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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #24
116/164

Part 24-1 Mimicry 擬態

36rd Ave 33th Street Queens NYC. NY 02:07 Jul 14

7月14日02:07 ニューヨーク州クイーンズ36番アヴェニュー・33番ストリート交差点





 FGMー148Dブロック1ジャベリン対戦車ミサイルが収められた前後に安定ブロックの付いた円筒形コンテを片手と右肩で斜めに支え異空通路ことわりのみちから出た瞬間マリア・ガーランドはその熱気と光景におどろいた。



 南北に伸びる33番ストリートは36番アヴェニューとの交差点内までアスファルトが熔解し波打っていた。ストリートの路駐車の変形具合で通りを襲った凄まじい熱の蹂躙じゅうりんのほどを想像し鳥肌立った。



 溶けかかった路駐車のかたわらに立つ精霊加護のスクリーンに護られたシルフィー・リッツアの後ろ姿に魔法の残滓ざんしを見いだし通りを襲った熱エネルギーがベルセキアのものだけでなくハイエルフの反撃もあるのだとマリーは気づいた。



 その50ヤードほど先の暗がりにいる敵の存在にマリーは過敏に気づいた。



 制帽を被ってない女制服警官だった。



 あいつがベルセキアなのか!?



────あるじ様よ。



 なに、ベス!? 


 マリア・ガーランドは胸に内包する元祖のベルセキアに応えた。



────あの姿は皮膚の変形の模倣だ。



 制服警官の成りは皮膚だと教えられ女指揮官は一瞬でテレパスで部下らに伝達した。



 先に異空通路ことわりのみちから出ていたセキュリティ・メンバーがジャベリンのLTA(/Launch Tube Assembly:発射筒(ラウンド))に、BCU(/Battery Coolant Unit:電源冷却器)を取り付けCLU(/Command Launch Unit:照準ユニット)を組み付け終わりミサイルを筒にセットアップし終えていた。



 いきなり女制服警官は一気に駆けだしてシルフィー・リッツアへと凄まじい勢いで跳び迫った。



 だがその突撃はハイエルフ護る精霊加護のスクリーンに弾かれおのれの衝撃を受けた女制服警官はシルフィーの目前で地面に転がり落ちた。



 瞬時に両腕ついて上半身起こしたベルセキアは凄まじい形相でハイエルフをにらみつけた。



 シルフィーは胸の前にバトル・ライフルを負い革(スリング)つるし両腕を振り下ろして緑色のネオン光を放つむちを地面に垂らし、右腕の一振りでその長いむちを踊らせた。



 その先鞭せんべんが女制服警官の左腕で踊り上がった。ベルセキアは顔を振り向けおのれの左腕が上腕から切れ落ちて斜め後ろに転がっているのを直視した。



 女制服警官は躊躇ちゅうちょなく瞬時に身体をひねり前に転がって腕を拾い上げむちの2撃目を避けるために大きく跳躍ちょうやくし空中に飛び上がった。



 チャンスだった。





 ねらいなさい!





 マリーがそうセキュリティのウォルトにテレパスで命じた刹那せつな、彼がバンカー攻撃(アタック)モードで空中で背を向けて飛び上がったベルセキアへFGMー148ジャベリン対戦車ミサイルを撃ち込んだ。



 対戦車ミサイルにとって加速の伸びはそれほど重要ではない。50ヤードまで飛び上がった上空でミサイルの近接信管が作動し千分の7秒でタンデム弾頭の前駆動弾頭が起爆し怪物の表皮を打ち破り直後後駆動弾頭──HEATが起爆し右脇腹をごっそりと失い民家の庭先に落下した。



 それでも芝生の上に立ち上がった女制服警官は上げた眼差しでテラス越しに庭を見つめる男女へと視線をぶつけ、ベルセキアは一気にこの場を離れようと再び大きくしゃがみこんで大きく飛び上がった。



 マーカス、ねらい撃て!



