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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #25
125/164

Part 24-5 Gunfight 銃撃戦

NDC HQ.-Bld. Chelsea Manhattan, NY 08:04

08:04ニューヨーク州マンハッタン・チェルシー地区NDC本社ビル




「どうしたドロシア・ヘヴィサイド! 私を撃ち殺してみせろ!」



 その挑発に女武器商人は顳顬こめかみに青筋を浮かべ元スペツナズの傭兵ようへいマカール・エフィモヴィチ・クライネフを押しのけ踊場の上り口に身を乗り出しチェスカー・ズブロヨフカ・ウヘルスキブロッドのアサルトライフルCz805BRENを振り上げ左へ45度傾けピカティニー・レールに45度オフセット・マウントしたメプロM22ダットサイトの赤い三角のダットにマリア・ガーランドの胸を捕らえ2点バーストの6連射した。



 女社長の目前に淡いブルーの波紋が次々に生まれ重なりM855A1の5.56ミリライフル弾がエネルギーを失い次々にMGの足下に落ち階段を転がり落ちた。





 そうだ! あの女社長ガーランドはアジトや貨物船を襲った時もあの青いシールドに守られていた!





 だがRGDー5手榴弾を撃ち返したのなら得体の知れぬシールドを撃破されるのを嫌ったのだとドロシア・ヘヴィサイドは左手にアサルトライフルのピストルグリップをスイッチし、チェストリグのリングにぶら下げた手榴弾を引き抜き空で2秒数え14段上にいる宿敵に投げつけ一気に踊場の手すり陰に身を隠し背を向けた。その寸秒、爆轟と共に凄まじい爆煙が吹き下ろした。



 その舞い散るほこりと煙りがおさまりきらぬ一瞬にドロシアはマカールと共に階上へと繋がる踊場に身を乗り出しながらアサルトライフルの銃口を階上へと振り上げた。



 見上げた6階の階段口にガーランドは立っておらず手榴弾(グレネード)の破片を受け奥の方へ倒れたかと階段を駆け上り始めた女武器商人を傭兵ようへいをまとめるマカールが3段ごとに駆け上り追い抜き6階のフロアへ銃口を振り下ろした。



 そこに標的の姿がないのが、彼が用心深く素早く6階の通路左右にアサルトライフルを振り向ける姿を見ながら登りきったドロシアは7階へと続く階段へと銃口を振り向けた。



手負いか(BDA)!?」



 そうドロシアが問うとマカールが否定した。



「いや、血糊がない!」



 後から駆け上ってきた8人の傭兵ようへいにマカールは腕を振って6階の索敵を指示し、雇用主に警告した。



「あんな無謀は止めてもらいたい。成功報酬が手に入らなくなる」



 そうマカールが穏やかに言うとドロシアが早口でまくし立てた。



「作戦中に金の話をするな! 報酬は自動振り込みだ!」



 次々に無線でクリアの報告が入る中、マカールは敵の出方を考えた。



 明らかに標的は雇用主を挑発していた。



 あれは誘導であり(トラップ)の可能性が高いと元スペツナズの男は判断した。上階へ深追いさせ退路を断つつもりだと想定する。



「ヘヴィサイド、上に行くほど危険性が増すぞ」



 その意味を一瞬考え女武器商人は即答した。



「切り開け──成功報酬を倍額にする」



 提示されたその金額にマカールは即座に傭兵ようへいの手下らを呼び集め、2人を下へ繋がる6階の階段口に残しドロシアとおのれを含め8人で上を目ざした。











────セス、敵は6階階段口に2名残し上に侵行中。



 マリア・ガーランドの意識が入り込みセシリー・ワイルドはエレベーター・シャフトを21階から5階までラペリングで一気に下り外自動ドアのインターロックを解除し腕力で二重扉を引き開いた。



 エレベーターシャフトの開口部からそっと顔半分を出し氷のような淡い灰色の虹彩で通路の端から奥までを見つめた。



 5階フロアに侵入者らの気配はなくセスはチーフの情報の正確さを確認しエレベーター・ホールに足を踏み入れた。



 シルフィーは1階フロアとビル外部の襲撃者らを倒し上って来るはずだとセスは思った。なら自分は6階の2人を倒し音もなく上へ攻め込む襲撃者らの殿しんがりへ襲いかかると決め通路を階段口へ向け小走りに駆け始めた。



 階段へ到着するとセスは足音を殺して踊場を目ざした。



 小走りになりセシリーはマリア・ガーランドの社長就任演説を録画で見たことを思いだしていた。





 刮目かつもくせよ! 今、この時をもって我がNDC率いる我は宣言する!────世界中のテロリストども! この──マリア・ガーランドにかかって来い!





