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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #22
106/164

Part 22-1 Chase 追撃

NDC HQ.-Bld. Chelsea Manhattan NYC, NY 01:12 Jul 14

7月14日01:12 マンハッタン・チェルシー地区NDC本社ビル





 爆轟が押し寄せた瞬間、シルフィー・リッツアは手近なものしか護りきれなかった。エレベーター・ホール寄りの8人近くの第2中隊のセキュリティ7、8人と転移してきた若い女が即死で精霊加護を手厚く施したパトリシア・クレウーザと自分も壁に叩きつけられた。



 爆発したのはパトリシアとシルフィーの中間にあった氷結のベルセキア(もど)きの女だった。



 まさか爆裂魔法を使うとは思いもしなかった。



 この世界の多くの人々は魔法を使えない。氷結させ封じ込めたベルセキアかもしれない奴がそれをやってのけた。



 困ったことに爆発させたのは氷結だけでなく壁にも穴を穿うがったことだった。ベルセキア(もど)きはその穴から逃げおおせていた。



 気を失ったパトリシアをシルフィーは助け起こし怪我をしている箇所に回復魔法を施した。そうして目眩めまいに抗ってポーラとクリスを呼んだ。



「ポーラ、クリス来てくれ」



 2人が来るとシルフィーは抱きかかえた少女をポーラに任せ通路の廊下に開いた穴から外を覗き込んだ。


「追うのか?」



「人を喰らう魔物だ。放ってはおけないだろう」



「1人では駄目だ。パトリシアをセキュリティの無事だった奴に任せ私たちも行く」



「わかったマリア・ガーランドも連れて行く」



 シルフィーは用心しながら壁の穴から部屋に入ると乱雑に散らかった机を見回した。机の上にあったファイル棚やPCが床に落ちかなり散乱している。



 窓ガラスが破れていることからそこからベルセキアは街に跳び消えたと思われた。



 シルフィーはその割れた窓へゆき下を見下ろした。様々な緊急車輌のフラッシュ・ライトが明滅していた。武装した状態でそこを抜けることはできないとハイエルフは思った。



 警察と揉めたらマリア・ガーランドに殺される。それは避けたかった。



 人の気配に振り向くとポーラとクリスを引き連れた異界のマリア・ガーランドだった。



「街に逃がしたか」



 まるでめているようなその言い草にシルフィー・リッツアは鼻をならし告げた。



「逃げるなら追い詰めるだけだ」



 そうして窓から後退あとずさったハイエルフは割れた窓へ右腕を上げ呪紋を詠唱(えいしょう)すると異空通路ことわりのみちが開いた。



 振り向いたシルフィーが眼にしたのはマリア・ガーランドが両手にしたハイパワー・ビームライ(HPBR)フルだった。



「それを街中で使うのか!?」



「ええ、効果があったのなら何でも使うわ。付随的被害は折り込み済みよ」



 3人が雷光明滅する暗い渦に消えると最後にシルフィー・リッツアが入り異空通路ことわりのみちが閉じた。











 パトリシアが眼を覚ますと医務室のベッドにいた。第2中隊の1人──アデルミラ・オルテガが付き添ってくれていた。



「気がついたのね。痛むところはない?」



「大丈夫よ。ベルセキアは────!?」



 尋ねながらパティはベッドから脚を下ろした。



「逃げたわ」



「行かなくちゃ」



 立ち上がろうとするパティをアデルミラは座らせた。



「どこへ!? 無理しちゃだめよ。脳震とうを起こしていたのだから」



「アデル、ベルセキアは変幻自在なの。私が行かないと見抜けないわ」



 わずかに思案してアデルミラはうなづいた。



「いいでしょう。あなたにセキュリティ4人をつけます。恐らくはそれでもあなたは無謀な橋を渡ろうとする。4人のセキュリティの命をどう思うか、それに賭けてみます」



 そういうとアデルミラは執務デスクのキーテレフォンの受話器を上げた。



「医務室のアデルミラです。完全武装の4人を寄越してください。ええ、メンバーはお任せします」



 受話器を下ろすと振り向いたアデルミラはベッドに腰掛け瞳閉じるパトリシアに驚いた。



目眩めまいがするのですか、パティ!?」





「いいえ、シルフィー・リッツアを探して────見つけたわ。マディソン・スクウェア・パークにいる」





 そこまで言うとパティは立ち上がり頼んだ。



「アデル、あなたの銃器と弾薬を貸して」



 それを聞いてアデルミラは怪訝な表情になって忠告を繰り返した。



「パトリシア、4人の命をないがしろにしては駄目ですよ」



 FNファイヴセヴンを受け取り実包が装填されているか銃口を天井に向けスライドをわずかに引いて確かめたパトリシアは弾帯を腰に回してジーンズと腰のわずかな隙間すきまに銃器を差し込んで見つめるセキュリティにささやいた。



