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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #3
12/164

Part 3-2 Olki 藁(わら)

2 lipca 13:41 Polska Bialystok, Magazyn w Antoniuk

7月2日13:41ポーランド ヴャウィストク アントニュクの倉庫





 物事には必ずきっかけ(トリガー)がある。それは当事者が承知してるしてないに関わらず存在する。



 官、軍、民に行ってきた暴力の脅迫はいずれ破綻し追い込まれる。それは数の理論でありテロリズムを手段とするものが政府による執拗しつような追い込みに屈する事となる。



 どの様に市井しせいを隠れみのにしようともいずれはあぶり出される。



 ジャブを繰り返すより渾身こんしんのストレートをお見舞いすれば、一気に政権は破綻するかもしれない。



 それを期待し危ない橋を渡ってきた連中をいつも見ていた。



 延々と続くシンパ活動資金獲得を止めるのは、大きなきっか(トリガー)けを見逃さない事だと決めていた。



 腕時計を目にし、あと4分で依頼主(クライアント)が来ると思った。いつも仕事を依頼してくる武器商人は決めた時刻に早過ぎも遅過ぎもせず現れる。



"Sisar, aiotteko todella nostaa sopimuksen hintaa?"

(:姉御、本当に金額を吊り上げるおつもりですか?)



"Se, mitä olemme ryöstäneet, on sen arvoista."

(:ああ、強奪したものはそれだけの価値があるさ)



 それは同士らをあざむく口実に過ぎない。今、手にする爆薬は途方もなく世の中を揺さぶる事ができる。



 GMのピックアップの荷台に置いた大型の工具入れに腰掛けたクラーラ・ヴァルタリは荷台にもたれかかって会話するのは彼女に継ぐサブリーダーだった。



 そう応え、クラーラ・ヴァルタリはタングステン・グレイ・カラーの個人防御火器(PDW)── ICーPSDのコッキングハンドルを引き放ちチャンバーに装填しレシーバ後端右面に付けたフックをコンバットパンツの腰後ろのベルトに引っ掛けた。そうして次にチェストリグに横向きに着けた競技用クイックドロウホルスタからSIG P229を引き抜きスライドを引いて初弾をチャンバーに送り込みデコッキングレバーでハンマーを下ろしホルスタに戻した。



"Oletko valmis? Älä ammu ennen kuin ammun."

(:お前ら用意はいいか? 私が撃つまで手出しするな)



 きつくいましめるクラーラに男らが次々に了解(コピー)の返事をした。



 45分寸前に扉の外からタイヤが砂利を踏みしめる音が聞こえそれが止まると彼女の部下の1人が大きな鉄板のスライドドアを引き開けた。



 車はいつもの様に黒のメルセデスS450だった。それがゆっくりと倉庫の中に入りタイヤが向きを変えフロントグリルを回し出入り口に向け停車すると助手席とその後席からダーク系のスーツを着たがっしりとしたサングラスの男らがアタッシュケースを片手に降り立った。そうして運転席の後ろのドアをトランクを回り込んで来た男が開いてその陰に立ってあるじが下りるのを待った。



 わずかにをおいて後席から高級スーツを着た細身の男が下りるとドアを開いた男があるじかたわらに付き、助手席から下りた男もフロントを回り込んであるじそばに付いた。



 目つきが冷め切った鉄だとクラーラ・ヴァルタリはいつも顔を合わせる度に思った。昔はこの男も情熱を目に宿していただろう。金や権力に傾倒する男らはみな一様に同じく目が死んでゆく。



"Спасибо за ваш нелегкий труд. Эта работа была очень плодотворной и содержательной."

(:ご苦労、諸君。今回の仕事はとても実りがある有意義なものだった)



 荒事の現場に顔を出しやがれとクラーラは目を細めて思った。



"Урнов, что случилось с деньгами? Я не могу вписаться в дело атташе, которое ваши подчиненные вложили в свои руки."

(:金はウルノフ? お抱え連中が手にするポートフォーリオには入りきらないんじゃないか)



 押し殺した声でクラーラはディラーをにらみつけ問うた。だがウルノフは顔色1つ変えずに切り返した。



"Прежде всего, я хочу посмотреть, что вы подготовили."

