Part 4-1 Adversity is the first path to truth逆境は真実への1歩
Armored Reconnaissance Unit 1st Company 6th Squadron 1st Cavalry Regiment 1st Armored Division Ⅲ Corps Army Commands US.Army Company Training Ground Fort Bliss, TX. 19:59 Jul 13/
NDC HQ Chelsea Manhattan, NY 22:03
7月13日19:59 テキサス州フォート・ブリス アメリカ陸軍 陸軍コマンド第3軍団第1機甲師団第6戦隊第1騎兵連隊第1中隊機甲偵察部隊の演習地/
22:03ニューヨーク州マンハッタン・チェルシー地区NDC本社ビル
砂塵巻き上げ闇の荒れた大地に這うように驀進するアメリカ陸軍第1機甲師団戦闘航空旅団第501戦闘航空大隊A中隊アサシンズ第1、第2小隊のAHー64Eアパッチ・ガーディアン6機は大隊本部より指示された第1中隊機甲偵察部隊の襲撃されたエリアへ到達した』
「リンクス・マムより各機へこれより展開して2機1組で接敵行軍に移行する。敵視認後リンクにて画像を送れ。攻撃はそれからだ。敵状不明、対空兵器も考慮し用心しろ」
ウイング・リーダーのウォーレン・ハーコート中尉がジェットヘルのブームマイクにそう告げると矢継ぎ早に各機からリンクス2、3─6了解の声が次々に返った。
第1、第2小隊は夜間戦闘訓練で優秀なスコアを叩き出してきた強者部隊だった。26対1の圧倒的比率で装甲車破壊を闇夜ですら自在にこなす。ヘリの天敵とされるRPG-7を目視回避するのさえお手のものだった。
『中尉、敵は車輌ではないはずです。M3A3BFISTのアビオニクスにかからなったのなら偽装した歩兵じゃないのですか?』
副操縦士兼射撃手のアシュトン・マクフィー准尉が左膝上の多目的表示装置に映した地上目標化/レーダー地図に脅威シンボルが表示されていないか索敵しながらインカムで後席の中尉に尋ねた。
「短時間に小隊の3輌から連絡が途絶えたんだ。歩兵なら対戦車戦闘装備。対空戦闘装備も考慮しなきゃならんだろうが、偵察隊が密な展開をしてなく殺られたとなると大方テロリストの類なら数十はいると見積もっていた方が無難だ」
『中尉、11時、距離1千。ブラッドレーが燻ってます』
「ミリ波で何か拾ってないか?」
『いえ、ブラッドレーだけです800ヤード西にもう1つ。3輌目が見当たりませんが────』
いきなりだった。爆轟と右後方が明るくなり、ウォーレン・ハーコート中尉は小さなバックミラーに空中に浮いた爆炎を視認し2人とも右後方を振り向くと火達磨の僚機が160ノット余りの速度で地表に激突し火花を散らし竿立ちになるとひっくり返りスタブウイングのヘルファイア1発が誘爆した。
被弾した!? 僚機が1機堕とされた! 地対空ミサイル! そう判断したウォーレン・ハーコート中尉は咄嗟に左ステップを強く踏み込みサイクリックスティックを左に切ってコレクティブレバーを引き上げた。
2人の乗る攻撃ヘリは左への旋回に入り、操縦を担うウォーレン・ハーコート中尉がブームマイクに怒鳴った。
「アッシュ! レーダー信号探知装置とレーザー信号探知装置はアクティヴか!?」
すぐに前席のアシュトン・マクフィー准尉がパネルを確認し返事をした。
『動作してます中尉! チャフ撒きますか!?』
「まだだ。目立ち、かえって敵に捕捉される! こちらリンクスマム、散会し距離を取れ! リンクス3。敵のミサイルか曳航弾を見たか!?」
『リンクス3、いいえ、リンクス2の周囲にオフホワイトのネオンサインの様な波が見えた直後リンクス2が爆発しました』
レーダーもレーザーも輻射がなかったのなら携帯IRミサイルの可能性があった。ウイングマンが堕とされた火焔を他のアパッチや後続のブラックホークも眼にしたはずだったのでそれ以上の警告の必要性はなかった。中尉は前席のガンナーに欺瞞装置を使う様に命じ、無線機の送信ボタンを押し込んだ。
「アッシュ、ディスコライトを回せ。こちらリンクス・マム、リンクス2が堕とされた。繰り返すリンクス2が堕とされた。敵の対空兵器を警戒し機体を振るぞ。標的にされるのを回避する!」
