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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #23
114/164

Part 23-4 Queen of Explosions 爆殺の女王

Nestar planet, 80 light years away from Earth/

1 Cavalry Regiment Camp 6th Squadron 1st Armored Division Ⅲ Corps Army Commands US.Army Company Training Ground East of Fort Bliss, July 14 01:47

地球から80光年先のネスター系惑星/

7月14日01:47テキサス州フォート・ブリス東方アメリカ陸軍 陸軍コマンド第3軍団第1機甲師団第6戦隊第1騎兵連隊野営地





 広がるものの不快感にマリア・ガーランドは周囲を取り囲む物質の異質性を知覚した。見えている膨大な変数はこれまで見てきたものとまったく違う反転した値を示している。



 テキサスに限界していた怪物らの通り道にしていた残穢ざんえ辿たどり来た場所。



 これが怪物らの住む世界なのかとマリーは周囲を見回した。



 ルナの膨大な知識の片隅にある虚重力ともいうべき真空重力の入れ子の星。



 ダークエネルギーに満たされた混沌としたその世界に足を踏み入れた直後、マリア・ガーランドの周囲に幾つもの隆起が立ち上がるとそれが手足や頭部を造形し始めた。



 凄まじい勢いで6体の黒色の怪物になったものらに取り囲まれた。その刹那せつな、マリーは両手にエメラルドグリーンにかがやく2条のむちを振り下ろした。



 さそりのような頭部と両腕にはさみ持つモンスターが踏みだしてきた瞬間、マリア・ガーランドは腕を振るって2体の怪物らの胴を切り裂いた。



 残り4体が一斉に襲いかかろうとした寸秒、凍りついたように怪物らの動きが止まった。



 フェイントかと怪物らの出方にマリーは神経を張り詰めた。その寸秒、まるで道を開くように怪物らが一方に広がった。



「こちらへどうぞ────か」



 そうマリーは言い捨て怪物らが広がった方へ歩き始めた。



 威力偵察をするぐらいだ。知性があると踏んでいたが、明確な意志を感じた。



 吸い込まれるような闇に向かい足下の感触一つで歩いてゆく。



 何かが────闇に潜む何かをマリーは感じた。







 『お前は人類の代表格か?』







 マリーは足を止め闇を見つめた。代表や代理でなく代表格(・・・)と不確かに聞いてきた。



「何ものなの?」



『我が名はレイジョ(レギオン)



 レイジョ? ラテン語だわ。聖書に出てくる魔物──レギオンだとマリーはルナの知識に見いだした。大勢いるということか。



 膨大な変数の値からマリーは前方の空間に極めて薄い膜があるのを知った。薄いが恐ろしいほど強固な膜に隔てられていた。



「出てくる度胸もないの?」



『勇猛果敢さは関係ない』



 反応は早かった。



「じゃあ、姿を見せたらどうよ」





────恐れおののくがいい。





 闇の明度がゆっくりと変化し前方の空間に球体状の物質が姿現した。



 極めて薄い何かの力場に護られている。



 大きさは比較するものがなく数ヤードとも数百ヤードとも定かではなかった。艶のない表面をオーロラのような紫紺の模様がたえず流れ動いている以外に動きはなかった。



 恐怖は感じてないのに臓腑が締めつけられた。



「聞きなさいレイジョ(レギオン)。お前は地球を選び人類に危害を加えた。狙いは何なの? 侵略?」



────相対する領域のエントロピーを抑えている原住民(アルケティトス)というものらを消すためだ。



 エントロピーを抑えている? 事実誤認だわ。人は社会を構成しエントロピー増大に逆らうように見えて社会構造はエントロピーを加速し増大させている。



「ここはネスター系の星。お前は暗黒物質の申し子なの?」



────暗黒物質──お前ら原住民(アルケティトス)はそう名づけているらしいが、われにとってはお前らこそ希少な暗黒物質だ。



 そうか。確信犯なのだ。



 こいつらは人類を抹消するために存在している。



「共生はないのかしら。お互いに共存してゆく道があるはずよ」



 そう本心でもないことを持ちかけてみた。



────熱核攻撃を仕掛けるつもりだろう。



 マリーは心臓が跳ね上がり言葉濁しごまかした。



「熱核攻撃? 核爆弾のこと? それこそあなたの認識不足だわ」





────コアの最終外殻(がいかく)まで到達しながら攻撃しないつもりなのか?