「アデル、無謀は愚か者のすることでしょう」



 アデルミラ・オルテガは苦笑いするしかなかった。



 しばらくして完全武装のセキュリティ4人が医務室に来るとパトリシアが仕切った。



「私の車でマディソン・スクウェア・パークに行きましょう!」











 夜間は人通りがないとはいえマディソン・スクウェア・パークの西25番ストリートに面した公園の中に異空通路ことわりのみちで限界して正解だった。



 時折、青と赤のフラッシュ・ライトを明滅させ緊急車輌が通り過ぎた。



「すごい跳躍ちょうやく力ですね。10分もかからずにここまで来るなんて」



 クリスが誰にとなくベルセキアのジャンプりょくに驚くとポーラ・ケースが警戒心をあらわにした。



「夜に来たことがなかったがジャングルのようだ」



「こちらが追いついてきたことをあれ(・・)はもう気づいている。用心し集団で移動しよう」



 そうハイエルフが言うとマリア・ガーランドが恐ろしいことを告げた。



あれ(・・)跳躍ちょうやく力だけでなくあらゆる運動力に人よりも抜きんでている。遭遇したら距離を取らないと一瞬でたたみ込まれる」



 それは解ってるとポーラとクリスは思った。去年末、あれへ散々発砲して仕留められなかったと苦々しく思いだした。



 まだ人の容姿でいると倒せる気がするが、いったん怪物化したら対戦車ミサイルも受けつけない。



「静かに」



 そうシルフィーが切りだしマリア・ガーランドが問うた。



「近いのか?」



「かなり────だがこちらをまだ認識してないようだ」



 そうシルフィーが告げるとマリーが疑念を露わにした。



「こんな場所で何を────」



「回復を待っているんだ」



 そうシルフィーがぼそりと言うと折り重なる木々がざわめきポーラとクリスがそれぞれ別方向へFN SCARーHを構え銃口を振り向けた。



「昼ではなくて良かった。付随的被害(コラテラルダメージ)で大騒ぎになる」



 それはシルフィーの本意だった。マリア・ガーランドと過ごした9ヵ月は彼女の考え方を大きく変えていた。別段、殺人狂ではなかったが、人命に対しハイエルフ族は無頓着だった。命は個人が守るというのが彼女ら種族のならわしだった。



 もともと彼女の里では人口は圧倒的に少なかった。マンハッタンの100万分の1もいない。それがスオメタル・リッツアが作り出したホムンクルス──ベルセキア1体がシルフィー・リッツアを除きみな抹殺してしまった。



 元々は感情的敵意を抱かないハイエルフ族の一員ながらシルフィーはベルセキアに対しては恐ろしいほどの殺意があった。



 木々の間の回廊をゆっくりと回り込んでゆく。そう広い公園ではなく気づかれなかったらいずれ遭遇戦になるのは目にみえていた。



 ベルセキアであろうと、もどきであろうと姉──スオメタル・リッツアが作り出した生命体は命に代えても殲滅する。



 郷土を殺戮の地に変えたベルセキアにはそれしかないと他を受け入れぬかたくなな姿勢がシルフィー・リッツアの原動力だった。



 曲がりくねった公園の中をわずかに歩くといきなりシルフィーが右拳こぶしを肩の上にあげ後続の3人に立ち止まるように命じ人さし指と中指を立てそれを右に振った。



 即座にポーラとクリスチーナが右側の低いフェンスを乗り越えて芝生に入り込んで回るとシルフィーとマリーが遊歩道沿いにゆっくりと奥へ回り込んだ。



 正面に10数ヤードの円形の砂場が見えてきてその常夜灯に照らされた中央に人が倒れているのがわかった。



 右側から音が聞こえシルフィーは横へ振り向くと別な遊歩道からポーラとクリスの2人がバトル・ライフルを肩付けして歩いてきた。



「遅れを取りましたね」



 そうクリスが言うとマリア・ガーランドがかすかにうなった。軽くひざを曲げシルフィーは遺体の肩を覗き込んだ。首横を食いちぎられていた。これであの女制服警官はベルセキア確定となった。