(:まずは、ブツを拝見したい)



 取引紙幣はいつも一般に出回っている100ユーロのはずだった。ディラーの用意したアタッシュケースにはどう見ても1万枚の紙幣が入っているようには思えなかった。



 それでもクラーラ・ヴァルタリはいつもの事だからと鼻梁びりょうをしかめ自分が腰掛けているピックアップの荷台に置いているランチボックスほどのアルミケースをつかみ上げた。そうして三段錠を外し蓋を開き箱を相手に傾け見せた。箱の内周に沿って冷却材がありその内側をスチロールが占め横一文字に3本の赤い樹脂製キャップで閉じられた試験管がのぞいていた。ディラーの視線が向けられたのを感じてクラーラが温度が上がるのを嫌いふたを閉じるとディーラーがうながした。



"А теперь дайте мне."

(:では、それを渡してもらおう)



 クラーラはかぶり振った。



"Денег я еще не видел."

(:金を拝んでないわ)



 彼女がそう言うとディラーは右のボディガードに小声で何か伝え、ボディガードはトランクへ回り込んで開き小ぶりのスーツケースを取りだした。そうしてディラーの横に戻りスーツケースを開いてクラーラ・ヴァルタリに中身を見せた。そこには使い古した100ユーロがぎっしり詰まっていた。



"Суммы, которую вы подготовили, недостаточно."

(:足らないな)



 クラーラがぶっきらぼうに告げるとウルノフが顔を振ってボディガードがスーツケースをトランクに戻した。



"Вальтари, что ты имеешь в виду? Я уверен, что подписал контракт"

(:どういうことかねヴァルタリ? 契約は交わしたはずだ)







"Попросите их заплатить за свои опасности и важность. Цена продажи этой трубки составляет 10 миллионов евро... Рынок волатилен."

(:危険と重要性に応じた対価を払ってもらおう。この試験管の売値は1千万ユーロだ──相場は変動するんだよ)







 刹那せつな目の座ったアズレート・ニキートヴィチ・ウルノフは3人の部下に命じドア開いたままのメルセデスの後部席に身を沈めた。



"Убейте их всех!!!"

(:皆殺しにしろ!)



 3人のボディガードが左手に持ったアタッシュケースを顔の前に掲げ握り手のボタンを押し込むとケースが前方に開き瞬く間に中から同じサイズの圧延鋼板が繋がりバタバタと足元へ広がると今度は左右にほぼ同じサイズの圧延鋼板が広がってたてとなった。寸秒、6.8ミリ・レミントンSPCライフル弾や.40S&Wが圧延鋼板を撃ち鳴らし跳弾ちょうだんとなり火花を散らしだした。



 ボディガードらは右手をスーツの内側に差し込み吊したホルスターからH&K MP7を引き抜きたてと化したアタッシュケース握る左手の親指でセレクタをフルオートに切り替え猛然と反撃を始めるとクラーラ・ヴァルタリの部下らから死者や怪我人が出始めた。



 クラーラはリグに下げたXM84スタングレネード2つを引っ張り三角と円のリングを持つ2つのピンがチェストリグのリングに残ると2個のレバーが弾け飛んだ。



"Granat hukowy!!!"

(:スタングレネード!!!)



 工具箱を荷台の後方に蹴りだし蓋を開いてたてにしていたクラーラは閃光手榴弾と叫び手榴弾をメルセデスのドア開いた後部席を塞ぐ形で立つ男らとボンネットの陰から撃ってくるボディガードに投げつけた。



 1秒でえられない爆轟と閃光にさらされた男らはひるみその額や横顔を45度オフセットのトリジコンSROレッド・ダットサイトで捉え次々にクラーラと部下らは撃ち殺した。



 クラーラはピックアップの荷台から飛び下りて45度傾けホールドするLWRC ICーPSDカービンで狙いながらウエポンディーラーの乗る後部席の方へゆっくりと歩いて行くと座席の奥──反対側のドアにもたれる様に逃げ込んでいるアズレート・ニキートヴィチ・ウルノフがいた。



"Najpierw strzelaj czubkami kończyn daleko od głowy...Rywalizujmy, aby zobaczyć, ile strzałów możemy wytrzymać. Jeśli chcesz czuć się komfortowo, powiedz numer konta i hasło. Będę dla ciebie miły."

(:これから頭から遠い手足の先を順番に撃ち抜く。何発堪えられるか勝負しようじゃないか。楽になりたかったら口座番号とパスワードを言え。恩情をかけてやる)







"Если вы пойдете против организации Крары, вы пожалеете об этом."

(:クラーラ、組織に逆らうなら代償は高くつくぞ)







 つばを吐きかけられ彼女はまずは左足の爪先に近い甲を撃ち抜いた。



 ディーラーがうめののしりを口にしかけプライドで言葉を呑み込んだ。その鼻面はなっつらに顔を近づけクラーラ・ヴァルタリは母国のフィンランド語でささやいた。



”Organisaatio on......en välitä!”

