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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #25
124/164

Part 25-4 Let's Rolling 襲撃開始

The street in front of the NDC HQ.-Bld. Chelsea Manhattan, NY 07:45

07:45ニューヨーク州マンハッタン・チェルシー地区NDC本社ビル前の通り





 フロント以外の窓すべてにスモークを張った6台の黒いシボレー・サバーバンがNDC本社ビル前の通りに散って駐車した。



 NDCビル正面玄関に近い1台の助手席に座るプラチナブロンドに近い薄いブロンド・ロングヘアの女は腕組みしてじっとビルの正面玄関をにらみ据えていた。運転席に座る目つきの冷ややかな男も同じ正面玄関を見据えていた。



 男はロシア人でマカール・エフィモヴィチ・クライネフという手練れの傭兵ようへいだった。その男が依頼主(クライアント)の女に告げた。



「様子がおかしい」



 闇武器商人(UWWD)の女ドロシア・ヘヴィサイドは眉根しかめ一度唇をねじ曲げ雇用した傭兵ようへいのリーダーに言った。



「この時刻に出勤者を一人もみかけないのはあの女社長が襲撃を嗅ぎつけ被害を嫌ったからだろう。待ちかまえる準備万端というわけだ。かんのいいやつだ」



 警備厳重だろうと関係ないとドロシアは思った。織り込み済みだ。マリア・ガーランドの命を取るのが最優先だった。当初は女社長の通勤車両を本社ビルの地下駐車場で襲撃する手はずだった。だがマリア・ガーランドは帰宅しておらず駐車場はシャッターで閉じられており、正面玄関から全員で侵攻してビル内を手分けし捜索し見つけ次第射殺することにした。



 ドロシアはデジタル腕時計の表示が8時ジャストに首に巻いたスロートマイクのスイッチを押し込み傭兵ようへいら各人に渡してある無線機で指示を出した。





「時間だ。開始する」





 ロシア製VKBOーLV4迷彩服にアーマー・プレート、予備弾倉パウチとRGDー5手榴弾を吊り下げたチェストリグを装備しCz805BRENアサルトライフルで武装した男らが一斉にシボレー・サバーバンのドアを押し開き即座に2人が通りの東西へ自動小銃の銃口を向け通りを確保しビルに近いサバーバンの運転席から下りたマカールが左腕を振り指の合図で傭兵ようへいらに正面玄関へ通じる2つのスロープに分けて向かうように指示を出した。



 車道を渡り向かってくる武装集団に気がついた正面玄関前の2人の制服警官の1人が無線で市警に連絡を入れグロック17を引き抜いた矢先に傭兵ようへいらの1人からフルオートでぎ払われた。



 男らの左(きわ)を同じ装備のドロシアもプラチナブロンドに近い薄いブロンド・ロングヘアを広げて大股で正面玄関を目ざした。



 警備が市警2名とは冗談にも思わない。



 女社長は民間軍事企(PMC)業を運営している。襲ってきた時は特殊部隊並の数小隊規模の兵がいた。



 正面玄関の並ぶブロンズガラスの回転ドア6基はどれもロックされ閉鎖されていた。



 傭兵ようへいらの4人が回転ドアへ先に駆け手榴弾のセーフティピンを引き抜き次々にドアサッシの基部に転がし横の袖壁に走り逃げた。



 続けざまに爆轟が重なりブロンズガラスの回転ドアが崩壊した。



 即座に男らは6班の3人一組となりインドアアタックを開始した。



 受付カウンタの裏、20本余りの柱の陰を次々にチェックし監視カムを撃ち抜き、1階ロビーは広くても遮蔽物も少なく80:02の短時間にドロシア襲撃部隊はエントランスを制圧確保した。



