Part 31-4 Anger 激怒
Al Yamamah Palace Al Wadi Street, Riyadh 12911 Saudi Arabia, 22:09
22:09 サウジアラビア リヤド 12911アル・ワディ通りヤマーマ宮殿
朦朧とした意識が続き寺院のような建物の屋上に開いた穴から室内に飛び降りた。
装飾の施された部屋の広い出入口に押し寄せる我が眷属に対抗する少数の苦界の生き残りがいた。
むだだ無駄だと意識が急激にはっきりとする中で数人の顔に見覚えがあることに気づいた。
難民キャンプで襲い掛かった黒づくめの兵士らだった。
なら銀髪がいると高価そうな両袖机の方へ振り向くとそいつが立っていた。
マリア・ガーランド!
こいつのすべてを我が手中にするのだと寸秒で思いだし、吸血鬼淵源アランカ・クリステアは膝曲げた両脚を広げ腰を落とし両の腕構え鉤爪を向けた。
いくら戦闘に特化した化け物であれ、生きて重ねてきた年数の違いが圧倒的な差になることをアランカは知っていた。
少々、我よりも速く動けるからとマリア・ガーランドを恐れる必要はなかった。
何よりも戦況に応じて躰を組み換えることのできる我より有利に立てるなど思い違いも甚だしい。
銀髪の女が腰を落とし半身で構え後ろの鞘からナイフ引き抜き身の後ろに構える。
リーチと斬る初動を悟らせぬ古くからある近接戦闘術だ。だがお前のあらゆる出方とリーチを我が上回ることを思い知らせてやるとマリア・ガーランドの左へと回り込むために足を繰り出し始めた。
寸秒、いきなり片肘をつかまれ後ろに捻り上げられ前に押し倒された。
気配も感じさせず、人間がこのようなことをできるものかとアランカ・クリステアは顔を引き攣らせた。その直後背後を取った何ものかが耳元に顔近づけ押し殺した声で脅した。
「マリア様を傷つけようなど万死に価する────」
掌握された怒りが吸血鬼クイーンの背を突き破り背後取る人間を十二本の触手がスピアのように貫いた。
我の首筋に血反吐ぶちまけるのだとアランカが思った寸秒、背後のものがまた耳元で囁いた。
「七大天使であるこの私を化け物に成り下がった貴様に傷つけることなど笑止」
そう言い切られ片腕を捻り上げられたまま首筋を折れそうなほど鷲掴みにされカーペットに顔を押しつけられ思った。
七大天使だと!? こいつ気狂いの手合いか!?
言い知れぬ屈辱に唇歪めた少女はつかまれていない方の腕を一瞬で腕の長さの刃物に組み換えそれ背後に振り回し押さえ込む気狂いの首を刎ね落とそうとした瞬間、その振り上げた刃の腕を床に叩き落とされた。
カーペットに押しつけられた顔で僅かに横へ目を游がせたアランカは得物とした刃を銀のハイヒールで踏みつけられていることに目を見開いた。
「出来ぬと申しただろうが────!」
その寸秒、考えられないほどの凄まじい力で首筋を床に押しつけられ、アランカは頚椎が折れると強い危機感を抱いた。
────眷属どもよ! この部屋に押し寄せ我の手足となれ!
須臾、首と両腕を押さえ込んでいた力がなくなり、アランカ・クリステアが腕立てて顔を上げると仁王立ちのマリア・ガーランドが腕組みし蔑んだラピスラズリの瞳で見下ろしていた。
背後で銃声が重なり膨れ上がる音に、押し寄せた使役どもの倒れる音が追いついた。
天使だと名乗ったのは何奴だと上半身起こした少女が半身振り向くと、凄まじい勢いで眷属どもの首を長剣で斬り飛ばす二人の長身の女が振り向きアランカを睨み据えた。
その視線絡み合った瞬間、剣振るう二人の背から銀翼が広がり羽ばたき片唇を持ち上げて見せた。
何なのだと、うろたえながら立ち上がった吸血鬼クイーンにマリア・ガーランドが言い捨てた。
「ミカエルとガブリエルには、お前の配下らを無双せよと命じてある。それともわたしにでなく、あの二人に血祭りにされたいか?」
顔を振り戻した少女は歯ぎしりしてマリア・ガーランドへ視線向け三白眼で睨みつけた。
ありえぬ!
天使など幻覚の類だ!
