるから心配するな}



 楽観的過ぎるとヴラスチミル大尉(OF2)は思った。生化兵器は対応が遅れがちになる。遅効性の生物兵器をキャリアが遠方へばらく。



"Do zobaczenia, majorze."

(:それでは現地で少佐(OF3)}



"Przyjdź szybko."

(:早く来い}



"Przyjąłem."

(:了解しました}



 通話を終わるとレンジローバーの運転をしているナータン・フロールマン兵長(OR4)が尋ね大尉(OF2)は答えた。



"Kapitanie, jeśli uda ci się odkryć czarnego skorpiona, będziesz w wielkim zamieszaniu."

(:大尉(OF2)黒いさそりを摘発できたら大騒ぎになりますよ}



"zamieszanie? Och, będzie bardzo popularny w środkach masowego przekazu"

(:混乱? ああ文屋の大人気になるな)



 会話に割って入り研究所員のベンタ・ヘルナルが尋ねた。



"Czy terroryści, którzy uderzyli w moją firmę, są tak przerażający?"

(:私の会社を襲ったそのテロリストはそんなに怖い連中なんですか?}



"W maju doszło do incydentu, w którym zniszczono trzy samoloty pasażerskie.Zrobił to czarny skorpion."

(:5月に3機の旅客機が堕とされた事件があっただろう。あれは黒いさそりがやったんだ}



 大尉(OF2)が教えるとベンタは顔を強ばらせて言い返した。



"W ciągu godziny zginęło około 900 osób. Nie złapałeś jeszcze przestępcy?"

(:900人余りも1時間で死んだんですよ。犯人まだ捕まってなかったんですか?}



"Diabelska kobieta, która jest przebiegła, odważna i nie ma litości."

(:狡猾で大胆で無慈悲な悪魔みたいな女だ}



"Czy czarny skorpion to kobieta?!"

(:黒い蠍って女なんですか!?}







"Aha i wydaje się być wyjątkowo piękną kobietą."

(:ああ、しかもとびきりの美人らしい}







"Daj się dźgnąć trucizną igłą!"

(:毒針に刺されなさい!}



 そうベンタ・ヘルナルが声を荒げ前の助手席に座るカレル・ヴラスチミル大尉(OF2)の肩を小突いた。



 黒いさそりを捕らえるもしくは射殺できればヨーロッパのテロが半減すると云われている。それほど根深い案件だとカレル・ヴラスチミルは思った。あの女狐をそう易々(やすやす)と落とせるわけはない。宗教を盾にするでもなく政治思想を語る事もない。バックにロシアがいるとも云われながら表立って肩を持つこともないのだが────。



"Kapitanie, jeśli czarny miecz jest zamieszany w sprawę, czy bakterie nie zostały już skradzione w rękach handlarza bronią?"

(:大尉(OF2)、黒いさそりが関わっているなら、すでに奪われた細菌は武器商人の手に渡っていないでしょうか?}



 ナータン・フロールマン兵長(OR4)大尉(OF2)に尋ねた。



"Jednym z nich są komórki, a nie bakterie."

(:1つは細胞で細菌じゃありません}



 すぐにベンタ・ヘルナルが食いついた


"Byłoby podobnie."

(:似たようなものでしょう}



 女研究員は負けていなかった。



"Wygląda na to, że patrzysz na psa i mówisz, że to krowa."

(:それじゃあ、犬を見て牛と言ってるようだわ}



"Czy to jest takie inne?!"

(:そんなに違うのか!?}



 ナータン・フロールマン兵長(OR4)が声を裏返させた。それを耳にしてベンタ・ヘルナルは軍人はこれだからと思いその黒いさそりというテロリストは手元にいつまでも奪ったサンプルを持っているのだろうかと考えると女研究員が問うた。



"Czy Clara Valtari nie dzwoni do Rosji, jeśli sprzedaje próbki komórek za dużo pieniędzy?"

(:その──クラーラ・ヴァルタリって多くの金を積むところに細胞サンプルを売り渡すならロシアに声を掛けていないの?}







 まずい! ロシアが絡んでくるとロシア連邦保(FSB)安庁か、ロシア対外情(SVR)報庁が乗りだしてくる。特殊部隊同士の戦闘になるとカレル・ヴラスチミル大尉(OF2)は思い彼は慌ててモバイルフォンを取りだして軍諜報部へと繋いだ。











"Klaara, miksi annat aseellisia ohjeita?!"

