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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #22
107/164

Part 22-2 Escape 脱出

Equinix Data Center Infomart Dubberley-Bld. 1900 N Stemmons Fwy suite 1034, Dallas, TX USA

1900 N Stemmons Fwy, Dallas, TX 00:21 Jul 14

7月14日00:21 テキサス州ダラス フリーウェイ・スイーツ 1034ノース・ステムモンズ・フリーウェイ1900ダバリー・ビル内エクイニクス・データ・センター





 追い込んでくるジェシカ・ミラーに前門のダラス市警SWAT。どちらが首級を上げるに容易たやすいか。



 ジェスの方が厄介やっかいだとM-8マレーナ・スコルディーアは仮想した。スターズ第3位のガンファイターの底力──単独でSWAT4ユニットを上回る戦闘力を有する。



 ならダラス市警と遊ぶ方が道をつけやすい。



 ダバリー・ビルの壊してない正面玄関ドアの鍵のサムターンをそっと回しデッドボルトを外して硝子(ガラス)扉を押し開いた。



 その瞬間、3つのスポットライトを浴び黒のドレスが灰色に見えるほどの白光にさらされ自動人形(オートマタ)まぶたを細め2基のCCDフォトセンサー前部の絞り機構を最小にし急行したばかりの警察車輌と警察官の配置を把握した。



「武器を捨てその場に腹ばいになれ!」



 ベアキャットの屋根についたサーチライトをM4A1カービン銃で撃ち砕いた。



 途端にめくら撃ちで数発撃たれ、マースは後ずさり屋内に入ると柱の陰に身を隠した。



 柱は大理石を被せられているが鉄骨が入っていることが仮想された。50口径のマテリアル・ライフルで撃たれても安全だとMー8は判断した。



 SWATが放った5.56ミリ・フルメタルジャケットの銃弾(ブレット)3発は樹脂皮膚下のチタン外骨格に止められ機構に支障はなかった。



 マースは胸と肩に開いた銃創を指差しでいぢった。



「あーぁ、ドレスが台無しじゃないの」



 火力は有限なのに────。



 そうつぶやくなりエントランスに散らばった強化ガラスの破片を拾い上げた。



 柱の位置関係とドアの外に立ったとき眼にした警察車輌と警官の位置を完璧に把握していた。人は銃撃被弾の可能性がある時はやたらと掩蔽えんぺい物の陰から移動しない。



 柱から手首だけを露出させ強烈なスナップで強化ガラスの破片を投げつけた。



 人の悲鳴が聞こえ、お礼に柱の方へ十数発撃ち込まれた。



 その銃撃が止むとまた柱から手首まで出し強化ガラスを投げつけた。



 今度も悲鳴が聞こえフルオートで玄関まわりにやたらと撃ち込まれた。



 サーチライトをつぶされ警官らはめくらめっぽうに射撃してくる。玄関まわり全体に銃弾(ブレット)を浴びせていた。



 だがもたもたしていると2階からジェシカ・ミラーが下りてくる可能性があった。



 マースはエントランスの外灯が差し込んでこない場所まで下がると次々にガラス片を投げつけ始めた。殆どの破片は警官らの顔に命中し残った警官らは右往左往し始めた。











 1階のエントランスへ下りる階段の先からフルオートの射撃音が反響し聞こえてくる。下りようにもマースがどこかからカービンを手に入れ暗視装備(ノクトヴィジョン)もないのに正確に撃ち込んできたのでジェシカ・ミラーは折口のそばで様子をうかがっていた。



 警官らとこれだけ撃ち合えば司法者に怪我人が出ているだろうからマースは捕まれば有罪判決が間違いなく下るだろうし、同じビル内に武装している自分が捕まれば弁明に困ることになる。



 ゴシック娘が予想以上にヤバい奴で一緒にデーター・センターへ来たことをジェスは後悔していた。



 だいたいあの怪物とあそこまで格闘して怪我1つ──いや義足から火花が出ていた──無事でいるのが信じられないし、まるでスーパーマンのように怪力と素速さをしていいやがる。



 あれは普通の女の子じゃねぇ。未来から来たターミネーターの亜種じゃないのかと考えジェスはそれすら信じられずにいた。



 とりあえずエントランスへ下りる階段は使えないのでジェシカ・ミラーは別な階段を探しにきびす返した。



 ガラス張りの渡り廊下を過ぎて用心して大学の方へ行くと止められたエスカレーターがあった。ジェシカはFN SCARーHを構えたまま用心し一段いちだん下りていった。その間にも遠くでアサルトライフルの軽くサイクルレートの高い射撃音が聞こえて気がきじゃなかった。



 タップシュートの撃ち方から警官の方はSWATだとジェシカは思った。



 なら必ずこのビルの別な場所から侵入を試みエントランスを背後からも攻めようとするだろう。カービン1挺ではマースは立ち往生するだろうが、それまでに警官らが多数死ぬことになる。



