Part 22-3 Power Reconnaissance 威力偵察
1 Cavalry Regiment Camp 6th Squadron 1st Armored Division Ⅲ Corps Army Commands US.Army Company Training Ground East of Fort Bliss, July 14 01:18
7月14日01:18テキサス州フォート・ブリス東方アメリカ陸軍 陸軍コマンド第3軍団第1機甲師団第6戦隊第1騎兵連隊野営地
18体の怪物らに取り囲まれマリア・ガーランドは反射的に人型戦闘装甲に握らせたバトル・ライフルを連射で銃口を振り回した。1体いったいを狙い撃つ余裕などなかった。
取り囲まれただけでなく同時に押し寄せたのだ。
その威圧感にマリア・ガーランドは魔法呪文詠唱なしでいきなり水蒸気爆発を引き起こした。
直径100ヤードに渡り土砂が吹き上げ岩石が流星群のように降り注いだ。
マリーは人型戦闘装甲の背を丸め瀑布のように降り注ぐ岩に堪えた。その外を精霊シルフィードの加護のスクリーンが覆い守った。
18体で襲いかかった化け物どもは無防備だった。
雨のように打ちつける岩石弾に抉られ腕を折られ頭を砕かれコアを粉砕され砂の塊が崩れるように一斉に瓦解してゆく。
マリーが人型戦闘装甲を立ち上がらさせた時には1体も怪物は残存してなかった。
6体を倒し18体を粉砕したなら次は数十か数百か!?
きりがなかった。
いずれ物量の飽和攻撃で押し切られる。
マリーは半数以上が撃破された陸軍装甲部隊から離れ衛星画像で確認できる怪物らの現界地へとむかった。
これまで怪物らが異界から現れる場所は少しずつ陸軍野営地へと肉迫していた。ならなぜ一気に陸軍野営地のど真ん中に現界しない!? とマリア・ガーランドは困惑した。
理由を探るには怪物らが地上に現れる場所に行く他に方法はなかった。見たからと何かわかるものでもないだろうが机上の空論より確実性はある。
汗が項を流れてゆく。人型戦闘装甲の内部空調は機能しているが、激しく動いたので汗が止まらなかった。
歩きながら全周囲モニタのマルチウインドで弾薬の残りを確認する。
化け物らの襲来数が30前後でも十分に渡り合える量弾薬は残っていた。プラズマ・ナイフの能力が高く弾薬切れを心配せずに使えるのもいい。
だが精神的にファイティングはあと数回──3、4回が限度と感じた。急場を凌ぐのに魔法に傾倒するようになっていた。
今まで使ったことのある最大級の爆撃魔法の破壊力は8マイル四方を根こそぎ破壊できた。原住民の居住区から離れているとはいえ、残兵がいるかもしれないし、レイカらスナイパーたちもいるので迂闊にそんな最大級の魔法を使うまでに追い詰められたら終わりだ。
マイクロ・ブラックホールも多用すれば自然にどんな影響を落とすかわからなかった。
怪物らは水蒸気爆発もいずれかいくぐる秘策を身につけてくるのが予想された。
有利なものが一つひとつ潰されきる前に怪物らの利用している異空間通路を遮断もしくは敵の本拠地に乗り込んで親元を潰さないといけない。
「スプレマシー・マリアというのなら手を貸しなさいよあんた達!」
全周囲モニタの頭上を睨みあげマリーは天にそう言い放った。
600ヤード東へ駆けて前方の丘陵地の手前に幾つもの雷光を放つ球体を眼にしてマリア・ガーランドは立ち止まりバトル・ライフルを肩付けし、その内の一つを狙い撃ってみた。
その光球は狙撃点から球体の頂底部へ向け異常な放電を見せその球体は消え失せた。
数は60近くあるが現界しきる前に半数近くを狙撃できるとマリーは次々に光球を狙い撃ち始めた。
潰した光球の怪物は死ぬのだろうか。それとも異次元に戻って仕切り直ししてくるだけなのだろうか。まるで土竜叩きのように際限なく潰していると思った寸秒、一方的な攻撃が終わった。
光球が薄れた瞬間、怪物らは四散した。
狙撃されていたと自覚があったのだ。
