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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #3
14/164

Part 3-4 Trespassers 不法侵入者

NDC HQ.-Bld. Chelsea Manhattan NYC, NY. 10:27 Jul 12/

NDC HQ.-Bld., 10:25 Jul 13

2019年7月12日10:27ニューヨーク州ニューヨーク市マンハッタン・チェルシー地区NDC本社ビル/

7月13日10:25NDC本社ビル





 エレベーターの階表示が169階を表示しドアがスライドし開き始める。



 見えてきたエレベーター・ホールとその先の通路左右の壁に肩を近づけSCARーL Mk16PDWを構える2人のセキュリティがいた。



 受付嬢のIDを強制力で奪い取ったからといっていきなり撃ってはこないと無意識に兄のザームエル・バルヒェットは妹のリカルダを庇い斜め前に進み出たが男らに命じられた。



「動くな。両手を上げエレベーターの奥の壁に向かい立て!」



 後ろにいるリカルダが兄に囁いた。



「兄さん、任せて──」



 そう告げて妹がエレベーターの開口部に進み出てセキュリティに声をかけた。



「あなた達、そのアサルトライフルを私に渡してホルスターのハンドガンを床に捨て私の方へ蹴って下がりなさいな」



 効果は絶大だった。



 まったく命じられる様な強制力はないのに2人のセキュリティはアサルトライフルのバレルガードをつかみストックをリカルダ・バルヒェットにさしだし、妹がそれを受け取るとセキュリティの2人はFN FiveーseveNを胸のホルスターから引き抜き腕を垂らして床にハンドガンを落とすと足で蹴ってエレベーター・ホールの先へ蹴った。



 だがその光景をホールから通路側を写しているカムを観察しているものも見ていた。



 NDCセキュリティ部門のAIはセキュリティ2人の強制武装解除と判断した。その寸秒、エレベーター・ホールとのきわの通路側の壁から横方向へ16本のチタン合金の円柱のシャッターが走った。その突然の動作にリカルダ・バルヒェットは後ずさりザームエル・バルヒェットが妹の肩をつかみエレベーターに連れ戻そうとしたらエレベーターが閉じた。



「兄さんただの鉄格子てつごうしよ。解除させるわ!」



「いや、止めておこう。どこかで見てる奴が異常事態だと判断したんだ。他のセキュリティがすぐに来るしエレベーターも止められた。ここには隠れる場所がない」



 そう告げて兄はリカルダの握るアサルトライフル2挺を取り上げホールに捨てつぶやいた。





"Neustart!"

(:再起動(ノイスターツ)!)











 長い受付デスクに並ぶように座る受付嬢に笑顔を向けられザームエル・バルヒェットは突然立ち止まり広大なエントランスを見回すので妹のリカルダがたずねた。



「どうして止めたの兄さん?」



「通路に隠された鉄格子てつごうしが閉じて進退窮しんたいきわまる。まさかあんな罠があるなんて予想外だったな」



鉄格子てつごうし? 兄さん、その鉄格子てつごうしをセキュリティに解除させて社長室まで行ってもよかったのに」



 兄がきびす返したのでリカルダ・バルヒェットもならって付き従った。



「いや、奥まで行って幾つか罠をかわしても、いずれ最初の罠を抜けだせなくなる危険性がある。トラップ・ループへは入ってはいけない」



 中に入る別な方法を探ろう。手段は幾らでもあるとザームエル・バルヒェットは思いながらエントランスを後にしてNDC本社ビルを後にした。











 シリウス・ランディがCIA副長官となり副社長ダイアナ・イラスコ・ロリンズも多忙となりマリア・ガーランドの実務上のサポートをエリザベス・スローンがこなしていた。



 リズは勤勉であり職務に忠実でマリア・ガーランドよりも早く出勤し社長(COO)が出勤するまでにミーティングの準備を毎日終えていた。マリーが出勤してくると毎朝、リズと1時間ほど打ち合わせをする。彼女とのやり取りは社長職として必要な事ばかりで、民間軍事企(PMC)業の方はルナが取り仕切っていた。



 NDCの一般職員の出社時間は9時で退社は夕刻5時半だったが、マリーは常に8時に出社した。シリウスがNDCを退しりぞく前に彼女が後任にとリズを探してきて後継に据えたのにルナはリズの経歴を見ただけで口を差し挟まなかった。



