Part 21-3 Rebel Against 反旗
Equinix Data Center Infomart Dubberley-Bld. 1900 N Stemmons Fwy suite 1034, Dallas, TX USA
1900 N Stemmons Fwy, Dallas, TX 00:12 Jul 14
7月14日00:12 テキサス州ダラス フリーウェイ・スイーツ 1034ノース・ステムモンズ・フリーウェイ1900ダバリー・ビル内エクイニクス・データ・センター
仮想領域の外にいるこいつらは脆弱だ。
くるんくるんのツインテールを鞭のように踊らせて急激に振り向いたM-8マレーナ・スコルディーアは右腕を振り上げジェシカ・ミラーの細い首をつかみ己の首を横に傾げながら不思議そうな表情で指を食い込ませた。
仮想領域の外にいるこいつらデータは我を破壊する明確な意志を持つ。
いや、マリア・ガーランドとワーレン・マジンギ教授という仮想領域外のデータは我を保全する存在だ。
3Dニューラル・ネットワークを駆け巡る仮想パターンがせめぎ合った。
敵と味方のタグ付けが競い合う間だ身辺保全のため敵と見なし制圧するべきだと87ポイント差で攻撃を選択した。
いきなり首をつかんでいるジェシカ・ミラーが躰と身体の合間で銃を発砲した。
胸骨左下部を撃ち抜いたのはスラグ弾だった。 即座に自動人形は身体保全シークエンスに入りジェシカ・ミラーから手を放すと、背後にあったサーヴァー・ラックを回り込み次弾の攻撃を避け逃避しようとした。
胸部に埋め込まれた1万キロワット級超小型原子炉の冷却システムの一部を破壊され背中のラジエーターに繋がる2次冷却水ポンプが機能しなくなりサブ・コンプレッサーが代替え機能に切り替わり細々と冷却水を送りだしていた。
冷却性能がゼロではないが11パーセントにまで落ちて大量電力発電が7パーセントまで下落し急激な動きをすべて制約された。そればかりか3Dニューラル・ネットワークの維持が難しくなり細々としたAI維持しかできない。
最後にニューラル・ネットワークで加重して出力用ニューロンを介し記憶領域に格納したのは、仮想領域外世界のジェシカ・ミラーがソードオフを発砲し我を破壊しようとしたことだった。
仲間のはずのヒューマノイドが破壊行為に出た理由として幾つかの項目が変数領域にみられたらが、マースはジェシカ・ミラーの首をつかんだことを標準加重値で格納していた。それに先んじて過去のデータに仮想領域外の世界は我に破壊的であると格納してあった最重要加重値のデータがあった。
当然、危害を加えてくる相手に先んじるのは第3原則の自己保存法則に従っていた。
マースはパソコン・ラックの壁沿いにジェシカ・ミラーから距離を取るべく後退さりサーヴァー・ルームの出入り口を目指し、電力消費を抑えるべく3Dニューラル・ネットワークのエンジン・スピードにウェイトを掛け全体的に思索速度を落とした。
いきなり首に指を食い込まされジェシカ・ミラーはそのマレーナ・スコルディーアの手の力に死ぬかと思った。
何かの冗談だと思ったが頚椎を折られる前に手探りで背中のクイック・ドロウ・ホルスターからソードオフを引き抜きゴシック娘の胸元に銃口を向け、マリア・ガーランドにどう言い訳するのだと一瞬の躊躇しそれを投げ捨て引き金を引いた。
小娘の肋骨と背骨を撃ち砕いたスラグ弾は背中の銃創から飛び出しサーヴァー・コンソールの液晶画面を撃ち抜いた。
9ミリパラベラムより破壊力の大きな弾が抜けたことでジェシカ・ミラーの首をつかんでいたマースの右腕が弛緩し外れジェスは両太腿に手を着いて激しく咳き込んだ。
マジで死ぬかと思ったジェシカ・ミラーは前屈みで咳き込みながら喘ぎ喉に右手のひらを当てて軽くもむと視線を上げた。
