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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #25
123/164

Part 25-3 Two steps away from an attack 襲撃の二歩手前

NDC HQ Chelsea Manhattan, NY 03:09

03:09ニューヨーク州マンハッタン・チェルシー地区NDC本社ビル





 ミニミ機関銃を提げたパトリシア・クレウーザはひざついて座り込みぶつぶつとつぶやく女テロリストの前で立ち止まるとマリア・ガーランドが小声で少女を誉めた。



「上出来だわ──パトリシア」



 ポニーテールの少女はマリアに問うた。



「これで良かったのですか、マリア?」



 マリア・ガーランドは座り込みこうべ垂れたクラーラ・ヴァルタリを見下ろし異空間のゲートを開くとそこへ女テロリストの背を蹴り込んだ。



 紫紺のゲートが渦を巻き立ち消えるとパトリシアは軽く腰を折り確かめるように消えたゲートを見つめたままのチーフの顔を見上げた。



 その視線に気づいてマリーは問いかけた。



「何?」



「ベルセキアをあまりにもいたぶてたから──」



 マリーはため息ついて説明した。



「能力を奪うためにヴェロニカやルイを喰い殺したのがゆるせなかった」



 これでもかと標識の鉄板で殴りつけるマリア・ガーランドの氷のように冷ややかな眼差しをパトリシアは生々しく思いだして、あまりにも暴力的だったとチーフに言いたかったが真意がわからず口をつぐんだ。



 マリアは打って変わって穏やかな眼差しをしている。



 チーフの心を知り抜いたパティは二面性があるとは思っていなかった。



 だが信じる人が見せた破壊的な衝動の有り様をどう受け止めればと────困惑し続けた。



 マリア・ガーランドは黙って前に両腕さしだし肩幅で手のひらを開いた。







 途端に通路の天井近くの空中に金色の輝きがあふれだし降り注ぐとその光りが人の形に集まりだし次第に輪郭がはっきりとし始めた。







 後退あとずさり見つめているパトリシアは去年末のセントラルパークの話を思いだした。



 マリア・ガーランドはこうやって一度死んだヴェロニカ・ダーシーを復活させたのだ。



「心配いらないパティ。前よりもヴァージョン・アップしてるから」



 金の光りの鱗粉りんぷんが人になってゆく。だがパトリシアはその背丈がヴェロニカより低いことに気づいた。自分の目線ほどの背丈なのだ。マリア・ガーランドが失敗しかかっていると少女が思った矢先に顔がはっきりと形創られた。





「ルイ────ルイゾン・バゼーヌ!」





 命の再生は死んで短時間しかできない。ルイがベルセキアに食べられたのは数日も前だった。それも遠いポーランドでだ! それをマリアは今、引き戻そうと奇跡を行おうとしている。



 皮膚や髪だけでなく服を着た状態でしっかりと再現されると立ったままうつむいたルイゾンがあごわずかに上げまぶたをゆっくりと開いた。



「パトリシア────どうして? わたし──どこに────いるのかしら?」



 パティはまぶた涙溢あふれさせルイを抱きしめた。



「お帰りルイ! おかえり!」



 ルイを抱きしめたパティはそのもう1人のテレパスの背後でマリア・ガーランドはさらにもう一度奇跡を行っているのを眼にした。



 2人目はマリーと同じ背丈で徐々に顔がはっきりとしてくるとそれがヴェロニカ・ダーシーだと気づいてパトリシアはエメラルドグリーンの瞳を丸くしルイを挟んで両腕を差しだした。



 輪郭が完全に再現されるとマリーがヴェロニカの背後から肩に両手をかけ支えた。



 ゆっくりとまぶた開き、ヴェロニカは見知らぬ少女を挟んで両腕を差しだしているパトリシアに気づいた。



「パティ────私────」



「2人とも記憶が飛んでいるでしょうけれど、大丈夫。辛い記憶は消してみたから」



 そうマリア・ガーランドが説明するとヴェロニカとルイが驚いた表情で振り向いた。





「私に何があったんですか!?」





 ハモった2人にマリーは唇に人さし指を当てかぶり振った。



 パトリシアとNSA職員、それにユーロNDCの特殊情報職員の少女越しに通路の奥で驚き顔でかたまっている第二中隊のセキュリティの男らにマリア・ガーランドは命じた。



「社長室にミサイル撃ち込んだ連中が本社襲撃を画策している。インドア・アタック装備で迎え撃つ準備を」



 8人のセキュリティは表情を強ばらせきびす返し奥のエレベーターへ向かい走りだした。



「マリア、襲撃を企んでいるって武器商人のドロシアなの!?」



 パティに問われマリーはうなづいた。



「ええ、8時だったと思う」



 だった!? マリーの言っている時制が変だとパトリシアはすぐに気づいた。



「少し休みたい。1日大変な思いしたから────医務室にいるから」



 そう告げマリア・ガーランドがエレベーター・ホールへと向かおうと背を向けるとパトリシアは上司に問いかけた。



「マリア、その襲撃のことをどうやって────!?」



 ニューヨーク中の人の意識に同時に潜り込めるパトリシアのテレパスの能力にさえまだ引っかかってないその襲撃情報にマリーがどうやって知りえたのかと少女は困惑していた。急激に数多あまたの力を身につけているマリア・ガーランドが襲撃者らの意識に潜り込んだとは到底思っていなかった。



 背を向けている女社長が立ち止まり両肩を落としてため息をついた。





「────────見たの──よ」





 襲撃されるのを見たと? パトリシアはマリアの言っている意味を理解できなかった。まだ起きていない襲撃を見た? 予兆? 直感? 違う────違うわ!