 そのつもりで来たのだと言えるわけがなかった。



「そんなつもりなら、とっくに始めていると思わない?」



────何のために犠牲を払ってここまで来た原住民(アルケティトス)よ?


「提案しに来たの──」



────提案だと? 原住民(アルケティトス)根絶ねだやしにするレイジョ(レギオン)に提案だと?


「そうね敵かもね。だけどこうは思わない?」



────何だ原住民(アルケティトス)よ。



「あなた達はどうして我々を敵視するの?」





────それは定めだ。





「定め? その根底にある理由をあなた達は知っているのかしら?」



────定めは摂理。我々の生きてゆく宿命。



「そうね。やっぱり知らずに信じ切っている」



────知らぬことはない。我々はこの世界の大部分を蝕む存在を駆逐するのが使命。



 マリーは上手く話しに載せたと眼を細めた。



「誰かに──擦り込まれている」



────そんなことはありえぬ。



「あなた達を我々に仕向けた存在を暴き出し共に倒さない?」



────仕向けた!? 根底原理は聖域であり────。



「それは構わない。だけれどあなた達が操られている事実は変えようがなく、そんな理不尽を私たちは見過ごしたくないのよ」







────原住民(アルケティトス)よ、どうして我々の立場で憤りを感じることができる? 貴様は原住民(アルケティトス)でありレイジョ(レギオン)ではないのだ。







「そこが人類の面白いところなのよ。相手の立場になり思考を重ねるの」



────利益は得られぬかもしれぬ。



「共生共存なら我々もあなた達レイジョ(レギオン)と変わらないわ。共に生きていくというのが双方にとって利益なのよ」



────共有思考した。我々の総意は原住民(アルケティトス)と共に摂理を植え込んだ何ものかを探し出し、その繋がりを断ち切ることだ。



 それが上辺だけの言葉だとどうして気がついていたのだろう。







 ラピスラズリの半眼でこの化け物の本意すべてを見抜いてマリア・ガーランドは自分を狙い周りに静かに詰め寄っていた黒いいばらを鼻で笑った。







 共存は有り得ないということだ。



 それならこのコアを護る極めて薄い力場ごとコアを撃ち破る必要があった。



 人間を相手にして本気で怒らせたのだ。



 どんなに立ちはだかる事象も乗り越え蹂躙じゅうりんする種族を本気で怒らせたのだ。



 素のものを生みだす自信のなかったマリア・ガーランドは次元の深部に隠し持ってきた小型原子炉の燃料棒内の高濃縮ウラン235すべてに凄まじい量の中性子を一気に打ち込み急激な核分裂反応を励起させ寸秒でTNT4千キロトン分のエネルギーを生みだした。それを一瞬よりも極めて短い数億分の1秒にすり鉢状に押し込みその前に巨大な700フィート厚のタンタル金属ライナーを現出させその中心に向け一気に核爆発を解放した。



 寸秒、ユゴニオ弾性限界を遥かに越えたタンタル金属ライナーがプラズマ化した高エネルギーのスピアを投げつけるようにレイジョ(レギオン)のコアへぶつけた。



 全身がバラバラになるほど揺すぶられ意識が飛びかかった。



 直前で空間がひずレイジョ(レギオン)が密かに展開していた防御フィールドが荒れ狂うプラズマを1点で受け怪物らの世界がゆがみ一気に崩壊しプラズマのやりは巨大なコアの中央に燃え盛る穿孔を開くと裏へとそれ(・・)を引きり損耗させ粉々に砕いてしまった。



