Part 3-3 Specimen Acus 標本針
Armored Reconnaissance Unit 1st Company 6th Squadron 1st Cavalry Regiment 1st Armored Division Ⅲ Corps Army Commands US.Army Company Training Ground Fort Bliss, TX. 19:42 Jul 13/
NDC HQ Chelsea Manhattan, NY 21:51
7月13日19:42 テキサス州フォート・ブリス アメリカ陸軍 陸軍コマンド第3軍団第1機甲師団第6戦隊第1騎兵連隊第1中隊機甲偵察部隊の演習地/
21:51ニューヨーク州マンハッタン・チェルシー地区NDC本社ビル
偵察第1小隊と連絡が取れなくなって偵察車輌ハウンドドッグ1のサイクス少尉が野営地の指揮テントにセリー(:アメリカでの携帯電話の俗称)で報せてきた。
「サイクス少尉、どうしてセリーで連絡してきた!?」
『中佐、私は敵を見つけるためにハッチから上半身を出していて装甲車が斜めに両断され放り出されたんです。車輌は爆発して機材は使い物になりません』
両断!? ミサイルでなければ即席爆弾の被害だったはずなのによく生き残れたと第1偵察中隊指揮官のブレンドン・ダリモア中佐は困惑した。
「少尉、それじゃあ君の他に生存者はいないのか? 敵は視認したか?」
『被害甚大で部下を助け出すことも出来ませんでした。今、デザートを野営地に向かい歩いています。敵は────人じゃありません。オレンジの鞭2条を操るパネルバンほどの怪物です』
鞭だと!? 怪物!? それじゃあ人が対装甲車兵器で中隊偵察車輌5台を撃破したのじゃないのかとブレンドン・ダリモア中佐が問いつめるとわからないの一点張りだった。
「イーノック、歩き回るな」
『無理です。我々をやった連中が何体かいる場所にハンドガンだけで止まりたくありません!』
「アパッチとブラックホークを急行させた。あと数分でチョッパーがそこに到達する。地上部隊も送り込む。それまでに敵を掌握できるならセリーで連絡を入れろ」
とにかくそこで我々が優勢になるので身を隠していろと命じると少尉は逆に敵は一撃でブラッドレーの追加装甲を打ち破っているので用心して欲しいと訴えかけている途中で通話が切れた。
陸軍の保有するRQ-7Bシャドウ2000無人偵察機では敵の姿は捉えられずにいた。ダリモア中佐は操作卓端にある電話機のフックを押し込み続けて交換手の通話ボタンを押し込んだ。
「ブレンドン・ダリモアだ。野営指揮所を────ターリック、第1偵察部隊が演習地内で壊滅的打撃を受けた。生存者を救出し敵対勢力の目標補足に第1機甲部隊第1から4小隊のエイブラムス12輌と第2、第3偵察小隊、及び6台のM1036HMMWVを第1偵察小隊展開地域に至急派遣しろ────そうだ第1から4のエイブラムス12輌。それに第2、3偵察小隊だ。501航空連隊のアパッチ6機、ブラックホーク6機が近接航空支援に当たる。敵勢力が明確になるまで最大限の用心をさせろ。以上だ」
ブレンドン・ダリモア中佐は発令所当直士官に命じ今一度電話を切り交換手を呼び出した。
「キャノン空軍基地の第3特殊作戦飛行隊指揮官へ繋いでくれ」
指示から20秒ほどで先方の中佐が出た。
『第3特殊作戦飛行隊タルボット中佐です』
「フォート・ブリス第6戦隊第1騎兵連隊第1中隊機甲偵察部隊のブレンドン・ダリモア中佐です。フォート・ブリス野営地東方13.7マイル──座標149LD12の演習地で機甲偵察小隊が未確認の敵勢力から攻撃を受けている。アパッチをCASに出したが作戦域が広いため広域捜査にリーパーを出して頂きたい。これは演習にあらず。対装甲とエリア爆破兵器搭載で2機だせるか?」
『了解した。2機の遠隔操作航空機をヘルファイアとMk.82LGBミックス搭載で出す。索敵情報はリンクで構わないか? 敵勢力をそちらで指示してくれれば打撃を与える』
遠隔操作航空機はMQ-9リーパーでリンクはJTIDSを意味した。
