Part 25-4 Shatter 瓦解(がかい)
NBC(/National Broadcasting Company) HQ. Studio 30 Comcast Bld. Midtown Manhattan NY., 11:30
11:30 ニューヨーク州ニューヨーク30番地コムキャスト・ビル NBC本局スタジオ
今日のNBCインタヴューに、ルナと総務部長のエリザベス・スローン、それに今回の取材担当の広報クラーラ・ギャレットと広報の衣装担当マーシー・ギャザウェイがついて来ていた。
ビルのエントランスで待っていたNBCスタッフの一人に案内された個室の化粧室でメイキャップを受けながらルナに小言を言われ続ける。
「いいですかマリア、決して迂闊に炎上するようなことを呟きでも口にしないこと。TVの収録マイクとミキシングは優れていて貴女の鼻息でさえ拾い上げます」
鼻息!? マリーが鼻筋に皺を浮かべると化粧台の前でメイクしてくれているマーシーがアイブロウのブラシの尻で頭を小突いた。
「なにしてくれるの!?」
「フェイスパウダーに皺を作らない!」
マリーが唇を噛むともう一度頭を叩かれた。
「リップグローが乱れます!」
半眼になるとマーシーが注文をつけた。
「もう少し瞼下げて。眉が描きやすくなります。社長日頃から少しはお肌のケアに心配りを──」
くそう、とマリーは声にせずに悪態をついてルナのお小言に意識を戻した。
「────BCの本意は、貴女の失脚です。そのために精神科医のような巧みな揺さぶりをかけてきます。売り言葉に買い言葉とならぬようにインドア・アタックのように心を安定させてください」
いっそ、その企画したプロデューサーのクリフトン・スローンと敵意持つインタヴュアーのシャロン・ベンサムの脚をファイヴセヴンで撃ち抜かせろとマリーは本気で考えた。散々な一夜が明けドロシア・ヘヴィサイドらに本社を荒らされ擦り切れた神経で自制など崖っぷちだとマリーは思った。
「いいわルナ──今日は思いの丈をカメラにぶちまけます。それでいいわね」
そうマリーが笑み浮かべ皮肉るとルナが特殊警棒をスーツの内から引き抜き勢いよく音を立て振り下ろして伸ばしたので、マリーは真顔に戻った。
「冗談ではありません、マリア! 貴女がそんなお調子者だから私たちはいつも窮地に立たされるんです。少しは部下の苦労も配慮しないと、性根入れ替えさせますよ」
私たち、とこいつ皆を味方のように言う! 性根入れ替えるだぁ!? その打撃武器を振り回しなさいよ! 3秒でケリをつけるから────。
マリーは真顔で謝った。
「悪かったわ。お調子者だから」
謝った直後、ドアがノックされルナが返事するとスタジオの若いスタッフが顔を覗かせ告げた。
「本番十分前です。スタンバイお願いします」
マーシーがメイク道具を顔から離し頷いたのが鏡に見えマリーは立ち上がり丸椅子の横で一転しスーツの乱れをチェックしてもらった。
「社長、概ね大丈夫です。今日は就任インタヴュー以来最も輝いています」
そうマーシーが誉めマリーは彼女に礼を言いドアを開き待つスタジオ・スタッフへと歩いた。
クリフトン・スローンの魂胆はパトリシアが探り完璧に理解していた。だが収録は魔物。天変地異は必ず存在する。アドリブですり抜けてみせるとマリーはスタジオへ案内された。
一際明るい応接セットにスタッフが腕を伸ばし揃えた指先で着座するソファを指し示す。
その向かいのソファにはインタヴュアーのシャロン・ベンサムが作り笑いを浮かべ軽く腰を上げ頷いて声をかけてきた。
「ようこそマリア・ガーランド。お越しくださり光栄です」
マリーもそれに合わせ笑みを浮かべてみせて、この雌狐がと一瞬浮かんだ蔑みを意識の隅に追いやって場に合わせたが、自分より11も年上でこの厚化粧かとまた侮辱した。
「私こそお礼を述べます。このような場を提供くださり感謝しています」
見かけだけ豪勢なソファに腰を下ろしブラックホークの座席の方がまだマシだとマリーは微かに苦笑いした。
「放送5分前!」
そうADだか誰かが光りの外で威嚇する。
「1分前! 50秒、40秒、30秒────」
「Q!!!」