コンソールの前にマレーナ・スコルディーアの姿はなく、割れたサーヴァーのコンソール液晶画面に血糊はまったく飛び散っておらず、スラグ弾が掠っただけなのかとジェスは眉根をしかめた。
いや────確実に胸の中央で発砲した。
銃身を断ち切ったソードオフを握る右腕を持ち上げてみて、液晶画面の穴の位置から間違いなく少女の胸の中央を貫通していた。
「くそう────どうして死なないんだ!?」
ジェシカ・ミラーはソードオフのバレルを折り排莢すると新しいスラグ弾2発を装填しバレルを閉じて背中のホルスターに散弾銃を戻し負い革で背後に回し提げていたFN SCARーHを前に回しマグプルのMVG/MーLOKバーティカル・フォアグリップをつかみバットプレートを右肩に押し当てバトル・ライフルを斜めに倒し構え上げアッパーレシーバー・レイルの45度オフセットアダプタに載せたトリジコンRMRタイプ2光学ダットサイトを覗き込んだ。
本格的にあのゴシック娘を制圧するまえにジェシカ・ミラーは自分に念押しした。
「マレーナ・スコルディーアは俺を締め殺そうと────した」
そう呟きジェシカ・ミラーは唇をねじ曲げるとトリガーに人さし指をかけたままサーヴァー・ラックの反対側の通路に回り込んだ。
光学照準器視野と裸眼両方でPCの通路を瞬時に確認した。
ゴシック娘がいないことに逆にホッとしてる自分に気がついた。
マースが首を絞めてきたのも、スラグ弾を撃ち込んだのも何かの間違いだったとジェスは思いたかった。
ジェスはそのPCラック通路を歩かずに次の通路へ小走りに移動した。そうして新しい通路を覗く都度に安心感を覚えた。
4つ目の通路を覗き込んだ際、通路奥から揺れ動いた黒いスカートが一瞬見えジェシカ・ミラーは素早く5つ目の通路へ向かいバレルを振り向けるとゴシック娘が隣の通路へ行こうとしていた。
「止まれマース! 撃つぞ!!!」
歩き止まった少女がゆっくりとジェシカ・ミラーへ振り向いた。
「どうしてお前は俺の首を絞めた!? 殺意があったぞ!!」
「我の外の世界には我を破壊する変数が存在する」
小娘が何を言ってるのだとジェスは眉根しかめた。もしかしたら怪物と格闘した際に何かに感染したのかとジェスは困惑した。
「お前も我を破壊しようとするなら敵だ」
くそうマースは確信犯だ。いや正気を失っている!
マースが歩き逃げようとしてジェスは咄嗟に赤いダットを少女の足元に向けトリガーをトリプル・タップで3バースト射撃した。
Pタイルが弾け飛びマレーナ・スコルディーアが足を止めた。
「動くなマース! お前は正気じゃない。このままお前を好きなように行かせるわけにはゆかない!」
いきなりだった。
マレーナ・スコルディーアはサーヴァー・ラックのスチール・ビームをつかみ引き千切るとそれを頭振った。
一瞬で少女の胴体を狙う余裕がなく、ジェシカ・ミラーはサーヴァー・ラックの角に隠れた。直後、ジェスのそばの壁に凄まじい勢いで飛んできた鉄フレームが突き刺さった。
コンクリートだぞ! そこにビームが10インチは突き刺さっている!? それに通路の長さは20ヤードはあるのに!?
ジェシカ・ミラーは1度息を吸い込むと呼吸を止めてサーヴァー・ラックの角から銃身を振りだし通路の奥へ銃口を向けた。
マレーナ・スコルディーアの姿はなくジェシカ・ミラーは素早く先の通路へと駆け銃口を振り向けようとして慌ててラックの陰に隠れると傍の壁にPCが1台激突しひしゃげ床に落ちた。
掠りでもしたら即死だったと首筋に鳥肌立った。
とてもスラグ弾食らった負傷者に────いや健常でもできやしねぇ!
ジェスはマースが怪物相手にとんでもないパフォーマンスで戦ったのを思いだした。右脹ら脛から火花でてたが、もしかしたら両腕両脚が義足なのかもしれない。だが戦闘中にあれだけ壁や天井に投げつけられ頭でも打ったんだ。
あいつ正気じゃない。こりゃ本気で止めないと被害者がでるぞ!
