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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #22
109/164

Part 22-4 The chased beast 追われる獣

5Ave. - E 23St. Madison Square, July 14 01:23/

RCC PASSION A French-registered car carrier in the Atlantic Ocean, 11.9 nautical miles from the New York coast.July 14 01:23

7月14日01:23 5番アヴェニュー・イースト23番ストリート マディソン・スクウェア・パーク/

同日時 NY沿岸から11.9海里の大西洋フランス船籍の自動車輸送船RCCパッション



 マディソン・スクウェア・パーク南西のブロック角にあるフラットアイアン・パブリック・プラザ広場に異空通路ことわりのみちから出てきたシルフィーら4人に驚いてホームレスの男が空き缶を多量に積んだ買い物カートを押してあわてて逃げだした。



「Mスクウェア・パークかぁ────」



 そばの公園を見つめFN SCARーHを胸に抱いたポーラ・ケースがぼやくようにつぶやいた。



「どうするんですか?」



 クリスチーナ・ロスネス──クリスがシルフィー・リッツアにたずねた。



「二手に分かれたいところだが、ベルセキアからいいように襲われるのがオチだ。4人で捜索する。行くぞ」



 そう告げてハイエルフはFN SCARーHを肩付けし構えプラザと公園を隔てる道路の横断歩道を渡ったのでポーラとクリス、異界のマリア・ガーランドもレーザー・ライフルを片腕で構え横断歩道を歩き公園に入った。



 6.5エーカー ──2万6千平方メートルあまりのこの公園は古く1968年から市民に利用されている。木立が整然と植樹されたこの公園利用時間は朝6時から深夜0時までだったが柵はなく自由に出入りできた。



 しげった木々の根元は暗く幹に身を潜められると発見が遅れよういに襲いかかってくることができる。ポーラとクリス、シルフィーの三人は暗視装備(ノクトビジヴィジョン)の機能のあるヘッドギアを被っており近赤外線で幹に潜む人陰を早く見つけることができた。



「なぜこんな場所に逃げ込んだんですか?」



 クリスに小声で問われシルフィーが教えた。



「都会だから誰でも眼につくビルに潜みたがる。だがベルセキアはあざとい。裏を取って公園に隠れた。公園外周を通る人を襲うためかもしれない」



 ニューヨークには比較的大きい公園がいくつかある。セントラルパークにでも隠れられたら見つけるのは困難だとシルフィーは困惑した。



 木々はわずかに熱を帯び幹が黒に近い暗い灰色に見えるそれが折り重なると幹からはみ出る人のハレーションが見えづらくなる。シルフィーは科学技術も買うがハイエルフとしての気配感じる直感を信じた。



 公園の回り込む遊歩道を4人で警戒しながら一周した。



「いませんね」



 そうクリスが誰にともなく同意を求めた。



「シルフィー、気配を感じないか?」



 そうポーラ・ケースがハイエルフにたずねた。シルフィーはヘッドギアのフェイスガードを上げゆっくりと周囲を見まわした応えた。



「どうやら来たのが遅すぎたみたいだ」



「ベルセキアならかなりの跳躍ちょうやく力があるから移動距離のスパンもかなり長くなるだろう」



 そう異界のマリーがさとすとシルフィーが説明した。



なら(・・)──か。正直言ってあれがベルセキアとは認めづらい。姉が造りしものならもっと強く気配を感じるが、今夜戦っているのは去年のそれ(・・)より遥かに弱いんだ」



 シルフィー・リッツアは東の方へ振り向いて耳をすますようにじっと通り向こうのビル群を見つめた。



「東へ遠ざかっている。たぶん1マイル以上だ」



「それってイースト川じゃないの? ここからだとロングアイランドシティとか──」



 クリスがそう説明した。



あれ(・・)は一時的にNDC本社から遠ざかったに過ぎないのでは?」



 ポーラがそう言いシルフィーが続けた。



「そうか──目的があって本社ビルに現れたんだ。ヴェロニカを喰らったように────パトリシアを狙ったのかもしれない。あれ(・・)は他人の特殊能力に貪欲だ。ヴェロニカは単に補給のために襲われたんだろうが、パトリシアやマリー──君を狙い喰えなかったので撤退したんだ」



 そう言われマリア・ガーランドがうつむいた。



「私の何をほっしたんだろう?」



 シルフィーがそれに応えた。



「君の魔法能力とか、パトリシアのテレパスとしての資質」



「それじゃあ追い回さなくてもまた本社に現れるんでしょ」



 クリスがそう結びつけるとシルフィーがうなった。



「放置すれば市民が次々に犠牲になるだろう。そうすれば我々のマリア・ガーランドがたけり狂う」



「追うしかないな」



 そうポーラ・ケースが結論づけた。



 寸秒、シルフィー・リッツアが詠唱(チャンティング)し公園の遊歩道に異空通路ことわりのみちの入り口が開いた。4人はそこから一気にイースト川を越えクイーンズ西の商業区に現界した。