「ガードが必要か?」



 傭兵ようへいらのリーダー・マカールに問われドロシアはかぶり振った。



「いや、私は大丈夫だ。索敵さくてきを急げ」



 傭兵ようへいらの数人はエントランスにある大型、小型エレベーターのドア前にブービー・トラップを仕掛けマカールは兵士2人を呼びつけた。



「ビル全体の電源元を破壊しろ」



 2人の男らは走って下り階段に向かい16人の内2人をロビー確保に残し14人の兵を引き連れマカール・エフィモヴィチ・クライネフは階段を小走りに駆け上り始めた。



 辺りを見回しドロシア・ヘヴィサイドは防備が手薄なことに眉根しかめ鼻を鳴らすとアサルトライフルを肩付けし男らの後に階段を駆け登った。











 マリア・ガーランドとシルフィー・リッツア、それにセシリー・ワイルドは左腕に立ち上がったレーザー3Dホログラムの画像を21階のエレベーター・ホール横の階段口で見ていた。



「なかなか手際がいい。女武器商人は手練れの兵を集めたわね」



 そうマリーが言うとハイエルフが指摘した。



「ブロンドロングヘアの女と兵らに指示を出している男は動きがいい。手練れだ。リーダーの男はわれが始末しよう」



 そうシルフィーが言うとセスがマリーに問うた。



「チーフ、ドロシアを片付けていいか?」



 マリーはレーザー・ホログラムからラピスラズリの虹彩をセシリーに向けにらみ据えた。



「殺すな──男らからあの武器商人だけを奪い拘束こうそくする」



 その表明にセシリーは鼻で大きく息をして無言で抗議した。



「だが────確保が無理ならば射殺もやむを得ない」



 そうマリーが付け加えるとシルフィーが眼を細め指摘した。



「いつから趣旨しゅし変えした?」





「こちらに不要な死傷者を出すなら仕方ないということ」





 そう応えマリーはホログラムを消し負い革(スリング)で首に提げたFN SCARーHを両手に握りしめた。



「私達3人はいずれもスタンドアローン・タイプだわ。よって3人三(よう)で制圧する。指示は1つ────最後まで立ちなさい。散開!」



 そうマリア・ガーランドが宣言するとシルフィー・リッツアが事務所の部屋へ、セシリー・ワイルドがドア開いた箱のないエレベーター・シャフトへ、マリア・ガーランドが階段を下り始めた。











 テキサス州ダラスのダラス・フォートワース国際空港から早朝の一便でJFケネディ国際空港に下り立ったM-8マレーナ・スコルディーアとジェシカ・ミラーは、本社ビル前でイエロー・キャブを下りるつもりでいたが交差点からタクシーが曲がるなりいきなり銃撃を受けフロント・シートの陰に身を隠しジェスがわめいた。



「なっ!? 戦線から勝手に離脱して銀髪がおかんむりなのか!?」



 リアウインドに貫通した銃痕じゅうこんを振り向いて見上げたマースは5.56ミリ口径だと判断した。



 NDCの保有するバトル・ライフルじゃない。



「本社ビルが襲撃を受けそいつらが通りを封鎖してる確率が83パーセント」



 そうマースが呆気なく言うとジェスが食ってかかった。



「襲撃だぁ!? じゃあセキュリティのみんなは応戦してるのかぁ?」



 ジェスに問われた時にはマースはネットワーク経由で本社ビルにアクセスし警備カムの映像を高速で切り替え確認していた。



「1階エントランスの16基のカムは死んでる。21階のエレベーター・ホールにチーフとシルフィー、セスが武装してセキュリティ・カムの映像を見てる。他の第一中隊メンバーの姿無し。第2中隊が地下駐車場に待機してる」



 それを聞いてジェスは早合点した。



 第一中隊メンバーはまだフォート・ブリスから戻っておらず、襲撃者が来て第二中隊が身動き取れなくなって銀髪ら3人が救助しようとしている。



「なあマース──本社に裏口から潜り込んで襲撃者らに一泡吹かせないか」



 旅客機を利用するために危険物はすべて処分し素手の状況だった。だがジェスの提案をマースは演算し合理的だと判断した。元々ダラスで異世界の怪物と一戦交え人の下でいるという状況に疑念を抱いていたが、人とは乖離かいりした能力を持つマリア・ガーランドにそのことを相談したく戻ったのだ。



