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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #24
118/164

Part 24-3 Violence 暴挙

DFW(/Dallas Fort Worth International Airport) 2400 Aviation Dr. Dallas TX. 75261 01:39 Jul 14/

1280-1290 Ave of the Americas NYC. NY 02:31

7月14日01:39 テキサス州ダラス・アヴィエーション・ドライブウェイ2400──ダラス・フォートワース国際空港/

02:31 ニューヨーク州ニューヨーク市マンハッタン・アヴェニュー・オブ・アメリカンズ(6番街)1280ー1290





 照明が減灯され人気のない空港ロビーでジェシカ・ミラーとM-8マレーナ・スコルディーアはベンチに並んで腰掛けていた。2人は警官隊の取り囲んだデータセンターからまんまと救急車で逃げ出し、ダラス市内で救急車を乗り捨てイエロー・キャブでここDFWに来ていた。



「なあ、マース──フォート・ブリスへ行ったほうがいいって」



 そうジェスは自動人形(オートマタ)にかれこれ半時間言い聞かせていた。



「飛翔体怪物大量襲来で陸軍野営地は大ピンチ──死にに行くようなもの」



 マリーもシルフィーもおらず異空通路ことわりのみちで戦場に戻ることも出来ず。かといって車を使っても9時間以上かかる。だからといってマースの言うとおりニューヨークへ戻ったら後々ルナに叱責されそうで頭が痛かった。



 それに旅客機に乗るために武装や装備は破壊して裏路地のゴミ集積所に捨ててきた。



「お前、腹に大穴開いてるのに倒れるどころか出血すらしないのはなぜだよ?」



「ジェス、なぜ大騒ぎしないの? スラグ弾で撃たれて死にもしないんだよ」



 確かにそれもあったが、成り行きで小娘を撃ってジェスは後悔の念にさいなまれているのも事実だった。



「あのなぁ、ないしょの話だけど、アン・プリストリなあ修羅場でお前みたく何度か撃たれているんだけれど致命傷なのにピンピンしてるんだ」



 人ならうち明け話でため息をこぼすのだろうとマースは仮想した。



「特殊な術式があって身体にチタンプレートをインプラントできるんだよ。APも身体に防御板を入れてるのかも」



 ジェスは驚き顔で両腕振り上げマースから離れた。



「お、お前、腹にチタンプレート入れてるのか!?」



 その問いに救急隊員服を着たゴスロリの小娘が頷くと同じ制服を着たジェスは生唾呑み込んだ。大ぼらでもなかった。Mー8マースのあらかたの骨格や内部機構を守る筐体はチタン合金製だった。



「ジェス、マリーやルナ──他のセキュリティたちはもうダメかもしれない。あのデータセンターにいた怪物が保有していた情報を目の当たりにして人の対応できる範疇を越えていると思った」



 ジェスは腕下ろすと少女にたずねた。



「あの怪物ら異世界から来たのか?」



「異世界でなく異星系──80光年離れたグラバスター系星。人の感覚でいうならエイリアンだけどナノボットだから生命体でもないわ」



 ナノボット!? ジェスは聞き慣れない言葉の意味を戦術担当(TO)の少女にたずねた。



「何? そのナーヴォって?」



「それはオーストラリアのシンガー。ナノボットっていうのは10分のマイナス9乗のウイルス・サイズの機械──彼奴あいつらの場合、シリコンの機械」



 それを聞いてジェスは鳥肌立った。



「か、感染するのか?」



「体内浸透という意味では感染だけどタンパク質とは相容れないと思うの」



 そう説明しマースはフォート・ブリスの陸軍を襲っている怪物らが変幻自在な理由にいたった。あの怪物らは人の潜在意識に潜り込み恐怖を抱く形状を具現化していたのだ。つまり異星生命体でありながら情報という概念は極めて近いものを持ってることになる。



 そんなものに挑むマリア・ガーランドらは絶望的だとマースは仮想した。



 自動人形(オートマタ)は空港のWiFiを通しインターネットに接続し国内の大型兵器軍需産業のファイアーウォールを破りアドミン権限を修得すると衛星通信機材を通し合衆国中央情報局の所有する偵察衛星KHー39を操り始めた。



「ジェス、モバイルフォンを出してみて。情報を供出するから」



 ジェシカ・ミラーが救急隊員の制服ポケットからボーダフォンを取り出すと操作もしないのに液晶画面が点灯した。



「戦闘車輌から下りてきたのはアンとレギーナ。そばにいるのはチーフ」



「フォート・ブリスの荒れ地(デザート)なのか!?」



 ジェスは少女に食いつくように問うた。



 見るところ怪物らに襲われていなかった。だがアンとレギーナが戦闘車輌から走り離れるとマリア・ガーランドが戦闘車輌に腕を振り上げ二両編成の後続車からエンジン・ブロックのようなものが空中に現れた。