 エスカレーターを下りきってジェシカ・ミラーはヘッドギアの暗視装備(ノクトビジヴィジョン)を使い周囲を見渡した。



 どうやら完全に大学側で人気はなくまだSWATは来ていないようだった。



 SWATと遭遇したらどうする。



 投降し────いや駄目だ。特殊部隊員(SFU)だぞ。負け戦は許されぬ。人目を忍んでここから抜けだすのが正解だろう。マースは見捨てる。どのみちSWATに挟まれ最後まで抵抗し射殺されるだろう。



 ジェシカ・ミラーは誰もいない通路で困惑していた。



 もしかしたらゴシック娘は戦闘恐怖で敵味方の差別ができなくなっているのかもしれなかった。



 なら見捨てるわけにはゆかぬ。



 助けなくてはならない。











 ダラス市警SWATのデルタ部隊9名は正面玄関内で抵抗する容疑者制圧のため裏通用門を解除後ビル内に入り込んだ。



 抵抗する容疑者は1名で未成年の女性だが自動小銃で武装しており警官らに多数の負傷者が出ていた。



 状況は悪く容疑者確保は難しい状況だった。



 デルタ部隊リーダーのニコラス・サンプソン警部は難しい判断を要求されビル内を制圧し始めた。大学校内を抜け商業地区にさしかかったときいきなりそれは起こった。



 確認(チェック)された通路を通過しようとした刹那せつな、至近距離で発砲があり先発の隊員が脚を撃ち抜かれ転倒しペアを組んでいるもう2人も一瞬で脚を撃ち抜かれた。



 隊員以外何ものもいない通路だった。



 反撃のしようがなかった。



 撃たれていない6人が後ずさり複数の自販機の置かれた休憩所へ退しりぞこうとしてさらに2人が脚を撃ち抜かれた。



「隊長! 敵が見えません!」



 そう叫んだサブリーダーも脚を撃ち抜かれ廊下に転がり込んだ。



 リーダーのニコラス・サンプソン警部は映画のジャングルに現れたプレデターを思い起こして、そんなものは絵空ごとだとその思いをかなぐり捨てた。



 休憩所からの通路には倒れうめく部下たちが間隔おいて点在していた。だが助けようにも敵は間違いなく廊下にいておとりにしていた。



 敵は間違いなく長い通路にいて至近距離から抑制器(サプレッサ)の付いた銃器で発砲している。狭い通路では発砲音(ガンショット)が共鳴して音響定位が不確かになるが避難誘導灯の蛍光灯の灯りに見える範疇には撃っている敵の姿が見えていなかった。



 通路に出て撃たれた仲間の元に駆け寄ろうにも間違いなく敵はそれを待っており────その逡巡しゅんじゅんの寸秒、休憩所に隠れている残り3人が次々に撃たれた。











 10人余りの警官をガラス片で打ち倒したが、増援が来たのか玄関に発砲してくる警官の数は一向に減らなかった。



 自動人形(オートマタ)は正面突破成功率が26パーセントだと仮想した。当初の予定では53パーセントまで押し返せる予定だった。



 マースはきびす返し避難誘導灯の明かりの届かない影を渡り建物の奥を目指した。



 SWATの主要部隊と多くの警官らはビル正面に配置している。まだ手薄なビル裏口か側面の窓から逃げだすのが成功率が高いと仮想できた。



 しかしなぜ別働隊は後方から攻めて来ない? 警察戦術セオリーでは挟撃きょうげきが基本だった。



 商業地区から大学校内に入りかかったその時、両耳のみ指向性コンデンサマイクが抑制器(サプレッサ)からの発砲音(ガンショット)を拾い上げた。周波数パターンからジェシカ・ミラーのFN SCARーHから極亜音速弾が撃たれているものと一致する。



 われを待ち構えているにしては撃っている場所が遠すぎた。



 ジェシカ・ミラーが何と戦っている!?



 マースは長い通路の端からそっとのぞき込んだ。休憩所の自販機の明かりが照らし出す一部に数名の黒い戦闘服にプレートキャリアを着けたものらが倒れ脚を押さえ込んでうめいている。



 マースは視覚CCDの波長帯を通常波から赤外線帯にシフトダウンさせ観測したが誰も捉えられず、近紫外線帯に切り替えた。





 いた!