 そうマリーが命じた直後、ジャベリンが火焔伸ばし追い立て半身振り向いた女制服警官が迫るミサイルを見た寸秒、迫っていた対装甲ミサイルが70ヤードの高さで腰に命中し対戦車榴弾(HEAT)の爆炎のスピアがまたからだ蹂躙じゅうりんした。



 空中で上昇力をがれたのと同時に反対側で同じ爆発が広がり腰から下が千切れ飛んだ。



 ベルセキアは落下すると今度は民家の屋根に落ちそれを突き破ったのが見えマリーはそばにいるルナに命じた。



「私はセスとインドア・アタック! ルナ、残りを率いてベルセキアが道に出たら交互に南北からミサイル攻撃!」



 そう告げた直後、マリーはテレパスでセスについて来いと命じ女指揮官はジャベリン・ユニットを地面に下ろし猛然と怪物が落ちた家へと駆け出し胸に下げていたP90を構えた。



 その家の玄関先に迫るとセシリー・ワイルドがFN SCARーHを右肩に肩付けし追いついてきた。



 マリア・ガーランドはためらわずその家の玄関扉の壁に入り込んでいるデッドボルト周囲へフルオートで15発ほどの高速弾を撃ち込んで壁を壊しドアを左手で引き開いてPDWの銃口を開口部に振り向けた。



 その暴力的な射撃音に家人が悲鳴も上げないことにすでにベルセキアに殺されたものとマリーは即断した。



 マリーは背後をセスに護らせ玄関から通じる廊下の最初の扉を素早く開き両腕で支えるP90を振り向け室内を確認した。



 最初の部屋はリビングだった。



 室内に人陰はなくマリーは廊下に小走りに出ると廊下の確保をセスに任せ2部屋目のドアを押し開いた。



 2部屋目は寝室だった。ベッドの寝具はめくられ誰も姿がなくマリーはクローゼットなどの収納部の確認も端折はしょった。



 この短時間に家人すべての命取ったベルセキアが隠れて嵐が過ぎ去るのを忍んでいるとは思えなかった。



 マリーは三度みたび廊下に戻ると奥にセスと向かい階段に出くわした。



 本来なら1階すべてを掌握してから上階を目指すべきだった。



 怪物が屋根と2階を突き破りキッチン・ダイニングに落ちていればその音に反応した家人はドアを開いたまま奥で襲われたことになる。ベルセキアはドア1枚閉じて安全を確保するような手合いではない。圧倒的な強さゆえ堂々としている。



 マリーが階段上部へ銃口を構え上げた刹那せつな、怯えた顔のティーンエイジャの少女がドアを開いた。



「父さんと母さんが私の部屋で襲われてる」



 マリーは少女へ無言で降りて来るように左手で手招いて少女が降りてくる背後の出入り口の開口部へダットサイトのポインタを照準した。



 この小娘は怯えているがゆっくりと部屋から出てきた。 父さんと母さんが私の部屋で襲われてる────ならこの少女はなぜベルセキアに襲われなかった!? 動きで遥かに人間を凌駕する怪物が子供1人を取り逃がした!? そんなはずはない。同室になった全員が瞬殺される。



 それに────こんな夜更けにこの娘は外出できる服装をしている。



 階段途中まで下りてきた少女の顔に銃口を振り向けたマリア・ガーランドは両腕を引き締め警告もせずにいきなりトリガーを引き切った。





 数万匹の蜂が飛び交う爆音を跳ね上げ2秒で残弾30発のSS190が少女の顔に群がった。



 本物の人間なら最初の数発で即死だった。





 少女は高速銃弾を受けながら顔を両腕でかばい階段上へ一気に後退あとずさった。その様に唖然としていたマリーの斜め後ろにいるセスがFN SCARーHをフルオートでミリタリー・ボールを逃れる少女に発砲し、その間に女指揮官は手早くPDW上部の弾倉を差し替え銃口を振り上げた。



 マリーが再度銃口を向けた瞬間、少女に擬態したベルセキアは上室に逃げ込んだ。



「セス! あの小娘を外に追い立てるぞ!」



 そう命じたマリーは階段上部の部屋へとインドアアタックをするのが困難だと即断しチェストリグから左手で2個のDM51(:破砕手榴弾)を引き抜きセーフティー・レバーを跳ね飛ばし2秒数えドア開いたままの出入り口開口部の中へと素早く振り出した腕と手首のスナップで投げ込んだ。寸秒、上階へアリスパック掛けた背を向けセスを爆発破片で傷つかせないように身体でかばった瞬間、爆発が響き渡って爆風が吹き下ろした。