 こいつは阿呆だとその時思った。



 その一瞬、世界中のどの要人よりも命(ねら)われる存在になった女と関わることになるとは考えもしなかった。



 だが一分いちぶすきもなく反社会的な連中に挑み続けるあのプラチナブロンドの女は正直言ってイカしている。クールさでは私が上だとセスは思うが、MGは侮れないと最近感じるようになった。



 なにが、私達3人はいずれもスタンドアローン・タイプだわ──かよ。



 いつも部下を振り回し窮地に追い込むくせに最後まで立っていろと脅しかける。



 敵を前にひざを着くなと命じる。



 セシリー・ワイルドは鼻で一瞬笑いそっと階段口へ足を踏み入れ踊場まで登ると左手で負い革(スリング)で首に提げていたFN SCARーHを床に下ろし、腰の後ろへ右手を回し長めのストラップに手を通しオンタリオ8420ーSP16スパックスを(シース)から引き抜いて(アックス)の刃を後ろに向け片膝かたひざを立て反対のひざを折り曲げた。



 そうして唇を尖らせて低く静かに口笛を吹いた。



 13インチほどの刃渡りで先に重心のある手斧は近接格闘(CQC)において圧倒的な破壊力を持つ。



 口笛の音に反応し手すりの陰に隠れライフルを手に近づいてくる男を静かに待った。



 ゆっくりとコンバットブーツで段を踏みしめる音が近づいてくる。Pタイルにはブーツ底が張り付き独特の擦れる音がする。





 折り曲がった手すりの陰からアサルトライフルの銃口を振り向けられた刹那せつな強速で身体を伸ばし上げ(アックス)握った手を振り上げ銃のバレルをたたき跳ね上げその斧を真上から横へ回し込み(ブレード)を左肩に打ち込んで男の首へと回した手を引き込み急激にしゃがみ込んで背後の階段へと投げ落とした。





 低い姿勢で手すりを急激に回り込むと階段の中段にもう1人の襲撃者が銃口を向け立ち止まっていた。



 高い場所から低く動くものをねらい撃つのはベテランでも難しい。その一瞬の躊躇ちゅうちょに男は優位を手放した。



 トリガーを引く寸前に高速で回転しながら飛んできた手斧(アックス)がチェストリグとプレート・キャリアを引き裂き右胸に食い込んだ。



 男が踊場まで転がり落ちうつ伏せに倒れるとセシリーはそのあごへコンバットブーツのかかとを蹴り下ろし昏倒させ右胸のプレートキャリアに突き立ったSP16スパックスのストラップに手を通しを握りしめ男から引き抜いて上の階へ数段飛ばしで上り始めた。











 NDC本社通りにいるもう1人の傭兵ようへいをFN SCARーHで撃ち倒したシルフィー・リッツアはブロンドのロングヘアを広げきびす返し正面玄関へと駆け戻った。



 通りと1階エントランスで計4人がいただけだった。



 なら16人余りが上階へと向かっている。



 それをセシリー・ワイルドが追い立て、MGが迎え撃っているはずだった。



 マリアのが悪いとは決して思えなかったが、襲撃者らは大型ミサイルを撃ち込んできた連中だった。油断できない。



 エントランスに戻ると片足を断ち切られた襲撃者の男らがひざから下を失った太腿ふとももを両手で押さえうめいていた。



「死にたくなければベルトで止血しろ」



 そう男の1人に言い捨てハイエルフは従業員エレベーター群の横にある階段を駆け上り始めた。



 マリアは指示しなかったが、おとりとなり襲撃者らを引きつけているはずだとシルフィーは想定した。ならセシリーと2人で敵の退路を断ち追い込むのが順当だろう。



 階段シャフトから発砲音(ガンショット)が聞こえてこないということは、マリアが襲撃者らをかなり上階に引きつけているということだった。



 シルフィー・リッツアは早口で高速(ファースト・)詠唱(チャンティング)し階段上り口に異空通路ことわりのみちを開くとFN SCARーH構えそこへ駆け込み一気に8階フロアの階段口に到達した。



 魔法回廊から出た刹那せつな、9階との中間踊場にいた襲撃者の最後尾の男ら2人が気づいてアサルトライフルを2バーストで連射してきた。



 階段に銃声(ガンショット)が響き、一瞬で横に扇状に広がった精霊シルフィードの加護がシルフィー・リッツアの前でその銃弾(ブレット)を受け止め飛翔エネルギーを打ち消しエルフの足元にばらばらと散った。



 こいつらはどうしてマリア・ガーランドに群がる!?