「────ですからマーケティング・プロダクト部門の戦略は好ましくない状況を招いており、プロダクト・マネージャーは現在課長(GM)のフランク・タリスを昇格させるべきだと判断しております」



「構わない。フランク・TをPMに」



「続いてケミカル部門のトウラー製薬ですが、今年に入りアメリカ食品医薬(FDA)品局から7件のデータ再提出を命じられ製品化が5ヶ月も遅れています。この状況は一年前から徐々に見られるようになっており、経営部門のテコ入れが必要と思われNDCから数人配属したく考えています」



 マリーはムスッとした。トウラー製薬は医療分野で難病の治療薬を幾つも市場に出していた。研究にも積極的で新薬が承認されないとなると余計な経費が上乗せされて薬価が跳ね上がりそれは患者の負担となる。



「承認が遅れて潤う部門のFDAとの癒着を調査。機関の方へはロビーストを使いなさい」



 そう命じてマリーは腕時計を眼にした。いつもなら9時半にはミーティングが終わるが、今日は案件が多く針は10時を指していた。



 いきなりマリーの着いた両袖机のインカムが呼び出し音のメロディーを鳴らしたのでマリーはハンズフリーのボタンに触れた。



『エントランス受付です。社長国家安全保障(NSA)局ニューヨーク支局長が面会にお見えになっています。お通ししてよろしいでしょう?』


 マーサ・サブリングスだった。ミーティングを切る口実にはもってこいだとマリーは飛びついてエリザベス・スローンの顔色をうかがうと彼女は手慣れたようにうなづいて承諾し立ち上がり両袖机の前に据えていた折り畳み椅子を畳んだ。



「社長、残りは午後に致しましょう。お時間が空きましたらお知らせ下さい」



 リズが社長室を出かかった後ろ姿にマリーは声をかけた。



「ありがとうリズ」



 エリザベスは横顔でうなづいて見せてドアを閉じたのでマリーはドレッサーの鏡で身だしなみを整える代わりにセリーの自撮りカメラで自分を写し液晶画面で確かめた。



 数分後、出入り口でノックの音が聞こえマリーはマーサを出迎え扉を開いた。マーサ・サブリングスは1人でなくヴェロニカ・ダーシーが付き添っていた。



「いらっしゃい、マーサ、ヴェロニカ」



「お久しぶりですマリー」



 マリーは出入り口から離れ2人にお入んなさいと告げソファに向かって手のひらを差し向けた。



「紅茶で良いかしら? どうしたの? 私の保護観察?」



 そう冗談でたずねマリーはデスクに向かうとインカムの内線スイッチに触れスカイラウンジに紅茶を頼んで振り向いた。



「粗暴だとは存じてますが前科持ちとは知りませんでした」



 マーサが皮肉って応える後ろでヴェロニカが苦笑いして扉を閉じた。



「マーサ、人を極悪人みたく」



「ええ、アジトにこもる悪人みたく手下に調べさせて────ところで社長(COO)、エレベーター前で所持品検査を受けましたが、何かあったの? 前に来たときは所持品検査はやってなかったでしょう」



 マリーは立ったまま黒檀の両袖机にもたれてマーサに教えた。



「昨日、職員のIDを盗んで侵入しようとしたものらがいて。それでセキュリティを強化したの」



「怪我人がでたの?」



「いや──その、侵入経路がわかったのに逃亡経路が特定できなくて」



 それを耳にしてマーサが笑みを浮かべたのでマリーは興味を抱いた。



「?」



「えっ? あぁ、情報の要塞で侵入者を見失うのかと」



 マーサが取りつくろったので今度はマリーが微笑んだ。



「そうなのよ。見失った直前まで防犯カムに連続して写っていながら急に失探したの。で、今日はどんなご用なの?」



「──実はヴェロニカがあの日以来、精神的に不安定になっていて。どんな精神科医よりもあなたが頼りだから、マリー」



 この人は平気で人を重圧に曝すのをなんとも思わないのかとマリーが感じ、マーサが言葉切るとドアがノックされマリーが応えると扉が開いてスカイラウンジのウエイトレスがワゴンを押して入ってきた。



