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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #25
130/164

Part 25-5 Tyrannical Witch 暴虐の魔女


NBC(/National Broadcasting Company) HQ. Studio 30 Comcast Bld. Midtown Manhattan NY., 12:09

12:09 ニューヨーク州ニューヨーク30番地コムキャスト・ビル NBC本局スタジオ





 いつもなら咄嗟とっさの状況に出遅れることなどない。



 一昼夜、正確にいうと異次元での数日間を足し合わせた超過勤務────神経をすり減らして眼にしたこの事態に憤慨ふんがいしながら怒りが爆発してゆくのを静かに感じていた。



 スタジオを襲撃してきた男らが政治思想のたぐいのただの犯罪者か、それともテロリストなのかと判断も出遅れた。



 男ら五人のうち二人が赤ランプ灯るカムの両側へ駆け寄り銃口を向けられた瞬間、マリア・ガーランドは違うと愕然がくぜんとした。





 ねらわれているのは、インタヴュアーのシャロン・ベンサム!?





 なぜ私じゃなくと困惑しながら女社長(COO)はフルオートでマズルフラッシュを膨らませる二挺のアサルトライフルをにらみ据え片腕を横へ振り切って風の精霊シルフィードの守護のスクリーンをシャロンの前へ広げた。



 寸秒の差でNBCの人気キャスターの顔の前に数十の青い波紋が生まれ前に置かれた硝子(ガラス)テーブルに派手な金属音を放ち勢い失った銃弾(ブレット)が雨のように降り注いだ。



 マリーはソファから飛び離れるように腰を上げスーツの内に右腕を差し込み腰の後ろに着けているクイックドロー・ホルスターからスターズ制式拳銃ファイブセヴンを引き抜きながら、女キャスターの前に片膝かたひざをカーペットに滑らせたてとなると5.7ミリの銃口をカムの左にいるアサルトライフル構える男の額へ狙い定め背後でソファから落ちて床に座り込んだシャロンに詰問きつもんした。





「シャロン! あなたねらわれる覚えがあるの!?」





「私は────わたしが────」



 その言葉濁した女の真意をとマリーはキャスターの意識に滑り込んだ。



 怖い! ブラック・スワンに100万ドル出すんじゃなかった! 殺されることがこんなに恐ろしいなんて────取材中に襲撃され人道を説く目の前の女が私の命を守れず、私が命を落とす瞬間をカメラに収められると文句なしと思ったのに────嫌よ!





 死ぬなんて!!!





 ブラック・スワン──国内で五本の指に入る民間軍事企(PMC)業! 悲痛な意識に触れマリーは瞬時にすべてを把握した。



 こいつは私をおとしめるために大金で傭兵ようへいを雇い入れたんだ!



 半身振り向きラピスラズリの横目で茫然としたシャロン・ベンサムを間近でにらみつけた。



 はらわたが煮えくり返った。





 どいつもこいつも命を軽々しく────────!





「シャロン! 1つ問う! これはお前が招いたんだな!?」



 女キャスターの口から真実を語らせる必要があった。この女に重荷を背負わせるんだ!



「私は────あなたが──あなたが憎くて────」



 十分だ! そう思った瞬間、抑えているものが外れたのがわかった。



 明かりの中央にいる女がハンドガンを引き抜いたのを目にしてスタジオのスタッフをたてにとり始めたブラックスワンの傭兵ようへいら、このわきに隠した女性キャスター・シャロン・ベンサムを是が非でも殺しにかかる連中にマリア・ガーランドは目眩めまいを覚えた。



 なぜこいつらは私を本気で怒らせる!?



 エリザベス────。



 マリア・ガーランドは総務部長のエリザベス・スローンへ一瞬でブレイン・リンクを繋いだ。



────は、はい社長(COO)



 私がここで凄まじい暴力を行っても、役員や株主、顧客からの苦情をすべてさばけるか?