「構わない。よろしく」
最寄りのニューメキシコ州にあるキャノン空軍基地指令に状況を報せ対戦車兵装と爆装のMQ-9リーパー──2機の派遣を要請した。先にアパッチと装甲車が現着するが広域の索敵はアパッチ4機では荷が勝ちすぎる。かといって対装甲装備の無人機が急行しても該当地域まで218マイル余りあり武装無人機が到達するまで1時間かかるが、他の足の速い対地攻撃機を支援に呼んでも地上をゆっくり移動する小さな標的を捉え難い。
野営地から距離で13.7マイル。12台のM1A2C/SEPV3エイブラムスと6台のM1036HMMWV──TOW対戦車ミサイル搭載ハンヴィーを急行させたが到着するのは早くて20:04になる。
中佐はRQ-7Bシャドウ2000無人偵察機の送ってくるIR画像をモニタで見つめた。刻々と数値が変動してゆく緯度と経度の値と受信GPSナンバーが画面右肩に、画面トップには緩やかに横へゲージの変化する方位計、画面左にはフィート表示の高度計が表示されている。電子光学/赤外線カムが捉えた地上に揺らめくフレアの照らしだす車輌の白いシルエットからM3A3BFISTブラッドレー騎兵戦闘車だと判断したセンサー・オペレーター少尉が報告すると彼の斜め後方で目視している少佐も自分の眼で確認した。
「中佐、炎上している2台目の偵察車輌と兵士の遺体と思しき数名を確認しました。何号車かは不明ですが、同じ様に大破し付近に乗員が倒れています」
そのモノトーンの映像を見つめブレンドン・ダリモア中佐はこれ以上被害が拡大せずに収束する事を願ったが最悪の状況が待ち構えていた。
フォート・ブリス基地ビッグス陸軍飛行場から飛び立った》アメリカ陸軍第1機甲師団戦闘航空旅団第501戦闘航空大隊A中隊アサシンズ第1、第2小隊のAHー64Eアパッチ・ガーディアン攻撃ヘリ6機と第2一般支援大隊第501航空連隊所属のブラックホーク6機が飛び立った。
AHー64Eアパッチ・ガーディアンのウイングリーダー──リンクス214号機機長の後席──パイロット席に座るウォーレン・ハーコート中尉は座標到達60秒前にストライクパッケージの各攻撃ヘリをソウトゥース横陣形にシフトさせ絨毯索敵を行う事にした。
通常、敵地上部隊の対空兵装有無が明確でない場合には幾つかの索敵パターンがあるが主に2機でペアを組み1機が斜め後方を飛行し前機が対空ミサイル回避行動を取る間に対地攻撃を行う。さらに別なペアを交差させる形で横方向から2激目を放つ。その間に通り過ぎた2機が横方向の侵入パターンへと旋回し討ち洩らした地上部隊を叩く。それはAー10などでも同じ攻撃パターンだった。
報告のあった地点は平地で地上突起物も僅かでウォーレン・ハーコート中尉はFRIRの暗視画像を見つめ表示を多目的目標表示モニタを兵装に切り替え残弾数を1度確認してからからチェインガンを選んだ。いきなりヘルファイアを撃ち込むと生存している味方の存命に関わる場合がある。低空でパスし脅威となる敵勢力から離れる、もしくは遮蔽に逃げ込む時間を設けるつもりでいた。
ハーコート中尉は後席のパイロット──アシュトン・マクフィー准尉に任せ左膝上の多目的目標表示モニタを火器管制地上目標化レーダーマップに切り替え最長5マイル余りの35GHz270度スイープレンジを持つレーダーでターゲット索敵を行った。
表示された2つの離れたターゲット・シンボルが動いていない事を確認し通常なら匍匐飛行合わせ地勢表示の1つを選択するが既に小高い山脈を越えて前方は開けていたので3つあるモニタの1つをFRIRの赤外線画像にし僚機すべてに地表データを送った。
まずは動いていないターゲットシンボルが何か確認する。
FRIRで見えるグリーンのモノトーンの地表の先に明るい白に近いグリーンで何かが揺らめいて見えた。
「アッシュ、前方のボギィ1にコース修正する。グランドパス」
『了解、ボギィ1パス』
急激に近づくそれが火焔上げる車輌だと気づいた寸秒爆轟が聞こえウォーレン・ハーコート中尉は小さなバックミラーに空中に浮いた爆炎を視認した。
被弾した!? 僚機が1機堕とされた!
