第十八話「最後の罠」①
「……なるほど。学習するダンジョンコアですか。それは我々にとっても未知の領域ですね。ですが、討伐戦の再挑戦のケースではいずれも苦戦したという話です。いずれのケースでも初回の討伐戦で、相応の戦訓を得て、万全の準備の上で挑んだにも関わらず、初回以上の損害を被ったようで、各地のギルドにもいくつか記録が残っているようなのですが、今すぐ詳細をと言われるとなんとも……」
後続のフルアーマー、エミリーたんが合流。
ひとまず、後方でも明らかにおかしいと思ってたようで、ここで一旦善後策を話し合うことにしたんだ。
と言っても、ギルマス経由でギルドの留守番組に、各地の討伐戦……それも再挑戦のケースについて問い合わせてもらった程度ではあるんだがね。
まぁ、ミレニアムちゃん情報程度の情報しか得られなかったんだがね。
時間をかければ、もっと詳しい情報も手に入りそうではあるんだが、正直、時間は敵の味方って気がするんだよな……俺の勘だが、恐らくこのダンジョンは時間をかければかけるほど、攻略が困難になっていくのだと思う。
それこそ、この調子だとユリアちゃんたちでも危くなるかも知れない。
「……いずれにせよ。二人は温存するってのが正しそうだな。敵も本腰入れて、迎撃に回ってるようだからな……ここが正念場だ。エミリーたん、そっちはどうなんだ? 退路の確保は順調なのか?」
「皆様の後方の掃討は、もう拍子抜けするくらいには順調ですよ。ダンジョンの外側も散発的に生き残りが戻ってくるのを迎撃する程度で問題はないみたいです。となると、ここから先は戦力的に余力のある我々の出番かもしれないですね」
「すまんが、その方が良さそうだな。俺らだけで、二人を抜きでってなるとさすがに心許ない。A級冒険者パーティに先行してもらって、ちょっと進んだら交代するってのを繰り返して、ローテーションしつつ、ゴリ押しで前に進むってのはどうだ? ちょっと負担をかけることになるんだが……敵が学習するなら、手変え品を変えて、向こうが対応する前に押し進めるってのが、ベストだと思うだがよ」
「そうですね……グレンさん、そう言うことですが、問題ないですか?」
「ふむ、某達も物足りないと思っておりましたからな。敵は搦手に長けている……となれば、シノビたる我らのほうが与し易いでしょうな……。では、某達に先陣をお任せ下さい。戦闘もなるべく見つからずに最小限に留めれば、学習される機会も最小限に出来ると思うでござるよ」
いつの間にか、近くに居た赤いニンジャ、グレンが応える。
こいつ、何気に紐伝って、天井からぶら下がってるし。
いつの間にか入ってきて、天井で出待ちしてたらしい。
天井には、例のカラフル忍者軍団が重力を無視してるような感じで、逆さまになって張り付いてる。
「解りました! それでは、「ゲッコー」に先陣をお願いします! クロイノさんもそれでいいですか?」
「そうだな。シノビなら先行偵察もお手のもんだろうしな……そう言う事なら、任せるぜ! お手並み拝見といこうか」
「お任せあれでござるよ。某達は格上を奇襲で仕留めるのが得意なのでござるよ。目立った強者を仕留めつつ、某達は上を行き、エミリー殿達は下から雑魚を蹴散らすというのはどうでござるかな?」
「いいですね! それ! それで行きましょう!」
「では者共、参るぞっ! 我らの本気……見せてやろうではないか!」
そう言い残して、あったり前のように逆さまになったまま、天井を走っていくニンジャ軍団。
あれ……どうなってんだ?
「では、この私もこれより先陣を預かります! ふふっ、少々暴れたりなかったので、ここはお任せを!」
そう言って、エミリーたんもゴツい鉄兜をかぶり直すと後を追っていく。
重厚なフルプレート着てんのに、足はやたら早い。
けど、黒装束とローブ姿の奴がすかさず、後を追っていく。
どこに居たんだか、俺にも解らなかったんだが……どうも、エミリーたんの護衛らしい。
「……うん。とりあえず、ボクらも前に進もう。まぁ、この調子だと道中はなんとかなりそうだね」
「そうだな……。まったく、インラントギルドも色々腐ってるって思ってたんだが。だいぶ風通しが良くなった……そう言うことなんだろうな。クロイノ! 行くぜ! 俺らも負けてらんねーよなっ!」
「おうともさっ! すっすめぇー!」
「すっすむにゃーっ!」
ここまであんまり役に立ってないアマリリスもイケイケ!
まぁ、ヒーラーは戦闘後の怪我の治療が主任務だから、別に戦闘で役立たずでも誰も文句は言わない。
どこでも戦闘に参加なんてすると、むしろ引っ込んでなさいって怒られるらしい。
誰も怪我しなけりゃ、活躍の機会もないんだが、ヒーラーってのはそんなもんだ。
とは言え、なんつーか、まさに勝ちムードって奴だなっ!
ゲームだったら、BGMが勝利のテーマに変わって、もう止めらんない! って感じ?