 そのMGが攻められているのは由々しき状況だった。



 MGに恩義返す好都合な機会だというのが一つ。



 攻めているものらの正体を暴くのが一つ。



 人の能力を見極めるチャンスだというのが一つ。



 理由は複数あれ、戦闘データを収集する好機だとM-8マースは仮想した。武器は現地調達する。



「よし、ジェス。裏口へ周り内部へ入り込んで襲撃者らを一人ずつ排除しよう。後席ドアを同時に開いて交差点外へ走ろう。君は直接本社裏口へ。われは遠回りして後を追う」



 ジェスがうなづいたのでマースがカウントを始めた。



「5、4、3────」



「ちょっと待ったぁ! 1で飛び出すのか? 0で飛び出すのか?」



「1で、だ」



 説明しマースは仕切り直した。



「5、4、3、2、1!」



 ジェスが後席ドア開き道に飛びだした。その途端、本社ビル前にいる何ものかが猛然と彼女の方へ銃撃を始めた。ジェスが歩道までわめきながら走りそれを見ていたマースはゆっくりとドアを開き反対の歩道へ向け小走りになった。



 交差点角の建物の陰に辿たどり着いたマースが振り向くとジェスはもう一本北の通りへ向かい走り去るところだった。



 なんのかんの言っても銃弾(ブレット)を食らわないのはジェスの能力の一つだとマースは認め西側の横断歩道を歩いて渡り始めた。











 デジタル腕時計のストップウォッチをドロシアは止めた。5階のフロア索敵に要した時間はおよそ96秒。下の階でも似たような時間だった。



 16人総出でこれ以上短縮の見込みがないとなると最悪このビル全体を隈無くまなく捜索するのに5時間以上かかるということだった。



 正午零時丁度に近隣の公園に仕掛けた戦術核爆弾が起爆する。



 今、8時過ぎてもないから少なくともビル中間の階層までにあの女社長を見つける必要があった。



 襲撃に備え社長ともなると陣頭指揮を現場で取るか、安全をきして離れた場所で取るか。二者択一だが、あの女社長を2度も襲撃された際に現場で見かけたとなると現場で采配を振るうタイプだと女武器商人は考えた。



 ならビル中間層よりも下で兵らに指示を出している可能性が高かった。



 10時半をタイムリミットに決める。



 それまでに見つけきらなければ撤収もいたし方ない。核の洗礼を受けてなおあの女社長が生きていれば仕切り直しすればいいだけのことだ。



 それにマリア・ガーランドの私兵と撃ち合う時間が長引くと市警のSWATなどが大挙してやってきて退路の確保に戸惑うだろう。火力で押し切り強引に逃走を図るつもりだが想定には予測外の事態がつきまとう。



 ドロシアはCz805BRENアサルトライフルのストックを肩に引きつけダットサイトをのぞき込みながら傭兵ようへいらに続き階段を6階に向け登りかけた。



 中間の踊場を曲がった男らが猛然と撃ち始め、やっと女社長の私兵らがお出ましかとドロシアは階段を大股で2段ずつ駆け上った。



 曲がった瞬間、ドロシアは6階の階段口に立ち腕組みして見下ろしているのがマリア・ガーランドだと即座に認知した。



 その三白眼で見下ろす女へ8人がタップシュートで激しく撃ってるにも関わらず相手が死ぬどころかよろめきもしない事実にドロシアは傭兵ようへいらに叫んだ。



「撃つな! あれはレーザー・ホログラムだ! 映像だ!」



 そう──映像──フェイクだとドロシアは迷いなく確信した。それが証拠にマリア・ガーランドの姿が薄青いスクリーン越しに見えているようだった。



 その映像の女が首に負い革(スリング)で提げたFN SCARーHのピストル・グリップとバーチカル・グリップをつかみ肩付けしタップシュートで発砲し始め踊場から数段上にいる前の男がからだ振り回し下の男らの間に倒れ込んだ。