「困ったわね。私、医者じゃないから」



「でもマリー、あなたは医者にもできないことを成し遂げるでしょう。私は自分が眼にした事を奇跡の言葉1つで片付けないです」



 マリーは困った。再生はベルセキアが現れたあの時以来成功した事がなく、あの時も単に出来ると感じての力押しだった。実際、病人死や不慮の事故死した人を引きもどうそうとしても上手くいったことはなく、自分とヴェスに乗っ取られたヴェロニカをシルフィー・リッツアにつらぬかさせたあの瞬間、戻れると──戻せると直感した結果1つだったと思い返しマーサの部下にたずねた。



「ヴェロニカ、実際、何に困っているの?」



「わからないんです。茫漠と不安を感じて眠りを妨げられたり、あるはずもないざわざわした声と金属のきしみが聞こえるんです」



 ウィスパーとノイジーな金属音。



 まさに精神科医のカウンセリングを必要としているのに私の扉を叩きに来るとマリーは微かに眉間にしわを刻んでソファから腰を浮かしスーツの内ポケットからモンブランの万年筆を引き抜きキャップを取りマーサらと向かい合ってマリーの座るソファの前に置かれた硝子(ガラス)テーブルにキャップの口を当て一気に引っ張った。



 発生した甲高いノイズにマーサは眼を細めヴェロニカは唇をゆがめた。



「こんな──音?」



 マリーが問うとヴェロニカがかぶり振った。



「いいえ、もっと深く闇の先から聞こえてくるような。それでいて発生源が自分の中にあると確信できる」



 マリーは鼓膜や三叉神経が原因じゃないと踏んだ。同じ様に死から再生して私には聞こえずヴェロニカにだけ聞こえる幻聴。



 死生観の相違。心理的なものだろうか。ただの思い込み。



 だけど相談に踏み切るだけ悩んでいるのは事実だった。



「しばらく────ヴェロニカを私の元に居させてくれるかしら」



 マリーが提案するとマーサが即断した。



「ヴェロニカ、マリア・ガーランドの身辺警護を命じます。取りあえずひと月」



「え!? 所長、私がセキュリティ────ですか?」



「ええ、そうよ。マリアにつきまとう子犬の様に四六時中」



 呆れかえったのはマリーだった。万年筆を仕舞うとマーサに提案した。



「マーサ、私には専属のセキュリティがいるわ。きっと彼らの逆鱗に触れる結果になるから秘書として同行させるのはいかが?」



 即座にマーサが修正した。



「偽装は必要です。表向きは秘書で実質セキュリティ」



 ああ、この人は時々言いだした事を引かず硬い口調になる。まるでルナの姉妹だとマリーは思って一瞬苦笑いした。



「マリア、笑える要素があって?」



 即座にマーサが突っ込みを入れたのでマリーは生唾を飲み込み唇を引き結んだがソファから身を乗り出しヴェロニカに伝えた。



"Veronica, just trust yourself, then you will know how to live."

(:ヴェロニカ、自分を信じなさい。そうすれば道が見えてくるわ)



「ところでマリー、先ほどの話。消えてしまった不法侵入者の件──映像を見せて」



 口を差し挟んだマーサがなぜ侵入者に興味持ったかマリーは理解(およ)ばなかった。ソファを離れ執務デスクへ行き大型タブレットを手にすると硝子(ガラス)テーブルの方へ戻った。



 指紋を認証させタブレットを起動させマリー手早くクラウドのファイルを選びタップした。



 それはマルチカムの録画で通路側のエレベーターホールとエレベーター内が同時に分割画面で映っていた。エレベーター前には2人のセキュリティがアサルトライフルを手に扉から離れ構えている。エレベーターには身形みなりの良い若い男女が乗り込んでいるが見たところ武器は手にしていなかった。



「どうしてセキュリティはエレベーターの2人が不法侵入者だと知ったの?」



 マーサが映像を見つめながらマリーにたずねた。



「エントランスの受付嬢がアサルトライフル2挺指定でエレベーター出入り口で待てとセキュリティに連絡してきたのよ」



「連絡してきた? 警告をしたということ?」



「いいえ、依頼しただけ。アサルトライフル2挺を用意してスタッフフロアのエレベーターホールに来るようにと」



「それじゃあ、この時点で警報は出てなかった? 不法侵入者は愚かにも閉じた箱を選んだのね。閉じ込められるとは考えなかった。ヴィジターのIDでエレベーターに乗り込んだの?」