「こんにちはNBCスポット・トークショーのシャロン・ベンサムです。本日は皆様ご存知のマンハッタンの代表者の一人である巨大企業NDCのCOO──マリア・ガーランドをお招きしています」
そう言ってシャロンは赤ランプ灯ったカムから顔をマリーに振り向け擬態のような笑みを浮かべたのでマリーは振り向けられたカムに顔を向け軽く微笑んで切りだした。
「こんにちは皆様、NDC代表の一人マリア・ガーランドです」
「さて、ありきたりな質問で限られた時間を失いたくありません。マリーと呼んでよろしいでしょうか?」
ありきたり? どこに一線引くかあなた方次第というわけだと思いマリーはインタヴュアーに合わせた。
「それでは私もシャロンと呼んでよろしいです?」
シャロンは胸の前で両手を握り合わせ過剰な演出を見せた。
「さっそくですがマリー、昨夜はお疲れ様でした。テキサス州のフォート・ブリスで軍事作戦の指揮をお取りになられたんでしょう?」
マリーは思わず唖然とした表情を浮かべてしまった。こいつなぜフォート・ブリスの陸軍演習場が怪物らに襲われたことを知っているのだ!? 当地の陸軍と国防総省しか知り得ぬ情報をどこから入手した? マリーは眼を細めDoDに情報をリークしているものがいると警戒した。
「ええ、ですが守秘契約ですので詳細は話せません」
「いえ根掘り葉掘り伺うことはいたしません。NDCの民間軍事企業は第2のブラックウォーターと言われているほど軍の重要で公表できないことに多く関わっているというのが、識者の常識となりつつあります。敵はテロリストでしょう?」
識者!? そいつらは誰なの!? BWの名を出し並べることでNDCの民間軍事企業事業に悪い印象を視聴者に植え付けようとしている!
仕方ない。これは公開しても差し障りないだろうとフォート・ブリスの一部のことをマリーは話すことにした。
「昨夜、フォート・ブリスの陸軍演習場に異星の怪物らが武力行使を行いました。陸軍は多大な影響を受け我が民間軍事企業部門は陸軍を援助するため現地へと展開。陸軍との共同作戦で怪物らを撃退しました」
異星の怪物と聞きシャロンが顔を強ばらせた。
「異世界の次は異星の怪物ですか!? その友好的でないETらはなぜ地球へと来たのですか!? どうやって多くの星の中から地球を知ったのでしょう!?」
一瞬、マリーは視線を下ろしレイジョのことを公開するか迷った。
「敵は80光年離れたグラバスター系星からやってきたレイジョという地球でいう蟻や蜂のような生態系をもつ侵略種族です。文化や思考形態は大きく異なり、地球人の和平感覚や共同どころか、社会性すら持ち合わせぬ単一精神体であり群です」
シャロンは話しの展開がマリア・ガーランドを貶めるという想定と大きく乖離し始め目を游がせ、カムの後ろで見ているプロデューサーのクリフトン・スローンへ視線向け指示を仰いだ。
クリフトンはインタヴュアーの混乱にすぐに気づきADの持つカンペンのボードに指示を書きADにカムの横でシャロンに見させるように命じた。
そのカンペンを素早く読んでシャロンはマリーに問いかけた。
「異星の侵略者なら国防どころか国連決議を必要とする重大事案ですよね。それをあなた方民間軍事企業が身勝手にことに当たり異星の訪問者に危害を与えたと? それでいいのですか?」
シャロンは、侵略者から無害な訪問者にすり替えようとしているとマリーは気づいた。
「ツーリストなら旅先の人を殺すなどありえません。たとえ事故だとしても、陸軍兵に次々に長い時間に渡り戦略的攻撃を行ったのでそのレイジョらを侵略者と陸軍と意見を共にしています」
「いえ! それはマリーあなたが攻撃的であり間違った解釈をしているのではないでしょうか!?」
貴様が何を知り得るとマリーはシャロン・ベンサムを睨みつけた。その表情を2台のカムがズームインして大写しにしていた。
「人の命が不条理に失われるのなら、主義や考えなど二の次で、私はその暴虐を止めに入ります。ご覧の視聴者の中にはご自分の命が大事で命奪われてゆく人に手を差し伸べないかもしれません。ですが視聴者の中に必ず傍観を許さず、隣人を助けようと立ち上がる人がいます。私は常にその一人でありたい」