 着陸灯をつけたユーロコプターEC175がヘリポートに着地するとドロシア・ヘヴィサイドは髪を片手で押さえ駆け寄って自分でキャビン・スライドドアを引き開いた。



「ご苦労!」



 乗り込むなり振り向いているパイロットに告げドロシアはスライドドアを閉じ着席した。



「ニューヨーク市へ。無線を使わせてもらうニューヨーク支社につなげ」



 そう命じてドロシアはパイロットからヘッドセットを受け取り頭に掛けてヘリコプターが離隻すると自動車運搬船パッションを窓から見下ろした。



『ニューヨーク支社です』



 夜勤オペレーターだと用をえないとドロシアは思った。



「Dヘヴィサイドだ」



社長(COO)、ご無事で』



「支社長のコンラッド・ダンフォードのモバイル・フォンにつなげ」



『少々お待ち下さい』



 そう告げられ15秒ほど待たされ支社長がでた。



『Cダンフォードです。弊社の貨物船が沈んだそうで』



「その件は捨て置け。沈めた連中をつるし上げる。手練てだれの兵を20名用意せよ」



『その数ですと昼過ぎになります』



 それじゃあ核爆発で無駄足になるとドロシアは思った。腐っても武器商人だぞ。



「ならぬ! 上限つけぬ投資だ。8時までに用意せよ」



御意ぎょい社長(COO)



 戦術核爆弾は余興。武器商人を舐めきった後悔を心底味わわせてやるそうドロシアは思いつめた。



An eye for an eye, a tooth for a tooth────.

(:目には目を歯には歯を──)


 陣頭指揮をとってNDC本社に乗り込みあの女社長と社員どもを血祭に上げてやる。



 ふとドロシア・ヘヴィサイドは抜きんでた素質もつ傭兵ようへいのマカール・エフィモヴィチ・クライネフを思いだした。スペツナズの少佐(Maj)をしていた男で何度か雇った抜きん出た傭兵ようへいだ。高額な雇用費用が必要だが潜入作戦から紛争戦までこなす。



「コンラッド、いいかマカール・エフィモヴィチ・クライネフへ連絡し向こうの言い値で雇い入れろ。対NDC戦で右腕として私が使う。それと対局地戦闘に必要な車輌とヘリ4機。全員分の装備、私の装備も用意しておけ。以上だ」



御意ぎょい



 ドロシアは頭からヘッドセットを外すとパイロットに返したずねた。



「マンハッタンまでどれくらいかかる?」



「15分ほどです」



「とばせ! その半分でPFLニューヨーク支社に着けろ。時間が惜しい──」



 パイロットが機速を上げキャビンの騒音が充満した。それから8分で自分の会社であるパシフィック・フィレーナ・ロジスティクス社NYビルのヘリポートへ下りるとNY支社長のコンラッド・ダンフォードが出迎えた。



 支社長を引き連れヘリから離れるとドロシアはコンラッドに命じた。



「NDC本社ビルの建築図面を用意しろ。それと220ポンドのC4、時限式起爆装置を5セット」



「かしこまりました、お嬢様。傭兵ようへい20名は朝、6時に集合。マカール・クライネフは7時にNAリバティ国際空港に我が社の自家用ジェットで到着。そこからPFL支社までヘリで移動する予定です」



 8時までに作戦開始できそうだとドロシアは片唇を吊り上げた。襲撃は30分で決行し迅速にNYから逃れる。仕上げは戦術核爆発だ。それからドロシアは支社長とエレベーターに乗り込んで箱が下りる際に寒気を感じた。漂流した際に風邪でもひいたかと思ったがスナイパーから照準されているような違和感だった。



 エレベーター内でそれは有り得ない。



 もしかしてNDC民間軍事企(PMC)業がこのビルにと考えてドロシアはそれを否定した。



 あいつらは自分を追い詰めていたがPFL社には一度も関わっていなかった。



 ただの風邪だとドロシアは戦闘前に完全な体調でないことを腹立たしく思った。



 支店長室に行くなりドロシアは支店長のデスクに陣取りPCを操作し始めた。



 NDC襲撃時に陽動でマンハッタンの五カ所に爆発物を仕込み市警とFBIの眼を引きつけるつもりだった。



 グーグル・マップでビルの俯瞰写真を見るとヘリ四機が同時に下ろせそうな大きなヘリポートが眼についた。



 なら最上階と一階から同時に襲撃し社員の退路を断ってやると舌なめずりした。寸秒、ドロシア・ヘヴィサイドはまた寒気を感じたが、パトリシア・クレウーザに思考を読まれているとは想像すらできなかった。





 新進気鋭の女武器商人はNDCをあなどっていた。











 パトリシア・クレウーザ運転するレンジローバーにセキュリティ第2中隊の四人が乗り込んでいた。



 その四人の兵士らにパティはマディソン・スクウェア・パークに向かいながら概要を説明した。



「あなた方はわたしと配属時に眼を通した資料ですでに知っているベルセキアを追います。ですが攻撃はシルフィーらがやります。あなた方は逃げ回るベルセキアを索敵さくてきすることを優先します。大まかな居所は────」



 そこまで話してパティは言葉を切った。



「どうしましたパトリシア?」



 四人のセキュリティ・リーダーのベネディクト・オールドフィールドが少女にたずねた。



「武器商人ドロシア・ヘヴィサイドが朝8時に二十名余りでNDC本社ビルを襲撃するわ」



 パトリシアはエレナ・ケイツ──レノチカに意識をつないだ。



────どうしたのパティ?