AN/APRー39V4レーダー警報装置は正常に動作しており、組になったレーザー監視装置AN/AVR2ーLDSも警報を発しなかった。なら敵は赤外線ミサイルで攻撃してきた可能性があり彼は残りの全機に警告した。
「こちらリンクスマム、散会し距離を取れ! リンクス3。敵のミサイルか曳航弾を見たか!?」
『リンクス3、いいえ、リンクス2の周囲にオフホワイトのネオンサインの様な波が見えた直後リンクス2が爆発しました』
オフホワイトのネオンサインの様な波とは何だ!? 直後地上で燃える装甲車らしきものの上をパスし中尉は前席のパイロット兼射撃手のアッシュに指示した。
「アッシュ、機体を振るぞ。標的にされるのを回避する!」
『了解』
直後、定かでない敵の対空兵器を警戒しいきなり2時方向へ方位転換し30フィートの匍匐飛行を行うAHー64Eアパッチガーディアンの編隊長機の右後方を飛行していたリンクス3の延長前部電子機器室に飛び乗ってきた何ものかに3号機は重量負けしがっくりと高度を落としメインローターが地面を抉り爆轟を放つ火焔となった。
3体のそれぞれが最大の効率を持って1辺が12クルーラ余り(:約20km)のエリアで原始的原住民の移動仕掛けを破壊する事に成功した。
通常、タクティカルでは無線連絡の取れなくなった個別の原住民を調べるためより高速の移動仕掛けで強勢仕掛けを用い調べに来るのが常だった。それぞれの1体が捉えた原住民の意思伝達機構を調べるためにグループより拉致し逃れられぬよう組織を解体するのを思考共有機能で学びながら、山脈を越え現れた比較的速い空中機動の移動仕掛けを気体の波動で認知した。
現れたのは12の移動仕掛け。空気波動の違いから2種の移動仕掛けだと判断したそれと意識共有したそれぞれは先行する甲高い波動を発する移動仕掛けが攻撃系だと判断し1体のそれが対処にあたる事と決定した。
速いといってもそれぞれの飛翔形態に比べると劣る原住民の移動仕掛けに形態を変えてまで対応する必要はなかった。
空間を移動してくる先を予測し1体のそれは一気に跳躍した。
不安定な機動をしてくる1つ目を外し2つ目に取り付いた刹那プラズマ・アルモラを振り回すと回転させる細身の翼が斬れ落ち同時に躯に食い込んだプラズマ・アルモラがきっかけとなり爆発した。
それは1度地に降り立ち、2対の触角を震わせ電磁波にジャミングをかけ、次々に飛んでくる原住民の移動仕掛けを見回し頭上に迫った3つ目に向かい跳躍した。
ブラッドレーから300ヤードは引き離された。
空になった弾倉のM17をその怪物に投げつけ喚きながら片足首をつかむ化け物の鋏みの如き手指を蹴りつけた。
テレンス・オールダム曹長は、車長ヴィンス・コルケット少尉の首があっさりと斬れ落ちたのを眼にし自分も簡単に殺されるのだと怯えきっていた。
だがどこに引き摺ってゆくのだ。殺すならどこでもいいではないか。もしかしてこの悪魔は巣穴へ生身の人を連れ帰り幼虫に餌として与えるのかもしれないと妄想に拍車がかかった。
テレンス・オールダム曹長は腰ベルトの鞘からサバイバルナイフを引き抜き引き摺られる脚の膝を曲げ怪物の鋏みの関節に突き立てた。
数回繰り返すといきなり甲高い音がして刃が中間から折れ飛んだ。だがテレンスは折れたサバイバルナイフを捨てられなかった。折れた刃物でも自害できる。幼虫の餌として生きたまま喰われるぐらいならと腹を据えた。
だが穴蔵に引き摺り込まれる事もなくいきなり化け物が立ち止まると曹長は脚を手放され自由になった。
肘をばたつかせ後退さり逃げようとテレンス・オールダムが焦りだした寸秒つかまれていた脚首をサンドブーツ越しに叩き折られて彼は叫び声を振り絞った。
