第十八話「決戦、グラドドドス!」②
「よし、そろそろ『ミョルニル』を出すぞ!」
いよいよ、その時が来た。
ユリアちゃんとの打ち合わせの時点で、剣だけではグラドドドスに致命傷は与えられないと言うことは、予想されていた。
だからこそ、戦闘中に装備を対グラドドドス特化の雷撃槌『ミョルニル』に交換した上で、一気に畳み掛ける。
いかんせん、ミョルニルはユリアちゃんにはオーバーサイズ&オーバーヘビーで、ユリアちゃんの戦闘スタイルには全く合ってない。
だからこそ、ミョルニルは確実にトドメを刺せるほどまでに削ってから、投入する。
そして、そのタイミングの判断については、俺に一任されてたんだが。
俺の見立てだと、ここがそのタイミングだった。
「そろそろ、決め時ってことかい? まだユリアちゃんも余裕がありそうだけど……もう少し様子を見ても良いんじゃないかな? あれもまだ切り札を隠し持ってる……そんな気がするんだ」
「いや、だからこそ……今なんだ。切り札を切られる前に身も蓋もなく、一撃でぶっ潰す! 俺も正直、嫌な予感しかしないからな……。余裕があるうちに勝負を決める。そう言うことだ」
一見、ユリアちゃんが押してるように見えるけど。
このまま仕留めきれるかと言えば、そうでもない。
ジワジワと削ってるのは確かだろうけど、このままだと恐らく長期戦になる。
長期戦となると、グラドドドスは守りに徹してる分余裕はあるし、逆にユリアちゃんはノンストップで動き回ってるだけに、体力の限界ってもんがある。
かと言って、ワンパターンな攻めや休み休みなんて言ってたら、広範囲ブレスや向こうが持つ切り札を使われる可能性がある。
こいつを以前のグラドドドスと一緒だと考えるのはあまりに危険だった。
一番いいのは、本気を出させる前にワンパンで殺すこと!
「……なるほど。ボクもまだ余裕あるけど、ジリ貧になってからじゃ遅い。となると、余力のある今のうちに勝負を決めたほうが、安全かもしれないね……」
「そう言うことだ。エミリーたん悪いが、ここは囮を出してグラドドドスの注意を引いて、その隙にユリアちゃんを下がらせて、装備を交換させる。打ち合わせ通り、ダンテ、エミリーたん……それに「悠久の翼」の前衛組が囮役って事でいいな?」
まぁ、ジルとかアーニャちゃんはごねてたんだけどな。
アーニャちゃんじゃ、グラドドドスには何をやっても、無駄だろうし、ジルも死ににいくようなもの。
ひとまず、非戦闘員連中の護衛ってことで納得はしてもらってるが、今回は出番なしだ。
「了解です! まぁ、守りに関しては私もエキスパートですから! 囮役にはうってつけです」
エミリーたんはやる気満々……まぁ、タンクなんて年中囮役やってるようなもんだしな。
実は一番適任だと思ってた。
「……いいぜ、俺に任せときなっ!」
ダンテもやる気は十分……こいつもなんだかんだで腕利き。
「はい、解りました。ここは見せ場ってところですね! 有翼人の機動力を見せてあげますよ!」
「悠久の翼」の前衛はイゾルデさんと、猫獣人と狼獣人のコンビ。
残りの三人も、実力はあるみたいなんだが、三人ともお子様な上に後方支援要員だから、アマリリス達共々、物陰に隠れて、目いっぱいの支援魔法を突入前にかける役。
ゲームじゃあるまいし、後方支援要員が敵の矢面に立つとかアホらしいからな。
俺はティゲルと一緒に囮組とは別行動で迂回しつつ、ユリアちゃんとの合流を目指す。
ユリアちゃんは、囮につられたことを確認の上で戦線離脱の上で、俺らと合流して、ミョルニルに装備換装した上で、背後から強襲して勝負を決める……そのつもりだった。
一応、防御要員としてナスルさんが同行してくれる……本来、ナスルさんは後方待機組なんだが、気付かれてブレスなんぞ食らったら、俺らだけじゃひとたまりもないからって、名乗り出てくれた。
囮組の方は、イゾルデさんはパーティの防御役で、何気に回避タンクみたいな役割を果たしてるようで、魔法やブレス対策も万全って話で、ナスルさんが俺らと一緒に来てても問題ない。
念の為、グレンから貰った魔力丸をもう一個口に入れて、少しでも魔力を回復させておく。
くぅーっ! マズいーっ!
「よしっ! ここが正念場だ! 行くぜっ! ティゲル! お前も気合い入れろ!」
「フンバーッ!」
ガラゴロとリアカーを引いたティゲルとナスルさんと並んで、一度斜め方向へ駆け抜ける。
ちょっとした岩陰があるから、そこを目指す。
けど、途中でグラドドドスがこっち向いて、ブレスを溜め始める!
「やべぇ! 来るか?」
けど、視界の端にちらりと弾丸のようなスピードでかっ飛んでるユリアちゃんの姿が!