『了解』
直後、定かでない敵の対空兵器を警戒しいきなり2時方向へ方位転換し30フィートの匍匐飛行を行うAHー64Eアパッチガーディアンの編隊長機の右後方を飛行していたリンクス3の延長前部電子機器室に飛び乗ってきた何ものかに3号機は重量負けしがっくりと高度を落としメインローターが地面を抉り爆轟を放つ火焔となった。
言い掛けている矢先にいきなり衝撃があり機が大きくピッチングし機首が下がった。
他機のダウンウォッシュに入り込んだ様な挙動にウォーレン・ハーコート中尉は上を行く機を確認しようと視線を上げかかり副操縦士兼射撃手のコクピット横に張り出した電子制御収納ポンツーンから影の様なものが這い上がりアクリル樹脂のキャノピィにかけられたその腕が前席の計器類やディスプレイの仄かな明かりの照り返しで辛うじて見えた。
片側に刺の並ぶその昆虫の脚の様なものにウォーレン・ハーコートは顔を強ばらせ気づいた副操縦士兼射撃手《CP/G》のアシュトン・マクフィーが左舷側のキャノピィに肩をぶつけ逃げた。
『中尉! 何なんですかぁ、こいつ!?』
振り向いた彼に合わせその大きな昆虫が姿を現した。そのドラム缶ほども横幅のある百足がキャノピィの前面に回り込み准尉の方へ行くとアッシュは慌てて右へと逃れM17を引き抜き振り上げ銃口をアクリル樹脂のキャノピィに押しつけ引き金を引いた。
ジェットヘル越しにその発砲音が響き眼にした光景にパイロットらは顔を引き攣らせた。
キャノピィに開いた弾痕の外でその巨大な百足の顔に波紋が広がりそれが吸い込まれる様に中央に集まり消えた。
中尉は咄嗟に安定制御増強装置を姿勢保持サブモードに切り替え座席の左脇からH&K416Dを抜きチャージングハンドル引き抜いてリロードすると計器バイザーの上に振り上げた瞬間だった。キャノピィがフレームごと引き千切れ上がりローターにぶつかると轟音を上げ4枚の回転翼が切れ飛び一気に高度を落とした対戦車ヘリが地面に激突し土砂を撒き散らしテイルローターを振り上げ前転した。
逆さまになり朦朧とするウォーレン・ハーコート中尉は目前で部下のアッシュがシートベルトを外し機内から逃れようとするのを見つめ、寸秒その部下が座席から引き剥がさ機外に引き摺りだされるのをなすすべもなく眼にし、我に返った小隊長はシートベルトのバックルを外し機体から這いだしながら手放した個人防衛兵器を探したが頭上にある地面にカービンを見つけられずに機体に沿って後部へ逃げ出した。
「何なんだ!? 人じゃなかった────」
呟いた直後、離れた空中で爆炎が広がり何かが地に落ちクラッシュした音が聞こえてきた。
「くそうきっと僚機だ。手玉に取られている」
状況を認識し引き摺りだされたアッシュがどこに連れ去られたのだと暗闇を見回すと、今度はヘルファイアが連射されたのが見えそのでたらめな軌道にウォーレンはあの怪物を狙ったのかと見つめる先で爆炎が広がり同時にさらに離れた空中にも爆炎が広がった。
ほぼ同時に2ヶ所で起きた爆発に怪物が複数いるのを中尉は認めた。
彼は逆さまのコクピットに戻り立ち上がりヘルメットのハーネスを座席のカプラに接続し無線機の送信ボタンを押し込んだ。
「こちらリンクスマム。4機堕とされた! 敵は人じゃない! 繰り返す。アパッチが4機ダウン。ブラックホークを近づけ────くそうまた1機堕とされたぞ!」
送信の途中で遠方の爆炎が見え4秒遅れ爆轟が聞こえ1300ヤードあまり離れているとみた。近場でアパッチを落とした奴がほんの数秒で1300も移動したとは思えなかった。なら3体はいる! あの怪物が3体もいるんだとウォーレン・ハーコートは冷や汗が吹き出た。
『戦線から離脱して下さい無人機がまもなく攻撃に入ります』
「無理だ! 動きが速すぎる。カムでは追えない!」
その直後に高々度からミサイルの噴炎が伸びて先に殺られたアパッチの近くへと一気に伸びた。
原住民が移動に使う移動仕掛けをことごとく駆逐した。
脆弱な外骨格はプラズマの鞭の前にあっさりと両断され、原住民の武装の質量兵器は脆弱だが、後から現れし山脈を越え現れた比較的速い空中機動の移動仕掛けが6つと波動の異なる移動仕掛けが4つ、脅威索敵の必要性を3体は共有した。
