表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #21
101/164

Part 21-1 Terrorism テロ

NDC HQ.-Bld. Chelsea Manhattan NYC, NY 01:09 Jul 14

7月14日01:09 マンハッタン・チェルシー地区NDC本社ビル





 見下ろした胸の左乳房のやや下を貫通したエネルギー・ビームが一直線に伸びパトリシア・クレウーザからテレパスで警告を受けたであろう4人のセキュリティと第1中隊の2人が通路の左右に分かれその間を抜けエレベーターのステンレスの扉に小さな穴を穿うがっていた。



 本来なら見えぬ波長のレーザーがなまじ見えると怒りがこみ上げた。



 クラーラ・ヴァルタリはこのままレーザーを左右に振られたら胸が上下に両断されると顔を強ばらせからだを右に振り胸板を焼き切るビームを左外へ逃がした。



 レーザーが胸を抜けた瞬間、左腕を振り上げひじから下を切り落とされるのをクラーラは防いだ。



 寸断された体組織が焼けているせいか出血はほぼなく左胸に焼けるような痛みがあったが銃創と50歩100歩だと無視した。



 クラーラはパトリシアを一瞬(にら)みつけたい欲望にかられたが目前のハイエルフ名乗る女が脅威であり倒し喰らえばこの通路にいる12人あまりはとるに足らず一気にたたみきれると女テロリストは踏んだ。



 中途半端な間合いにいるシルフィーなにがしというコスプレーヤーは近、中、長の間合いを大剣(クレイモア)むち、バトル・ライフルでカヴァーできるが、自分は近中しか武装を持ち合わせていなかった。



 クラーラはシルフィーの出方を探るように左腕を前方に振り抜いてそろえた5本指の黒いナイフをダガー・ナイフのように投げつてみた。



 5枚の細身のナイフはコスプレーヤーの3フィート手前で空中の何かに当たりその突き立った場所に淡い青色の波紋が広がり床にすべてが落ちた。



 こんなことなら武装した誰かを襲い火器を奪うんだったとクラーラは一瞬後悔した。



 絶対死領域を広げたところで薄青いスクリーンにはばまれる可能性があり切り札は隠しておくべきだとクラーラは決めた。



 ふとクラーラは殺気を感じて右にからだ逃がすと不意に耳端に熱気を感じ流し目を送ると走り抜けるレーザーが見えた。



 パトリシアめ!!!



 ハイエルフを殺したら貴様を筆頭に血祭りに上げてやる──そうクラーラは決めシルフィーへ斜めに駆けだした。どのみち近接戦闘(CQB)に入ると味方を撃ちかねず他のものら全員が射撃をあきらめる。



 まだ手足の1つ切り落とされていない事実は、耳長と近接戦闘(CQB)が互角に近い能力なのだとクラーラはくり出した2歩目に思った。でなければどちらかが有利に展開しすでに倒されているはずだった。



 急激に迫るコスプレーヤーが今まで見せなかったスタンスに出て何ぞわめくと正面に暗き群青の光りのサークルが現れた。



"Ó ísgleði í þöglum undirheimum, þéttið töfrakraftinn sem býr innra með þér.Adstare crystallis glacies, texens aerem gravi frigore et mundum a frigore custodiens. Aeternam frigus ad glaciem paradisum adduce ubi venti pruinosi flant.Lord of the Ice World, ég skrifa undir nafnið.────Frozen Cryoform!"

(:静寂の冥界に在りし氷の謳歌おうかよ、この身に宿る魔力を凝結せしめよ。紡ぎし氷の結晶よ、凛とした冷気を織り成し世界を凍てつかせん。霜寒の風が吹き渡る氷庭に永遠の冷たさをもたらさん。氷界の君主よなんじに署名せん、その名を────フローズン・クライオフォーム!)