そう自分に言い聞かせながらアランカは眷属にしたアン・プリストリがこの銀髪の女のことを神より授かりし万能の力を持っていると記憶していたことを思いだした。
立ち上がったアランカは銀髪の女へ構え牙剥いた。
だが銀髪の女がそれを無視するように腕組みしたまま蔑んだ眼差しで仁王立ちでいることに吸血鬼の淵源は侮辱だと顔を赤く染め引き攣らせた。
アランカ・クリステアは床を蹴り爆速でマリア・ガーランドへと迫り跳び上がり首目掛け開いた口で尖った牙を食い込ませた。
市内に溢れかえった吸血鬼を躱し倒しリヤドでも大きな王室宮廷目星をつけ駆けつけると奥の大部屋にチーフが先にいた。
レイカはチーフに気づき、他のもの達が追いかけてきた吸血鬼らを撃ち倒しだすと、レイカは指揮官へ走り寄りいつにない強い口調で説得した。
「マリア、第三王子を殺してはいけない! それが発端にpなり西側諸国は中東と大きな戦争に突入します!」
それを聞いてマリーは小さく頭振った。
「大丈夫だよレイカ──方法は幾らでもある。それよりこの吸血鬼らをどうするか、だ。八百万もいる」
そう言われたものの激高しやすいMGが王室のものを暗殺しかねない懸念を払拭できなかった。
眼を細め部屋出入り口へと半身振り向いたレイカが冷静に指摘した。
「銃弾はあと数分しか持ちません。どうしますか? 撤退は異空通路でできるとして王族達の避難まで大丈夫で────」
言い掛けている途中でマリアが詠唱を始めレイカはこの宮廷ごと吹き飛ばすのかと強ばらせた顔をチーフに振り向けた。
"In nomine Dei, rogo ut mihi angelum tuum hic des. Agens tuus ero──"
(:神の御名、その御使を此処に賜らんと欲す。我、御身の代行者たらんことを────)
何かの魔法詠唱だとレイカは動揺した。この怪物らを宮廷ごと焼き滅ぼすつもりなのか!?
"Volentibus, portas mundi sancti aperite──"
(:願う。開け、聖界の門────)
止めなければと思いレイカはマリアの肩に手を掛け揺すり始めた。
"────Mandata ut catenis sacris resistatur!!!"
(:────聖なる鎖に抗うことを命じる)
「降りて来なさいよ! 見てるんでしょ!!!」
そうマリア・ガーランドが天井へ顔振り上げ怒鳴った須臾天井を突き破り降り何かが落ちてきてレイカは反射的に身構えた。
そこに片膝ついて頭垂れる俯く二人がいた。レイカ・アズマが眼を強ばらせるとその二人が銀翼を広げ立ち上がった。
何なのだこの人らは!?
鼠銀のような翼は何かのトリックなのかと思いシルフィー・リッツアの長耳を思いだし異世界の住人なのかと結びつけた。
吸血鬼らへ射撃しているもの皆が一瞬振り向き顔を強ばらせ困惑しながら射撃へと戻った。
アン・プリストリよりも上背のある女とも男とも見える美しい顔立ちの二人が頭上に光る金色の輪を片手でつかみ床に投げつけそれを粉々に打ち砕きマリア・ガーランドへ顔を向け美しい声で言い放った。
「マリア様──主の下から我々を召還した責任を取って頂きますよ────」
マリア・ガーランドは呼んでいながら二人が落ちてきたことに驚き顔で鼻で笑うと命じた。
「ミカエル、ガブリエル、あの冬──私を巻き込んだのはあなた達でしょう──押し寄せる怪物と化したものらを薙ぎ払いなさい!」
今、ミカエル、ガブリエルと二人の名を呼んだとレイカは驚いた。まさか本物の天使なのかと二人の顔を見つめた。
寸秒、マリアへ頭垂れ二柱の天上人は光りのように輝く長剣を片手で引き抜き、踵返し出入り口へと向かったのでレイカはチーフに問い質した。
「マリア────あの翼持つ二人────!?」
そう問いかけるレイカにマリーは一度小首傾げ教えた。
「そのものよ。大天使のうちの二人──でも────」
「二柱ともパラメーターに記述されているこちらの存在」