 銃を構え上室へと入ったマリーとセスは散乱したナイトガウンやネグリジェなどと飛び散った血痕を目の当たりにし、遺体なき状況に家人すべてがベルセキアの犠牲になったと判断した。



 部屋の窓は壊れており怪物の姿はなかった。



 2人が部屋に突入し数秒で屋外から爆轟が響いてきた。



「ベルセキアは外だ!」



 そう告げマリーは壊れた窓から跳びだし1階の屋根を滑り降りて庭に飛び降りた。直後、セシリー・ワイルドも屋根から飛び降りてきた。マリーは芝生を駆け生け垣に併設する門から路上に出た。刹那せつな、30ヤードという近くでミサイルが爆発しマリーは上げた両腕で押し寄せた爆風から顔をかばった。



 これで4発ジャベリンが撃ち込まれた。



 残りは16基──それまでにベルセキアを倒せないといけない。



 爆風がおさまりかばう腕を下ろしたマリーは怪物の姿を直近に探し視線をおよがせた。



 いた! その姿にマリーはおどろいた。



 2発のミサイル初撃に大きくからだ損なったベルセキアだったが少女姿のまま五体満足に路駐車のかたまりきわに立っていた。HEATに耐性をつけてきているとマリーは鼻筋にしわを刻んだ。



 急激に力を身につけてゆくのはお前と変わらんなとマリーは胸の中のベスのコアに語りかけた。





────ああ、そうだなあるじ様よ。







────こいつの討伐とうばつわれに任せてくれまいか?











 屋根を突き破った家の住人を吸収するのに逃げ遅れた。



 階下から侵入者の気配が感じられクラーラ・ヴァルタリは少女を演じ敵のすきをつくることに腹積もりを決めた。



 小娘の両親2人を皮膚の構成タンパク質まで取り込みクラーラは一端制服警官の姿になったが即座にこの家の最初の犠牲者である少女の背丈になり鱗の皮膚を波打たせティーンエイジャが好みそうな着衣に変貌へんぼうさせた。



 そうして急いで扉開いた出入り口に向かった。



 階段を見下ろした瞬間、目にした相手に動揺した。





 マリア・ガーランド!





 だが1度は殺し損ねた相手がレーザー・ライフルでなくP90を構えていることと、そして何よりもNDC本社ビルで対峙した時に比べ隠しきれない殺気を放っていることに目を細めかかり意識して瞳を驚きのように大きく開いて────嘘をついた。



「父さんと母さんが私の部屋で襲われてる」



 声を震えさせ怯えを最大限に表現した。



 階下の数段目に登りかかったマリア・ガーランドがP90の銃口を出入り口へと向け少女姿のクラーラを左手で手招いた。



 数段、クラーラが階段を降りた寸秒、マリア・ガーランドが銃口をクラーラの顔に振り戻し女テロリストは階段で足を止めた。



 何が疑念になったのか。何が確信となったのか。向けられた銃口を目にした瞬間、クラーラは飛びかかるすんでに顔へ凄まじいサイクルレートで銃弾(ブレット)を浴びせられ顔を両腕でかばいながら急いで階上に後退あとずさった。



 その暴力で圧された屈辱感に小さな唇をひずませクラーラは少女の部屋を駆け抜け穴だらけになった頭部を再生させながら窓へ跳び込んだ。



 1階の屋根を飛び越え一気に庭に降り立ったクラーラはその勢いで姿勢を下げ生け垣を跳び越え車道中央に下りた。



 目まぐるしい状況変化に今夜2度目の失念を招いた。



 間髪入れず交差点の方から発射された対戦車ミサイルが飛来するのを目にしたクラーラ・ヴァルタリは咄嗟とっさに亜音速に達したばかりのジャベリンの筐体きょうたいを右手で叩き落とし弾頭が足元の薄くなったアスファルト上で連爆した。



