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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #31
159/164

Part 31-4 Anger 激怒

Al Yamamah Palace Al Wadi Street, Riyadh 12911 Saudi Arabia, 22:09

22:09 サウジアラビア リヤド 12911アル・ワディ通りヤマーマ宮殿





 朦朧もうろうとした意識が続き寺院のような建物の屋上に開いた穴から室内に飛び降りた。



 装飾の施された部屋の広い出入口に押し寄せる我が眷属けんぞくに対抗する少数の苦界くがいの生き残りがいた。



 むだだ無駄だと意識が急激にはっきりとする中で数人の顔に見覚えがあることに気づいた。





 難民キャンプで襲い掛かった黒づくめの兵士らだった。



 なら銀髪がいると高価そうな両袖机の方へ振り向くとそいつが立っていた。





 マリア・ガーランド!





 こいつのすべてを我が手中にするのだと寸秒で思いだし、吸血鬼(ヴァンパイア)淵源(オリジン)アランカ・クリステアはひざ曲げた両脚を広げ腰を落とし両の腕構え鉤爪かぎづめを向けた。



 いくら戦闘に特化した化け物であれ、生きて重ねてきた年数の違いが圧倒的な差になることをアランカは知っていた。



 少々、われよりも速く動けるからとマリア・ガーランドを恐れる必要はなかった。



 何よりも戦況に応じてからだを組み換えることのできるわれより有利に立てるなど思い違いもはなはだしい。



 銀髪の女が腰を落とし半身で構え後ろの(シース)からナイフ引き抜き身の後ろに構える。



 リーチとる初動をさとらせぬ古くからある近接戦闘術だ。だがお前のあらゆる出方とリーチをわれが上回ることを思い知らせてやるとマリア・ガーランドの左へと回り込むために足を繰り出し始めた。







 寸秒、いきなり片(ひじ)をつかまれ後ろにひねり上げられ前に押し倒された。







 気配も感じさせず、人間がこのようなことをできるものかとアランカ・クリステアは顔を引きらせた。その直後背後を取った何ものかが耳元に顔近づけ押し殺した声で脅した。



「マリア様を傷つけようなど万死に価する────」



 掌握された怒りが吸血鬼(ヴァンパイア)クイーンの背を突き破り背後取る人間を十二本の触手がスピアのようにつらぬいた。



 我の首筋に血反吐ちへどぶちまけるのだとアランカが思った寸秒、背後のものがまた耳元でささやいた。





「七大天使であるこのわたくしを化け物に成り下がった貴様に傷つけることなど笑止」





 そう言い切られ片腕をひねり上げられたまま首筋を折れそうなほど鷲掴わしづかみにされカーペットに顔を押しつけられ思った。



 七大天使だと!? こいつ気狂いの手合いか!?



 言い知れぬ屈辱に唇歪ゆがめた少女はつかまれていない方の腕を一瞬で腕の長さの刃物に組み換えそれ背後に振り回し押さえ込む気狂いの首をね落とそうとした瞬間、その振り上げたやいばの腕を床にたたき落とされた。



 カーペットに押しつけられた顔でわずかに横へ目をおよがせたアランカは得物えものとしたやいばを銀のハイヒールで踏みつけられていることに目を見開いた。



「出来ぬと申しただろうが────!」



 その寸秒、考えられないほどの凄まじい力で首筋を床に押しつけられ、アランカは頚椎けいついが折れると強い危機感を抱いた。





────眷属けんぞくどもよ! この部屋に押し寄せわれの手足となれ!





 須臾しゅゆ、首と両腕を押さえ込んでいた力がなくなり、アランカ・クリステアが腕立てて顔を上げると仁王立ちのマリア・ガーランドが腕組みしさげすんだラピスラズリの瞳で見下ろしていた。



 背後で銃声が重なり膨れ上がる音に、押し寄せた使役(モンストロ)どもの倒れる音が追いついた。



 天使だと名乗ったのは何奴どいつだと上半身起こした少女が半身振り向くと、凄まじい勢いで眷属けんぞくどもの首を長剣(クレイモア)り飛ばす二人の長身の女が振り向きアランカをにらみ据えた。



 その視線絡み合った瞬間、(ソード)振るう二人の背から銀翼が広がり羽ばたき片唇を持ち上げて見せた。



 何なのだと、うろたえながら立ち上がった吸血鬼(ヴァンパイア)クイーンにマリア・ガーランドが言い捨てた。



「ミカエルとガブリエルには、お前の配下(モンストロ)らを無双せよと命じてある。それともわたしにでなく、あの二人に血祭りにされたいか?」





 顔を振り戻した少女は歯ぎしりしてマリア・ガーランドへ視線向け三白眼でにらみつけた。





 ありえぬ!



 天使など幻覚のたぐいだ!