半眼の無表情でシャロンを見つめ冷静にマリーは思いを述べた。
「あなたは自警団のおつもりですか? それともスーパーガールやワンダーウーマン?」
この女は茶化して視聴者の眼を欺こうとしている。それが人気インタヴュアーの手口なら許せないとマリーは思って歯止め効かず抗弁した。
「私は他局の幾つかの生中継インタヴューでお見せした通り魔法使いであり、超能力者であり、世界に個人として影響力を持つ一人の女です。マーベルやDCのキャラクターではない。たとえマスクをしてもプラチナブロンドのこの髪のせいで素性はすぐにバレ、世論について身動きできなくなります。それは私にスーパーやワンダーといった特別な言葉が付かない証明です」
シャロン・ベンサムが冷淡な目つきになるとこれ見よがしに鼻で笑ってみせた。
「そうですね。スーパーやワンダーでなくあなたにはサイコパスがお似合いですものね」
サイコパス!? このインタヴュアー何を言いだすのだとマリーは内心身構えた。
「マリーあなたは2007年11月2日午後0時ごろどこにいました?」
2007年11月!? 16のころだとマリーはすぐに気づきあれのことだと一気に思いだした。
「いえ、覚えておりません。多感な時期だから色んなところに────」
「へぇ──覚えてない!? あれだけの人を2本のナイフで殺しておきながら覚えてない!?」
あぁ、やっぱり衛星の録画に結びつけてきた!
マリア・ガーランドは顎を引きシャロン・ベンサムを三白眼で睨みつけた。
「視聴者の皆様に衝撃的なヴィジョンをご覧いただきます。なお、お流しする映像は相当に不快ですので覚悟してご覧ください」
シャロンがそう前置きして第1カムの横床に設置されているモニタ画面がサンドストームのような映像に切り替わりそれがズーミングを続け荒れ地が見えてきた。
さらに拡大するアングルは、幾つもの天幕を映し出してゆく。
マリア・ガーランドは忌々しい地獄を震える瞳でじっと見つめていた。
民間軍事企業ブラック・スワン社が差し向けた5人の手練れのセキュリティらはコムキャスト・ビルの前でレンジ・ローバーから黒のコンバット・バッグを手に次々に車道に下り立ってドアを閉じた。男らはコンバット・バッグを手にしていたが服装はごく普通のニューヨーカーだったので歩道を横切りだしても多い歩行者に溶け込んだ。
彼らは社長のケヴィン・サイクスにNBCのトップキャスターのシャロン・ベンサムを正午の生放送中にスタジオで射殺するように命じられていた。依頼は奇妙なものだった。シャロン自身が己を暗殺する依頼を高額報酬でブラック・スワンに持ち込んでいた。
条件は一つ──NDCの社長の眼の前で即死させる。
コムキャスト・ビルとNBCスタジオには少数の武装セキュリティがいるが障害ではなかった。
男らはビルのエントランスに入るなりそれぞれが柱の陰に目立たぬよう身を隠しまず上着を脱ぎ捨て都市迷彩のコンバット・ベスト姿になると黒の目出し帽を被るなりコンバット・バッグからH&K HK416Kを引き抜きチャージングハンドルを引き銃口を斜め下へ向けエレベーターへと足早に向かった。
眼にしたのは大方が観光客で、撮影の一環だと思ったりNBCやユニバーサルの何かの演出だと勘違いし騒ぎにならなかった。
ビルの設計図、スタジオの間取り図は頭に叩き込んである。短時間に武力制圧しターゲットを見つけ射殺し市警が駆けつける前に地下鉄で逃亡をはかる。
男らは上昇するエレベーターの中でデジタル腕時計を確認し合い五分で撤退するために腕時計のタイマーをスタートさせた。
チーム・リーダーのエイブラム・ダッカーは安易に計画するなと社長のケヴィン・サイクスに釘を刺されていた。スタジオに同席するのは同業他社のNDCの社長マリアG。警護を連れてこないように手配すると依頼主のNBCキャスター・シャロン・ベンサムが確約していたが、用心しろと言い渡されていた。
マリア・ガーランド────一年半前に世界中へ向けテロリストに喧嘩を売った女だ。
エレベーター・ドアが開き始めエイブラムはH&K HK416Kのピストル・グリップとマグプルのバーチカル・グリップを握りしめ三白眼になった。