 その男らへハイエルフは銃口を上げかけ腕を下ろした。



 あの女は悪人にとってもそんなに魅惑みわくがあるのか!?



 その情熱に見合うものを授けよう。





"Leggja til pöntun byggt á eið með mér, Andardráttur af hugrænni salamander,Crimson──"

(:我、盟約に基づき解き放つ! 猛々(たけだけ)しきサラマンダーの息吹、紅蓮の──)





 押し殺したアルトサックスの詠声でシルフィー・リッツアが高速(ファースト・)詠唱(チャンティング)するは爆炎の攻撃魔法。



 踊場に立ち止まった傭兵ようへい2人が、熔岩に照らされる煉獄の岩場のごとき光り揺らめかせる渦巻く赤黒いかすみの先──8階フロアに立つ背の高い女の両耳がブロンドのロングヘアから飛び出し長く尖っているのを目にした寸秒、妃竜きりゅうの息吹が上階に向けて広がった。











 本社NDCビル裏口に回り込んだM-8マレーナ・スコルディーアは、ブロンズ硝子(ガラス)の自動ドアを開きひざで押さえているジェシカ・ミラーに苦笑いを浮かべ告げた。



「先に入ればいいのに」



「先に撃たれるじゃないか」



 それはわれが撃たれるのは構わないという遠まわしな表現だと自動人形(オートマタ)はジェスの評価値を10ポイント下げ変数に入れた。



「作戦指揮室へ上がって銃器取りに行こう」



 そうジェスが提案するとマースが否定した。



「エレベーター群はすべてオウル(AI)に停止されてるわ。襲撃者らは階段を登り上階を目指している」



ねらいは作戦指揮室か!?」



 そうジェスが問うとマースがまた否定した。



「それは93パーセント有り得ないわ。作戦指揮室は最高機密で外部に知られている可能性は極めて低いから」



 話しながら2人はエントランス後方から中へ入ると大理石の柱に2人の武装した男らが浅く寄りかかり血だまりを広げていた。



得物えものはあるわ」



 男らの引きった血糊の端にアサルトライフルがそれぞれ落ちているのをゴシック・ドレスの少女が腕振り上げ指さし指摘した。



「いや、マース、こいつら助けないと死ぬぞ」



「大丈夫、まだ持つ。切り落とされた脚の太腿ふとももをそれぞれがベルトで絞めて止血してるから。一時間ぐらいなら死なない────こいつらロシア軍のVKBOーLV4迷彩服を着てるけど顔つきはロシア人のそれではないみたい。得物えものはチェコのCz805BRENだわ。ハンドガンもチェコ製のCZ P10-C。出元を辿たどられない選択でしょう。────では現地調達といきましょう」



 そう言いながらマースは自動小銃の1挺を拾い上げ銃口を天井に向け素早くボルト・レバーをわずかに引いて薬室(チェンバー)に装填されているのを確かめた。そうして柱にもたれている気を失っている男へ血だまりを避けて歩き寄り、まず腹部に横向に装着しているホルスターからCZを引き抜きスカートの後ろリボンの付け根に差し込み、チェストリグの弾倉パウチからスペア・マグを次々に引き抜いてドレス・スカートのポケットに押し込み始めた。



 マースがもう1人の襲撃者へ振り向くとジェシカ・ミラーがアサルトライフルを拾い上げていた。



「ジェス、予備弾倉だけでなくハンドガンと手榴弾(RGDー5)も頂きなさいな」



 手榴弾と拳銃を奪い取ったもののジェスは空港清掃員のロッカーから拝借した作業繋ぎ服のどこに収めたものかと迷い手榴弾を腰ポケットにハンドガンを太腿ふともものサイドポケットに差し入れた。



