Part 21-2 IQ 知能指数
NDC HQ.-Bld. Chelsea Manhattan NYC, NY 00:39 Jul 14
7月14日00:39マンハッタン・チェルシー地区NDC本社ビル
「で、どうするんだ!?」
と情報3課のニコル・アルタウスに言われエレナ・ケイツ──レノチカが取った行動は情報全課の調査スタッフとハードウェアを駆使して闇の武器商人ドロシア・ヘヴィサイド──ドロシーがマンハッタンに持ち込んだ戦術小型核爆弾を見つけだすことだった。
ドロシーの乗船していると思われる貨物船オーシャン・ビューティーは昨日の11時に埠頭に横付けしてから幸いにも荷を下ろさず積み込みだけしているのを港湾監視カム2基が写していた。
税関への申請でも下ろす荷はなく空の状態でニューアークの貨物埠頭ポートニューアーク第1埠頭に接岸している。
なら監視カムのタイムラプスをつぶさに調べ、上陸した船員もしくは乗り込んで下りた何ものかで大きな荷物を運び出したものの行動を追えばよかった。
問題は特定したらそのものの足取りを追うことだった。
ニューヨークの腐るほどある防犯カムの記録を洗いざらい探し出し隅々まで調べる。その映像が繋がれば荷物を持って下船したものの動線が明確になる。
「レノチカ、チーフかサブチーフに一報を入れ指示を仰いだ方がよくないか?」
ニコルに言われエレナ・ケイツは尻の孔が小さいと内心思い彼に言った。
「トップ2はこのような火急の事態に備え情報8課まで備えを整えさせたのよ。あの人らはフォート・ブリスの怪物の事案に集中させるべきだわ」
言いだしたらこいつも引かないとニコルは内心思い1課から3課までをスーツケース以上の荷をともなって下船したものを特定させることにした。特定されれば全課総動員でそのものの行動と立ちより先を明確にする。
港湾の監視カムをオーシャン・ビューティーが横付けされる時刻から精査すると驚いたことに下船したものはたったの3人だけだった。
その内、スーツケースより大きな荷物を持って下船したのは2人で、2人ともイエロー・キャブでマンハッタンへくり出していた。1人は航海士のアデラール・レベッキーニ、もう一人が機関士のイライジャ・ファン・ハールだった。
「どちらだと思いますニコル?」
3課のチーフエンジニアのシーナ・カサノバがGMに問うた。
「どちらだと答えても起爆する確率は半分ある。短時間の停泊であのスーツケースはないだろう。1人は囮の可能性もあるが、囮が1人というのも変だ。手分けして両人を調べるぞ」
囮が1人という理由は何だ!?
そう考えながらニコルが命じると3課のナイトシフトの4人はまずイエロー・キャブの会社を割り出し、次に市内のハッキング可能な防犯カムの画像を繋いで足取りを追い始めた。
シーナが1課と2課にイエロー・キャブの会社を知らせると、こぞってその2台を追い始めた。
その作業を見つめながらニコルは囮が1人の理由を思いついた。
武器商人らはいずれ巡航ミサイルが発射された貨物船を見つけられると考えるだろう。法執行当局は目撃情報から船から不相応なスーツケースを運び出したものらの足取りをいずれはつかむ。そのための囮2人だ。
「シーナ、荷積み作業中船から小さめの荷が──キャンバス・シートなどに包まれて下ろされなかったか、もう一度停泊してからの防犯カムのタイムラプスを調べてくれ。1台のカムは私が確認する」
「画質がかなり悪いんですよ。GM覚悟してください」
ニコル・アルタウスはブースに1つに向かうと港湾局のファイア・ウォールのIDとPWをシーナに聞きそれでログインし埠頭西側のカムの映像を見始めた。
仮に荷積みのクレーン・オペレーターを買収してるなら、船に近づく姿を見られまいとするだろう。1番怪しいのはガントリー・クレーンの操縦者だ。クレーンが頻繁に甲板と埠頭の間を往き来する。スーツケースぐらいの大きさのものを下ろすのぐらい苦労はないはずだ。
ニコルは狂ったように秒がカウント・アップするタイムラプスをじっと見つめていた。入れ替わり立ち替わり走ってくるハスラー(:コンテナ用セミトレーラー)から次々に高速でガントリークレーンが行き来してイソテナーを積み込んでゆく。元GSGー9佐官の男は戻ってゆく。3千6百秒あまりで34基のイソテナーを積み込んでゆく。
イソテナーをつかみ放してゆくスプレッダーが貨物船から上がってゆくときに冷蔵庫4分の1の何かを引っ掛けていた。
ニコルは息をのみタイムラプスを標準速度に戻した。
ガントリークレーンの下にはシャーシーではなく黒のシボレー・コロラドが止まっていた。
