0.5ボケ
宜しくお願い致します。
「ふぅ、全く」
さて、飛び出したはいいがどこへ行こう。
この村、【マリ村】は辺境の地にあり、決して大きい村ではない。人口も100人程しかおらずもはや村というよりは集落だ。なので18年も住めば住人全員が知り合いのようなものだ。隣に住んでいた幼馴染の【ステラ】は10年前にスキル【絶対治癒】なんてものを習得し、家族全員で王都へ引っ越していった。因みに俺は王都へは1度も行ったことがない。
いつもだったらその辺ぶらぶらしてテキトーな時間になったら帰るが、今日は違う。俺にはスキルがあるからな。【ツッコミ】だけど。
スキルを習得した者は王都にある教会で鑑定をした後、スキル登録を行わなければいけない。そこで初めてスキルのランクも分かるようになっている。丁度いい機会だし行って見るか。それに確か、村の端の方に住んでたジオさんが王都へ野菜を売りに馬車を走らせるとか言ってた気がするし。
「まだ、いるといいな」
俺はジオさんの馬車に乗せてもらうため彼の家へ向かうことにした。
「こんにちはー」
「おや?べべ君?どうしたんだい?」
ジオさんは長い白髪を後ろに束ねた初老のおじさんだ。なんでいうか……the おじさんだ。
挨拶すると、ちょうど馬車に荷物を積んでいる最中だった。よかった。
「王都へ行くんですよね?」
「そうだよ。この新鮮なお野菜と木の実たちを売りにいくからね」
「ご一緒してもいいですか?」
「あぁ。別に構わないけど……めずらしいね?べべ君が王都へ行くなんて」
随分驚いた様子を見せたがジオさんは了承してくれた。それもそうだろう、俺はこの18年間1度も村の外に出たことのないドがつくほどの田舎者だからな。毎日毎日村で薪割りをして寝る、起きて薪割りをして寝るの繰り返しだった……だが、それも今日で終わりだ!まずら王都でステラに会う!そして夜まで遊び尽くしてやる!っじゃなくて教会に行って人生変えてやる!
「ははっ、ちょっと訳ありで」
「そうかい?まぁ、詳しく聞くのは野暮ってもんだね。そろそろ出るから乗っていなさい」
ニヤニヤしながらジオさんはそう言ってくれた。まぁ、詳しく聞かれないのは正直助かる。
敢えてここでは、スキルの事は言わない。また笑われてしまうからな。いや、別に恥ずかしくはないんだけどね!一応ね、一応。
「って、俺は一体誰に言い訳してんだ!?」
「なんか言ったかい?」
「いえ!なんにも!」
〇
「……っ!…ここが王都」
俺は初めて見る自分より遥かに大きい外壁を見て息を呑む。
馬車に揺られること丸7日、ついに俺とジオさんは王都に到着した。
………。
「どうだい?立派だろう?」
「え、ええ。すごいですね」
どこまでもそびえる外壁に沿うように俺たちは今、行商と思しき人達と並んでいる。
外壁の中央に大きな門があり、そこには3人ほどの騎士だろうか?立派な鎧を身にまとったお兄さん方が紙の束をもっているのが見える。恐らく検問でもしているのだろう。
……。
「あと10分くらいかな?大丈夫かい?待っている間、コレでもつまんでいなさい」
そう言って、ジオさんは馬車から真っ赤な実を取り出して俺に差し出した。
………。
「あ、ありがとうございます!」
「まぁ、この王都までの道のりに比べたらスグだけどね?」
ジオさんが事も無げに言い放ったその言葉にずっと保てていた俺の理性がぶっ飛んだ。
「ホントそれな!え?遠くね!?7日て!7日て!!かかり過ぎだろ!!頑張ってスルーしようかと思ってたけど無理よ!そうやって口に出されたらそりゃスキル発動しちゃうよ!?もはやスキルか俺の意思かは分かんなくなっちゃってっけどもさ!?え?なに?コレが普通なの!?ジオさん毎回7日かけて王都来てんの?往復で14日て、考えられんわ!普通に日帰りで考えてたんですけど!?だってウチの父ちゃんと母ちゃん、朝行って昼帰ってくるから!コレってあれか?冒険者だから?熟練の冒険者がなせる技だったの?それにこの7日間で積んであった新鮮な野菜達半分以下になっちゃってるし!そりゃそうだよね!?俺たちの食料として腹膨れるまでめっちゃ食いまくってたからね!?途中から売り物だってこと忘れたわ!だって野菜と謎のカラフルな実しかないから全然お腹が膨れないんだもん!!育ち盛り舐めんな!ってか、マジでこの実なんなん??5~6色あるのにジオさん俺に赤しか渡さないけどなんか意味あるの?コレ、あれだよね?ジオさんの家の後ろで隠す様に育ててた木のヤツだよね!?ずっと思ってたんだよ、ちっちゃい頃からずぅっと思ってた!あれぇ?ジオさんは一体何を育てているんだろうって!そもそも!そんな事よりも!問題なのは新鮮な野菜達がもう、この7日間でしおっしおのしなっしななんですけど!?コレ大丈夫なの?途中から俺もジオさんも手ぇ付けなくなるぐらいに新鮮さがゼロなんですけど!なんかもう新鮮な野菜達ってよりかは新鮮だった野菜達だよ!!……ソレは野菜全部そうか。だけどこのカラフルな謎の実だけはずっと瑞々しいから尚怖い!日持ちするタイプの実なの!?……ハァ……ハァ……ハァ」
……喉死ぬ。だが全部言ってやったぞ。
すると、ジオさんが目をパチクリさせながらボソボソと口を開き始めた。
「……す、すまん。実を言うと待っていたんだ。いつになったら文句言い始めるかなって」
「いや、どんな意図!?」
どゆこと!?