「まだまだ死人がでる。ベルセキアは満足を知らないからな。だが人ごみでなくこのような寂しい場所で襲う」



「どうしてですかね? 人が多いほうが選びやすいでしょうに」



 ポーラが誰にとなく問いかけた。



「騒ぎが大きくなるのを好まないからだ。ベルセキアといえ受けて平気でいられる銃弾(ブレット)の数には限りがある。警官に大挙して取り囲まれたくはないだろう」



 そうシルフィーが言うとマリーが指摘した。



「本社のあの通路でベルセキアはパティとヴェロニカに恐ろしい数の銃弾(ブレット)を受け耐え抜いた。10人やそこいらの警官が一斉に撃ってもなんともないような気がする」



「だけどレーザーで撃たれて唖然としていたわ」



 クリスがそう言うとシルフィーが否定した。



「慣れていないだけだ。いずれ弾丸のように慣れるだろう」



 そう説明しながらハイエルフは公園を見回してベルセキアの気配を探った。



「この程度かじったとて、あれの損耗に追いつかないだろう。近くで別な人を襲っている。近くに別の公園は?」



 シルフィーが3人に問うとマリーとクリスが答えた。



「ユニオン・スクウェア」、「グラマシー公園」



「でもグラマシーは夜、門に鍵がかかっているのよ。嘘でしょう。ユニオン・スクウェアって6ブロックも先よ。ベルセキアってビルの谷をスパイダーマンみたく飛び回っているの!?」



 クリスが驚き声を上げた寸秒、ポーラがFN SCARーHの銃口を彼女に向け怒鳴った。



「クリス! 横に跳び退け!」



 クリスはシルフィーらの方へ跳び退いて振り向くとうつ伏せに倒れている遺体が動き始めていた。



「あんた大丈夫なのか!?」



 砂場に這いつくばった男にポーラが声をかけると中腰に立ち上がったベルセキアに襲われた男がいきなりクリスに跳びつこうとして彼女にかわされた。その刹那せつな、シルフィーが右手に緑に光るむちを下げそれを一瞬で遺体だった男の首に巻き付かせると引き抜いて首をねた。



「なんてことを!? 生きていたのよ!」



「違う。ベルセキアに生命力を奪われ死霊となっていた」



 光るむちを消してしまいながらシルフィーが他のもの達に教えた。



「ゾンビかよ。もしかして噛まれたら伝染するんじゃ!?」



 ポーラはそう言いながら首を亡くした遺体にまだダットサイトで照準し続けていた。



「生命力の奪い合いになるが、他のものを襲っても満足しない。止めるには首をり落とすか、脳を壊すしかない」



 それを聞いたポーラが転がった頭に1発──発砲した。



 ビルの谷間に発砲音(ガンショット)が木霊するとシルフィーがみなに命じた。



「警官が来る。ユニオン・スクウェアへ移動するぞ」



 そう告げハイエルフが異空通路ことわりのみちを開くと3人が急いで駆け込み最後にシルフィーが入ってゲートを閉じた。











 ユニオン・スクウェアのワシントン像のかたわらに異空通路ことわりのみちが開き4人は公園に出たが。マディソン・スクウェア・パークより樹木は少なく常夜灯が少ないにも関わらず遊歩道は見えているビルの照明で明るかった。



 この公園も深夜ということもあり人は見かけなかった。



「ゾンビらしいからと発砲するな。警官が来ると厄介やっかいだ」



 そうシルフィーが忠告す彼女が先頭になり歩き始め20ヤード行かぬうちに前から人が来るのが見えシルフィーは足を止めた。



 付近には隠れる場所もなく4人は武器を身体で隠しやり過ごすことにした。



 ゆらゆらと近づいてくる人陰に半身振り向いたクリスが警告を発した。



「普通の人じゃないわ! ゾンビよ!」







 シルフィーくり出した光るむちを操る余裕がなくポーラとクリスが顔面を狙い徹甲弾(AP)を撃ち込んだ。












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