 マースが社員エレベーター群の端にある階段口へと歩き始めるとジェスはポケットの手榴弾をガチャガチャいわせ後を追いかけ少女に声をかけた。



「襲撃者に出くわしたら私が撃つから援護を頼む」



「あん?」



 マースが半眼で顔を振り向けた。



われが撃つからジェスは援護。尻を撃つなよ」



「おい、アタッカーの私を差し置いてお前が攻めるのか!?」



 マースは階段上へ顔を振り戻しさらりと言い捨てた。





「このあいだわれの射撃スコアは500点中489点のハイスコ。あんたは458点だったでしょ」





 うう、確かにそうだとジェスは眉根寄せた。銀髪とお師匠(アン)がバイタルゾーンを250の標的の内1つ外し498の同スコで断トツだった。しかも銀髪の最高タイムがマグチェンジを入れてフルオートのように撃ちまくり6分少々と群を抜いている。



 眼の前のマレーナ・スコルディーアさえ7分を切っていた。



 自分のベストタイムが8分をわずかに切るぐらいなのにとジェシカ・ミラーは唇をひずませた。



 まあ人は鍛錬を積み上げたら高見に登れるとジェスは楽観視したが、マースのそれがただの仕様だとはまったく気づいていなかった。



 そうして鼻歌混じりに三段跳びで上がってゆく少女をジェシカ・ミラーは必死で追い始めた。











 階段を駆け上がり10階フロアの階段口の床に伏せマリア・ガーランドは階段最上段の縁にバーチカル・グリップを先に倒したFN SCARーHを45度横へ倒しレシーバーを載せ銃口を下の踊場へと向けた。



 耳を澄ましていると数階下から爆轟が聞こえ凄まじい勢いで熱風が吹き上げてきた。



 ああ、これはシルフィー・リッツアだとマリーは直感で判断した。セシリー・ワイルドは爆薬を持たないが、ハイエルフは関係ない。銃や刃物を使えば生殺与奪の加減ができるが、生身の人間相手に攻撃魔法は駄目だと女指揮官は鼻筋にしわを刻んだ。



 それでも要人深くなったドロシア・ヘヴィサイドと傭兵ようへいらはすぐに踊場に姿を見せず手すりの曲がり角下の床に近い場所にロッドの先に小さなミラーが付いたものが差し出されマリーはバトル・ライフルのフラッシュハイダーを階段最上段の縁に引っ込めた。



 最初に手すりの陰から姿現したのは経験の浅い傭兵ようへいだった。



 アサルトライフルを肩付けし銃口を10階に向け用心深く階段を上ってくる。



 それに続いてさらに2人がアサルトライフルを構え手すり陰から姿を曝した。



 最初の1人は音を数えて中間の7段まで登っていた。



 3人か、欲をかいてもう1人か。



 先頭の傭兵ようへいがもう2段足を登らせた瞬間、マリア・ガーランドはわずかにフラッシュハイダーを最上段縁から出し素早く右肩と左太腿ふとももをタップシュートで撃ち抜き、そのまま下の2人を横様にバースト射撃で撃ち倒した。



 手すり下から突き出されたアサルトライフルのフルオートのめくら撃ちが階段出入り口の天井と壁を激しくえぐりマリーは這いつくばったままわずかに後退あとずさった。



 かなり身の近くに銃弾(ブレット)が飛んでこない限り風の精霊の加護は発動しない。



 もう一度手すり下にミラーが差しだされたが、またマリーはフラッシュハイダーを隠しそれをスルーした。



 3人が倒されうめく階段になかなか次は姿現さず7秒経って手榴弾が投げ上げられてきた。



 それをマリア・ガーランドは左手でつかみそっと階段を転がり落とした。



 投げた奴は最上段に届かず転がり落ちてきたと思ったはずだ。寸秒踊場で爆発し手榴弾の破片が激しく周囲の壁をえぐった。







 その後の出方を見ていると踊場の見えない方から散発的な銃声(ガンショット)が聞こえ男らのわめき声が聞こえだした。



 マリア・ガーランドはセシリー・ワイルドが上がって来たのだと直感でさとった。



 刹那せつな、階下で2度爆発が起き心配になったマリア・ガーランドは上半身を起こしバトル・ライフルを踊場へと向け下ろした。












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