第十八話「最後の罠」③
本体には見向きもせずに、壁に出来た影に潜り込むとその影を全身全霊の力で目一杯フン捕まえるっ!
案の定、抵抗が強いけど……2秒、いや5秒くらいなら止められそうだ!
「今だよっ! グレンさん! クロイノくんが足止めしてくれているっ! 一撃で決めてっ! コレを使って!」
ミレニアムちゃんが何もないところから、青い刀身の刀を取り出すとグレンに投げ渡す!
「ほほぅ! これは水属性の刀でござるか! かたじけない!」
「へへっ! ミレニアムちゃん、ナイス! 増援も……なさそうだな! 急げっ! あまり長くは持たねぇぞ!」
炎の騎士もまるで胴体を見えない手で掴まれたように、空中に浮かんだ不自然な体勢でもがいてる。
ああ、そうか……一応、逃れようとしてたのか。
と言うか、空中にいても影を止めることで固定できるのか……なんつー能力だよ! これっ!
おまけに、足伸ばして剣持ってる右手にも干渉してるから、剣も振るえなくなってる……これならっ!
「……お見事っ! では、ここは某も秘剣を使って、一撃で仕留めるとしんぜよう。タイザー流シノビ秘剣、五の太刀『逆瀑布』!」
グレンが青い刀を抜くと、神速の踏み込みで、炎の騎士を股下から一刀両断にする。
「……斬ッ!」
真っ二つになった炎の騎士が地面から吹き出した水に包まれると、ジュッと言う音と共に真っ黒になると、バサッと塵になる。
……すげぇっ! 水属性の剣技かよっ!
しかも「逆瀑布」とか技名もイカすっ!
そんなのまで使えるとか、やっぱこいつ、割ととんでもねーな!
「やったぜ! ……って、な、なんだこれ……。くっそ、まさか、これが魔力切れってヤツか……」
なんかもうグワングワンって感じの酩酊感と共に、影から強制的に飛び出させられる。
空中にいるのを無理やり踏んじばった上に、明らかな格上を足止め=魔力ゴリゴリ削れる。
要は、これが無茶した代償ってことだった。
まさか魔力を使い切るとは……。
もう全身の力が抜けて、身動きすらもままならない。
きっちぃな! これっ!
「ク、クロイノ君! まだ終わってないよ! 立つんだっ! え、援護を!」
バイコーンは俺をターゲッティングしてるらしく、蹄で地面を引っ掻きながら、俺の方へと向き直る所だった!
やべぇな……こんなグデグデのところをブチかまされたら……。
「……まだ来んじゃねぇっ! くそっ! グレン、すまんが……頼む!」
今の俺はまともに動けねぇし、魔力も尽きてる。
けど、ここでミレニアムちゃんに頼ると、間違いなくヤバい事になる……。
グレン……頼むぜ?
「……心得たっ! バイコーンごとき、某の敵ではないわっ! 四の太刀『雷切』っ!」
……グレンの振った刀から稲妻の形をしたオーラみたいなのが横薙ぎに伸びて、俺の方へ突進しつつあったバイコーンをかすめる。
向こうもとっさに飛び上がって避けたように見えたのだけど、地面にシュタッと着地するなり、胴体だけがゴロンと地面に転がって、足だけがぽつんと残ったままになっていて、やがてバタバタと倒れる。
……遠隔斬撃! それも一撃必殺のかよっ!
「すまぬなっ! 下手に避けねば、一刀のもとに介錯してやったのだがな……往生せいっ!」
グレンが祈りを捧げるように片手を顔の前に持っていきながら、更に縦に一振り! 先ほどと同じく雷光が地面を走っていく!
芋虫みたいにグネグネともがいてたバイコーンの首と胴体がスパッと別れると、やはり塵に帰っていく。
そして、その直後、広間に展開されてた魔法陣も消滅していく。
「おお、ミレニアムちゃん、もう自壊させたんだ。まぁ、俺らが一手早かったみたいだがな。グレン、やるじゃねーか! さすがA級ニンジャっ!」
フラフラながら、立ち上がると、グレンの所に駆け寄っていって、手を挙げると向こうも同じ様に手を上げて、思わずハイタッチ!
相手が野郎だろうが、命の恩人みたいなもんだからな!
これくらいやりたくもなるぜっ!
