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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #21
104/164

Part 21-4 Deploration 怨恨

MCPS - Ocean Beauty in the Atlantic Ocean, 11.9 nautical miles south of Jamaica Bay, Brooklyn, New York 00:54 Jul 14/

NDC HQ - Bd.Cherrsee Manhattan NY, 01:09

7月14日00:54 ニューヨーク・ブルックリン区ジャマイカ湾南方11.9海里かいり(:約22km)多目的貨物(MCPS)船オーシャン・ビューティー

01:09 マンハッタン・チェルシーNDC本社ビル





 暗い海原を掻き分けその大型貨物船は最大速力で東へと向かっていた。



 船の名はオーシャン・ビューティー。パシフィック・フィレーナ・ロジスティクス社の船だった。



 そのブリッジでドロシア・ヘヴィサイドはレーダー・スクリーンをにらみ続けていた。



「お嬢、対艦ミサイルは来ないんじゃないですか」



「対地攻撃機も?」



 そう武器商人が告げた刹那せつな、レーダー・スクリーンの下の縁に小さな光点(ブリップ)が2つ現れ数かい明滅しつきっぱなしになり始めると、右肩にUNFと表示が灯り01と02の数字が付いた。



「来たわ! 連中は本気でたたくつもりだわ!! 対地攻撃機まで18海里かいりはある。ドゥーセ! キンジャー(3K95)ルを起動。NDCの対地攻撃機を撃ち落とす」



「本気ですか!? 海軍に知られますよ!」



「構わない。いざとなればこの船を捨てる」



 ドウェイン・ステンシルは対空制御卓をブリッジに上げロシア製対空制御システムに手を伸ばした。起動シークエンスにそって4つのスイッチを入れブリッジ直上の5メートル径のXバンドのフェーズドアレイレーダーがポスト

を軸に回転させ反射波を拾い始めた。



 キンジャー(3K95)ルはフィーダーシステムの半自動対空兵器だった。4つの接近目標へ最大8基の9M330対空ミサイルを操り1敵機に2基のミサイルを指向させる。



 最大25キロメートルで索敵した接近物体を追い続け最大射程圏7海里かいりで撃墜するために甲板下の最大2基のリボルバー式コールドランチ・システムから9M330対空ミサイルを打ち出すためシステム・レディに入る。



 海上を数秒で詰め寄ってくる異様な速さの光点(ブリップ)にドウェイン・ステンシルは対地攻撃機ではなく極超音速大型ミサイルだと管制システムの射撃キーを続けて押し込み次々に射撃指示を4回出した。



 イソテナーを積み上げていないブリッジ寄りの甲板左右に埋め込まれた垂直発射基(VLS)から左右交互にわずかな炎を引きずって9M330対空ミサイルが次々と空中に躍り出てサイド・サステナーから炎吐いて水平方向に偏向するとメインモーターから焔上げ30メートルの高度で加速し始めた。



 洋上でマック30以上出して接敵する(ボギィ)へ向けマック3しか出せない9M330では1秒に満たない極短距離でしか対応できず近接信管の現界値を越え高速で接近する大型ミサイルの後方で破片型弾頭が次々に炸裂した。



 ブリッジで大型ミサイルが接近してくる後方窓へ振り向いたドロシア・ヘヴィサイドはミサイルが派手なエメラルドグリーンのネオン灯のようなものを下げるのが見えた直後、ブリッジがバラバラに切り刻まれ噴炎が艦首側で急上昇した。



 爆発物ではない!!?



 そんな! マック30以上の航空機なんて存在しない!!



 その2機が数海里すうかいりで大きくターンするとまた爆速ばくそくで迫って来るのがブリッジに開いた大きな裂け目から見えていた。



 炸裂するミサイルよりたちが悪いとドロシア・ヘヴィサイドは思った。なぶり殺しだ。この船を沈むまで切り刻むつもりだわ!!!