 そう自分に言い聞かせながらアランカは眷属けんぞくにしたアン・プリストリがこの銀髪の女のことを神より授かりし万能の力を持っていると記憶していたことを思いだした。



 立ち上がったアランカは銀髪の女へ構え牙()いた。



 だが銀髪の女がそれを無視するように腕組みしたままさげすんだ眼差しで仁王立ちでいることに吸血鬼(ヴァンパイア)淵源(オリジン)侮辱ぶじょくだと顔を赤く染め引きらせた。





 アランカ・クリステアは床を蹴り爆速でマリア・ガーランドへと迫り跳び上がり首目掛け開いた口で尖った牙を食い込ませた。











 市内にあふれかえった吸血鬼(ヴァンパイア)かわし倒しリヤドでも大きな王室宮廷目星をつけ駆けつけると奥の大部屋にチーフが先にいた。



 レイカはチーフに気づき、他のもの達が追いかけてきた吸血鬼(ヴァンパイア)らを撃ち倒しだすと、レイカは指揮官へ走り寄りいつにない強い口調で説得した。



「マリア、第三王子を殺してはいけない! それが発端にpなり西側諸国は中東と大きな戦争に突入します!」



 それを聞いてマリーは小さくかぶり振った。



「大丈夫だよレイカ──方法は幾らでもある。それよりこの吸血鬼(ヴァンパイア)らをどうするか、だ。八百万もいる」



 そう言われたものの激高しやすいMGが王室のものを暗殺しかねない懸念を払拭ふっしょくできなかった。



 眼を細め部屋出入り口へと半身振り向いたレイカが冷静に指摘した。



銃弾(ブレット)はあと数分しか持ちません。どうしますか? 撤退は異空通路ことわりのみちでできるとして王族達の避難まで大丈夫で────」



 言い掛けている途中でマリアが詠唱を始めレイカはこの宮廷ごと吹き飛ばすのかと強ばらせた顔をチーフに振り向けた。



"In nomine Dei, rogo ut mihi angelum tuum hic des. Agens tuus ero──"

(:神の御名みな、その御使みつかい此処ここたまわらんとほっす。我、御身おんみの代行者たらんことを────)



 何かの魔法詠唱だとレイカは動揺した。この怪物らを宮廷ごと焼き滅ぼすつもりなのか!?



"Volentibus, portas mundi sancti aperite──"

(:願う。開け、聖界の門────)



 止めなければと思いレイカはマリアの肩に手を掛け揺すり始めた。



"────Mandata ut catenis sacris resistatur!!!"

(:────聖なる鎖に抗うことを命じる)







「降りて来なさいよ! 見てるんでしょ!!!」







 そうマリア・ガーランドが天井へ顔振り上げ怒鳴った須臾しゅゆ天井を突き破り降り何かが落ちてきてレイカは反射的に身構えた。



 そこに片膝かたひざついてこうべ垂れるうつむく二人がいた。レイカ・アズマが眼を強ばらせるとその二人が銀翼を広げ立ち上がった。





 何なのだこの人らは!?





 鼠銀ねずぎんのような翼は何かのトリックなのかと思いシルフィー・リッツアの長耳を思いだし異世界の住人なのかと結びつけた。



 吸血鬼(ヴァンパイア)らへ射撃しているものみなが一瞬振り向き顔を強ばらせ困惑しながら射撃へと戻った。



 アン・プリストリよりも上背のある女とも男とも見える美しい顔立ちの二人が頭上に光る金色こんじきの輪を片手でつかみ床に投げつけそれを粉々に打ち砕きマリア・ガーランドへ顔を向け美しい声で言い放った。



「マリア様──主のもとから我々を召還した責任を取って頂きますよ────」



 マリア・ガーランドは呼んでいながら二人が落ちてきたことに驚き顔で鼻で笑うと命じた。



「ミカエル、ガブリエル、あの冬──私を巻き込んだのはあなた達でしょう──押し寄せる怪物と化したものらをぎ払いなさい!」





 今、ミカエル、ガブリエルと二人の名を呼んだとレイカは驚いた。まさか本物の天使なのかと二人の顔を見つめた。





 寸秒、マリアへこうべ垂れ二柱の天上人は光りのようにかがや長剣(ロングソード)を片手で引き抜き、きびす返し出入り口へと向かったのでレイカはチーフに問い質した。



「マリア────あの翼持つ二人────!?」



 そう問いかけるレイカにマリーは一度小首傾げ教えた。



「そのものよ。大天使のうちの二人──でも────」





「二柱ともパラメーターに記述されているこちらの存在」





 マリーが言い切った寸秒、押し寄せる吸血鬼(ヴァンパイア)らを凄まじい勢いで元天使の二人が(ソード)り捨て始め一振りで十体以上の怪物らを両断し噴水のように黒い血を撒き散らす化け物どもらの有り様に自動小銃を構えているもの達は撃つのも忘れ唖然と見つめた。