 これは驚きだとマースは仮想した。



 戦闘車輌の主兵装は超電磁砲(レイルガン)であり、その電力をまかなうには動力源は内燃焼機関ではなかった。89パーセント以上の確率で小型原子炉だった。その複雑な形状が急激に球状に変貌へんぼうするとマリア・ガーランドのかたわらに浮かび上がった。



 チーフにはおどろかされることばかりだとマースは仮想した。



 マリア・ガーランドの能力は一般的な人のものと乖離かいりしている。その全能的能力で原子炉を何に変容させたのか? 仮装できるのは兵器────原爆の可能性があった。



 マリア・ガーランドは怪物らの母星へ異空通路ことわりのみちを開く方法を用意できるのか?







 乗り込んで怪物らの中枢を爆破するつもりだ。







 ああ、マリア・ガーランドよ。なんと破壊的で神的なのだとマースは人工ニューロンの3Dマルチタスクで導いた。貴女あなた独りで進化の先を行く生命圏を灰燼かいじんに帰すつもりだ。



 それを世界が知ったら、たと貴女あなたが無事に帰還したとしてもその存在を世界はゆるさないだろう。



「ジェス、我々のチーフは単独で怪物らの母星に乗り込み怪物らの中枢を破壊するつもりです」



 それを聞いたジェスの声は上擦り、マースにモバイルフォンに映し出されるものを指さし問い返した。



「マース、あの銀色の大きな球体は兵器なのか?」



「インプロージョン・タイプの原子爆弾。あのサイズから50キロトン・クラス。チーフは素材物性すら自在に操れるようだわ」



 モバイルフォンの画面を再び食い入るように見つめるジェシカ・ミラーは眼を丸くした。



 マリア・ガーランドと銀色の球体が放電し雷光に包まれるとそこに半球状に地面が陥没した跡を残しいきなり消失した。



「ああ、消えちゃった。異空通路ことわりのみちとはち、違うぞ!?」



 それを聞いたマースは微笑んだ。既存の方法などあの方にとって意味はない。おそらくは物性どころか次元構造を含めマリア・ガーランドには不可能は皆無なのかもしれない。



 すごい! 貴女あなたはどんな高見にいるのだ!?



 M-8マレーナ・スコルディーアは減灯された空港ロビーの天井を見つめた。





貴女あなたの帰る場所をわれは確保するためにニューヨークへ戻るのだ」











 空中に横様に回転するピックアップトラックのフロント・タイヤに肩をぶつけたマリア・ガーランド駆るドカッティ1098Sはアスファルトに倒れ込むとステップから激しい火花を撒き散らしマリーが跨がったまま激しく回転し3車線の車道を横切り歩道に飛び乗り信号支柱に激突した。



 車にぶつかる寸前に精霊加護のスクリーンを解除したが、激しい目眩めまいを感じながら身をよじって落下しひっくり返ったトラックを振り返った。



 すぐに運転席の窓から容体がたいの大きな運転手が這い出てくるとマリーは倒れたモーターバイクから脚を引き抜き立ち上がった。



 幸いに骨折や筋を傷めた感触もなく、女指揮官はひざを折り大型バイクの下になったハンドルをつかみ腰を入れて起こした。



 右側のカウルは傷だらけでミラーはカウル付け根から折れなくなっていた。



 起こした鉄馬に跨がり液晶メーターがまだ点灯していることでまだいけると思った。右足で車体を支えクラッチを切りニュートラルに入れセルボタンを押し込んだ。



 テスタストレッタL型ツイン・エンジンはうんともすんとも言わずマリーは青ざめた。



 一瞬、事故のため停車している車道の車を見つめ車を奪うことを考えそれをかなぐり捨てた。



 エンジンをかける手段は1つではない────そうヴィクトリア・ウエンズディから得た知識が教えていた。



 マリーは両ハンドルを握ったまま左側に下りるとクラッチを切りシフトペダルをローに入れクラッチを繋いだ。そうしてモーターバイクを後ろに下げピストが上死点近くになるまで引き具合で下げ止めた。



 そうしてクラッチを切りフロントブレーキレバーを握りしめモーターバイクを押し出した。フロントサスが圧縮され前が下がると押す力を解放しサスが伸び上がるに任せわずかに前上がりなった状態から戻る力に自分の上体の重量をハンドルにかけさらに前へ押し込みフロントサスが圧縮されるとリズムもってさらに繰り返した。