 先に連射されたことを不意に思いだした少女姿のクラーラは背後へ半身振り向いた。



 刹那せつな、飛来する加速状態の対戦車ミサイルを視認した。



 2発目をクラーラは蹴り跳ばしその対戦車ミサイルは彼女横の路駐車の残骸に命中し爆発しクラーラは片腕で顔をかばい胸や腹に破砕した乗用車の圧延鋼の破片を受け皮膚を切り裂いた。



 ねらっている連中は通りの両端だけではないと少女(もど)きの女テロリストは自分が落ちた家へと顔を振り向けた。



 その寸秒、家の生け垣に設けられた門からマリア・ガーランドともう1人のヘッドギアで顔の見えない兵が走り出てきて2挺の銃を発砲し始めた。



 その軍用弾と高速弾を全身に浴びせられクラーラ・ヴァルタリは脚をよろめかせた。



 怒りに顔を振り上げたベルセキアの血筋をいた女テロリストは一気に絶対死領域を広げた。



 門の歩道側を余裕で呑み込む生命力(マナ)を奪うエリアにマリア・ガーランドともう1人の兵が呑み込まれた。



 流れ込んでくるマナにクラーラは2人が倒れると思った。だが2人はふらつくどころかバトル・ライフルとPDWの銃弾(ブレット)を浴びせ続けた。



 理解できない状況に何が起きているとクラーラは顔をゆがめた。



 元々、絶対死領域と自分で思いこんでいる能力が及ぼす状態を正確に把握してなかった。



 マナは流れ込んでくる!?



 クラーラ・ヴァルタリはふとマリア・ガーランドの能力なのかと奥歯をギリギリ言わせた。あり得た。ヴェロニカ・ダーシーの記憶でマリア・ガーランドは死者を蘇らせる能力持ちなのだとわかっていた。あの双子の女社長は何かの能力で奪うマナに細工している!



 ミサイルの爆煙が流され通りの左右からまた対戦車ミサイルでねらわれると危虞きぐしたクラーラ・ヴァルタリは路駐車の残骸に跳び乗りその間近い家の2階屋根にジャンプした。



 民家に誤爆するのを避けるという女テロリストの読みは当たっていた。



 屋根に着地したクラーラはそこから道に面してない奥の高い建物にさらに跳び上がった。



 安心しきったクラーラ・ヴァルタリは背後から迫ってくるその威圧感に3階建ての屋上で後ろを半身振り向いた。





 最初に跳び乗った2階建ての屋根にプラチナブロンドの女がおりさらに跳躍ちょうやくしようと姿勢を下げていた。





 なぜそんな筋力を持ち合わせていると、クラーラ・ヴァルタリは顔をゆがめ前へ振り直りしゃがみ込んで凄まじい勢いでバネを解放した。



 3階建ての屋上を大きく陥没させて少女(もど)きの女テロリストは一気に150ヤードに跳び上がり西へ400ヤード数秒でジャンプした。



 着地した集合テナントの大きな建物の屋根のスレートと天井ボードを踏み抜き衣料店の衣装棚をくずしカーペット敷きの床に落ちた。



 天井を見上げマリア・ガーランドが跳んで来るのを身構えたクラーラは数秒経っても屋根を突き破って来ない敵に今一度しゃがみ込んで跳び上がり天井ボードとスレート屋根を突き破って200ヤードの上空に達した。











 跳び逃れたベルセキアを3階建ての建物の陥没した屋上の上から視線で追ったマリア・ガーランドの身体借りるベスは跳躍ちょうやく力で追うにはマリア・ガーランドの身体を大きく改変させなくてはならないとあきらめ33番ストリートの西隣りの通りへ跳び下りた。



────あるじ様よ。跳躍ちょうやくでの追跡は諦める。この街に詳しいのはあるじ様だ頼む。



 わかったベス。任せなさい!



 マリア・ガーランドは街の騒ぎに通りに出てきている住人の多くを眼にしたが、すぐに一点で視線を止めた。



 その民家の生け垣前の車道に駐車された赤白ツインカラーのドゥカティ1098Sへ駆け寄り跨がると街灯柱につながれたチェインを視線1つで焼き切り、キー・アッセンブリを改変させてセルスイッチを押し込んでエンジンを始動して気づいた。







 1度も大型モーターサイクルどころか小型スクーターにすら乗った経験がないことを思いだし困惑した。












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