 気づいた刹那せつな、回避対応するいとまも与えずにクラーラ・ヴァルタリは絶対零度に近い氷塊ひょうかいに呑み込まれ身動きどころか呼吸すらできなくなった。











 ちょこまかと無駄な足掻あがきするベルセキアだとシルフィー・リッツアは思った。



 (ソード)たよりければまだ面白みもあろうがドラゴンブレスト級の魔法を使えたので警戒し対抗魔法で身動きを封じるとまんまと極々超低温の結界にみずから入り込んで詰んでしまった。



「パトリシア! 撃つな!! 味方に当たる!!!」



 シルフィーは氷結魔法が完結するとそこにレーザーが当たり屈折するのを恐れた。



 ハイエルフが命じると物騒な武器の銃口をパトリシアが天井へ向けたが、それはそれで危険だとシルフィーは鼻筋にわずかにしわを刻んだ。



 落ち着いて廊下を見つめると金属の断片が暴れ回りむき出しになったコンクリートを多数(えぐ)りそれだけにとどまらず天井の石膏ボードは高温でうねり照明灯の半透明カヴァーはほとんどがけ落ちていた。



 土嚢どのうの防御壁や重機関銃まで用意したのは誰の差し金かとシルフィー・リッツアは考え自分に責を振り向けないでくれと苦笑いを浮かべた。



 ベルセキアと聞いて最大級の警戒をしたが、こいつの中途半端さはなんだとハイエルフは氷づけになった編み上げのブロンドヘアの女を見つめた。昨年のスオメタル・リッツアが創りし死神とは大きな隔たりだった。



 昨年末の死闘を思いだしシルフィーは奴の方がもっと暴力的だったと思いながら氷塊ひょうかいかわし廊下に座り込んで応急処置を受けるマリア・ガーランドのところへ向かいながらベルセキアも中途半端なら異世界のこいつも中途半端だと斬れ落ちた片腕を拾い上げ声をかけた。



「痛むか?」



「いや止血のために凍らせたら痛みも鈍くなった」



「凍結魔法を解除しろ。斬れ落ちた腕を付ける。聖職者でないのでヒーラーでは少し出血と痛みがあるが堪えられそうか?」



「やってくれ。腕が元に戻るなら文句は言わん」



 異界のマリア・ガーランドが魔法呪文詠唱(えいしょう)をするとみるに氷が溶けり口から鮮血がしたたり始めた。



 シルフィーは斬れ口を正しい角度で押しつけ高速(ファースト・)詠唱(チャンティング)で呪文を唱えると斬れ落ちた部分を中心に淡い光りがあふれ皮膚がくっつくのを見ていたパトリシア・クレウーザがシルフィー・リッツアに頼んだ。



「シルフィー、もう一仕事あるの。ヴェロニカがベルセキアに食べられしまってよみがえらせて」



「できるわけなかろう────あれはマリア・ガーランドの本分だ。聖職者でも超が付く高難易度の魔法だぞ」



「それじゃあ、ベルセキアが食べた部分を抜き出して」



「それはもっと難しい。取り込まれからだ中に分散してしまったら切り離せない」



 それを聞いてパトリシアは陰鬱な面もちになった。





「シルフィー! この氷塊ひょうかいどうすればいいんですか!?」





 本社警備のセキュリティ・リーダーがハイエルフに凍結されたベルセキアの扱いを尋ねた。



「殺すのなら砕けばいい。生かして捕らえておくなら徐々に溶かせばいい。だがフライパンや電子レンジはだめだぞ」



 それを聞いてリーダーは苦笑いした。



 見かけ腕の接合に成功したマリア・ガーランドにハイエルフは尋ねた。



「あのベルセキアはお前がこの世界に連れてきたのか?」



「あんなもの我々の世界にはいなかった。こちらの世界のものじゃないのか?」



「この世界のベルセキアは去年、われが刺し殺した。絶対破壊力の隔絶かくぜつされしあかしという(ソード)でだ。自力でよみがえるなぞできぬ」



「できないのはあんたの思い込みか? 現実にベルセキアがそこにいるだろ」





「そいつがベルセキアだと誰が言いだした?」





「わたし────精神の透視でベルセキアに間違いなかった。それより私達のマリアまで連れていって。ヴェロニカの蘇生そせいを頼むから」



「今は無理だ。フォート・ブリスには沢山の怪物が現れてあいつはそれどころではない」



「シルフィー! それどころってどういう意味!? ヴェロニカがこのままじゃ永遠にいなくなっちゃうんだよ。ヴェロニカはマリアの部屋を守るために1人で殺し屋らに立ち向かってくれたのに見殺しにするの!?」



「見殺しではない。もう死んでいるのだ」



 パトリシア・クレウーザは下唇を噛んで上目遣うわめづかいにハイエルフをにらみ据えた。



「好きにしろ。フォート・ブリスへの異空通路ことわりのみちなら開いてやるが、先でマリアをつかまえるのは無理だぞ」



 つかまえる────!? そうだ行く必要はないのだとパトリシアは思いだした。テレパスで繋がればいい。



 その寸秒1900マイルを飛び越えてパトリシアのマインド・リンクがマリア・ガーランドを探り当てた。



 マリア!