 しばらくがあり、優秀な部下エリザベス・スローンの決意が伝わってきた。







────M・G、貴女あなたを御守りしてみせます。







 その決意にマリアは一線を越える腹積もりになって背後にかばう女キャスターに怒鳴り問うた。



「シャロン────まだ映像を撮っているのか!?」



「えっ!?」



 殺されるという意味に辿たどり着いた女司会者は、身を持って護ろうとするこけ堕とそうとした女社長(COO)に言われた意味をつかめずに目をおよがせた。



「まだこれを放送してるのか──と聞いたんだ!」



「し、してるわよ────ぜ、全国ネットで────すべて流れてるのよ!」



 唇を震わせシャロンがどもりながら答えた。



「今から起きる血塗られた光景を呼び込んだのは──シャロン・ベンサム────お前だ!」





 そう言い切り、マリア・ガーランドはファイヴ・セヴンのグリップエンドで眼の前のガラス・テーブルをいきなり叩き割った。







 その数百に跳ね上がった鋭利な破片が飛び散ったかに見えた刹那せつな、すべての硝子片が空中で跳ね上がり2人の周囲に浮かび上がって幅と高さある円陣を形成すると至高のカットを施されたダイヤモンドの耀かがやきのごときらめきを放ち始めた。







 シャロン・ベンサムだけでなくスタジオ内の全員がその魔術のような光景に目を奪われているとマリア・ガーランドがつぶやくのが聞こえた。



「私はシンデレラなんかじゃない────われは暴虐の魔女────」





「────マリア・ガーランド!!!」





 こんな芸当はお前らには出来まい!



 見入り眩惑され怖れよ。







 我が、ナイフの美しさを!!!







 その須臾しゅゆ、研ぎ澄まされた数百のナイフが音速越えの爆轟を放ち4人の殺し屋らの額へとうなると男らの眉間を一瞬で撃ち抜いた。人質を取らずにスタジオ出入口へと後退あとずさっていたシャロン暗殺部隊リーダーのエイブラム・ダッカーもその光景に唖然となっていた。



 標的として指示されたキャスターを護るあのNDCの女社長(COO)が何をしたのか彼には理解できなかった。ガラス・テーブルを叩き割りただその破片が飛び散ったようにしか見えなかった。



 飛び散った破片がどうして空中に浮かび上がって彼奴あいつらの周囲を回転しているのだ!?



 出入口から後退あとずさり通路へと出たその男がリーダーだと見ぬいたマリア・ガーランドは立ち上がって上目遣うわめづかいのまま1カムのかたわらを通り抜けた。



 その姿をスタジオ・スタッフの一人が肩に担いだ7カムのレンズで追い廊下へ出た襲撃者を追いそこへ向かいゆっくりと右手を振り上げ指さしNDCの女社長(COO)が怒鳴ったのを一緒に着いてゆく音声スタッフと共に撮り続けた。





「弁明に5つ数える!」





 男は上擦った声で通路から言い訳を口走った。



「雇われたんだ────」



 その指さす白銀の髪をした女との間にきらめくものが集まりだし男は狼狽え始めた。





「1つ!」





「金を積むからそのシャロン・ベンサムを殺せと────」



 いきなりマリア・ガーランドは男を指さした手首をハンドガンのマズルジャンプのように跳ね上げつぶやいた。







"CLACK!!!"

(:バン!!!)







 撃ち込まれた無数の硝子(ガラス)銃弾(ブレット)で額に銃創が刻まれた男は背後の壁に後頭部から突っ込んだ。そのぶつかる前に脳髄と血のロールシャッハ模様が広がり男はそこに頭を打ちつけ血糊を引き延ばし床にくずれ落ちた。







 刹那せつなその体液の模様すべてが急激に集まりエイブラム・ダッカーの後頭部に吸い込まれると額から強化ガラスのナイフ群が飛び出した。







「ただ殺しはしない。死の記憶を刻んだまま────蘇らせる」







 そうマリア・ガーランドが言い放った直後、完全に死んでいたブラック・スワンの傭兵ようへいエイブラム・ダッカーの一人の周囲へ天井との空間から降り注ぎだした金色こんじき鱗粉りんぷんが急激に増え遺体が痙攣けいれんし始め白目をむいていた男の焦げ茶色の虹彩が上から前へ下りてきた。