 電子光学擬態(エミック)を使用し光学的欺瞞で戦闘行為を行っている。そのジェシカ・ミラーらしき人物が休憩所へ発砲し通路を歩いてきた。



 だが端まで来ずに足を止め、代わりに声を掛けてきた。



「マース、いるんだろ出てこいよ。全周囲カムにお前が角からのぞいたのが映っていたんだ。出てきたからって撃たないぜ」



 声の抑揚から嘘だと6パーセントしかえられなかった。



 マースはM4A1のバットプレートを肩付けしダットサイトのぞき込みながらゆっくりと角を回り込んだ。



 ジェシカ・ミラーは電子光学擬態(エミック)を切りヘッドギアのフェイスガードを跳ね上げていた。



「あなたが撃っていたのはダラス市警SWATでしょ」



「ああ、そうだ」



 ジェスがFN SCARーHの銃口を天井に向けていることから戦闘を意識してないとマースは87パーセントで確定したので銃口を下ろした。



「どうしてわれを追い込んでくるSWATを排除したの?」



「お前が困るだろうと思ってな」



 マースはジェスが共闘する意識があるのかと67パーセントに仮想した。



「あなたの首を絞め、数回発砲したのに?」



「俺だって撃ったじゃないか。お前さんの胸ぐらにビール缶押し込める穴が開いているだろ」



「確かに撃たれたわ」



「普通、胸にそんな孔こしらえてお前みたく歩き回れないんだぞ。どうなっているんだ」



「それには応えられない。マリア・ガーランドとワーレン・マジンギ教授、ダイアナ・イラスコ・ロリンズの3氏しか閲覧することのできない機密事項に抵触するからよ」



「それって遠まわしに普通じゃないと言っているんだよな」



「どうにでもとって下さって結構よ」



「現状の話だ。今、ダバリー・ビル周囲には眼をつむって歩いてもぶち当たるぐらい警官がうじゃうじゃいる。俺は電子光学擬態(エミック)があるから逃げ出せるが、ゴスロリ衣装のお前さんを無事にここから連れ出せない」



 マースは指を2本立ててジェシカ・ミラーに質問した。



「質問が2つ。回答するもしないも自由よ」



「手早くな」



「なぜわれ電子光学擬態(エミック)を持たないと?」



「お前殴られたいの? その目張りした顔でどうやって擬態するんだ? もう一つの質問は?」



 自動人形(オートマタ)が視線を1度下げ上目遣うわめづかいにジェシカへ視線をゆっくりと上げた。





「なぜわれを逃がそうとしてくれるの?」





「簡単だ。お前さんが俺を襲ったのは単なる戦闘恐怖症で正しい判断ができなくなったためだ。だから首を締めたり5.56ミリを撃ち込もうとしたりしたのは大目にみてやる」



 そう聞いた直後、マースはM4A1を振り上げジェスの顔を狙った。



「あなたは大馬鹿なの? このわれが戦闘恐怖症?」



「大馬鹿だぁ!? いたって冷静だぞ」



 マースが引き金を引いた音を耳にしてもジェスはかわそうともFN SCARーHの銃口を下ろし向けようともしなかった。



「どうやら冷静はほんとのようね。どうして弾倉が空だと?」



「お前、どうせそのカービン警官から奪ったんだろ。予備弾倉奪うもなく正面玄関であれだけ撃ち合えば空になるに決まってんだろ」





 マースは唇をねじ曲げた。





「あなたの冷静は全然論理的じゃないし無謀よね」



「予備弾倉なしで警官隊と正面から撃ち合うお前に言われたくねぇ──よマース」



 自動人形(オートマタ)はジェシカ・ミラーの信頼値を89ポイントに引き上げた。



「どうやってわれを逃がすと?」



 ジェシカ・ミラーは片唇を吊り上げにやつくとマースに言い切った。



「お前、そのドレス捨てるつもりあるかよ?」











 通用門から腹を押さえたSWAT隊員が出てきて警戒していた10数人の警官らは銃口を下ろした。



「撃たれた! 救急車は?」



 男のそのSWAT隊員に2人の警官が肩を貸し待機している救急車へ連れて行こうとしてボヤいた。



「お前、小柄な割に重いな」



「プレートをセラミックじゃなくて鉛の板にしてるんだ」



 待機してる救急車のストレッチャーに寝かし救急隊員に任せるとそのSWAT隊員は肩を貸した警官らに礼を言った。



「ありがとな。頑張れよ」



 救急隊員がストレッチャーに患者を固定し後部から救急車に載せ1人が乗り込みドアを閉じてもう1人が運転席へ回ると後部で大きな音が聞こえ呻き声がしたので運転席で振り向いた。



 患者固定用ストラップを引き千切った警官が上半身を起こして倒れ込む救急隊員を受け止めていた。



 運転席の救急隊員が近くの警官を呼ぼうとした刹那せつな、ドアが開かれ誰もいないのにいきなり顔を殴りつけられ救急隊員は助手席との間に倒れ込むとドアが閉じた。



 昼間なら走りだした救急車の運転席に誰も乗っていないことを誰かが気づいたろうが闇に呑まれ1人も気づかなかった。





 走りだした運転席で電子光学擬態(エミック)を切ったジェシカ・ミラーがヘッドギアのフェイスガードを跳ね上げ振り向いた。



「順調か?」







「ああ、気絶させただけだ」







 ストレッチャーから足を下ろしヘルメットを脱いだM-8マレーナ・スコルディーアが運転席へ振り向いた。












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