彼は星空にシルエット浮かぶ悪魔がじっと見つめていると激痛に片足で逃げようとするその脚首をつかまれ引き摺り戻された。
「止めてくれ────やめろ──」
怪物が片腕を向けその鋏みの先からオレンジ色をしたボールペンの芯ほどの3フィートの長さした光が伸びると、その光る細身の棒で曹長まだ無事だった脚の膝下を切り落とした。焼けた熱い感触に再び喚き声を上げてしまった。
悪魔はゆっくと切り刻むのを楽しむために連れ去ってきたのだ。邪魔されずに人を解体するために攫ったのだ。
怪物が手首の向きを変えて光る棒を顔に近づけてきてテレンス・オールダム曹長は握っていたままのサバイバルナイフを振り上げると、一瞬にして指ごと斜めに斬れ胸の上にぼとぼとと落ちた。
その光を彼の額に向けた悪魔はゆっくりと頭蓋骨に押し込んできた。
眼を通し終えた書類を両袖机の端に揃え積み帰ろうとマリーが椅子を立ったのに合わせるようインカムの呼び出し音が鳴りだしたのでハンズフリーと告げるとAIが接続し軽い電子音を鳴らした。
「はいM・Gです」
『レノチカです。お疲れ様です。まだお見えになって良かったです。例の陸軍演習地の事案です』
「進展は? 状況収束したの?」
『いえ、より悪化しています。増援部隊のヘリコプターが数機落とされました』
落とされたのなら、同じ敵意を持つものが攻撃を続けている事を意味していた。
「待って──作戦指揮室に行きますから」
情報2課課長そう告げてマリーはインカムの終了アイコンをタップした。そうして出入り口に向かいながらマリア・ガーランドは定時に帰った事がこの半年で両手の指の数に足らない事を思いだした。
私生活がないとか、辛いと感じない自分がワーカー・ホリックだという気がする。
エレベーターに乗り込みAIに作戦指揮室と告げると上階に向かってエレベーターが動きだした。
作戦指揮室にルナがいたら帰る様に説得しようとマリーは思った。優秀な副官に倒れられたら多くの事に支障がでる。iテンプ・スタッフは交代制の勤務だから24/7(:24時間365日の意味)の仕事に当たれるが、特殊情報職員のパティらや一部の管理職員は代理が利かない。
対テロのスタッフ拡充は急務だった。
ハデスルームを抜け作戦指揮室の階段を下りると登り口に大型タブレットを胸に抱いたレノチカが待っていた。
「遅がけにすみません」
「いいのよ。あなたこそ無理してない」
「大丈夫です。ブースターありますから」
ブースター!? まさか覚せい剤? 問いただそうとした矢先にレノチカが近くの空いたデスクにタブレットを置いて起動させた。
「ヘリコプターがどうのと──」
マリーが尋ねるとレノチカが説明し始めた。
「偵察小隊の5輌が撃破され基地からヘリ12機が向かいましたが今し方、4機目が──それよりも貴女が興味持たれると思しきものを」
覗き込むマリーの眼の前でレノチカが画面をスワイプさせアイコンをタップすると静止画が映った。
AHー64Eアパッチ攻撃ヘリの機首部分に大きな異物があった。
攻撃ヘリに近いサイズの蠍の形態をしたそれを眼にした瞬間マリア・ガーランドはレノチカに命じた。
「第1中隊を緊急呼集。それとミュウも」
「はい、出られますか?」
「私も────」
マリア・ガーランドが言いかけた矢先にその場と反対側にあるブリーフィングルームのブロンズガラス扉を開きダイアナ・イラスコ・ロリンズが出てくるなりマリーの方へ向かってきて指さした。
「駄目ですよマリア! 現場に行っては!!!」
マリア・ガーランドは唇を歪めた。