Part 31-1 Vaffanculo くそったれ
Near Pacific Filena Logistics 503 Broadway Lower-Manhattan NYC, NY 08:37 Jul 14/
7月14日08:37 ニューヨーク州ニューヨーク市ロウアー・マンハッタン・ブロードウェイ503 PFL─パシフィック・フィレーナ・ロジスティクス社近傍
「うん、ドロシアは12階の社長室に支店長と傭兵2人といるよ。他の傭兵15人がフロア移動せずに10階と7階にいる」
それを聞いてポーラ・ケースは頷きアリッサ・バノーニーノに頼んだ。
「じゃあ、アリッサ、状況を逐次報告して。クリス、アリッサをお願い」
そう言いFN SCARーHのグリップを握りしめポーラ・ケースは立ち上がりスロート・マイクで他の車輌6台に分乗しているNDCセキュリティ第二中隊セキュリティ第一小隊へ命じた。
「ブラヴォー・ワン、セットポジション」
そう言いながらポーラはシボレーエクスプレスのスライド・ドアを引き開けて歩道に下りると、前後に止まるUPSに偽装されたトラック6台の後部ドアが開かれ26人のNDC超民間軍事企業セキュリティ26名が黒のコンバットバッグを提げ降車し建物沿いにFN SCARーHを片手で保持しドロシアのいるPFL支社ビルを挟む前後の小ビルに5名ずつが入ってゆき、16名が半数ずつ前後のビルの死角になる部分に身を隠した。
PFLの出社時刻は過ぎており、この時刻に出入りする従業員はまだいなかった。
『ヤンキー・ワン、INセッティング』
『ヤンキー・トゥ、INセッティング』
ドロシア所有の貿易会社左右のビル最上階へと登った内の二分隊がPFLの屋上に渡りYTがビル内を、YOが外壁降下でインドア・アタックを決行する予定だった。
だが天才肌戦術指揮官ダイアナ・イラスコ・ロリンズならこんな安直なアタックを仕掛けたりしないとポーラは思った。
ドロシア・ヘヴィサイド拉致作戦は上の一切の許可もなくポーラとアリッサの3人で決めたことだった。あの武器商人はパトリシア・クレウーザを拉致しようとして誤ってアリスを誘拐したのだ。
潜在的な危機に対処するための緊急作戦だった。
マンハッタンでこんな強行作戦を実行すると、成功しても軽くて減給か自宅待機。最悪、懲戒解雇だとポーラは決断する際に鼻筋に皺を刻んだ。
それでも司法関係に一言入れておこうと考えたが、FBIに伝手はなく、仕方なくNSAのNY支局長が時折、MGへ会いに来てることを思いだし、情報部門で名を調べマーサ・サブリングスだと知り一報を入れたら強く止めるように言いくるめられた。
発砲は可能な限りPFLニューヨーク支社ビル内に限定し、第二中隊第一小隊のセキュリティらに付随的損害は即解雇の指示を出してあった。
すべての責は私にあるとポーラ・ケースは唇を引き結びドア・ブリーチの瞬間を今かと辛抱強く待った。
チーフはいつもインドア・アタックで先陣切って突入する。
ダイアナに言わせるとそれは駄目なはずだった。指揮官は状況を俯瞰できる立場で指示を出すべきで、現場の混乱に身を投じるべきではない。
だがMGはまるでピクニックへ行く足取りでPDWやナイフ握りしめ強行突入の先陣を軽い足取りで駆けてゆく。
『アルファよりブラヴォー・ワン──兵に動きなく、王は籠もっています』
アリスが遠視能力で武器商人らが雇っている傭兵らに動きなく、ドロシア・ヘヴィサイドは12階にいると知らせていた。
「ブラヴォー・ワン10─4、グリーンなら清掃する」
直後、屋上突入ユニットの1つが暗号無線で通知してきた。
『ヤンキー・トゥ、コール・ゴルフ』
第二分隊が屋上ドア・ブリーチでの突入準備に障害無しを連絡していた。