────どうしたのパティ!?



 ヴェロニカがベルセキアに食べられたの。あなたならヴェロニカを生き返らせることができるでしょう!?



────難しいかもしれない。遠すぎるわ。



 異空通路ことわりのみちでこっちに来て。



────できるだけ──でも5分や10分じゃ無理よ。



 わたしが手伝いにゆく!



────やめて! あなたを護りきれない!



 いきなり振りほどくような感触を残しブレイン・リンクが切れてパトリシアは驚いた。少女はつなごうと考えてそれを止めた。



 怪物と争ってる状況で足を引っ張るわけにはゆかないとパトリシアはベルセキアの食べ残した遺体を回収しようとシルフィーと異世界のマリアから離れた。



 氷づけになっているベルセキアを見つめパトリシアは脚を止めた。



 氷塊ひょうかいの中央にいるベルセキアの周囲に気泡のようなものが動いているように見えた。



「シルフィー! ちょっと来て!」



 そうテレパシストが声をかけたのと同時だった。







 82階フロアを爆撃したような水蒸気爆発が広がりシルフィー・リッツアの加護のシールドで護りきれなかった7人が即死し、パトリシア・クレウーザは壁にたたきつけられた。











 169階の参上を確認していたリズことエリザベス・スローンとチェスことチェスター・ウィンターソンはその地震のような揺れと響いてきた爆轟に驚いて辺りを見まわした。



「またミサイル!?」



 そうリズがつぶやきチェスが床を見つめ説明した。



「違うと思います。もっと強力な────AI、目下火災や大きなトラブルのあるフロアは!?」



 比較する場所が今いる196階ともう一つ82階だけだった。



『82階で震度7クラスの被災です』



「ビル中心で震度7!? 爆発なのAI!?」



『火災はありませんが、爆発の可能性78パーセントです』



「エレベーターは使えるの?」



 リズがAIに問うたと通路にある幾つもの高性能コンデンサ・マイクが拾い上げた。



『2号と7号は可動中です。3から6号はメンテナンスなしでの復旧は不可能です』



「82階へ行きましょうチェス」



 そう命じリズは社長室前の通路で狼狽うろたえる消防士や捜査官を後に通路先にある従業員用2号エレベーター・ホールへと急いだ。



 Pタイルのめくれ上がった床は歩き辛くそれでも数回パンプスを滑らせただけで転倒せずリズとチェスはエレベーター・ホールへ辿たどり着くとすでにエレベーターが到着しておりドアが開いて待機していた。



 2人は飛び込むように乗り込むと、ドアが閉じて命じていないにも関わらずエレベーターが降下しはじめた。



「総務部長──地震の時はエレベーター厳禁ですよ」



 そうチェスが告げかすかにリズが鼻を鳴らし落ち着いて告げた。



「ミサイルを撃ち込まれるビルにこんな深夜に徘徊するのも厳禁よ」



 それを聞いてチェスがクスクスと笑った。



「AI、社長、副社長に緊急連絡。本社ビルにミサイルが撃ち込まれ、爆発がまだ続いていると。どうすべきか指示を受けて」



『社長、副社長お2人とも緊急案件対処中につき現在連絡がとれません』



 緊急案件対処中と聞きリズは一瞬対テロ作戦を思いついて否定した。たしかフォート・ブリスで怪物が陸軍基地を急襲していると聞いたのを思いだした。



 軽い電子音が鳴りドアが開きかかり途中で停止し半開きになった。その隙間すきまから熱風の水蒸気が押し寄せまるでサウナだと総務部長は思った。



「総務部長、私に確認させて下さい」



 そう言ってチェスが水蒸気吹き込む隙間から眼を細め廊下をのぞいた。



 エレベーター・ホールに数人のセキュリティが倒れておりチェスはエレベーターのマイクを通し命じた。



「用救護班、セキュリティも5人82階に」



 その水蒸気充満する通路の先に緑色に光るロープが踊るのが見えた。



「来るな! 足手まといだ!」







 その声がシルフィー・リッツアという耳長のNDCイメージキャラクタだとチェスは気がつきスーツの内側に下げたホルスターに手を差し入れグロック17を引き抜いた。












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