「いいえ、言葉巧みに受付嬢からIDを2つ奪ったのよ。その時にセキュリティをこのフロアで待たさせる様にと」



 説明しながらマーサが何を気がかりにしているかマリーはつかめずにいた。



「じゃあこの男女は自分達に向けられる銃口を望んだの? 矛盾するわね」



 エレベーターが止まりドアが開くと女の方が先に出てセキュリティに両手を差しだすと2人の男らはアサルトライフルの向きを変えバレルガードをつかんで女へと手渡した。



「脅された? いいえ、内通者かも」



 マーサのつぶやきをよそに2人のセキュリティが床にホルスターから引き抜いたファイヴセヴンを放り捨て足で蹴って通路へと後退あとずさった。直後、通路の壁から出現した金属の太いロッド十数本が通路を塞ぎエレベーターの鋼鉄製の扉が閉じた。その扉閉じる寸前エレベーターから男の方が出てきて女の肩をつかんで後退あとずさらせ2挺のアサルトライフルを床に捨てた寸秒、いきなりそのカメラから2人は消え去った。



「アサルトライフルでセキュリティを脅して鉄格子てつごうしを開けさせる手には出なかったのね」



 そうマーサが告げた直後、通路に数人のセキュリティが走ってきているのがエレベーターホールから通路側を写すカムの見えていた。4人のセキュリティがたてを床について膝を脅してアサルトライフルを構えその方に兵器を手放した2人も逃げ込んできた。



 だが警戒するセキュリティを後目にその2人がいきなり消え去り駆けつけた男女は唖然となった。



「マリア、録画を一時停止したの!?」



「いえセキュリティ・カムは停止する事なく録画してたわ時間の記録が滞っていない」



 対応に当たった6人のセキュリティは誰も居なくなったエレベーターホールを見つめ、慌てて鉄格子てつごうしを壁に戻すとホールに駆け込んで周囲へ銃口を向け相手がいないことに困惑げな面もちで顔を見合わせた。





「2人は忽然こつぜんと消えたのよ」





 そう告げてマリーはタブレットをタップし休止した。



「マリア、この件を国会安全保障(NSA)局で調べます。似た事例を聞いた事があるから」



 マーサの提案にマリーは驚いた。



「民事に介入するの?」



「えぇ。その2人──セキュリティから銃を手に入れると自信満々だった。じゃあ銃器で何を、と考察すると────誰かを殺害しようとしたと考えられるわ。強盗の線は考えられない。もっと短直にするはず。例えばサタデー・ナイト・フィーバー(:安物の銃のアメリカでの俗称)を用意するとか」



 捜査経験のないマリア・ガーランドはただ黙って意見を聞いていた。NSAも市警みたいな捜査をするのかもしれないと思った。



「詳しいのね」



 そう社長(COO)が告げるとマーサが声を落として教えた。



「テロリストや凶悪犯を追うこともあるから」



 そこまで告げてマーサは部下へと顔を向け命じた。



「マリアを護りなさい。いいわね」



 ヴェロニカがうなづきマリーはこれでは誰が助けられようとしているかわからないと思うとマーサが立ち上がった。



「それじゃあマリア、ヴェロニカをお願い。ああそれと警護経費はいらないわ。職務の一貫いっかんだから」



 マリーが立ち上がるとヴェロニカも立ち上がった。



「それじゃあ。忙しいからマリア。また」



 そう告げてマーサが出入り口から出て行くとマリーはヴェロニカに向かい合った。



「さて、ヴェロニカ──何から始める?」



「秘書として何をすれば良いのですか?」



 マリーは手のひらを振った。



「私のゆく場所へどこでもついて来なさい。質問には何でも答えるわ」







「マリア、私の他に再生させた人で困った症状が出た人はいるんですか?」







「いえヴェロニカ。再生できたのは私とあなただけよ。それに私にはあなたの様な症状が出てないの。でも心配いらないわ。私と────2人で原因を突き止め対処するの」



 マリア・ガーランドに言われヴェロニカ・ダーシーは力強くうなづいた。









 その頭がいきなり止まりソファの背を鷲掴わしづかみにしたヴェロニカ・ダーシーの右手の甲が波打ち関節を鳴らす様な音が連続しうつむいた彼女が絞り出すような声で告げた。





「不思議────あなたのそばに──いると────」






「────喰らいたいのよ────」











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