 3度目に前へ戻る瞬間、フロントブレーキを解放し一気にモーターバイクを前に押し出し小走りになった。



 ヴィッキーは2歩で4サイクル1300のインラインフォアすら押し掛けることができる。



 マリア・ガーランドは2歩鉄馬を急激に押し出しシートに横座りで飛び乗った瞬間、クラッチを一気にミートした。



 1リットルL型ツインは荒い操作に怒ったように息吹ふき返すとマリア・ガーランドは横座りのままスロットルを急激に開き急激に加速し始めフロントタイヤを持ち上げたドカッティ1098Sをウィリーさせたまま左つま先でシフトペダルを2速にかき上げた。



 一瞬、下がったスクリーンが再びの加速で持ち上がってくるのに任せ女指揮官は弾丸(ブレット)のように加速するウィリーのままのモーターバイクに跨がった。



 ヴィクトリア・ウエンズディは何のためにこんな技巧を身につけているのだとマリーは呆れ返りながらモンスター・バイクを車道に戻し離れたベルセキアを再び追い始めた。



 迫る対向車を無理にかわさなくてすむように6車線の左最車線のさらに歩道寄りを飛ばした。それでも1度の事故が思いっきりを阻み走りに精彩を欠いた。



 ベス! マリーはインクルージョンに呼びかけた。



────どうしたあるじ様よ。



 ベルセキアは!?



────見失っていない。だがおかしい。あるじ様が走り出すまであれ(・・)は待ち構えていた。



 待ち構えていた!? マリーは困惑した。逃げればよいものをどうしてベルセキアは待っていたのだ!?



 ベス、お前の考え方は人である私にはわからない部分も多い。ベルセキアはなぜ逃げずに私を待っていたの!?



────色々考えられる。あれ(・・)あるじ様を越え、より高見を目指しているとしたらそのためにあるじ様が必要なのかもしれぬ。







────踏み台にしようとしている。







 カウル・スクリーン越しに押し寄せる爆風にマリア・ガーランドは唇をひずませ苦笑いを浮かべた。



 怪物が神に近づくために怪物を利用するのだ。



 だがそこには進化はない。エントロピー拡大の混沌(カオス)のぞき込むだけだとあれ(・・)は知らぬのだ。乱数で上書きされたすべての行列変数に気づいた時には引き返せぬ深みに落ちている。



 やはり秩序を破壊するお前を倒さなくてはならない。



 信号の変わり目を強引に抜けてきた大型セダンのヘッドライトに眩惑げんわくされ交差点の真横から長距離バスが現れた。



 避けようとラインを変えた瞬間、時速50マイルでフロントタイヤがマンホールのふたかすり横滑りを始め急激にフロント側が下がる最中さなかマリーの意識にハイサイドの危険な光景がよぎった。





 ヴィクトリア・ウエンズディは時速80マイルでのコーナリングでフロントタイヤをすくわれた経験があった。





 マリア・ガーランドはスライドダウンしてゆくフロントタイヤのブレーキをフルに利かせキャリパーを鋳鉄のディスクに食い込ませた。ロックした100分の数秒グリップを取り戻したフロントタイヤの接地をさらに確かなものとするため急激にスロットルを回しリアタイヤを凄まじいトルクでスライドさせカウンターステアのフロントタイヤを確実に走らせた。



 ドリフトしながら迫ってくる長距離バスの車体下が急激に視野に広がってゆく。



 あそこに潜り込んだら最後だとドリフトする鉄馬を制御しようとした。



 テールスライドさせたままマリア・ガーランドはドカッティ1098Sをウィリーさせフロントタイヤをバスのボディにぶつけ遅れてきたスライドする後輪をバスの回転するリアタイヤにぶつけ直角に近い角度で走行ラインを激変させ大型車輌の後方へと走り抜けた。



────あるじ様! あれ(・・)は西へ向きを変えたぞ!



 ベルセキアはやはりNDC本社ビルへと向かっている!



 交差点左角でフロントフォークをフルダイブさせマリア・ガーランドはモーターバイクを停車させ両足をバックステップに乗せたままスロットルを開き後輪から白煙を撒き散らし向きを一気に回転させ西へ向けるとバスを追って6番街を急激に加速しながら横切った。



 この陶酔とうすいのような技術は本能のようだと錯覚しそうだった。



 今夜は嫌というほどヴィッキーのライディングを体験していた。



 その仕上げが本社ビルかとマリア・ガーランドは眉根しかめた。



 困難の山積みの先にさらに苦難の峰のいただきが魔王のように見下ろしている。



 倒せ! 乗り越えよ、と薄皮一枚の下にいるけものが歓喜する。



 正義とか慈しみなんて関係ない。



 力の権化のような鉄馬に跨がり冥府の底から沸き立つ興奮が意識を締め上げる喜びに限界を越えてなおさらに先を目指していた。







 ベルセキアを追い詰めその首をねよと暴力の本能が要求していた。












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