数秒遅れて第一分隊からもラペリング突入準備完了を告げフェンスから最上階フロアに窓上壁にまで降下し、ファイバースコープで12階の状況に突入可能の連絡を入れてきた。
「全員に通達、状況開始」
瞬間、屋上出入り口のドアの蝶番とデッドボルトを爆破する音と12階の強化窓硝子を吹き飛ばすフレーム・チャージの爆破音を耳にしながらポーラは前に立つ2人のセキュリティの肩を手と弾倉の底で押し出した。
小走りに駆けだした2人が交互に先行と防御を役割交代しながらPFLの正面エントランスに突入し、受付の横に立つ武装警備員にFN SCARーHの銃口を向け武装放棄するか、M118LRに頭を吹き飛ばされるか問いSIG226のグリップを手渡され、一瞬で装填銃弾をエジェクトしスライドを外しマガジンを抜いてエントランスの隅に放り投げ捨て、もう1人の先行突入したセキュリティが受付と警備員を頭の後ろに両手を載せさせ大理石模様のピータイルに大の字でうつ伏せにさせた。
その2人のセキュリティのバックアップをしながらポーラはアリスに無線で問うた。
「こちらブラヴォー・ワン、アルファ、兵に動きは!?」
『こちらアルファ、兵の5人が10階階段口とエレベーター、7人が9階階段口とエレベーターを警戒、3人が12階へ階段を駆け上っています。王は防弾の楯で攻撃を無効化、窓から突入した第一分隊の内3人が銃撃による負傷で戦力外。王は12階廊下へ出るドアへ弾幕で近寄れません』
ラペリング突入の3人がダウンしたことは痛手だったが、楔は有効に打ち込まれていた。
あとは女武器商人の額に戦斧を叩き込むだけだとポーラが思った。
ポーラは14人の内の2人のサブリーダーにハンドサインで階段を指し示し上階への侵攻を命じた。
踊場から上がってくるバトル・ライフルを持った黒ずくめの男らを眼にしてまず2階事務所が騒ぎになり、サブリーダーの1人が事務所の入口に仁王立ちになり全員に命じた。
「このビルから至急避難してください! 階段を利用し至急避難! 行け!!!」
腕を階段に振ると事務所の出入口に近いものから階段へ殺到した。
どこかへ電話連絡をするものがいたが、今さらに報せたとて撃ち合いはすでに始まっていたので眼にしたポーラはそれを無視した。
2階の全員退去が1分余りで終わり、ポーラはセキュリティ全員を連れ3階への階段を駆け上り同じことを皆で繰り返した。
6階のPFL社員を全員下ろしている時にすでにポーラと半数の7人が7階へのアプローチに掛かっていた。その刹那アリスがとんでもない報告を入れてきた。
『こちらアルファ、緊急! 王右手中指のリングは無線起爆スイッチ。ビル内に多くの──倒壊が目的じゃない散弾対装甲爆弾が9階を中心に多数』
「ブラヴォー・ワン10─4」
この期に及んで爆弾だと!? ビルクラッシャーが目的でないなら司法関係が強制突入したときの為に陽動で仕込んである。ドロシア・ヘヴィサイドは支店長や傭兵らを切り捨て突入部隊共々殺害し混乱に乗じて逃亡を謀るつもりだとポーラは思った。
膠着させてはいけない。
一気に追い込んで畳みかける。
あの女武器商人をチーフは少数のセキュリティとでNDC本社ビルで迎え撃ち捕らえ司法に引き渡している。同じことは可能だとポーラ・ケースは思った。
ポーラはこのドロシア拉致作戦で手榴弾と40ミリ擲弾の使用を許可していた。女武器商人と雇用された傭兵に死傷者が出ようとも迅速な作戦成立が第1にと考えていた。
ポーラはハンドサインで7人のセキュリティらに6階段口からの登り階段は踊場も含め徹底した隠密侵攻に切り替えさせ、曲がり先をファイバースコープで確認しながらじりじりと登り始めた。