 刹那せつな、エイブラム・ダッカーは意識取り戻すと目をおよがせだして自分の額を両手で被い叫び声を上げ始めた。



 人さし指と親指を伸ばした右腕をゆっくりと腰の横へ下ろした女が泣き叫ぶ男から視線逸らし振り向くと正面にカムが待ち構えていた。





「人の悪感情に寄生するしか能のない害虫の哀れな姿だわ





 そうカムに向かって言い切ったマリア・ガーランドへカム担ぐスタッフが問いかけた。



「あなた、本当に魔女なんですか?」



 うつむいて下唇を咬んでいたMGをじっとレンズは撮り続けていた。そうして告げられた言葉にカム担ぐスタッフと音声スタッフは青ざめた。







「覚悟しなさい────本気だから」







 16歳でシールの強者どもに少佐(LCDR)と敬われた女があごを引き上目遣うわめづかいの刺すようなウルトラマリーンブルーの三白眼でにらみながら不敵に赤い唇の片側を吊り上げた。











 警察署の正面玄関を出るなり横で階段を下りるルナが半身振り向いてマリア・ガーランドに人さし指を向け説教を始めた。



「いいですか、マリア! スタジオのカメラの前で貴女あなたは5人の傭兵ようへいを射殺したんですよ────生放送で3300万世帯の視聴者に貴女あなたの残虐性を植えつけてしまったんです!」



 いつになく凄まじい剣幕でまくし立てるルナのとばっちりを受けたくないとばかりに警護に来た6人のスターズ・セキュリティは2人に8ヤード離れ彼らは車道の端を歩き始めた。



「これは貴女あなたというブランド・イメージを大きく損なうものであり、全NDC複合企業(コングロマリット)傘下さんかのすべての会社の収益を悪化させる要因なんです!」



「やったものは仕方ないわ」



 マリーのその言い草にルナはエメラルドグリーンの瞳を大きく見開き顳顬こめかみに青筋を浮かばせ息を一気に吸い込んだ。



「何ですか、その態度は! 貴女あなたの暴力的イメージを払拭ふっしょくするためにわたくしや他の部下たちがどれだけ苦労しているか、ご存知ないのでしょうが────」



 言いかけている途中でマリーがいきなり立ち止まり遅れて止まったルナが人さし指を立てて振り向いた。







「こんなはした金で足りるわけねぇだろうが! このアバズレめ!」







 建物の間の狭い路地からかすかにそう聞こえてきた。マリーがその方へ振り向くと女の懇願こんがんする啜り泣き混じりの声が途切れとぎれに聞こえた。



「ごめんなさい──ごめんなさい────今月はもう──2回も────前借りしてて────」



 殴りつける音が聞こえ女の押し殺した悲鳴が伝わってマリーは警護のセキュリティに命じた。



「2分間だけ人払いを────」



 警護のセキュリティ達は顔を見合わせてその細い路地外に広がると半円形に通りから隔離し、ルナが止めようとマリーへ片手を伸ばした。



「てめぇ俺をナメてんのかぁ!?」



 その声の後にサンドバッグを殴りつけるような重い音が聞こえ女の悲鳴と啜り泣きが続く路地へブラッディ・シンデレラと今回のスタジオインタビュー襲撃事件でマスメディアに別名つけられた女がゆっくりと入ってゆくと袋小路の裏路地の奥でウエイトレスの制服を着た女が倒れておりその女を風体の悪いいかつい男が蹴りを入れていた。



 こういう手合いにかける言葉などない────。



 そう思いながらマリア・ガーランドは右手のこぶしを数回握りしめ指の関節を数回鳴らしながらその男に向かって無言で歩いて行くと醜悪な男が気づき顔を振り向け威嚇した。



「何だてめぇ!!!」











 鉄格子てつごうしと金網越しにのぞきながら白衣の黒縁セルの眼鏡をかけた男が説明し続けた。



「驚異的なところは128の世界を細かいところまで創りだしすべてきちんと識別していることです」



 医師のそばから確認窓をのぞき込んでいる男は医師に問いかけた。



「シリアから助け出して11年あまり、娘は回復しているのでしょうか?」



「難しいところです。多重人格の治癒ケースは多いのですが、平行した百数十の多重世界を構築するクランケは前例がなく。幻覚、幻聴を押さえ込む既存の薬剤の効果も弱くわずか半年で妄想の世界が数倍に膨れ上がったので────」