 唖然と見つめる先にエメラルドグリーンのワイヤーが急激に迫るのが見えてドロシア・ヘヴィサイドは呆然と見つめていると部下のドウェイン・ステンシルに腕を引っ張られた。



「お嬢ぉ! 離船してください!!!」



 ブリッジから逃げるいとまも与えず2撃目が艦首側から多くのイソテナーを弾き飛ばしブリッジを打ち砕いた。



 女武器商人の腕をつかんでいた男の肩から先が一瞬で踊るエメラルドグリーンのネオンに呑み込まれ悲鳴すら聞こえなかった。





「おのれマリア・ガーランドめ! 絶対に殺してやるぞ!!」





 急激に傾き出した船体に引きずられ暗い海水にブリッジごと呑み込まれドロシアはブリッジから水中に洗いだされた。



 暗い中やみくもに足掻いていると波間に顔が出た半浮きになってるイソテナーに捕まると速度を殺し旋回する2機の航空機の排炎がかすかに見えた。



 2機は急激に加速すると南西に向かいワープするように消えてしまった。



 あんな航空機と対地攻撃兵器をNDCは開発していたのだ。悔しさと怒りで力任せに半浮きのイソテナーにドロシアはよじ登った。せめてもの気休めはマンハッタンに仕込んだ戦術小型核爆弾だった。せめてそのニュース速報を見たかったが数日漂流するのは確実だった。



 女武器商人は腹立ちまぎれにイソテナーに仁王立ちになった。



 西から迫る大型船舶の航海灯が見えていた。左に緑、右に赤が見えており向かってくるとドロシアは気づいた。



 船に助け出されれば無線で本社に迎えの指示を出せる。



 ニューヨークに取って返し陣頭指揮で空爆させてもよかった。どんな指示をだしてもどの道インターポールに国際手配されているのには変わりなかった。



 それは救助されるのには表向き関係ないが救助者リストを見たインターポール国家中央事務(NCB)局──捜査官がFBIに指示をだし領海内で逮捕状を出すためにヘリで現れる。



 時間差で自社のヘリが先に迎えに来るだけで救助船には逮捕権限がないので逃げおおせることができる。



 イソテナーに乗ったドロシア・ヘヴィサイドは貨物船輸送船が止まるのを待つだけだった。



 減速して半時間もかかり浮かんだイソテナーの100ヤード間近で停船したのはフランス船籍の自動車輸送船だった。



 後ろから航行してきた輸送船からボートが出されて来るまでにさらに半時間あり、助け出されると医師による検査があり無線で沿岸警備隊に連絡が行き沈没した船名とドロシア・ヘヴィサイドの名が通達されたが女武器商人は本名を名乗らなかった。



 沿岸警備隊から行方不明者の捜索のため2隻の警備挺が向けられることとなり、助け出してくれた船は国際ルールに基づき救助者捜索のため日中まで停泊することとなった。



 ドロシアは船籍本社へ連絡を取りたいと申し出、車輌輸送船にある衛星携帯無線器を借り受けパシフィック・フィレーナ・ロジスティクス社へ電話を入れ至急扱いで重役の1人を電話先に呼びだした。



『────社長、ご無事で良かったです』



「運が良かった。足の長いヘリを1機頼む」



 PFL各支社には運用船舶との人や物資の運搬にあたり貨物船寄港の大きな各都市に支社と空輸機を常駐させていた。各支社規模は大きくないがヘリコプターは中・大型タイプが必ず帰属していた。



『了解いたしました。ニューヨーク支社のヘリコプターを1機手配します。それをご利用ください』



 核爆破は正午零時に指定していた。少なくともその1時間前をリミットにしマンハッタンから離れる必要がある。ニューヨークに戻るのはまずかったが、まだ時間的余裕が十分にあった。