20数体のうち7体が跳躍しマリア・ガーランド乗る人型戦闘装甲を取り囲んだ。
なぜ全数を回してこない!? と困惑する間もなく手首から先を延長した黒い長剣で斬り込んでくる怪物を躱しマリーはプラズマ・ナイフで敵の腕や首を斬り、峰打ちに切っ先を打ち込んだ。
こいつらは変幻自在の癖に防御に薄く容易く崩し倒せた。
プレートキャリア程度で防備した生身の人ではなかなか倒せないと思うが、剣や斧振り回せば怪物らは容易く倒される。そのくせ執拗に機甲部隊や野営地を襲ってくる。
狙いは人だろうが、攻める優先度を理解していた。
少なくとも昆虫以上の知力はある。
知力があれば徒党を組む以上により大きな群衆を持っているかもしれなかった。襲ってくるのが軍隊蟻だとして数千いや万単位の構成をしている可能性があった。
こんな連中が大都市に行けば膨大な被害がでると昨年ニューヨークでベルセキアが暴れたことを思いだした。
離れた場所にいる怪物を倒そうとバトル・ライフルを振り上げた刹那、膨大な空気の唸りをスピーカー越しに感じたマリーの際を強速が一瞬ですり抜けマリーが狙おうとした怪物が爆煙になった直後爆轟が追い抜いた。
レイカらの方角とは違う野営地の北側からの一撃だった。
アン・プリストリか!
ルナの言っていた超電磁砲とかいうやつだ。
高々、移動式の装甲車にどうやって電力を供給しているのだと一瞬考え人型戦闘装甲の動力を思いだした。
原子炉をそれも小型じゃない。そんなものを一線に持ち込むなど言語同断だった。メトルダウンでも起こせばどうするのだ!?
説教の必要性を感じ何か思いついたことにマリーは固まり残りの3体を射撃し撃ち倒した。
60を倒し息を整えながら残弾に顔を強ばらせた。
今の半数ほどしか捌けない。
光球の群を早めに見つけ魔法で爆殺するしかなかった。
シルフィー・リッツアの話だと魔法供給には魔力が必要でそれが涸渇すると魔法を打てなくなる。だがシルフィーとの訓練で1度も涸渇する兆しがなかったのでどれだけやれるかマリーにはわからなかった。エネルギー供給は無尽蔵ではないはずだった。
だが何度打っても力弱まる気配もない。
使うだけ使ってみるか。
無詠唱でも詠唱しても精度は変わらない。
迷っている寸秒、100ヤードと離れていない場所に怪物らの現界する光球の群が出現した。
群だという数ではなかった。どう見ても100──いや200近く。それでもマリア・ガーランドが放ったエクスプロージョンは限定的で覚悟の上だった。
その光球群は一瞬で巨大な火焔に飲み込まれ蹂躙されると粉微塵になって蒸気に変わった。
6体が200────冗談じゃない。
この勢いで攻略してくる連中が増えたら陸軍野営地を護るどころの話ではなくなる。
マリーは青ざめて辺りを見まわしていた。
「AI、広域通信。レイカ、マリアだ。撤退しろ。次の爆裂魔法は8マイルを飲み込む」
『チーフ、現れる怪物の数が数百になるというのですか』
「もしかしたら千になるかもしれない」
無線の先でレイカが絶句したのが空電でわかった。
『他3名のスナイパー撤退に半時間下さい』
半時間──途方もなく長いとマリーは息を呑んだ。
「急ぎなさい。以上」
さして強くない怪物どもが数で押し切り始めていた。
どうする!? 半時間稼いで弾倉を空にしプラズマ・ナイフだけで凌いだところでその数の怪物どもが集中してくれるとは甘く考えない。
半数以上が陸軍機甲部隊に襲いかかり残存兵を殲滅するだろう。その勢いで化け物どもは野営地に乗り込むだろう。その時点で爆裂魔法を放っても意味がない。
レイカ達には悪いが次に怪物どもが現界し始めたら速攻で魔法を放って破壊するしかなかった。
千体の怪物。
怪物どもはどうして最初からその数で圧しなかったのか?
まるで様子を探るように小出しに攻めてここにきて大群を投入してきた。
投入できる限界が見えていて極力、最小の兵力を使い回してきたみたいだとマリーは考えた。ふとマリーは気がついたことを考慮した。
威力偵察か!?