遥か上空から撮られた一千余りのシリア兵。
池を泳ぎ渡る魚の航跡のように混沌を乱すその一カ所をさらにズームインして見えてきた己。
ダマスカス鋼の地金に赤いパラコードを巻きつけた両刃のナイフとマッドブラックのマントラック・ナイフを振り回し銃剣で襲いかかる千の敵兵の男らを殺しまくった。
百人ほどまでは倒した人数がわかっていた。
それが二百、三百と膨れ上がり自分が煉獄にいるのだと気が狂いそうになった。
「これはレバノンのベッカー高原でシリア兵を虐殺しているあなたですよね────マリア・ガーランド!」
シャロン・ベンサムの容赦ない指摘にマリーは頭振った。否定しようとしたのではない。その思い浮かぶリアルを振り解こうと足掻いていた。そうして漏れ出た言葉こそ己の真の姿だと気づいた。
「ああ──そうだ────この私だ! 止められなかったんだ!」
仲間を救うための決死の行動だったとどうして釈明しなかったのだとマリア・ガーランドは胸をかきむしった。
「巨大企業NDCの責任者がこのような残虐非道な人物だと視聴者は決して受け入れませんよ」
シャロン・ベンサムが喉元を締める指に力を込めてくるとマリーは唖然としながら息が吸えなくてあえいでいた。
その刹那だった。
銃声の連射音が聞こえ始め、記憶にないと顔を振り向けると明かりの外の闇に男らがアサルトライフルを発砲し収録スタジオに乱入してきて眼にしたマリア・ガーランドの心の掛け金が歪な音を放ち砕け散った。
どこから生まれ、どこへゆくの?
これは私が望んで選んだものではない────
マリーに問いかけた。
「異星の侵略者なら国防どころか国連決議を必要とする重大事案ですよね。それをあなた方民間軍事企業が身勝手にことに当たり異星の訪問者に危害を与えたと? それでいいのですか?」
シャロンは、侵略者から無害な訪問者にすり替えようとしているとマリーは気づいた。
「ツーリストなら旅先の人を殺すなどありえません。たとえ事故だとしても、陸軍兵に次々に長い時間に渡り戦略的攻撃を行ったのでそのレイジョらを侵略者と陸軍と意見を共にしています」
「いえ! それはマリーあなたが攻撃的であり間違った解釈をしているのではないでしょうか!?」
貴様が何を知り得るとマリーはシャロン・ベンサムを睨みつけた。その表情を2台のカムがズームインして大写しにしていた。
「人の命が不条理に失われるのなら、主義や考えなど二の次で、私はその暴虐を止めに入ります。ご覧の視聴者の中にはご自分の命が大事で命奪われてゆく人に手を差し伸べないかもしれません。ですが視聴者の中に必ず傍観を許さず、隣人を助けようと立ち上がる人がいます。私は常にその一人でありたい」
半眼の無表情でシャロンを見つめ冷静にマリーは思いを述べた。
「あなたは自警団のおつもりですか? それともスーパーガールやワンダーウーマン?」
この女は茶化して視聴者の眼を欺こうとしている。それが人気インタヴュアーの手口なら許せないとマリーは思って歯止め効かず抗弁した。
「私は他局の幾つかの生中継インタヴューでお見せした通り魔法使いであり、超能力者であり、世界に個人として影響力を持つ一人の女です。マーベルやDCのキャラクターではない。たとえマスクをしてもプラチナブロンドのこの髪のせいで素性はすぐにバレ、世論について身動きできなくなります。それは私にスーパーやワンダーといった特別な言葉が付かない証明です」
シャロン・ベンサムが冷淡な目つきになるとこれ見よがしに鼻で笑ってみせた。
「そうですね。スーパーやワンダーでなくあなたにはサイコパスがお似合いですものね」
サイコパス!? このインタヴュアー何を言いだすのだとマリーは内心身構えた。
「マリーあなたは2007年11月2日午後0時ごろどこにいました?」
2007年11月!? 16のころだとマリーはすぐに気づきあれのことだと一気に思いだした。
「いえ、覚えておりません。多感な時期だから色んなところに────」
「へぇ──覚えてない!? あれだけの人を2本のナイフで殺しておきながら覚えてない!?」
あぁ、やっぱり衛星の録画に結びつけてきた!