 人類が生み出した中で最大級の成形炸薬弾。



 意識が確かに戻り耳をつんざいた爆轟の残響が減衰してゆく中でマリア・ガーランドは自然が敵意を抱いた意味を感じていた。



 存在自体がエントロピーに反する種族の1人を本気で怒らせたのだ。



「覚悟しろ────人は本気だぞ」



 眉根寄せラピスラズリのあおい瞳を細め眼の前で膨大な連鎖する火花の広がりを見つめマリア・ガーランドはつぶやいた。











 雷光放つ光球が荒れ地(デザート)に現れ霧散すると土に両膝りょうひざを落とし手をついてこうべ垂れる上空で幾つもの火焔かえんかたまりが地上に向け降り落ちていた。



「ヴィクトリア!」



 マリア・ガーランドが叫び顔振り上げ見つめる夜空に青い閃光が6条乱れ弧を描きき伸びていた。



 ヴィクトリア・ウエンズディはまだ空で怪物らと闘っている!



 そんな! 怪物らの母星の中枢はすでに打ち砕いたのに!?


 何がおかしいのか、どこで算段が狂ったのかと女指揮官は激しく動揺した。



 奴らはレイジョ(レギオン)と名乗っていた。



 レギオンとは!?


 多数でありながら1つ。1つでありながら多数。



 残った怪物らに中枢の意志が残っているというのか。ただの末端器官に意志が宿っている!?


 なら全個撃破まで続くのか?


 ヴィクトリアがもたない。堪えきれない!



 見上げる星空に目まぐるしく変化する膨大な変数の値を重ね合わせ意味を見いだそうとマリア・ガーランドは意識を集中した。



 怪物らの飛翔体が91あった。



 その倍はあったであろうアグレッサーをビクは自身とドローン5機で破壊していた。



 にらみ上げる暗空に96の怪物らがランダムに動いてるとマリーは思った。



 9973進数の尽きることない無限桁変数が歌い上げる恐ろしい繋がりが朧気おぼろげに一瞬感じられた。6機のNDC製制空戦闘機を追い込もうと16の6グループの怪物らが同じ法則に乗っ取って航空機動(マニューバ)をしていた。



 1機ずつをつぶしてる余裕はない。



 どうする!? どうするの!?


 乱舞する96体の座標が不定期に近似値を取ることに気づいたマリア・ガーランドはその不等間隔にリズムを見いだそうとした。







 怪物の飛翔体が集約化するタイミングがある!







 高速(ファースト・)詠唱(チャンティング)すら間に合わぬ一瞬。



 96体がギリギリ集合してゆくのをシステム(・・・・)が教えていた。



 3機のシルフィ型無人機(UAV)が近空にいたが付随的損(CD)害として切り捨てつぶやいた。





"frábær þyngdarafl halla────"

(:超重力傾斜)





 凄まじい爆縮だった。視野が大きくひずみ天空が捻れ渦巻く。96体の怪物と3機の無人戦闘機どころか雲海までが残像を引き伸ばし数ピコ秒で極小の1点に丸呑みした。



 ヴィクトリア・ウエンズディ乗る精霊戦闘機シルフィが機体を激しく揺すり爆炎を出しながら重力傾斜に抗っているのが見えマリア・ガーランドはあわてて膨大な変数に干渉し重力傾斜を打ち消した。