 レノチカ、大変よ。朝8時に武器商人ドロシア・ヘヴィサイドが本社ビルを襲撃するわ。襲撃勢力22名。ドロシア自身がのりだして指揮するつもり。目的は社員多数の抹殺とマリーの暗殺にあるわ。



────わかった。手を打ちます。社員全員を自宅待機させ夜勤組は可能な限り早朝に退社させます。



 お願い。敵は手練れの傭兵ようへいだから市警やFBIの特殊部隊を手配させて。



 そこまで伝えてパトリシアはレノチカの意識から離れた。



 なんとか朝までにベルセキア対処を終わらせて襲撃に備えなくてはならない。こんな時にとパトリシアは苛立った。



「レノチカに本社ビル襲撃の件は頼んだわ」



 そうベネディクトにパティが告げると彼が言いにくそうにたずねた。



「パトリシア、こんなことを言い出すのは間違いかもしれないがベルセキアという怪物を追うより本社ビルで襲撃に備えたほうが正しくはないか?」



 パティがかぶり振った。



「いいえ、ベルセキアを放置したら犠牲者は本社ビル襲撃よりも多くなるのよ。あっ!?」



 何におどろいたのだとセキュリティ・リーダーは問うた。



「どうしたんだパトリシア?」



「シルフィー達がクイーンズに移動したの」



 そう告げパティはSUVをマディソン・スクウェア・パークの北側を抜けさせクイーンズ・ミッドタウン・トンネルへと向かうために左へとハンドルを切った。



「パトリシア、シルフィー達はどうやってベルセキアを追いかけているんだ?」



「移動手段? 索敵方法?」



「索敵の方だ」



「たぶんシルフィーのかんたよっていると思う」



「パトリシア、君はベルセキアの意識を読んで追ってるのか?」



「そう。クラーラ・ヴァルタリという意識を追い続けているわ」



 パトリシアがそう言うとベネディクトがパティに提案した。



「それならシルフィー・リッツアらよりも先回りできるんじゃないのか?」



 その案にパトリシアが眉間寄せた。



「人としての意識がすごく弱いから────たぶんベルセキアとの融合で弱くなったんだと思うけれど追いかけ辛いのよ」



「逃げてるならまっすぐに遠ざかるだろう。事実マディソン・スクウェア・パークからクイーンズへ飛んだのなら次はロング・アイランド島のグレート・ネックかガーデンシティ辺りに行くんじゃないか?」



「先回りね。行きましょう」



 そう言い切りパトリシア・クレウーザはアクセルをさらに踏み込んだ。











「くそう逃げた場所を誤ったか────」



 そう告げ女テロリストのクラーラ・ヴァルタリはサブウェイの操車場の線路に立ち人気がないことに落胆した。



 にえを求め東へと跳び続けているが深夜でもありまったく人を見かけなかった。



 走ってる車を襲えば、事故になりすぐに警官がやってくる。ゆっくりと人を喰らっている余裕もないだろう。住宅を襲えば騒ぎになりまたすぐに警官が駆けつける。



 襲うのは通行人が一番だったが、肝心の歩行者がまったく見られなかった。



 跳躍ちょうやくとNDCビルで暴れたせいで体力がかなり落ちていた。



 クラーラは複数並んだ線路(きわ)を歩きながら鉄道関係者を襲ってやろうと思いながら辺りを見回すが人の気配はなかった。仕方なくクラーラは900メートルほどを跳躍ちょうやくし商業ビルの間に飛び下りた。



 路駐する車ばかりで人は見うけられなかった。



 仕方なくもう600メートルほど跳躍ちょうやくするとやっと商業地区を抜け出し民家並ぶ道路に降り立った。



 飢えはつのりもう我慢の現界だった。



 警官など気にしている余裕もなかった。



 クラーラ・ヴァルタリは柵を乗り越えると煉瓦れんが調の二階建て長屋が続く一番端の二階玄関口へ上りドアノブをつかむと力任せにドアノブを引き千切った。



 肉を喰らい血をすすりたかった。



 ノブを壊しても開かぬ扉にクラーラは頭にきて玄関扉を蹴り破った。







 部屋に入った刹那せつな、クラーラ・ヴァルタリはいきなり奥の部屋から出てきた家人の男にショットガンで胸を撃たれ玄関先の階段から転げ落ちた。












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