マリア・ガーランドは顎を引きシャロン・ベンサムを三白眼で睨みつけた。
「視聴者の皆様に衝撃的なヴィジョンをご覧いただきます。なお映像化は相当に不快ですので覚悟してご覧ください」
シャロンがそう前置きして第1カムの横床に設置されているモニタ画面がサンドストームのような映像に切り替わりそれがズーミングを続け荒れ地が見えてきた。
さらに拡大するアングルは、幾つもの天幕を映し出してゆく。
マリア・ガーランドは忌々しい地獄を震える瞳でじっと見つめていた。
民間軍事企業ブラック・スワン社が差し向けた5人の手練れのセキュリティらはコムキャスト・ビルの前でレンジ・ローバーから黒のコンバット・バッグを手に次々に車道に下り立ってドアを閉じた。男らはコンバット・バッグを手にしていたが服装はごく普通のニューヨーカーだったので歩道を横切りだしても多い歩行者に溶け込んだ。
彼らは社長のケヴィン・サイクスにNBCのトップキャスターのシャロン・ベンサムを正午の生放送中にスタジオで射殺するように命じられていた。依頼は奇妙なものだった。シャロン自身が己を暗殺する依頼を高額報酬でブラック・スワンに持ち込んでいた。
条件は一つ──NDCの社長の眼の前で即死させる。
コムキャスト・ビルとNBCスタジオには少数の武装セキュリティがいるが障害ではなかった。
男らはビルのエントランスに入るなりそれぞれが柱の陰に目立たぬよう身を隠しまず上着を脱ぎ捨て都市迷彩のコンバット・ベスト姿になると黒の目出し帽を被るなりコンバット・バッグからH&K HK416Kを引き抜きチャージングハンドルを引き銃口を斜め下へ向けエレベーターへと足早に向かった。
眼にしたのは大方が観光客で、撮影の一環だと思ったりNBCやユニバーサルの何かの演出だと勘違いし騒ぎにならなかった。
ビルの設計者図、スタジオの間取り図は頭に叩き込んである。短時間に武力制圧しターゲットを見つけ射殺し市警が駆けつける前に地下鉄で逃亡をはかる。
男らは上昇するエレベーターの中でデジタル腕時計を確認し合い五分で撤退するために腕時計のタイマーをスタートさせた。
チーム・リーダーのエイブラム・ダッカーは安易に計画するなと社長のケヴィン・サイクスに釘を刺されていた。スタジオに同席するのは同業他社のNDCの社長マリアG。警護を連れてこないように手配すると依頼主のNBCキャスター・シャロン・ベンサムが確約していたが、用心しろと言い渡されていた。
マリア・ガーランド────一年半前に世界中へ向けテロリストに喧嘩を売った女だ。
エレベーター・ドアが開き始めエイブラムはH&K HK416Kのピストル・グリップとマグプルのバーチカル・グリップを握りしめ三白眼になった。
遥か上空から撮られた一千余りのシリア兵。
池を泳ぎ渡る魚の航跡のように混沌を乱すその一カ所をさらにズームインして見えてきた己。
ダマスカス鋼の地金に赤いパラコードを巻きつけた両刃のナイフとマッドブラックのマントラック・ナイフを振り回し銃剣で襲いかかる千の敵兵の男らを殺しまくった。
百人ほどまでは倒した人数がわかっていた。
それが二百、三百と膨れ上がり自分が煉獄にいるのだと気が狂いそうになった。
「これはレバノンのベッカー高原でシリア兵を虐殺しているあなたですよね────マリア・ガーランド!」
シャロン・ベンサムの容赦ない指摘にマリーは頭振った。否定しようとしたのではない。その思い浮かぶリアルを振り解こうと足掻いていた。そうして漏れ出た言葉こそ己の真の姿だと気づいた。
「ああ──そうだ────この私だ! 止められなかったんだ!」
仲間を救うための決死の行動だったとどうして釈明しなかったのだとマリア・ガーランドは胸をかきむしった。
「巨大企業NDCの責任者がこのような残虐非道な人物だと視聴者は決して受け入れませんよ」
シャロン・ベンサムが喉元を締める指に力を込めてくるとマリーは唖然としながら息が吸えなくてあえいでいた。
その刹那だった。
銃声の連射音が聞こえ始め、記憶にないと顔を振り向けると明かりの外の闇に男らがアサルトライフルを発砲し収録スタジオに乱入してきて眼にしたマリア・ガーランドの心の掛け金が歪な音を放ち砕け散った。
どこから生まれ、どこへゆくの?
これは私が望んで選んだものではない────