 マリア・ガーランドの言っていることはもっと確かなものに立っている。



 閉じてゆくエレベーターの扉に見えなくなってゆく女が言った意味をつかみかねてパトリシア・クレウーザは思いだした。







 この人はとんでもない高見にいるのだ。







 命落とした人を復活させ、起こるべき未来を見据えている。



 ヴェロニカとルイゾンに見つめられていることに気が付いたパトリシアは後退あとずさった寸秒2人に問い詰められた。





「私に何が?」











 医療ベッドに腰掛けたマリア・ガーランドは医務室でルナに指示していた。



「────ああ、8時ごろだと思う。ドロシアの兵がここを襲撃する。よってシルフィー・リッツアとセシリー・ワイルドを残し他の第一中隊全員の帰宅」



 第一中隊のメンバーに今朝これ以上負担をかけると負傷以上のものを出してしまうと考え、そうマリーが説明指示するとルナは視線を一度落とした。



「武器商人らはどうやって我々だと嗅ぎつけたのでしょう?」



 マリーが他のベッドに腰掛けたシルフィーの方を見るとハイエルフは眼を細めた。



「先の拉致らち作戦でお前はあの女に顔を見られているからな。お前の顔はメディアで都度つどあるから結びつけたのだろう」



 そうシルフィーが言うとルナがマリーへ意見した。



「ならなおさら向こうから襲ってくる好機にドロシア・ヘヴィサイドを捕らえなければ」



 その勧告にマリーは鼻を鳴らし唇をゆがめ対応を語った。



「捕らえ司法に引き渡そうとするからあれはすり抜ける。殺す方が楽というものだろう」



「駄目です。それは貴女あなたの本心ではないはず。捕らえFBIに引き渡すべきです」



 マリーはひざを叩いた。



「成り行きで決める。さあルナ社員らの出社中止を指示しあなたも帰宅なさい」





「社員達への連絡は迅速に徹底しますが、本社と貴女あなたを残し自分だけが逃げを打つなどお断りします」





 マリーは有能な副官から視線逸らしつぶやいた。



「ルナあなたがモテない理由を話しましょうか? 言いだしたら聞かないからです」



 ルナは珍しく表情を露わにした。ムッとすると指揮官に言い返した。



「マリア、貴女あなたが慕われる理由をご存知ですか? どんな時にも寄り添うものに気配りするからです」



 マリア・ガーランドはため息ついてベッドに横たわってルナに背を向けると命じた。



「指示は終わりよ。寝るわ」



 ルナは肩をすくめ医療室から出て行った。



「お前ら面白いな」



 そうシルフィー・リッツアが指摘するとマリーは言い捨てた。



「うるさい────寝ろ」



 まぶた閉じてマリーは焼け焦げ跡形もなくぼろぼろになった社長室の有り様を思いだした。ミサイルを堂々と撃ち込んでくるやからだ。



 殺しはしない。だがドロシア・ヘヴィサイドの悪の目はできるだけ早く摘んでおかないとこの先巻き込まれ身内に死者がでるだろう。



 3時間だけ仮眠をとり休んだらあの武器商人をどうするか結論を出すとマリーは決めた。次元転移でもう一つのサウジアラビアの砂漠で経験した死ぬような経験を思いだし重い頭ですぐに寝入ることもできず、鬱々たる気分のまま走馬灯のように様々なことが意識によぎってうとうとしているとAIが医務室天井のスピーカーで午前6時を告げマリーとシルフィーそれにセシリーは即座に上半身を起こし3人は医療用ベッドから床に足を下ろしマリーは2人に問いかけた。





「シルフィー、セス────闘えるか?」





 無言で立ち上がった2人が機嫌を損ねているとマリーは余計な質問だったと気づいた。




 すべての一般社員の出社を禁じ自宅待機の指示を出してあるはずだが、医務室へ経営部門の責任者の一人エリザベス・スローン──リズが広報室のマイルズ・キンバリーを連れ厄介やっかい事を持ち込んできた。