まずは先行してくる先頭から2つ目の移動仕掛けへ向けて跳躍した。飛び上がったそれは波動の理由を確認した。回転する翼の空気引き裂く脈動が音波として伝わってきていた。その回転翼に触れ最初に飛びついたその移動仕掛けの回転軸の左右にある内燃焼機関の1つが爆炎を広げ一気に地面に降下した。
そいつは地上移動仕掛けよりもさらに脆弱であっさりと機能が停止した。
地に激突する寸前にそれは跳躍し先頭で近づいてきていた移動仕掛けへと一気に飛びついて原住民の乗るスペースの横から這い上がった。
これら空気波動の移動仕掛けは陸のものに比べ速いがとるに足りない速度で飛翔するために重量を軽くする必要から軟弱な外殻を有している。強勢仕掛けは爆発性の小型飛翔だが空中移動仕掛けの6倍近い僅かに速い道具だった。誘導は不明だが躱せないものではない。不意をつかれなければ問題にならず意識共有化で地域の情報を網羅すれば楽に対処できるとそれは共有した。
さあ、次の移動仕掛けから原住民を引き摺り出してさらに情報を収集し強勢仕掛けを推し量るべきだと2体と共有化した。
「私にここで座して他のものを危険に曝せと!?」
マリア・ガーランドは指差し警告する副官に問うた。
「あなたが居なくなる事で指揮系統に支障でるのを防がねばなりません。時として貴女はアン・プリストリよりも破壊的手段に出るじゃないですか。もしも貴女が頚木解いて気化爆弾並みの被害を出したらそれこそ不要な死傷者を出してしまいます」
マリア・ガーランドは思わず首のチョーカーに触れて言葉を呑み込んだ。
爆裂術式は折り紙付きの破壊力を持っているのはカナダの島の半分を吹き飛ばした事で明白だった。だが早々にあの強烈な効果を使うわけがない。使えば頚椎を爆薬が吹き飛ばすという残酷な結果が待っている。
「現地に立ち的確な────」
マリア・ガーランドが言い返そうとするとダイアナ・イラスコ・ロリンズは向けていた指を立てて横に振った。
「ニューヨーク市街で6発もジャベリンを使った事を棚に上げて戦地へ行きたがる貴女は正真の戦闘狂なのですか!?」
女指揮官は頭振って言い返した。
「戦闘狂ですって!? この私をフェチ扱いする気なの!?」
「貴女がここにいても指揮できるように可能な限りの仮想指揮デヴァイスを構築したのは何のためです! 兵の損耗は想定内ですが、指揮系統の崩壊は想定できません。貴女は貴重過ぎるんですよ」
ああ言えばこう言うと頭回る副官にマリーは苦虫を噛み潰したような面もちになった。
貴重過ぎると言われたら満面の笑みで退くのかとマリーは困惑し最高指揮官と副官のやり取りを近くのブースにいるものらは手を止めハラハラして見ているのをマリーは気づいた。
「それでも貴女が現場に出るというのなら、私は副社長や参謀の任を退きます」
とうとうコイツは脅しにかかったとマリーは顔を強ばらせるとルナは諦めさせるためにさらに押した。
"Better hazard once than always be in fear."
(:恐れてばかりより1度危険を犯す方が良いでしょう)
「わかったわ。ただし条件があるわ」
ルナが警戒して眉根を寄せた。
「この忌々しいチョーカーを外すなら条件を呑みます」
「絶対に外せません。マンハッタン島を半壊させるおつもりですか? 貴女のスーパーガール的な行為を押し止める最後の防壁を!」
「止めろ2人とも! 指揮官が揉めると兵士を不安にさせる!」
マリーが顔を振ると背後に元SASのロバート・バン・ローレンツが戦闘ユニフォーム姿で無愛想な顔を向けた。マリア・ガーランドはシールズで叩き込まれた事実を思いだした。指揮系統がいがみ合う状況は非常にまずい。
「わかったわ。ここで指揮をとる。だけれど状況がまずくなるようなら前線に立つから」
マリーが妥協するとルナが頷いてミーティングルームへ戻りロバートはマリーに近づき囁いた。
「皆が貴女がいることで能力以上の働きをする。いざという時は頼む」
「ええ、わかったわ」
次にハデス・ルームから指揮指令室に降りて来たのは自動人形M-8マレーナ・スコルディーアだった。ゴスロリの衣装で軽快に階段を下りてくる様に、マリア・ガーランドはまた機嫌を損ねた。
アンドロイドが戦地に行けて、この私が行けないのは差別だ。