「AI、2012年型黒のコロラドのライセンス・プレートを解読し所有者を表示」
ニコルは数秒で表示されたライセンス・プレートを読み上げ1課から3課までの職員すべてに命じた。
「イエロー・キャブの走査中止! ライセンスRCM1969、黒のシボレー・コロラド=S10ブラジルを探せ。所持者、港湾局オペレーターのダニエル・オルコット」
8秒で2課のサブチーフ・エンジニアが報告した。
「自宅に戻っています。路駐、住所、317・トロイアヴェニュー・ブルックリン」
ニコル・アルタウスはスーツの上からP8コンバットを確認し反対の腰にあるスペア・マグ2本を確認するなり3課のブースから立ち上がった。
「ニコル! どこへ!?」
レノチカが大声で呼び止めた。
「ガサ入れだ!」
短く教えニコル・アルタウスは階段を目指した。
どうしてこのNDC情報部へエレベーターの直通でなく階段を使いハデスの間に通ることになっているか。情報部にはセキュリティよりも直情的なものが多く階段を使う間に考え直す冷静さを与えるためだ。
登り始めた直後、別な足音にニコルが振り向くとシーナ・カサノバが下段で微笑んだ。
「ガサ入れだぞ」
「ハンドガン持って来た」
ニコルは不愉快そうな面もちを一瞬浮かべ早足で階段を上るとリズミカルなアップテンポで下から登ってくる部下に元GSGー9佐官の男は眉間に皺を刻んだ。
武器商人から持ちかけられたのはテロリズムの片棒だった。普通なら法執行当局や特殊部隊に追われる身になるのに躊躇するからだ。
1つの大型コンバットバッグを目的の場所に運ぶだけで1000万ドルの価値。彼は自分の人生を悪魔に売り渡した。
逃げおおせてみせると男は思った。
したこと。起きること、それらで興奮して寝つけそうになかった。運んだプラスチック爆弾は今日の午後に起爆する。ブルックリンに被害はなくとも大規模な検問があることになる。だが今日から渋滞するマンハッタンを抜け長い通勤時間をかけて出社することも、精神的にまいって帰宅することもない。
クソみたいな人生におさらばしたんだ。
モバイルフォンがいきなり震えだしてこんな夜更けになんなのだと男はカウチからサイドテーブルにかけたジャンパーをまさぐった。
ポケットからモバイルフォンを取りだしてその表示に男は青くなった。
人生最高の夜に車輌泥棒が来るなんてとヘッドフォンを外すと路駐させた自家用車がけたたましく間欠でホーンを鳴らしていた。
男は窓から路駐してる自分の車を見下ろした。
人影はなかった。
男はサイドテーブルのジャンパーからリモート・キーを取り出すと防犯システムを切った。そうしてジャンパーの袖に腕を通すと玄関ドアへ行き3重のデッドボルトを解放しドアを開き動きを止めた。
真っ正面にハンドガンを両手で構えた若い女が銃口を向けていた。
法執行当局がこんなに早く突き止めてくるなんて微塵にも思わなかった。ドアを閉じて逃れようとした瞬間、袖壁から突如現れた男に顎を強かに殴られ意識が吹っ飛んだ。
ぶっかけられた水の冷たさで気がつくとダイニング・チェアに座らせられ両腕を背もたれの後ろに回され縛られていた。
「いいか、わめけばまず膝を撃ち抜く」
そう言って見も知らぬ男は右膝にクッションをあてがい銃口を押しつけたのでダニエル・オルコットは激しく頷くと後ろに立つもう一人が猿ぐつわのタオルを包丁で切った。
「お前は依頼を受け荷物を運んだはずだ」
知らばっくれても男がすでに承知していることの確認を取りにきているとダニエルは気づいて頷いた。
「どこに運んだ?」
これは通過儀礼で、白状したら得た膨大な金が取り消されるとダニエルは沈黙を決め込んだ。
いきなり男は右膝にクッションを押し当て発砲し、凄まじい痛みにダニエルは身をよじって初めて足首も椅子の脚に縛られていることを知った。
「次は左膝じゃない。右肩を撃ち抜く。20分以内に救急処置を受けないと失血死する致命傷になる」
ダニエルは脂汗吹き出した顔で頷いた。
「お前は依頼を受け荷物を運んだはずだ────どこに運んだ?」
「クレメントCムーア公園前に路駐している赤のエッジの後部座席に」
「フォード・エッジか?」
「えぇ? フォード? たぶんフォード────だと思う」
男は椅子の背後にいる女────たぶん玄関で銃口を向けていた若い女と顔を見合わせるとダニエルに言い聞かせた。
「ここに国家安全保障局を呼んである。脚の銃創では2時間まで失血死しないから心配するな。NSAに我々のことを話してもしなくても構わないが、お前はテロリズム容疑で警察に引き渡される」
そう告げて男はた立ちあがるとダニエル・オルコットに言い捨てた。