「隙ありっ! どこを見ているっ! 雷光剣……参の型! 『重雷破斬』っ!」
ユリアちゃんが空中に飛び上がって、一際強烈な雷光を纏わせた一撃をグラドドドスの首筋に直撃させたのが見えるっ!
けど、盛大に鱗が砕けただけで耐えたようだった。
「……ほんとに堅いっ! けど、もう一撃! 同じところを!」
ユリアちゃん、こうなったら同じところを集中してガンガン斬りつけて、一気に勝負を決めるつもりらしい!
やれるのか? けど、首の鱗はもうない! もう一度やればっ!
けど、グラドドドスもさるモノッ!
危険を察したのか素早く手足と首をすっこめて、甲羅に全部引っ込めた状態になると、地面に着地するっ!
轟音が轟き、地面が盛大に揺れる!
単なる悪あがき……かと思ったが、思った以上に凄まじい轟音が轟く!
上から岩やら鍾乳石やらが降ってきて、地面もグラドドドスを中心に一気にひび割れだらけになる。
「こ……こんなん知らねぇぞっ!」
……つか、フィールドを壊すってなんだよ! それっ!
グラドドドス風情の攻撃方法じゃねぇぞ!
そもそも、あんな地面に落ちただけこんなになるか?
おまけに、何やら体が一気に重くなる。
「まさか、この辺一帯の重力を引き上げたってのか!」
そんな重力操作なんて……あり得るのか?
いや、思い出したっ! ハンターナイツ……地上編の難敵の一つっ!
重力を操る超重魔獣「グラビノス」
……アイツの攻撃方法が今のやつだ!
広範囲重力増加フィールドを展開した上で、フィールドを武器にする……。
何もかもが鈍くさくなる上に、足場は崩れるわ、上から落盤が降ってくるわで、もうてんやわんや。
……おまけに、その重力フィールド展開中の唯一の攻撃方法。
甲羅に入ったまま、空中に飛び上がってプレイヤーを押しつぶそうとする攻撃。
『ローリングクラッシュ』
これがまたヤバい。
モロに食らうと、体力ゲージマックスでも即死すると言う……。
……ハンターナイツでもレア中のレアのデスアタックだったりする。
確かに、アイツもグラドドドス同様の亀型の防御特化タイプだったな……。
まさか! この土壇場で「グラビノス」に進化させやがったのか!
「これは……重力魔法? けど、こんな規模なんてありえません!」
ナスルさんも驚愕してる。
けどまぁ、重力魔法自体は知られてるんだな。
確かに、浮揚石の存在を考えると、重力操作魔法ってのは存在してもおかしくないか。
「……ありえないはありえないからな。グラドドドスってのは、重力を自在に操る「グラビノス」って上位種に進化する可能性があるんだ」
確証はない。
けど、その可能性はあった。
やべぇな……地上編のモンスターなんて、浮島編のと比べたら、マジで別格だぞ。
「まさか、この土壇場で上位種へ進化したと?」
「その可能性がある……。実際はどうか解らんがね。あれはもうグラドドドスじゃねぇよ……ここに来て、存在進化とはな……。コイツが向こうの切り札って事か。完全にやられたな」
「……ですが、あれも魔力によるもの……『解呪』を試してみます……。解除できるかどうか解りませんが」
ナスルさん、『解呪』の発動準備を始める。
けど、こんな広範囲に広がってて……『解呪』で解除出来るものなのか?
見ると、囮役として前に出ていたダンテ達も膝をついてて動けそうもない。
ユリアちゃんもグラドドドスの目の前で膝をついて、苦しそうにしてる。
……なるほど、近くにいるほど強く影響を受けるって代物か。
けど、不味いな……。
「グラビノス」と同等ってなると、恐らく向こうも甲羅に引っ込んだ状態でないと『重力加重』は使えないと思うんだが……。
コイツは、どうも際限なく超重力を強めていって、俺らをまとめて押しつぶすつもりらしい。
実際、こうしてる間にも段階的に身体が重くなっていっている。
人間はそんな長時間、加重Gがかかった状態で活動できるように出来てない。
大体6Gくらいまでなら、普通の人間でもギリギリ心臓のパワーが拮抗して、生存は可能なんだが。
自由に動けるかと言えば、そんなことはない。
なお、7Gを超えると、もう血流が保てなくなって、意識を失ってしまう。
ユリアちゃんあたりなら、もうちょっと上でも大丈夫そうだけど、動けるかどうかは微妙なところ。
けど、こんな超重力……相手も同様に影響を受けてるのは明らかで、限界ってもんがあるはずだった。
向こうも高荷重Gの中心地だけに確実に影響を受けていて、甲羅にヒビが入ってきてるし、地面にもどんどんめり込んでいってる。
つまり、これは向こうも自滅覚悟のチキンレースってことだ。
だが、恐らく人間よりグラドドドスの方がしぶといのは確実だった。
だからこそ、敵はコレに賭けたのだ。
……このままじゃヤバい!
考えろ! 俺に出来ること!