 兵士らは撃ち返しながら足早に階段を下りて手すりの陰に身を隠しその1人が雇用主に抗議した。



「映像じゃないぞ! 本物だ!」



 ドロシアは目をおよがせた。本物なら男らに少なくとも20発以上撃ち込まれて平気な顔で立っていることになる。



 中間の踊場の折り返し上がる手すりの陰からマカール・エフィモヴィチ・クライネフがRGDー5のセーフティ・ピンを引き抜き1秒数え階上に投げ上げた。



 あろうことか1発の発砲音(ガンショット)が聞こえ凄まじい勢いで手榴弾(グレネード)が跳ね戻って踊場に転がった。



 あの女社長、手榴弾を撃ち返しやがったとドロシアが気づいた寸秒、咄嗟とっさにマカールは傭兵ようへいの1人の襟首をつかみドロシアの前に退いてたてになった刹那せつな踊場で破砕手榴弾が起爆した。



 耳に高周波の甲高い音が襲っている中で階上からマリア・ガーランドが宣言した。





「どうしたドロシア・ヘヴィサイド! 私を撃ち殺してみせろ!」





 女武器商人は暗殺の対象がなにがしかの電磁波で銃弾(ブレット)を無効化していると朧気おぼろげに思った。だがこれが傭兵ようへいらと自分を足止めしている罠だと小指の先ほどにも意識になかった。











 21階のNDC金属工業品部門の大部屋の第2事務室に入ったハイエルフはFN SCARーHのボルトレバーを引いて1発排莢はいきょう薬室(チェンバー)にブランク薬莢(カートリッジ)を挿入し銃口にラペリング・アタッチメントを付け出入り口の袖壁に向けて発砲した。



 コンクリートの壁に4条の返しの付いたアンカーが食い込むとアタッチメントを取り外しアンカー中間部のリングに腰後ろのベルトに装着した降下ユニットから眼に見えないほどの極細のナノワイヤー製ラペリング・ロープのカラビナを引っ張り引き延ばし引っ掛けた。



 そうして外壁へ振り向き横へ大きなブロンズガラスに3発バースト発砲し強化ガラスを撃ち砕いた。



 割れた窓へシルフィー・リッツアは駆け出し一気に外へ跳躍ちょうやくし通りに見えた襲撃者の1人にフルオートで銃弾(ブレット)を浴びせ地上へバトル・ライフルを構えたまま一気に降下し背後の降下ユニットが恐ろしい勢いで繰り出すワイヤーを自動制御し排出量を二次元関数の割合で急激に制動をかけてビルに振り戻されたハイエルフは11階と10階の間の外壁を蹴り一気に地上へ下り立った。



 正面玄関前に降下したハイエルフはナノワイヤーを切りFN SCARーHを負い革(スリング)任せに背後に放ち両腕を左右に振り下ろすと2条のエメラルドグリーンにかがやむちが急激に伸びて踊り破壊された回転ドア左右の支柱を両断にしエントランスへと駆け込んだ。



 1階フロアを守備していた2人の傭兵ようへいらが音に振り向きシルフィー・リッツアに猛然と弾丸(ブレット)を浴びせたが彼女の前に横方向へ扇型に広がる風の精霊の極めて薄い守護壁が幾つもの波紋を生み出しせき止めた。







 男らの1人は空になったマグチェンジをしながら、大きな弧を描き急激に前屈みで駆け込んで向かってくる長身の女が手に握ったネオンサインのようなむちを振り回すのをただ防ぎ様もなく見つめるしかなかった。












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