 血祭に上げるのはマリア・ガーランドだけではない。私を脅してきたエレナ・ケイツという女もNDCごとほふり去ってやる。



 そのことを都度意識し女武器商人はNDC本社ビルをどうやって追い落とすか思案した。少なくとも大型兵器を用意する時間はなく、10人余りの傭兵ようへいと小型火器による奇襲ぐらいしか方法を選べないが、手応えのある奇襲でマリア・ガーランドとエレナ・ケイツを抹殺する。



 核爆弾で殺すことが生易しく感じた。



 徹底的にたたくのだ。











 作戦指揮室(Op.Room)にニコルとシーナが戻ってきたのは深夜1時を過ぎていた。開口一番レノチカが口にしたのは小型核爆弾のことだった。



「核爆弾はどうしたの!?」



「シーナが解除したさ。マーサに連絡して陸軍の簡易爆弾対応部隊(IEDU)に渡した」



 レノチカが表情を弛緩させるとシーナがニコルに言いだした。



「私の勝ちねベンジャミン(:100$札のスラング)ちょうだい」



「ちょっと私を賭けの対象にしたの!?」



 レノチカがニコルにくってかかった。



「いや、お前さんが俺たちを見てまずねぎらう(・・・・)のが先か、爆弾のことを言うのが────」



 レノチカがうんざりした顔で両肩をすくめたのを見てニコルが彼女に尋ねた。



「で、仕掛けた張本人の居場所はつかんだのか?」



「逃げだした貨物船ごと沈めたわ」





「沈めた!? 貨物船をか!?」





 ニコルが声を荒げた。



「ええ、ビクに沈めさせた。2機編成で夜襲をかけさせたの」



「チーフにどやされるぞ。乗員を殺していたら大変じゃないか」



「さあ? 必要なコラテラル・ダメ(付随被害)ージよ。私が責任もつわ。チーフは核爆弾を仕掛けられたことの方を問題視するでしょう。ついさっき沿岸警備隊に他の船から通報があったからもう救助者がいるのかも。コーストのカッターが4隻向かってるわ」



 5課のスタッフがレノチカに近づき声をかけた。



「お話中のところをすみません。助け出された女性がいるのですがポートニューアークの管理事務所に届けられている乗員名簿にその女の名がありません。ドロシー・ヘヴィリィを名乗っています」



「埠頭の管理事務所に? あぁ、そういうことね。沿岸警備隊(USCG)の管轄は国家安全保(NSA)障局だから偽名を名乗っている。単直にボロがでると考えない犯罪者にありがちの行為だわ。ドロシー・ヘヴィリィ────馬鹿じゃないの偽名にしなさいよ」



 レノチカの言い分を聞いていてニコルが釘をさした。



「レノチカ、ドロシア・ヘヴィサイドを殺すな」



「殺すつもりはないわ。マーサに連絡して逮捕させる」



 そう告げレノチカは近くの課のブースへ行きキーテレフォンの受話器を上げ空でNSAニューヨーク支局長のマーサ・サブリングスの携帯番号を空で打ち込んだ。



「ああ、マーサ? NDCのレノチカです。何度もすみません。NDCにミサイルを撃ち込んだ船を潰したのですが。救助者にインターポール手配者のドロシア・ヘヴィサイドがいます」



『潰した!? 船を沈めたの!? 今、沿岸警備隊の船が4隻向かってる事案ね。ドロシア・ヘヴィサイドがいるのね。逮捕させます。ああ、それからうちの職員のヴェロニカ・ダーシーを知らない? 今、おたくのビル内を探し廻ってるのよ』



「ヴェロニカはパティと一緒にいるはずです。見つけてお知らせします。では」



 受話器を下ろしレノチカは壁の超大型モニタを見上げAIに命じた。



「パティのいるフロアの映像を」



 すぐに多数映し出されているウインドの優先順位が低いものがパトリシア・クレウーザのいるフロアに切り替わりレノチカの視線が向けられるまでフレームが点滅した。



 一目で戦闘中だという画像にレノチカは驚いてベルセキアがビル内に現れたという報告を思いだした。去年末のあの怪物がそう何頭もいるはずがないと1度は意識から締め出したのだ。