「人民の────敵め」
西22番ストリートに半時間で行きニコル・アルタウスとシーナ・カサノバは路駐した車列の5台目にフォード・エッジを見つけだした。
「ニコル、戦術小型核爆弾の処理を国家安全保障局と軍に任せませんかぁ?」
「喉元にナイフ突きつけられたまま食事ができるか?」
「もう、何でいつもそんな極端な喩え方するんですか? 任せられないと言えばいいじゃないですか。待って下さい今、ドアの開錠します」
そうシーナが告げピッキング・ツールをパーカーのポケットから取り出すとニコルがいきなり銃握で後席の窓ガラスを叩き割った。
シーナが驚き跳び退くと派手に盗難防止警報が鳴り始めた。
「だから!」
「どっちみち鳴ってたさ」
後席の窓から運転席のドアを開き中に上半身を中に入れたニコルが何かの配線を引き千切ると警報がピタリと鳴りやんだ。
「それで課長、爆弾解除はだれがぁ?」
「お前だエンジニア。俺は兵士だぞ」
「即席爆発装置解除兵は兵士じゃないの!?」
そう言い放ちシーナはロックトルのマルチツールをジーンズから取りだした。
ニコルが作業しやすいようにと大型コンバットバッグを後席から取りだして公園側歩道にあるレンタル・バイシクルの照明下に持って行くとそっとバッグを下ろした。
シーナは歩道に座り込みコンバットバッグのファスナーを開くと起爆装置が付けられた円筒形のユニットが入っていた。
「起爆装置はありきたりな起爆電橋線型雷管ね。でもトリガーは────ぱっと見にタイマーと解体防御用回路の配線が10数本────16本ね。その16本の延長線をアースから切り離した時点でドカンとくるわ。でも解体防御用回路の配線とパラレルになった配線を断たないとタイマーは────へぇえ! 賢いわね。別なトラップ見つけ。タイマーを無効化させると短時間のタイマー・モードにシフトするようになってる」
「お前、一々言わないとやれないのか?」
「口にするとメイク・ラヴは高まるでしょ」
シーナがパーカーのポケットから鰐口クリップの付いた配線を5本取りだしてそれをニコルが興味げに見つめ何か言い掛かり止めた。
「まずはバイパスを作っておいてパラレルの1本をカット」
ニコルがコンバットバッグを覗き込んだ。
「暗い! 見えないじゃない」
「ああ、悪かった」
「2本目のバイパスを作ってパラレルをカット。いい? 爆発物解除は相手との頭脳戦。製作者は解除者を意識して解除者は製作者の発想を考察するの。この起爆装置をデザインした奴は優秀。開放型と閉鎖型をミックスし組み上げている。腕がなるわね」
「シーナ、お前、戦術小型核爆弾だぞ」
「IEDでも同じこと。失敗すればマイクロ秒であの世行き。痛みも感じない。3つ目のバイパスでパラレルをカット。弱ったわね────」
「どうした?」
「バイパスをあと3つ作らないといけないけれど外部接続コードが2本しかない。それにただの開放型じゃなくてデジタルの電圧制御で電圧が上がっても下がっても起爆するっぽい」
「ぽいって────自信ないのか?」
「自分では他人が解除できない方法を織り込むけれどこれを作った奴がどれほどに賢いかによるわ」
「やれよ。傍にいてやる」
ニコルに言われシーナは顔を上げ上司の顔をじっと見つめ双方が微笑むとシーナは戦術小型核爆弾に視線を戻した。
「賢さって、口にしないほうが優秀だと思われているけれど実際は爪を見せるものよ。どうしてでしょう?」
「自分の能力に酔いしれるからだろ」
「課長────優秀な兵士だったのね。私の勝ち」
言った直後、シーナ・カサノバは同時に2本を切った。
ミサイル攻撃を受けNDC本社ビルに駆けつけた国家安全保障局ニューヨーク支部長のマーサ・サブリングスはヴェロニカ・ダーシーと連絡がとれないことに戸惑い、マリア・ガーランド不在の状況で部下らの陣頭指揮に当たっていた。
いきなりモバイルフォンが鳴り出すとスーツの内ポケットからセリーを取りだした。
「はい、マーサ・サブリングスです」
『ニコル・アルタウスです。至急軍の爆発物解除兵をクレメントCムーア公園へ。戦術小型核爆弾を解除させたところだ』
「戦術小型核爆弾ですって!? なにが起きてるの!?」
『闇武器商人のドロシアHが仕組んだ。本社ビルにミサイル攻撃したのも武器商人だ』
ドロシア・ヘヴィサイド! マリア・ガーランドはその武器商人を捕らえると私に通達して1ヵ月半が過ぎていた。こんなにもことが拗れているとは思いもしなかった。
「マリア・ガーランドは!?」
「テキサス州フォート・ブリスで多数の怪物が出現した事案処理に当たっている」