でも、それが限界……思わずばったり倒れる。
「だ、大丈夫でござるか?」
「……へっ、大丈夫じゃなさそうだ……だが、終わったみてぇだな」
「そのようで……いやはや、お二人の連携もお見事でしたな。クロイノ殿の影縛りの術は聞いておりましたが、あの炎の騎士は自ら光を発することで影が無いから通じないと思っていたのでござるよ。しかしながら、場外のミレニアム殿の力を借りて、無理やり影を作り出すとは……見事でござった!」
ったく、炎属性で影が出来ないとか、グレンと俺、両方への対策だった感じだよな。
と言うか、グレンもあんな水属性の剣技なんて、隠し玉持ってたみたいだしな。
押され気味に見えたが、その実……ちゃんと切り札は用意してたんだな。
「こっちはヒヤヒヤモノだったけどね。さすがにただ光を放っただけじゃ、ルールには抵触しなかったみたいだね。けど、今のはボクが自壊させたんじゃなくて、向こうが自分で壊したって感じだったよ。もうちょっとで解析できたんだけどね……まんまと逃げられたよ」
「そうか。しっかし、外から武器を投げ込むのもありだったんだな。あの場合は、あのままだったら、グレンの戦力評価が上がるって感じだったのかな?」
「恐らくそうだったのでしょうな。多分、あのまま魔法陣が再起動していたら、もう少し手強い相手が出てきていた可能性が高かったでしょうなぁ……」
「それをせずに、自壊させたとなると、それよりも魔法陣を乗っ取られる方を恐れたって事か。敵もいろいろ考えてるみたいだが、今回は失敗だったと思うぜ。ダンジョンの構造が前のままなら、この大広間が最後の関門ってとこだからな。ここで温存に走るとかヘタれた証拠だぜ」
「ふむ、そのようでござるな。今のバジリスクの待ち伏せからのコピーデーモンが最後の罠……だったのですかな」
「多分な。案外……バジリスクの待ち伏せが起死回生の策だったのかも知れんな。グレン、アンタがブレスを避けきって、一人で追ってくるってのは割と想定外だったんじゃねぇかな?」
「なるほど、確かにそうだったのかも知れんですな……。うむ、そうなると次でいよいよですかな」
「まぁ、そう言う事だ。ここまでくりゃ、十分だ。このままユリアちゃんを待って、最終決戦と行こうぜ!」
とりあえず、俺はもうリタイアっぽいけどな。
実際、この大広間には巨大な扉がある。
この向こう側は、ボス部屋。
厳密にはダンジョンコアの埋まってる最深部なんだがな。
実際には、最深部からこの扉以外、他の方向にも通路が伸びてるんだよな。
残念ながら、前回の討伐戦では他の通路の探索は及んでないから、未踏区域じゃあるんだ。
前回は、その未踏区域からサラマンダーとか出て来たけど、今回はどうだかね。
「クロイノ君は……その様子だと魔力枯渇みたいだね。あはは、ぐにゃぐにゃだね」
俺、脇を抱えられて、ブラーン状態。
ミレニアムちゃんが楽しそうに、俺の身体をブラブラさせて遊んでる。
でも、俺もう……抵抗する気力もありませーん。
「なるほど。確かにあれは相当な魔力を持つ強敵でしたからな……足止めだけで魔力を使い果たしてしまったのですな」
「みたいだなぁ……。しっかし、これはなかなかキチィな……」
「大丈夫でござるか? 某……正直、あのままでは、あれには単独では勝てぬと思っていたでござるからな。まったく、命拾い。すっかり借りが出来てしまいましたなっ! 魔力枯渇であれば、この丸薬が効くと思うでござるよ。要は魔力回復ポーションの丸薬版……東方では、薬の類はこうするのが主流らしいですぞ」
まぁ、コイツもイロモノだけど、実力はすげぇ。
かつてのA級よりもよほど強いかもしれん。
オリーブ色の団子みたいなのを手渡される。
もう見るからに、ヤバそうだし、匂いもなんだか正露丸みたいな匂いがしてる……。
「ああ、東方製の魔力丸だね。ものすごく不味いけど、効果は下手なポーションなんかより強力だから、少しは足しになると思うよ」
言われるまでもなく不味いってのは解ってるんだが、飲むしか無かった。
味はもう苦すっぱ甘いって感じでクソ不味い……。
けど、酩酊感が薄らいで、身体に力が戻ってくる。
おお、これがちょっと魔力回復したって感じか!
口の中はクソ不味いけど、耐え忍ぶのみ!
「ふぬぬぬぬっ! 俺、ふっかーっつ!」
とりあえず、ポーズなんか決めてみる!
まぁ、つよがりなんだがな!
「ああ、クロイノ様! またもや大活躍でしたようで……! ユリア、もう感服です……大丈夫でしたか!」
ドカドカと走ってきたユリアちゃんが、ミレニアムちゃんからひったくるように俺ゲット。
「やぁ、ユリアちゃん。なんだ……また一人で突っ走っちゃったんだ」
「エミリーさん達から、二人がグレンさんを追っていったと聞き、急ぎ推参いたしました。けど、さすがですね……すでに最後の扉の守護者も撃破したんですね」
「ははっ。ボクは何もしてないようなものかな。また例のコピーデーモン系だったみたいだけど、それもグレンさんとクロイノ君が始末してくれたよ。もっとも、クロイノ君が魔力枯渇しちゃったから、決戦のお供までは無理そうなんだけどね」
「すまねぇ……。一応、動けるようになったが、魔力はもうギリギリっぽいんだ。けど、この扉の向こうはグラドドドスが待ち構えてるだけのはず……要は、いよいよユリアちゃんの出番って事だぜ」
「解りました。ここまで温存させて頂いた事で、私も万全の体制で挑むことが出来ます。ただ、途中でナスルさんからも説明されましたが、神殿の課している制約は守ったほうが良さそうですからね。ミレニアムさんも今回は、後ろで見ていて下さいね」
「そうだね……。まぁ、多少の援護くらいなら、問題ないらしいから、その程度はさせてもらうつもりだよ。けど、これで簡単に倒させてくれるほど、甘くないだろうからね……。手加減なんてする必要はないけど、細心の注意と警戒を……」
「はいっ! 解りました! では、早速参りましょう!」
「まぁ、焦んな。俺らは直接手出しは出来ないけど、目一杯援護させてもらうからよ……。そうだろ、エミリーさんよ」
ちらりと後ろに視線を送ると、エミリーたんと、A級冒険者チームがすでに揃い踏み。
ダンテやアマリリスもその後ろに続いてる。
「はいっ! ここまで来たからには、我々も共に戦います! まぁ、制約についてはこちらも解ってますから、未探索区域の封鎖、召喚モンスターへの対応などはお任せ下さい!」
……そんな訳で、ギルドの連中を加えた作戦会議開始!
勢いだけで突入とかやってたら、失敗の元。
仕事でもなんでも段取りってのは大事なんだぜ?