 だがパティとシルフィー、それに────チーフが戻って来てるではないか。レノチカはそのマリア・ガーランドに見える画像に顔を引きらせた。



 右腕を肘の上からなくし氷のかたまりのようなものが覆っていた。



 フロア通路の殆どのものが──ポーラ・ケース、クリスチーナ・ロスネスまでいる!────が女制服警官へバトル・ライフルを向けていた。



 だがヴェロニカ・ダーシーの姿はなく数人のセキュリティの倒れた姿がフロアに見えた。



 いけない! 核爆弾のことですっかり意識から飛んでいたとエレナ・ケイツは焦った。



「AI、あの警官の顔をアップに。それから市警職員名簿から識別し名を教えて」



 レノチカがそう命じると十秒足らずでAIがそばにあるタブレットを起動しレノチカを呼びだした。



『市警職員名簿に該当者はありません。しかしテロリストとして国際手配されているクラーラ・ヴァルタリに96パーセントで適合』



「このビルには女武器商人とか国際手配のテロリストばっかりで!」



 そうレノチカは憤慨したそばでニコルが忠告した。



「レノチカ、休んだ方がいいぞ」



 咄嗟とっさにエレナ・ケイツはタブレットを投げつけようとして腕を下げニコル・アルタウスに微笑んだ。



「なっ、何だよ!?」



「82階に行って────状況を収めてきて」



 咄嗟とっさに元GSG-9の佐官は右手の指を振り上げ何か言い返そうとして指を2度レノチカへ振ってきびす返し階段に向かった。



 レノチカが振り向くと第3課のシーナ・カサノバがじ──と見つめてつぶやいた。



「あ────ぁあ」



「ちょっとシーナぁ! あーあってなによ!?」



「ちょっと違う。あ────ぁあ」



 レノチカはタブレットを投げつけようとして腕を下ろした。











 ハデス・ルームを足早に抜けエレベーター・ホールに来たニコルは乗り込むとAIに82階へと告げた。



『緊急事態対応フロアにつき指定できません』



「その事案対応に向かうんだ。下ろせ」



 するとドアが開いた。



「違う! 82階に下ろせと命じたんだ」



 すぐに2重扉が閉じるとわずかに浮き上がる感じがしてわずかにをおいて電子音がなりドアが開いた瞬間、押し寄せた熱気の直後、跳弾ちょうだんしたライフル弾が彼の背後の壁に食い込んだ。



 ニコルはとっさにスーツの内側に手を差し入れH&KーP8コンバットを引き抜いてトリガー・サイドに人さし指を当て銃口を上に向けセーフティを上げ切った。



 遮蔽物のない通路で女テロリストと撃ち合っているのかとニコルはレノチカの吐いた悪態を思いだした。その扉開いたままのエレベーターに第1中隊のポーラ・ケースとクリスチーナ・ロスネスが駆け込んで箱の袖壁に身を隠したのでニコルは尋ねた。



「あの制服警官(ブルースチール)と撃ち合っているのか!?」



「撃ち合って!? 違う! あれはベルセキアだわ! ニコル、昨年ニューヨークで暴れまくった怪物を知らないの!?」



「その怪物と撃ち合っているのか!?」



「だから撃ち合ってない! 一方的に撃ってるのよ!」



「撃たれたぞ」



 クリスが驚いて振り向くとニコルは銃口をエレベーター後部の明らかに拳銃弾ではない銃創に向けた。



「違うわ! パティかチーフが撃ってるの!」





「お前ら馬鹿か! 敵を挟み込んで向かい合って撃ってるのか!?」





 そうニコル・アルタウスがわめいた直後、背後の壁に1セント硬貨ほどの穴が開き蒸発した金属の蒸気が広がった。



 エレベーターの袖壁から通路を覗き込んだニコルが青ざめた。







 パトリシア・クレウーザが激しく動き回る制服警官に向けてレーザー・ライフルを撃ちまくてっていた。













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