(:クラーラ、どうして武装指示を!?}



 ナンバー2の男──イスト・ティーカネンに問われクラーラ・ヴァルタリが鼻で笑った。



"Luulitko, että Venäjä antaisi sinulle rahaa hiljaa? Venäjä käynnistää yhtiön kokoisen erikoisjoukot Заслон."

(:ロシアが大人しく金を差しだすと思ったか。1中隊規模の特殊部隊ザスロ(Заслон)ーンを寄越すに決まってるだろう}



"Aio...Aiotko ampua erikoisjoukot suoraan?!"

(:しょ、正面切って特殊部隊とやり合うつもりですか!?}



"Ei, Venäjän ja Puolan armeijan pitäisi tappaa toisensa."

(:いいや、ロシアと相手するのはポーランド軍だ}



 黒のさそりの下数年に渡りテロをやりながら、男はクラーラ・ヴァルタリが心底悪人だと今になって気づいた。



"Kerroit Venäjälle, missä tavata, mutta miten kutsut Puolan armeijaa?"

(:ロシアには会う場所を知らせたのでしょうが、どうやってポーランド軍を呼ぶんですか?}





"Niskasi kihelmöi.Armeija tulee, ei poliisi."

(:首筋がうずくのよ。来るとしたら警察じゃなくて軍よ}





 楽しげに告げるクラーラ・ヴァルタリにきびす返してイスト・ティーカネンは部下達が火器の準備を終えているか小走りに確認へ向かった。











 5台のハンヴィの間に3台のKTO ロソマクーM3兵員輸送車が連なり陸軍基地からクラーラ・ヴァルタリのポーランド南部アジトへと急行していた。



"Cóż, poczekaj na przybycie Departamentu Antyterrorystycznego i atak.Czarny miecz próbuje sprzedać broń biologiczną handlarzowi bronią.Nadaj najwyższy priorytet zabezpieczeniu tego."

(:いいか、対テロ対策部の到着を待って突入する。黒いさそりは細菌兵器を武器商人へ売り渡そうとしている。その確保を最優先しろ}



 先頭のハンヴィに乗るテラスト少佐(OF3)は特殊部隊大尉(OF2)に命じ、それを各車輌に無線で伝えていた。



"Alfa od północy, beta od południa, jednoczesny atak.Oddział broni biologicznej się naprzód z Alfą.Dotrę na miejsce w odpowiednim czasie.Własna kontrola broni palnej każdej osoby."

(:アルファ分隊を東から、ベータ分隊を西から近づけ一気にたたみかける。生物兵器対策分隊はアルファと共に突入。あと十分で現着する。各人火器のチェック}



 S86ハイウェイから下りたハンヴィとロソマクはハルレラ通りを東へ進みバンディ通りに入るとすぐに4台のハンヴィと1台のロソマク兵員輸送車が1本南のシェブナ通りを回り込み指示のあった建物前の通りを東へと出て封鎖し、西には1台のハンヴィと2台のロソマクが停車して封鎖した。



 次々に汎用車と兵員輸送車から下り立った兵士らは一部が通りの封鎖にあたり、残りの殆ど30名が配置につきいつでも突入できる体制でテロ対策部の到着を待った。その全員が顔を上げたのはヘリの爆音が急激に大きくなって来たからだった。



 テラスト少佐(OF3)が眼にしたのは目標の建物上空を急旋回でフライパスする3機のMiー24ハインドDだった。そのカラーに見覚えのない少佐(OF3)はどこの国のものだと困惑した。



 スライドドアを開きラペリングを数本垂らし次々に兵士らが下り始めをおかずに銃声が聞こえ始めた。



"Major! Chcesz zaatakować?!"

(:少佐(OF3)! 突入しますか!?}



 そばにいる曹長(OR8)が問いたてた。



"Atak!"

(:突入しろ!}



 部隊長の命令に曹長(OR8)は無線機のムーヴマイクへ怒鳴った。



"Atak! Zaatakuj!"

(:突入! 突入だ!}







 イヤープラグから突入の指示を耳にしてプロテクタを付けWZ.89オニキス短機関銃を構えた兵士ら7人は走り出し、情報にあった建物へと向かうレオン・フランチシェク伍長(OR4)は部下らの先頭に走り出し正門横のフェンスの小ドアを押し開き建物の正面玄関への数段の階段を駆け上った。硝子(ガラス)扉の袖壁に背を預けた寸秒追いついた部下らが次々に彼と肩を並べた。



 自動小銃の銃声(ガンショット)が響き渡る中、フランチシェク伍長(OR4)は死角から顔をのぞかせ玄関横の廊下に敵の姿を探った。そこに気配はなく伍長(OR4)硝子(ガラス)扉をわずかに開き音に耳をすますと奥から自動小銃の連射音が聞こえ、伍長(OR4)はドアの隙間すきまから小さなエントランスに入り込むと彼は後方に向かって左手の指を広げ待てと合図した。



 サイイクルレートの異なる銃声が交互に聞こえ何者からが撃ち合っていた。彼は袖壁から身を乗りだして通路を見た。



 通路奥のきわからわずかに身を乗りだしているヘッドギアに迷彩服を着た男がフルオートで撃ってきてフランチシェク伍長(OR4)はとっさに袖壁に身を隠した。



"To jest alfa.Wróg nosi rosyjskie mundury bojowe!"