アリスが傭兵らが7階にいると報告しても途中階に対人地雷などがセッティングされている可能性もあり、ポーラは実践に不馴れな第二中隊のセキュリティということもあり細心の用心を要求した。
ポーラは踊場への階段を登りながら6階から7階中間の踊場にだけゴミ箱が置かれているのを眼にした。
6階に上がるまでに階段途中にゴミ箱などありはしなかった。
寸秒、ポーラはハンドサインで3人の警護を付け爆発物担当にゴミ箱の底や裏まで確認させるために人員を送り込んだ。
ポーラの勘通り、ゴミ箱を確認した爆発物担当セキュリティは裏にミニMSー803が仕掛けられているのを見つけ、爆発物ありと傍でガードする3人の腕に触れハンドサインで知らせ無線起爆装置を解除しにかかり、それを見ていたポーラは小声でスロートマイクでアリスに問合わせた。
「ブラヴォー・ワンよりアルファ、7から10階フロアに兵以外の人は?」
『アルファよりブラヴォー、兵以外はいないよ』
ポーラはハンドサインで2人のセキュリティにFN SCARーHのバレルガード下を1度叩いて見せピカニティレールに付けたM320グレネードランチャーにCN系催涙40ミリ擲弾M651を装填させ、全員に防護マスクを着用させた。
12階社長室に突入したセキュリティらの弾薬消耗を考えると猶予はなかった。
ポーラ・ケースが人さし指と中指を揃え7階に振ると、セキュリティら2人が同時に手すり越しにM320を7階階段出入口へ向け催涙擲弾を飛ばし即座に引き戻し折ってM441高性能炸薬弾を装填し、催涙ガスが広がった4秒後にマン・トゥ・セルで階段出入口左右に銃口を向け4人が駆け上がり、CNガスで激しく咳き込み目も見えないながらまだ火器を手にする傭兵らの肩や腕、あるいは膝下を徹甲弾で撃ち抜き排除しながら7階フロアを確保した。
まだ身方に死者は出していなかった。
このまま一気に押し切るとポーラ・ケースは5人引き連れ階段を小走りに登り8、9階を確認し残りの傭兵集団のいる10階を目指した。
ドロシア・ヘヴィサイドは支店長用のマホガニー製の両袖デスクの裏にソファのような事務椅子に深く座りE.P.カリージョ・プレッジ・アポジーを口に吸い込みながら、マリア・ガーランドのアキレス腱であるパトリシア・クレウーザをどうやって拉致するかをネットで色々と検索しながら考えていた。
虫の知らせは無視しない。
この武器商人の仕事を生業として若くして頭角を現すと、つど都度血生臭い荒事になる。
ふドロシアは椅子から立ち上がりクローゼットへ行くと3人掛けのソファに座る支店長が立ち上がり尋ねた。
「どちらかへお出掛けでしょうか?」
「いや、出掛けはしないが────」
そう言いつつ女武器商人がクローゼットを引き開け中の片側に置いてあった分厚いチタン製の盾を引き抜くと、目で追っていた支店長室出入口の左右に立っている2人の傭兵がM4A1のストックを肩に押し当て僅かにコンペセッターを持ち上げた。
その盾を持ってデスクに戻ろうとしたドロシアの目前でいきなり強化ブロンズ硝子が爆発し、ドロシアは葉巻を口からカーペットに落とし片膝着いて体の前に防弾シールドを立て叫んだ。
「襲撃だ!!!」
まだ砕けた硝子の大半が空中に飛んでいる寸秒、同時に5人の黒ずくめのコマンドーらを目にしてドロシアは上着の中に右手を差し入れ腰の後ろのクイックドロウ・ホルスターから手に入れて間もないSIG P365SASを引き抜き盾の横から腕差し出し、盾の覗きスリットから見て勘でラペリング突入してきた1番近い黒ずくめの兵士か警官か定かでない男の右肩を撃ち抜き、2人目に近い突入兵へ銃振り向けると胸を出入口左にいる傭兵が3タップで撃った。
一瞬で広い支店長室は修羅場になり、傭兵2人が3バーストで次々に撃たれ、ソファから出入口へ頭抱え中腰で走った支店長が右脹ら脛を撃たれ倒れ呻く傭兵の上に転がり叫び声を上げた。