 見上げる星空にビッキー乗る制空戦闘機と2機のUAVが消失した敵を求め旋回していた。



 力が抜けマリーはひざを地面に落とし愕然がくぜんと夜空を見上げていた。



 近づくかすかな足音が聞こえていた。





「チーフ────」





 聞き覚えある声だったが返せなかった。



「大丈夫ですかチーフ?」



 心配して声かけてくれているのはレイカ・アズマだった。



「終わった──わ」



 やっとできた返事とともにまぶたから涙溢あふれだした。



 多くの兵士らが命落とした。初動を誤らなければ死なずにすんだ命だった。



「怪物らがまた現れるかもしれません。警戒しましょう」



 そう言いながらスナイパーが周囲を見回しているのがわかってマリーは教えた。



「来ないわ──母星を叩いたから」



「母星を!? どうやって?」





 マリア・ガーランドは忍び笑いをもらした。





「システムの手段は関係ないわ。殲滅できたことが重要なのよ」



 わずかにをおいてレイカが問うた。



「チーフ、上空の敵も、怪物の母星も貴女あなた1人で────」



「口外を禁じます」



 そう────この力を軍や国に知られてはならなかった。



 自分のこの特殊な能力は諸刃もろはの剣なのだ。



 肩にかけられた手に女指揮官はハッとなった。





「お疲れ様です。私はマリア──貴女あなたの忠実な部下です。命に代えても沈黙します」





 それを聞いてマリーは立ち上がりニヤケながらうつむいた。その口元を見られレイカにたずねられた。



「何がおかしいんですか?」



「終わってないわ」



「えっ?」





「ニューヨークにベルセキアが現れたわ。異空通路ことわりのみちで一気にセキュリティをNYに戻します」





「承知」



 あくまでもレイカは冷徹なのだとマリーは信頼値を嵩上かさあげし再評価した。



「他のスナイパーは?」



「周囲100ヤードに展開警備に当たっています」



「呼び集めろ」



 そう命じた直後、マリーは意識の一部で着ている粗末な麻布のケープをNDC製縮体戦闘服に一瞬で切り替えた。



 数十秒で3名が集まってくるとマリーは異空通路ことわりのみちを陸軍野営地へ向け開いた。



 野営地指令天幕前の広場に最後にマリーが出てくると異空通路ことわりのみち出口にルナが待ち構えていた。



「チーフご無事で」



「ルナ、セキュリティをここへ緊急収集」



 ヘッドギアのAIにルナが命じ終わると副官がマリーに問うた。



「怪物らがここへ攻めてくるのですか!?」



「いや、もうこの地に暗黒物質の怪物はいない。それよりもNYにベルセキアが現れた。全員で対応する」



 ベスの名に驚かない副官にマリーは問いただした。



「ベルセキアが現れた報告を受けていたのか────誰を回した?」



「シルフィー、ポーラ、クリス、それに異世界の貴女あなたの4名です。それより、マリア──怪物らが暗黒物質(ダークマター)とはどういうことなんですか?」



 今、詳細を説明している時間が惜しいとマリーは思った。



「怪物らのネスター系の母星にあったコアを滅ぼした。もうテキサスに怪物らは現れない」



 ルナが上げたフェイスガード下で眼を丸くしてあごを落とした。



「ネスター系────入れ子のグラバスター!?」



 お前が気にするのはそこかとマリーは唇をゆがませ鼻筋にしわを刻んだ。



 指令天幕前の広場に次々と戻ってくるセキュリティのメンバーを見ながらマリーはルナに命じた。



「陸軍の戦場前線(FOE)近くにアンとレギーナを取り残してきた。ハミングバードで回収してやれ」



 ルナがうなづいてパイロットに無線で指示を与える間にマリーは片腕を振りだし異空通路ことわりのみちを広場に開いた。無線で指示を出し終わるとルナはセキュリティの人員のチェックを手早く済ませみなに命じた。



「全員撤収! NYに戻ります! 今夜はこれで終わりではありません。NYにベルセキアが出現しました。帰投後弾薬補充し対処に当たります!」



 ベスと聞いてみなの表情が一変した。去年末の苦戦したことをみなが思いだしたのだ。



 次々に異空通路ことわりのみちへ入ってゆくセキュリティ達の背姿を見つめながらマリア・ガーランドは胸に内包するコアへ無言で語りかけた。







 ベス──あなたのまがいものを追い立てるのに手を貸してもらうわ。







────ああ、わかっているあるじ様よ。狩りを始めようじゃないか!












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