やばい、ジオさん結構やばい人説浮上。
「まさかここまで我慢して、着いてから一気に爆発するとは思ってなかった」
ジオさんの謎の言い分に戸惑っていると「それに」とジオさんが続ける。
「この野菜達はいいんだ。これはこのまま売るものだから」
「傷んでると思いますけど!?」
この7日間ずっと陽にあたってたし、所々黒いとこあるし。市場とかにはだせなさそうだが、次の一言で俺は自分の耳を疑うことになる。ジオさんは神妙な面持ちでその一言を言い放った。
「それがいいんだ」
ーー………ジオさん闇商人疑惑!!ーー
「あと、そのカラフルな実だったな」
「は、はい」
もう俺の中でジオさんはかなりヤバい人認定1歩手前だ。本来なら認定してもいいんだろうが、ここまで連れてきてもらった恩がある上に村では何度もお世話になっている。そんなジオさんがヤバい人なワケがないと俺の本能が告げている。何か事情があるハズだ。
徐々に解消されていく列の中、ジオさんは俺の持つ赤い実を指差しながら続けた。
「ソレは私にも分からない。いつの間にか家の裏手に生えていたから育てていたんだよ」
「うっそ!こっわ!まって、こっわい!」
もう、ジオさんもこの実もどっちも怖いんですけど。
「因みにだが…」
「もう聞きたくないんですけど!?」
俺が耳を塞いで聞きませんポーズをしているとジオさんが俺の両腕を優しくつかみ「いや、べべ君は聞かなくてはいけない」と優しく囁いた。
「それね、………その実ね。赤い実だけね………食べ物じゃないんだ」
「じゃあなんで食わせてたんダヨ!!!」
恐らく史上最速のツッコミではないだろうか。ってか、え?コレ食べ物じゃないの?赤だけ?他の色は食べられるのに?なぜよりによって赤!?
「それは、べべ君が美味しそうに食べてたから」
「だって、どれでも好きなの食べてもいいよって!?」
確かにジオさんはそういった筈だ。村を出た初日の夜に。火を囲みながら「お腹空いたろう?積み荷にあるもの好きに食べなさいって」言ってたじゃん!
「いや、まさか真っ先にその赤い実に行くとは思わなくて」
「いや、まさか食べもの以外が入ってるとは思わないって!そもそも、何故俺に赤い実を与え続けた!?」
それが1番の疑問だ。2個目以降ジオさん俺に赤い実ばっか寄越してきてるからね!?確信犯じゃん!
「いや、あんまり美味しそうに食べるから実は食べられるのかなって。……私は遠慮したいが」
「目ん玉腐ってんのか!?割と嫌々食べてた思うけど!?美味しくないしっ!いや、美味しくないって言うかむしろ不味いくらいだったわ!」
「はっはっはっ」
「なにわろとんねん!!」
よく見ると、周りもクスクスと笑っているようにも見えた。
笑い事じゃないんですけど!?
「いや、私にも孫が出来ていたらこんな会話出来るようになるのかなって」
「その孫もどきに何てもの食わせてんだよ!」
「あまりにがっついていたから……言うタイミング失っちゃって……」
「最初に言え!クソジジイ!!」
そう言って、ジオさんをしばこうと思って振り上げた右手から何かがすっぽ抜けた感触がした。………そういえば、俺……赤い実持ってたな。
周りを見渡すと皆、反応は様々だが見ている方向は同じだった。それはジオさんも例外ではない。俺の背後だ。俺の背後に皆の視線が集まっている。
………え?なに?怖いんですが。
俺は恐る恐る振り向いた。
「……………っ!あぁっ」
「……………」
そこには赤い汁を頭からポタポタと垂らしている男性が立っていた。
身なりからして、恐らく検問していた騎士と思しき人達だろう。どうやら、いつの間にか俺たちは列の最前列にいたようだ。
「……………」
「……………」
お互い無言が続く。
ジオさん、助けて!孫もどき気まずいよ!
だが、そんな祈りも虚しくそっぽを向き始めるジオさん……。
他人のフリしようとしてる!?
そんな事を考えていると、ポタポタの騎士が向かい合っている俺の両肩に手をポンッと乗せ、口を開いた。
「………分かっているな?」
兜から覗く顔から見て、20代前半と言ったところか?凛々しい眉に切れ長の目。宝石のような青い瞳と絹のように美しい金色の髪。男の俺ですら見蕩れてしまうような、整った顔立ちの男はそのまま俺の手を引いて、歩き始めた。
………え?どこ行くの?全然分かってないんですけど!?俺は再びジオさんに助けを求めようとそちらを見るが……
「武運を祈る!」
とサムズアップされた……うそん。