 マイク・ガーランドは医師の説明も上の空で眼を細め眉間にしわを刻んだ。



「お嬢さんは本当に16歳で従軍されたのですか?」



 マイクは何を今更いまさらと息を呑んだ。



 隠れてテロリスト・キャンプを襲撃し負傷したフロッグメンを逃がすために1個師団のシリア陸軍兵に取り囲まれ考えられない暴力を受けたのだ。



 娘を壊してしまったのは結果見過ごした私なのだと彼はまたもや責任を思いだした。



「また様子を見に来ます。それまで娘のことをよろしくお願いします」



 そう告げながら医師と共にマイクは長く無機質な通路の先奥の鉄格子てつごうしへと歩き始め唐突に医師に尋ねた。



「娘は、我々のことを現実だと少しは認識できるようになったのでしょうか?」



「お嬢さんは、似た世界を幾つも創りだしています。正直、我々がそのどこに存在しているかを証明するのは非常に難しいでしょう」











 無垢むくな壁をじっと見つめる胡乱うろんとした女の瞳が揺れ動きつぶやき続けていた唇を開いたまま言葉を呑み込んだ。



 壁に波紋の波が広がるとその中心が暗くなり暗い明度の異なり重なり呑み込み合う雲海のような空間を突如とつじょ裂いてネイヴィブルーのタイトスカートのスーツ姿の女性が現れ左手をくびれた腰の上にあてると壁が波紋をわずかに残し元に戻り始めた。



「けっこう探したわよ────」



「あ──あなたは────だれ────?」



 じっと見上げるその患者は病室の壁から突如とつじょ現れたその女性に名を尋ねた。





「私の名はマリア・ガーランド。あなたと同じはずよ」





「マリア──ガーランド? わたしもマリア────」





 そう応えた唇の片から患者服を着たプラチナブロンドの乱れ髪の女はひとすじの唾液をすっと垂らした。



 壁から現れたマリーはひざを折ると右手を差しだし指でその光る雫を拭ってやるとささやいた。



「あなたを完璧に治してあげる」



「わたし────どこも──わるく────」



 スーツ姿のマリーは微笑んだ。



「そうよ。悪くないの(・・・・・)。だから治せるわ」



 そう告げて手のひらを座り込んだもう1人の自分に差しだすと患者服を着た自分が揃えた指を乗せつぶやいた。



「わたし────どこも────」







「大丈夫。あなたで38人目だから、治せるの」







 そう告げて座り込んだもう1人の自分をうながすように立ち上がらせたマリーは左手を後ろに差しだし手のひらを壁のそばで揺らめかせると壁が大きく波紋を生み出し中心から暗い世界が広がりそこへ彼女は後退あとずさり患者服の自分を導いた。



「治してこの世界に戻して────あげるわ」











 ステンレス・ワゴンを押してきたその女性看護士は投薬リストを確認し48号室ルームナンバーを見て患者の午後の投薬をピルケースから取り出し、それを指にはさみ紙コップに入れて持ち、片手で鍵束かぎたばを腰の布ベルトから外すと観察窓から1度病室内をのぞき込み患者が扉のそばにいないことを確かめ鍵穴にキーを差し込んで眉根をしかめた。



 患者はドアから離れて────。







 壁に後足のふくらはぎが消える一瞬を見てしまったと見間違いだとあわてて窓からのぞき込んだ。







 見える範囲に患者の姿はなく彼女は急いで鍵穴に差し込んだキーを回しデッドボルトを解除すると扉をスライドさせて病室を見回した。



 どこにも患者の姿がなくもしやベッドの下かと姿勢を下げ鍵束握る片手を床についてのぞき込んだ。



 唖然とした表情のその看護士はその時になって足が消えたように見えた壁を振り向き見つめた。





 無垢むくのパステルカラーの壁には何の痕跡もなく、その時になって彼女はポケットに入れたモバイルフォンを取り出し警備室へ連絡を入れた。





「大変です48号室のマリア・ガーランドがいなくなりました!」





 看護士は語気を強めながら今一度壁に穴がないかを眼を強ばらせ確認していて壁から突き出た細い異物に気がついた。



 そばに寄ってそれをじっと見つめる。



 細いナイロンベルトに印刷された患者コードの数字!?



 患者識別用ハンドカフ!?





 看護士は腰を抜かし座り込んでパステルカラーの壁からあわてて後退あとずさった。












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