マリーが言い切った寸秒、押し寄せる吸血鬼らを凄まじい勢いで元天使の二人が剣で斬り捨て始め一振りで十体以上の怪物らを両断し噴水のように黒い血を撒き散らす化け物どもらの有り様に自動小銃を構えているもの達は撃つのも忘れ唖然と見つめた。
理解できない状況に押し返せるのかとレイカが思った瞬間、通路を天井まで埋め尽くす怪物らが溢れ返るカオスに、東洋人のスナイパーはガフの部屋に押し寄せる
命貪る地獄からの魑魅魍魎だと感じ、あまりものの恐れに両膝を落とし座り込んだ。
その直後、天上人が穿った穴からゴシック・ドレスに身を包んだツインテールの少女が飛び下りてきて、レイカは難民キャンプで眼にした吸血鬼の支配者だと即座に立ち上がりFN SCARーHを構え向けた。
ヴァンパイアの王女は明らかに場違いな場所に来た体で部屋を見回し呆然としているが、チーフに気づき身構えた。
レイカは45度オフセットのトリジコンRMRタイプ2光学ダットサイトの光点に少女の額をとらえトリガー・ガードに沿わせていた人さし指を引き金に乗せ替えた。
だがMGは撃てと命じずにレイカは視線流し見つめるとチーフがナイフ引き抜き近接格闘の体勢でいることに驚いた。
だがたとえ撃てと命じられなくとも、即応できるようにマリアの左手へ回り込む少女の額を追い続けた。
その吸血鬼の少女に何の気配もなくいきなり天使だとMGが言い切った一人が背後取り片腕を背に捻り上げ床に押し倒した。
「マリア様を傷つけようなど万死に価する────」
少女の耳元に顔を近づけそう脅すミカエルともガブリエルともわからぬものが天使なのに脅しを口にし宗教的にありなのかとレイカは困惑した。
吸血鬼クイーンの背を突き破り背後取る天使へ十本余りの触手が貫いた。
だが貫かれたのは幻覚だった。
レイカが瞬きした寸秒すべての触手が天使の両脇を沿って飛び上がっていた。
少女の背後取るものがまた耳元で囁いた。
「七大天使であるこの私を化け物に成り下がった貴様に傷つけることなど笑止」
そう吸血鬼クイーンは言い切られ片腕を捻り上げられたまま首筋を折れそうなほど鷲掴みにされカーペットに顔を押しつけらた。
圧倒的に優位に立つ天使へと吸血鬼が逆転するなど不可能だとレイカはダットサイトで見つめながら鳥肌だって思った。
もしも、この天使らをマリア・ガーランドが召還したのが事実なら彼女はいったい何ものなのだ!?
いや! 傍で彼女が詠唱し命じたではないか────。
部屋の出入口へ凄まじい数の吸血鬼が押し寄せ、いきなり少女の背後から天使が消え失せた。そうしてアランカ・クリステアが腕を立て顔を上げると、その視線の先に仁王立ちのマリア・ガーランドが腕組みし蔑んだラピスラズリの瞳で見下ろしていた。
チーフがあの眼差しを向けているときは本気でキレかかってるとレイカは知っていた。
確かに大都市の住人を吸血鬼にしたのは事実だったが、それを排除するのとMGの怒りは別物だった。
背後で銃声が重なり膨れ上がる発砲音に、押し寄せた使役どもの倒れる音が追いついた。
上半身起こした少女が半身振り向くと、出入口際で眷属どもの首を凄まじい勢いで長剣で斬り刎ねる二人の長身の女が振り向きアランカを睨み据えた。
その視線絡み合った瞬間、剣振るう二人の背から銀翼が広がり羽ばたき天使らが片唇を持ち上げて見せた。
明らかに狼狽しながら立ち上がった吸血鬼クイーンにマリア・ガーランドが言い捨てた。
「ミカエルとガブリエルには、お前の配下らを無双せよと命じてある。それともわたしにでなく、あの二人に血祭りにされたいか?」
顔を振り戻した少女が歯ぎしりしてマリア・ガーランドへ視線向け三白眼で睨みつけた。
立ち上がった吸血鬼の淵源はチーフへ構え牙剥いて叫聲を上げた。
だがマリアがそれを無視するように腕組みしたまま蔑んだ眼差しで仁王立ちでいることに少女は侮辱顔を赤く染め激昂し引き攣らせた。
吸血鬼の女王が床を蹴り爆速で光学照準器視野から消え失せると、バトルライフル振り向けた先でマリア・ガーランドへと迫り跳び上がり首目掛け開いた口で尖った牙を食い込ませていた。
その余りにもの速さの吸血鬼とマリアの至近距離にレイカ・アズマはトリガーを引けなかった。