(:組織など────くそ喰らえ)



 そうしてアズレート・ニキートヴィチ・ウルノフの反対足の爪先をもう1発撃った。











 殺された職員の1人の口座に2週間前に4万ユーロ振り込まれているのはすぐに見つかった。だが死んだものが誰と契約し何と引き換えに不当な金を受け取ったか問い詰める事はもうできない。



 証拠品は少なく、唯一捜査の手がかりの可能性となるのは襲撃した連中が6.8ミリ・レミントンSPCという珍しい弾薬を使っていた事と仲間とのコミュニケーションにポーランド語でないフィンランド語を使っていた事だ。



 それに率いていたのは女だった。



 エレベーター・ホールの録画を見ていたポーランド内部安全保障局対テロ捜査部のカレル・ヴラスチミル大尉(OF2)とミハル・レオポルト伍長(MS)は犯人らの手際の良さに舌を巻いた。



"To żołnierze, prawda? ...Jestem pewien, że to żołnierze sił specjalnych..."

(:こいつら軍人じゃないですか? きっと連中、特殊部隊の──)



"Nie, nie. Tylko ten lider się wyróżnia."

(:いや、率いてる奴が抜きんでてるだけだ)



 動きも万全。兵装も戦術上必要なものだけ。ここの複雑な構造を完全に暗記して迷いなく12層の1室に向かっている。



"Uh ── Przyprowadziłem kogoś, kto mógłby wyjaśnić, co zostało skradzione."

(:あのう────盗まれたものを説明できるものを連れてきました)



 2人が振り向くと白衣の30代の女性が困惑げな面もちで立っていた。警官が立ち去ると大尉(OF2)が尋ねた。



"Czy możesz mi powiedzieć? Co zostało skradzione."

(:教えてくれるか。何を盗られた?)



"Jednym z nich jest patogen, który zabija zboża ── pszenicę i ryż."

(:1つは穀物を──麦と米を枯れさせる病原体です)



"Druga to specjalna komórka, która miała zostać przekazana armii rosyjskiej. To biologiczna tkanka potwora, który pojawił się w Nowym Jorku w USA pod koniec zeszłego roku."

"もう1つが──ロシア軍に渡す予定だった特殊な培養地で、去年末にアメリカのニューヨークに現れた怪物の生体組織です"


 対テロ捜査部の2人とも顔を強ばらせた。アメリカの大都市で銃弾(ブレット)の豪雨にも倒されなかったあの狂気じみた怪物の存在は放送となって世界中の人々を戦慄せんりつさせた。



 陸軍か海兵隊か街中で対戦車ミサイルを使ってもしとめられなかった悪魔。



 あの頑強さと攻撃力をほっした国は多かっただろうが、よもや生体組織が取引されているとは思いもしなかったとヴラスチミル大尉(OF2)は困惑した。



 世界は核兵器から毒ガスに代わるものを模索しているがあの怪物は反則だ! 人を殺すだけでなく喰らうのは最早、兵器などではない。



"Czy komórki potwora będą przydatne?"

(:その怪物の細胞は何かの使いものになるのか?)



 女研究員がかぶり振った。



"Nie. To niemożliwe. Sama próba inkubacji będzie rosła w ogromnym tempie. Co więcej, w połączeniu z innymi normalnymi komórkami są szybko pobierane i przekształcane w te komórki, których nie można odróżnić. To naprawdę wymyka się spod kontroli."

(:いいえ。無理なんです。培養しようとしただけで物凄い勢いで一気に増殖します。さらに他の正細胞に合わせると急激に取り込んで見分けられないほどにその細胞に成り変わるんです。本当に始末に負えないんです)



 それをロシア軍はどうしようというのだとヴラスチミル大尉(OF2)は生唾を呑み込んだ。研究者が扱いに困るんだ。それを軍人がどうにかできるというのが思い上がりだ。



 それを承知の上で彼は研究者に問うた。



"Jeśli komórka rośnie, jak zabić ją po drodze?"

(:その細胞が増殖したら途中でどうやって殺すんだ?)







"Nie mogę tego zabić. Ale to można stłumić."

(:殺せません。ですが押さえ込む事はできます)







 いきなりカレル・ヴラスチミル大尉(OF2)が歩み出て女研究員の手首をつかんだので驚いたその女研究員は後退あとずさった。



"Chcę, żebyś przyniósł to narzędzie i podążał za nami."

(:その道具を持ってついて来て欲しい)












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