 理解できない状況に押し返せるのかとレイカが思った瞬間、通路を天井まで埋め尽くす怪物らがあふれ返るカオスに、東洋人のスナイパーはガフの部屋に押し寄せる

(むさぼ)る地獄からの魑魅魍魎ちみもうりょうだと感じ、あまりものの恐れに両膝りょうひざを落とし座り込んだ。



 その直後、天上人が穿うがった穴からゴシック・ドレスに身を包んだツインテールの少女が飛び下りてきて、レイカは難民キャンプで眼にした吸血鬼(ヴァンパイア)の支配者だと即座に立ち上がりFN SCARーHを構え向けた。



 ヴァンパイアの王女は明らかに場違いな場所に来たていで部屋を見回し呆然としているが、チーフに気づき身構えた。



 レイカは45度オフセットのトリジコンRMRタイプ2光学ダットサイトの光点に少女の額をとらえトリガー・ガードに沿わせていた人さし指を引き金に乗せ替えた。



 だがMGは撃てと命じずにレイカは視線流し見つめるとチーフがナイフ引き抜き近接格闘(CQC)の体勢でいることに驚いた。



 だがたとえ撃てと命じられなくとも、即応できるようにマリアの左手へ回り込む少女の額を追い続けた。



 その吸血鬼(ヴァンパイア)の少女に何の気配もなくいきなり天使だとMGが言い切った一人が背後取り片腕を背にひねり上げ床に押し倒した。



「マリア様を傷つけようなど万死に価する────」



 少女の耳元に顔を近づけそう脅すミカエルともガブリエルともわからぬものが天使なのに脅しを口にし宗教的にありなのかとレイカは困惑した。



 吸血鬼(ヴァンパイア)クイーンの背を突き破り背後取る天使へ十本余りの触手がつらぬいた。



 だがつらぬかれたのは幻覚だった。



 レイカがまばたきした寸秒すべての触手が天使の両脇を沿って飛び上がっていた。



 少女の背後取るものがまた耳元でささやいた。





「七大天使であるこのわたくしを化け物に成り下がった貴様に傷つけることなど笑止」





 そう吸血鬼(ヴァンパイア)クイーンは言い切られ片腕をひねり上げられたまま首筋を折れそうなほど鷲掴わしづかみにされカーペットに顔を押しつけらた。



 圧倒的に優位に立つ天使へと吸血鬼(ヴァンパイア)が逆転するなど不可能だとレイカはダットサイトで見つめながら鳥肌だって思った。



 もしも、この天使らをマリア・ガーランドが召還したのが事実なら彼女はいったい何ものなのだ!?



 いや! そばで彼女が詠唱し命じたではないか────。



 部屋の出入口へ凄まじい数の吸血鬼(ヴァンパイア)が押し寄せ、いきなり少女の背後から天使が消え失せた。そうしてアランカ・クリステアが腕を立て顔を上げると、その視線の先に仁王立ちのマリア・ガーランドが腕組みしさげすんだラピスラズリの瞳で見下ろしていた。





 チーフがあの眼差しを向けているときは本気でキレかかってるとレイカは知っていた。





 確かに大都市の住人を吸血鬼(ヴァンパイア)にしたのは事実だったが、それを排除するのとMGの怒りは別物だった。



 背後で銃声が重なり膨れ上がる発砲音に、押し寄せた使役(モンストロ)どもの倒れる音が追いついた。



 上半身起こした少女が半身振り向くと、出入口際きわ眷属けんぞくどもの首を凄まじい勢いで長剣(クレイモア)ねる二人の長身の女が振り向きアランカをにらみ据えた。



 その視線絡み合った瞬間、(ソード)振るう二人の背から銀翼が広がり羽ばたき天使らが片唇を持ち上げて見せた。



 明らかに狼狽しながら立ち上がった吸血鬼(ヴァンパイア)クイーンにマリア・ガーランドが言い捨てた。



「ミカエルとガブリエルには、お前の配下(モンストロ)らを無双せよと命じてある。それともわたしにでなく、あの二人に血祭りにされたいか?」





 顔を振り戻した少女が歯ぎしりしてマリア・ガーランドへ視線向け三白眼でにらみつけた。





 立ち上がった吸血鬼(ヴァンパイア)淵源(オリジン)はチーフへ構え牙()いて叫聲おらびごえを上げた。



 だがマリアがそれを無視するように腕組みしたままさげすんだ眼差しで仁王立ちでいることに少女は侮辱ぶじょく顔を赤く染め激昂し引きらせた。





 吸血鬼(ヴァンパイア)の女王が床を蹴り爆速で光学照準器(FOV)視野から消え失せると、バトルライフル振り向けた先でマリア・ガーランドへと迫り跳び上がり首目掛け開いた口で尖った牙を食い込ませていた。







 その余りにもの速さの吸血鬼(ヴァンパイア)とマリアの至近距離にレイカ・アズマはトリガーを引けなかった。












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