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鈴の髪留め

作者: テスたろう

 深夜0時。

 電車に揺られつつ、座席に座る男が一人。


 車両内には誰もいないためか。

 男は大口を開けて欠伸をしていた。


 普段どおりであるのなら、男は午後6時の電車に乗り込み帰路に着いていたのだが、あいにく、部下から仕事の手伝いを頼まれてしまっていた。


 男は決して人が良いわけではないが、泣きついてくる者を足蹴にするような薄情者でもなかった。

男は渋々、部下を手伝った結果、この通り深夜になってしまった。


「まあいいか、明日は休みだし……どうせ、これといった用事もないしなぁ」と男は帰りが遅くなってしまったことを気にも留めていなかった。


 男の頭が1回、2回と落ちる。

 眠気は最高潮に達していた。

その睡魔に抗えるはずもなく、男はいつの間にか、眠りに就いていた。





――――チリン……チリン……。


――――鈴の音が聞こえる。


――――「ねぇ、かくれんぼしよ?」


――――遠い昔に聞いた誰かの声がした。


 男が目を覚ますと、そこには車掌さんがいた。


「お客さん、終点ですよ?」

「ああ、すいません……」


 男はブリーフケースを手に持ち、慌てて、電車を後にした。


 改札を通り、駅前広場に出た。

 深夜ということもあって、人はおらず、薄暗い電灯が灯っている。


ここからは歩いて15分ほどの道のりだが、その間、男は昔のことを思い出していた。


 まだ幼かった頃の話。

 神社の境内で行ったかくれんぼのことを。

記憶はおぼろげであるが、それでも思い出したことがある。


 というより、どうして今までそのことを忘れていたのか……。

 男にとってはそちらのほうが疑問であった。


 小学生の頃に行ったかくれんぼ。

 神社の境内にて、5人で遊んだわけだが、その内、4人が行方不明になってしまっていた。

 当然、男は事情を尋ねられたが、当時のまだ幼かった男はこのように答えた。


「かくれんぼをしていたけど、いつまで経っても見つけてもらえないから、てっきりみんな帰ったのだと思ってた……」


 この事件は地元の新聞にも掲載され、神隠しなどと騒ぎにもなっていたが、明後日には神社の境内で眠っている4人が発見された。


 警察が子供たちに対して事情を聞くと、その内の1人が言うには

「神社でかくれんぼをしていて、木の上に隠れてたんだけど……その後のことはあまり覚えていないな……」から始まり、賽銭箱の裏、茂みの影、狛犬の後ろと隠れていた場所を答えるだけで、その後のことは皆、覚えていないと一致していた。


 明くる日に、男が他の4人に神隠しのことを聞いてみたことはあったが、やはり、覚えていないの一点張り。


 これ以上、しつこいと関係がこじれる可能性があったためそれ以来、神隠しの話はしなくなった。

 だが、今、振り返ってみるとどうにもおかしい。


 かくれんぼとは、鬼が隠れた者を見つけるという遊びのはずだ。


 けれども、4人は皆、隠れていたと発言していたし、男自身も隠れていた立場であった。

 つまり、皆が隠れるというのはあまりにもおかしいのだ。


鬼がいなければ遊びとして成立しない。


そうなると……あの時、鬼となった者は……。


――――チリン……チリン……。


 脳裏に鈴の音が響き渡る。

その途端に、男の記憶が鮮明に甦る。


 確か、あの時、5人の他にもうひとりいたのだ。

 白い着物の少女。

綺麗な音色の鈴が付いた髪留めをしていたその子。


 神社の境内では元々、別の遊びをする予定だった。

 だが、その子の提案で、かくれんぼをすることになったのだ。

それから、各々が隠れ――――。


 突如、男に強烈な光が当たる。

 それと共に鳴る、大音量のクラクション。


 男は咄嗟に後ろへと飛び退いた。

息は荒く、心臓がドクドク鳴っている。

「あっぶねぇ……」


 男は自身を戒める。

 物思いに耽りすぎであると。


その後、男は真っ直ぐに家へと辿り着いた。




――――その姿を見つめる何者かの存在を認識することなく。


 男は知らない。


 これは決して思い出してはいけなかったことを。


 あの時のかくれんぼは、まだ、終わってなどいないことを。


 チリン……チリン……。


 男よりそう遠くないところで鈴が鳴っている。


「みつけた」

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