「どうした? 自宅待機のはずでしょ」



 指摘され優秀な経営部門のリーダーの1人が指摘をスルーして説明を始めた。



「NBCネットワークが11時にインタヴューの収録をしたいと申し込んでいます。お断りになりますか? 延期申し込みも可能でしょうが」



 リズはマリーを気遣い延期もしくは断るかの指示を仰ぎに来たのだと女社長は理解した。



 マリーが判断に躊躇ちゅうちょしているとリズは付け加えた。



「どちらにせよプロデューサーのクリフトン・スローンの悪感情は良い結果を生みません。厄介やっかい事には早く結果を出すことをお勧めしたいのですが、今朝の襲撃騒ぎです。御無理は避けられた方が良いかと」



「11時にインタヴューを受ける方向で調整を。その時刻なら武器商人らの事案は解決しているでしょう」



 マリーがそう指示するとエリザベス・スローンは返答を知っていたとでもいうように寸秒伝達事項を説明した。



「インタヴューの段取り調整に担当者としてクラーラ・ギャレットを付けます」



 マリーはドロシアの襲撃を前に心に余裕を失いかけていてそれどころではなかった。



 昨夜、バルヒェット兄妹以外に、別な殺し屋5人が本社に入り込み偶然にもミサイル爆発に巻き込まれ死亡していた。



 ドロシア・ヘヴィサイドらは襲撃をするからには1人2人の人数ではないだろうとマリーは思った。



 マリーは通路に出るとAIに命じた。



「トレイシー・サムソンを作戦指揮室へ」



 一度、そのドロシアの襲撃者らを本社ビルに入れ退路を断つ方向で第二中隊のリーダーと打ち合わせを詰めることにした。第二中隊はあくまでもドロシアらを逃さぬための退路遮断を命じることに決めていた。ドロシアらを正面からたたくのはシルフィー、セシリーそれに自分だと想定していた。



 あの武器商人はプライド高い。襲撃を配下にだけ任せ後方で指示を出すようなことをしないだろう。





 陣頭指揮し乗り込んでくるドロシア・ヘヴィサイドの高慢な意志を打ち砕きその目をのぞき込みながらタイラップで拘束こうそくするのだ。





 作戦指揮室に乗り込んだマリーを問題が待っていた。



 ミサイルの一件でNY市警はまだ警戒を解いておらず、本社ビル前に警邏けいらをおいていた。その姿を屋外のセキュリティ・カムが捉えた映像を壁面の巨大液晶画面の1つのウインドウで見ながらマリーは判断した。



 襲撃が市警に知られれば多くの警官を送り込んでくる。ドロシアの襲撃部隊は抜きん出た戦闘集団だろう。警察官の命を重んじマリーは国家安全保(NSA)障局のマーサ・サブリングスに一報を入れ事案をNSAの管轄で警察官の立ち入りを阻止しようと決めキーテレフォンの受話器を取り空で覚えているNSA──NY支局長のセリーの番号を打ち込んだ。



『はい、マーサ・Sです』


「MGよ。早朝から申し訳ありません。あと1時間余りでドロシア・ヘヴィサイドが兵を引き連れグラス・シャトーを襲撃します。NY市警の介入を止めたいのでNSAの事案だと通達してほしいのですが、如何か?」



『警察官の死傷者を防ぎたいのね。いいわ了承します』


 さすがに冴えているとマリーは感心した。



「助かります」



 素直な礼に通話先で優秀な国家公務員の管理官が微かに笑った。



『ヴェロニカ・ダーシーをまた連れ戻してくれたお礼にしてはお安いわよね』


「あの子、夜中に貴女あなたを叩き起こしたんですか?」





『ええ、私の心配を払拭ふっしょくしてくれました。マリア、無理なさらずに』




 ええ、と返事をしマリーは受話器を下ろした。



 顔を上げると第二中隊のリーダー・トレイシー・サムソンがそばで指示を待っていた。



「8時に武器商人らの兵──恐らく員数は20前後。あなた達第二中隊は襲撃集団が屋内に入りきるまで手を出さず退路遮断。私とシルフィー、セシリーで迎え撃ち挟撃きょうげきします。」



 トレイシーは顔を強ばらせた。



「20人を3人でですか──いささか無理がないでしょうか」



「問題ないわ。連中のねらいは私1人。そこに乗じて攪乱かくらんします。要は振り回せば人数の差が優勢にはならない。それに退路遮断を完璧にこなせば第二中隊の評価にも繋がります」



 トレイシーは困惑げな表情になった。



「どうしたの?」



「ダイアナから社長の身辺警護を厳にと命じられております」



 ああ、だからあれを帰らせようとしたのだとマリーは苦笑いした。



「心配いらない。武器商人らは近隣に仕掛けた核爆弾が有効とまだ思ってるだろうから、襲撃は迅速で撤退重視のはず。退路を阻止さたと知ればパニックにおちいる。私のねらいはドロシア・ヘヴィサイドの捕縛だから兵は蹴散らす」



 トレイシーは社長の戦闘能力を十分に知っていたが、その力にも限界がある。



「社長やシルフィー、セシリーが追い込まれたら本格的にたたきますよ」







「いいでしょう────私の手腕をとくとご覧あれ」












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