角を曲がると、ゴブリンアーチャーの作ってた陣地が正面から、蹴散らされた痕跡が残ってた。
さすが豆タンク!
エミリーたん、ゴブリンアーチャーの堅陣を真正面から、粉砕したらしかった。
遮蔽物が焦げてる様子から、上から爆炎魔法でも撃ち込まれて、一気にエミリーたんに蹴散らされた……そんな感じらしい。
……どんどん進む。
瀕死のオークが壁に半分めり込んでたり、頭が胴体にめり込んだまま、それでも死にきれない哀れなオーガが転がってたり、鬼神か何かが暴れまわったような形跡が残されてる。
なお、派手に暴れてるのはエミリーたんだけで、ニンジャ共はほとんどの敵をスルーしていってるっぽい。
基本は、頭上から、もしくは正々堂々背後から。
宣言どおり奇襲、暗殺アタックのオンパレード。
まぁ、隠蔽スキルも極めれば、視界に入ってても解らなくなるからな。
正々堂々と戦うほうが間違ってる。
その辺は、身近に見本が居るから、良く解るぜ。
「あの受付嬢……なんと言うか、尋常じゃないねっ! それにあのカラフルなニンジャ達も。ここまでの実力者だったとは!」
例によって、俺とミレニアムちゃんで先行。
ユリアちゃんは、A級パーティの「悠久の翼」と合流して、脇道を制圧しつつ、後続中。
彼女も温存方針にも納得してくれてるから、黙って従ってくれた。
「悠久の翼」のメンバーは後続の非戦闘員組とユリアちゃんの護衛。
「独眼狼」は後方警戒として、散開しつつ、ダリオと一緒に最後尾を固めてくれている。
さっきの広間から後ろは、ギルマス達が中堅パーティなどを使って、退路確保してくれてるらしいから、問題もないらしい。
ダンテ達は、さっきまで一緒に居たんだが、一つ前の分かれ道のハズレ通路から出て来たオークと交戦中。
ここは任せて先にいけとか言ってたから、任せてきた。
何気に死亡フラグなんだが、問題はないだろう。
まぁ、後続のユリアちゃんあたりが合流すれば、余裕瞬殺だろうから、別に心配はしてない。
「……だなっ! けど、そろそろ、対応されるんじゃないかな? あの手の猪突猛進の重戦車を止めるとなると、それなりに難儀するだろうが。まぁ、恐らく搦手で来るだろうな」
エミリーたん、コンバットハイにでもなってるみたいで、ズンズン進んで片っ端から蹴散らしてる模様。
まぁ、ユリアちゃんとやってる事は大差ないんだが、エミリーたんが対応される分には、問題ないっちゃ問題ない。
「……だねぇ。ボクも君も、向こうのやり口はなんとなく解ってきつつあるからね。せめて、慎重に進めって言っとくべきだったね。実際、前の方でなにか起きたみたいだよ……。急に静かになってないかい? あまりよろしくないかもね。これは」
そう言って、ミレニアムちゃんが突然立ち止まる。
……耳を澄ませてみる。
確かに、さっきまでしてた戦闘音が急にしなくなっていた。
後方は、ダンテ達は団体と交戦中らしく、騒々しいんだが、前方からは物音が一切しなくなってる。
「A級のグレン達もいたのにか? ……いったい、何が起きた?」
「解らない……。クロイノ君もすぐに影になれるようにしておいた方がいい。ひとまず、ボクの影の上に乗るようにして、慎重に進もう……。エミリーさんに連絡は……戦闘中だったらマズイか」
「だな……多分、次の曲がり角だ……俺が先に行くぜ?」
影になって、角の壁に張り付きながらネリネリと前進。
角を曲がると、前方に数人の灰色の人影が見える。
けれど、その人影達は微動だにしない。
大盾を構えた小さな人影。
エミリーたん。
全身石のようなものに覆われていて、ピクリとも動かない。
他にも護衛の二人やニンジャもやられてるらしく、同じく彫像みたいになってる。
……何が起きた?
「ミレニアムちゃん……。マズいな。前を進んでた奴等は、全員石化の呪いか何かで一網打尽にされたらしい……。一体何が起きたと思う?」
角に戻って、ミレニアムちゃんと相談。
ここに来て、A級冒険者を一撃でまとめて、石化させるようなのが出て来たとか。
思いっきり初見殺しを食らった感じではあるんだが……なんなんだそれ?
「石化の呪い? そんなの使ってくるとなると、相当高度な悪魔系とか、魔族系……後はバジリスクとかかな? けど、A級冒険者やエミリーさんの持ってた魔術防壁付きの重大盾ですら防げなかったとなると、なんだろ? クロイノ君は心当たりない? あの盾、相当な業物でボクの魔術でも簡単には撃ち抜けないような感じだったんだけどね」
エミリーたん、やけに強気だと思ったら、そんなの持ち出してたのか。
ただ、魔術防壁で防げないとなると、魔法や呪いじゃない。
となると……他に心当たりねぇ?
……石化毒か?