そうだ。怪物どもは人類の兵力を探る必要があるんだ。手持ちの兵力が限定的で初戦から全兵力を投入し失敗したら兵站や再編が利かないんだ。
怪物どもは数千から多くても数十万。
数十万!? 無理だわ。その数で来られたら私の爆裂魔法を全開にしても追いつかない。それこそ戦術核爆弾を使うしかない。
「AI、ルナに個別通信」
『マリアご無事で。爆発の轟音だけ響いてきて心配を────』
ああ、夜闇で土砂が噴き上がったのが見えなかったんだとマリーは気づいた。
「水蒸気爆発だ。怪物どもが数を増し現界してきている。至急、陸軍に問合わせて欲しい。戦術核爆弾はあるのかを。あれば前線にまで用意させるように勧告してほしい」
『その1発で終わりにできるのですか?』
1発で!? マリーは青ざめて下唇を噛んだ。
「その保証はないわ」
『制圧できないのに核兵器を投入する意味をおわかりですか! 手数で押し切られたらフォート・ブリスまで放射能で汚染されるんですよ!』
だったら野営地もフォート・ブリスも怪物どもに蹂躙されてしまう。
強い敵に勝つ秘訣はある。
倒されてしまわないことだ。
だがたとえ弾薬が豊富にあったとて数万の怪物どもを押し止めできるわけなどなかった。
「座標を指示する。合図したら陸軍のMARS砲撃部隊に遠距離攻撃を」
『マリア、まさか座標って貴女がいるところですか!?』
「陸軍に命じなさい。砲撃するしかないのよ。私には精霊シルフィードの加護がある」
『チーフ! 雨のように榴弾弾頭のミサイルが集中するんですよ! マシンガンの銃弾を防ぐのとは────』
「以上!」
ルナの慮る思いが痛いほどわかった。
マリーは人型戦闘装甲のコクピットでため息をついた。
「くそう!」
コントロール・アームの中で拳を握りしめた。
もっと自分に能力があると思っていた。手にしている力はもっと高見にあると思っていた。
訳も分からぬこんな怪物どもの物量に押し切られるとは考えもしなかった。
全周囲モニタに乱立してゆく数えきれない数のコーションマークに視線を上げたマリア・ガーランドは早口を唱え始めた。
"Ah──Prinsinn af löndunum sjö, loga keisari sprengingarinnar í hópnum!
Högg sem ýtir þögn niður í brothættleika fer yfir sérstaka hreyfingu Thunder Emperor,
Allir sökkva í steikjandi hraunrennsli hreinsunareldsins"
(:ああ──群雄の中の暴爆の炎帝にして、七つの大地のプリンスよ! 静粛を脆性へと葬り去る一撃は雷帝の奥義を超越せし、すべからず煉獄の赤灼の岩漿流に呑み込む)
全周囲モニタの5分の1が乱立し重なる赤いマークで片隅にあるカウンタの数にマリーは眼を強ばらせ高速詠唱を唱え続けた。
"Ah────Tíminn er kominn. Vaknaðu upp úr svefni núna og gerðu að veruleika af löngun minni! Logi! Loginn sem blæs út! Sprenging! Tortímdu öllum verum!!"
(:ああ────時は来た。今、眠りから目覚め、我が願望を以て現界せん! 火焔よ! 噴炎よ! 爆炎よ! 遍く存在を蹂躙せよ!!)
デジタル数値が敵の5桁の数を訴えていた。
一気に倍増してきた。
"Exafarit!!!"
(:エクスアファリット!!!)
空気が急激に歪み僅かに転がる枯れ草の塊が舞い上がり切れ飛び歪む空気の周囲を旋回しつかんだ空気に引き摺られ乱暴に立ち上ってゆき、それを追うように空気が数十本の螺旋描く筋を絡ませ歪んだ空間の頭上に伸びだし巻き込まれた他の小石が次々に多量に続き弾け飛びだした。
空気の歪みはもう歪んだ光景どころでなく、空間から供給されるエレメントを貪欲に取り込み焔を振り回す火球に変貌し凄まじい勢いで拡大し始めていた。
マリア・ガーランドの直近で拡大してゆく閃光が急激に広がり全周囲モニタをハレーションで真っ白に塗り替えた。