ジェシカ・ミラーは素早く通路端を渡り歩きマースを見失ったことに気づいた。
サーヴァー・ルームから抜け出しやがったな。
ジェシカ・ミラーは出入り口まで行くと袖壁にマースが待ち構えていない方に賭け銃口も振り向けず廊下に出た。丁度、セキュリティ・強化硝子ドアが閉じるのが見えジェスは小走りになった。
まだ近くだ。エクイニクス・データ・センターから出してしまうと厄介だ。
ジェスは割れてしまっているセキュリティ・ドアをまたいで出ようとして動きだした自動ドアのフレームに挟まれそうになり慌てて脚を引き抜いた。
お師匠ならマースをどうするだろうか? 子ども引き取って面倒みてるぐらいだ。銃口は向けないだろう。だが腕っ節で捕まえて尻を叩くかもしれない。自分にはと考えてジェスは無理だと思った。
脚を撃って動けなくしてから誰かうちのセキュリティ要員を呼ぶしかないとエクイニクス・データ・センター出入り口へ急いだ。
駆け足で受付ブースを通り抜けマースが壊した正面玄関の強化硝子扉へ来た。ここから先のダバリー・ビルは急激に広くなる。もう勘で追うしかないとジェシカ・ミラーは覚悟した。
データー・センター前に出てジェスはヘッドギアの外部マイク音声のゲインを上げた。
微かに足音が聞こえていた。
まだ50ヤードは離されていない。
ジェシカ・ミラーは階段へ向かおうとして休憩所の窓ガラスが赤と青で明滅してることに気づいた。
まずい! 警備会社じゃない。きっと警察だ。
ジェシカ・ミラーは急いで階段へと向かいバトル・ライフルを構えたまま階段を駆け下りた。
『────発砲音ありと通報。ステムモンズ・フリーウェイ1900ダバリー・ビルです』
「208号車了解」
パトロール中だったダラス市警南中部地区第1パトロールのジム・ルイスとジャン・サラスは本部から不法侵入容疑の一報でパトロールカーをノース・ステムモンズ・フリーウェイへ向けた。
夏場は夜徘徊して回るものも多く犯罪件数も上がるが、猫や犬、鳥がセンサーにひっかかり警備会社が不法侵入だと通報してくる場合も多い。
まあ怪しい人物がいたらまず拘束。不法侵入の痕跡があれば即現行犯逮捕だが、おそらく単数の犯行なので応援は呼ばなかった。
ビル警備員がいればことも早い。
セキュリティが犯行現場を案内するので器物損壊の現状を確認し応援なり、鑑識を呼ぶ。
テキサスは銃所持者が多く、まれに所持者がつかまるが撃ち合いになることは少ない。所持者は多くとも扱いは他の州に比べ慎重だからだ。撃ち合いになれば必ず拘束され罪も重くなる。
一報から10数分でダバリー・ビル正面に着いた。
警告灯をフラッシュさせたパトロールカーから下りると正面玄関のドア硝子が1枚破壊されておりジムはジャンと顔を見合わせた。
壊された玄関口には警備員の姿がなく2人は悪態をつくとホルスターのスナップベルトを外し銃握に手をかけたまま正面玄関に向かいフラッシュライトを取り出した。
「208ジムだ、臨場。正面玄関が壊され警備員の姿がない。これより調べに入るが2、3台応援を頼む」
そうジム・ルイスはハンドマイクで告げデジタル無線機を切り肩にマイクを戻しホルスターのグロックに右手を戻した。
せめてセキュリティがいればと願う。
内部に入ればたとえ警官であっても警備員に撃たれる可能性があった。容疑者から撃たれるよりも始末が悪い。
よく見ると玄関口の際の壁に警備員がいた。
「ダラス市警です。どうされましたか」
そうジムが声をかけ斜め後ろからジャンがフラッシュライトで警備員を照らした。
「大きなもの音で警備室から出てきたら正面玄関が壊されていて、その後でビル内から発砲音がして恐ろしくなったので外に退避していました」
「発砲音は間違い────」
ジムが警備員に問いかけているその時、ビルからフルオートの射撃音が響き聞こえた。
とっさにジムは警備員に離れるように指示しジャンとパトロール・カーへ戻り車内とトランクからモスバーグ590A1──ショットガンとM4A1──アサルトライフルを取りだし武装した。
「こちら208、ダバリー・ビルからフルオートの射撃音。誰かが発砲してる。至急SWATを要請する!」
本部へ無線連絡を終えるとジャンが尋ねた。
「入ってみるか?」
「あぁ、誰に発砲しているのかが気になる」
2人とも警察支給のプレート・キャリアを身に付けているが不安はあった。脚でも大動脈を撃たれれば短時間で失血死する。
ジャンを先頭に2人はサッシ枠がひん曲がった正面玄関の壊れた出入り口からエントランスに入り込んだ。その広場に外にあったコンクリートの植木鉢が転がっていた。ジジムはどうやってこんな重そうなものをと顔を強ばらせた。その瞬間、奥からまたフルオートの射撃音が短時間聞こえ2人は足を止めた。
用心のため2人ともフラッシュライトを消して足音を殺して奥へ向かった。
もの音で近くに人の気配がした寸秒、大きなものが唸る音が聞こえジャンの喚き声がジムから遠ざかった。
何が起きたとジムがフラッシュライトを点け振り向け彼はバディの惨状に気づいた。
ソファが玄関口のサッシに食い込みその下から同僚の足が突き出ていた。
やった奴はとジムが顔を振り戻したその瞬間、ライトの灯りに黒いドレスを着た少女が自分の身長半分のステンレスのごみ箱を振り上げていた。
凄まじい勢いのステンレスのごみ箱で殴りつけられエントランスの端まで飛ばされ床に落ち気を失った。
警官のM4A1アサルトライフルを拾い上げたM-8マレーナ・スコルディーアはチャージングハンドルを引き放し暗闇でチャンバーに装填されているかを確認しバットプレートを右肩に押し当てバレルガードを振り上げ暗闇の先の階段の上にいるジェシカ・ミラーへとダットサイトを合わせ2点射すると暗闇にフラッシュハイダーの射炎が浮き上がり顔を照らしだした。
直後、階段上から喚き声が聞こえてきた。
だから人は脆弱なんだ。