(:こちらアルファ。敵はロシア製の戦闘服を着用!}



"Znajdź terrorystów i zabezpiecz broń bakteryjną."

(:テロリストを探し細菌兵器を確保しろ}



 簡単に言うと伍長(OR4)憮然ぶぜんとしチェストリグから手榴弾を1つ引き抜いた。セーフティレバーを飛ばし袖壁から手首出しスナップを利かせ廊下の奥へと投げ込んだ。



 寸秒爆轟が起きて即座にフランチシェク伍長(OR4)はエントランスに近い部屋に短機関銃を構え突入した。部屋には自動小銃を手にした男らがいた。咄嗟とっさに彼は自動小銃を振り上げかかった男らの胸を撃ち抜いた。



 後から部屋に入り込んだ部下に彼は命じた。



"Znajdź lodówkę."

(:クーラーボックスを探せ}









 望んだとおり荒事が進むことはない。



 案の定、ロシアは特殊部隊を送り込んできた。ヘリの爆音が聞こえた最中さなか、ポーランド軍だとクラーラ・ヴァルタリは思った。だが送り込む先を考えないのはロシアの常だった。



 侵攻の素早さはまさにロシアの特殊部隊だとクラーラは即断した。ポーランド軍とぶつける手はずがロシアが気を急いて攻め寄越したのはロシア連邦保安(FSB)庁Fの特殊任務センターか、ロシア対外情報庁の特殊部隊ザスロ(Заслон)ーン。ヘリの轟音が聞こえた直後すでに包囲された事実をかんがみるとロシアの特殊部隊で間違いなかった。



 交渉する余裕も与えず襲撃していきなり部下の数人が撃ち殺された。個人防御火器(PDW)──LWRC ICーPSDを手に取り敵3人を倒す間にこちらは倍の6人が倒されていた。



 このままではウイルスのサンプルを売り渡す所ではなかった。



 クラーラ・ヴァルタリは銃を負い革(スリング)で胸の前に下げ火線を逃れ部屋の奥へ行くとクーラーボックスを見下ろした。



 サンプルを無事に持ち出す手段がたれようとしていた。





"En anna tätä sinulle tottelevaisesti..."

(:素直に渡すものか──}





 そうつぶやきテロリストの女ボスはクーラーボックスを開き1本目の試験管を引き抜きキャップを引き抜くと一気にそれを飲んで試験管を投げ捨てた、そうして次々に3本の中身を飲み込んだ。何も起きぬではないか。人に影響はなく──。



 私を捕らえぬ限り細菌兵器は手に────。



 心臓が爆発するように鼓動しクラーラ・ヴァルタリはからだを硬直させ両(ひざ)を床に着くとその場に倒れ込んだ。



 からだ中の細胞が自己を主張している。



 息を吸えずあえいでいるとクラーラは記憶が蘇り鷲掴わしづかみになった。







 ベルセキア──その名が何なのだとクラーラは頭を両手でつかみ奥歯を噛み締めた。







 呼吸──意味のない血液と細胞とのガス交換。



 意味がある! 呼吸しなければ死んでしまう!



 刹那せつな、肺にたよる必要がないことに気づかされた。



 横たわり背を丸めた女テロリストは己の手を見て唖然となった。すべての指先から黒いうろこに覆われそれが手首まで覆うと一気に体中に広がってゆくのがわかった。視野が広がり見えている電磁波の波長帯が遠赤外線と紫外線にまで及んで眩しさに目を細めた。



 何、何が起きたの!?



 困惑した直後、また知らぬ記憶が蘇った。







 ベルセキア。







 お前には戦うために命を授けた。スオメタル・リッツアからそう告げられた。



 そうだ戦いこそすべて。



 母様かぁさまが戦えとささやいていた。







 バリケードを盾に発砲を続ける部下達の方へ行くと3人が振り向いた。その男らが顔を強ばらせるのを無視して外から発砲しているロシア特殊部隊の火線の前に身をさらした。












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