こいつらNY市警のSWATかとドロシアは一瞬思ってチタン製の盾が被弾し内側が次々に撃ち抜かれようと盛り上がる様に7.62ミリの徹甲弾だとこいつら司法関係ではないと違うと否定し連邦検察でもないと気づいた。
なら敵対する武器商人の襲撃かと考え撃たれた仲間を手早く両袖デスクの陰に引き摺り込んだ手際が傭兵ではないと考え、残された選択肢はNDCの民間軍事企業の連中だと至り腹立ちに叫んだ。
「くそう! またあの女社長か!?」
ラペリング突入してくるぐらいだ。敵は用意周到、階下からも多数侵攻してくるとドロシアは考え、7、10階の連中が10分もたないと思った矢先に出入口ドアが開き、廊下の数人とデスク陰に隠れる突入兵が撃ち合いになった。
廊下から聞こえる銃声が細り次々に減ると1人がアサルトライフルをフルオートで撃ち始めた。
こんなことならもっと質の良い経験済みにすべきだったと後悔してもあとの祭り。
ドロシアはクローゼットに火器と弾薬が隠されているのを思い出し後退さり近づいてできるだけ盾に身を隠しSIGをホルスターに戻しHK416Cとマグ3本を次々に取り出している最中に指がM67手榴弾に触れ1個つかみ出した。
ドロシアは、膝で盾を支えマガジンを叩き込め盾の右ハンドつかんだ左手の腹にショートカービンのバレルガードを乗せ両袖机の陰から撃ってくる男と撃ち合いになった。
ドロシアは撃ち合いながら、逃げだす手段にエレベーターはもとより階段も無理だと考えた。
ふと窓に火災時用の脱出シュートがあることに気がついた。
ドロシア・ヘヴィサイドはチタン製防弾シールドを膝で支えHK416Cをストックで立て手榴弾を拾い上げレバー握りしめ固いセーフティピンを力一杯に引き抜くと、レバー跳ばし1秒おいて両袖デスクの後ろに隠れる男らへと投げ付けた。
デスク後ろの壁にM67が当たった瞬間、起爆し破砕片を周囲にばら撒くと窓から突入してきた男らが沈黙した。
爆轟で耳が聞こえ辛くなったドロシアは両袖デスクの脇へ回り込みショートカービンで男らを撃ち戦闘不能にすると、負い革でHK416Cを首から胸前に提げクローゼット傍の床に置いたままの弾倉を拾い上げポケットに押し込んで、割れた長い窓の右手にある脱出シュートへ駆け寄り、ユニットに張られた操作手順へ素早く目を通し、ユニットへ上がる階段を引き下げレバーを上げシャッターを開き窓外へユニットを押し出すと畳まれているシュートが外壁下へ落ちて伸びた。
度胸男よりあるとばかりに足先からシュートに跳び込んだ女武器商人は歩道際に下り立つと歩道添いの道路を見て眉根しかめた。
宅配便の焦げ茶色のトラックが6台も近隣に路駐していた。
どこかに指揮車輌がいると見回しUPSトラックに前後を挟まれるように路駐している黒のシボレーエクスプレスに気づいた。
そこにマリア・ガーランドがいるとばかりに駆け寄り、HK416Cのグリップを片手でつかみ上げそのワンボックスのスライドドアを引き開け銃口を振り向けようとしたのと同時に、中から向けられているSCARーHのマズルを目にした寸秒そのフラッシュハイダーが2度爆炎を膨らませダブルタップの銃声を聞きながら女武器商人は歩道に崩れ落ちた。
シボレーエクスプレスの開いたスライドドアに手をかけ身を乗りだしたアリッサ・バノーニーノは胸を撃たれ喘ぎながら倒れたまま見つめるドロシア・ヘヴィサイドへ右腕を突き出すと中指を突き立てイタリア語で言い捨てた。
"Vaffancu────lo!!!"
(:くそったれ!)
それを聞いて少女の横に身を乗りだしたFN SCARーH構えるクリスチーナ・ロスネスが片手でアリスの肩を抱いて何と言ったのか教えてとしつこく尋ね始めた。