第二話「クロイノ大地に立つ!」③
ドンガメがモタモタしてるスキに一気に距離を詰めて、ティゲルから回収した油の入った革袋を投げつける!
なんだか良く解らん、ドロッとした油だが、ランタン用らしいので良く燃えるはず。
背中にバチャッと落ちるなり、どうもブレスの火の気が残ってたらしく、なにもしてないのにソッコーで点火。
「にゃっはーっ! 派手に燃えろぅ! 今夜の飯は亀の丸焼きだっぜ!」
まぁ、亀の丸焼きなんて、食えるのかな?
すっぽんは甲羅が柔いから、普通にバラせるんだが……普通の亀は……そもそも食えんのか?
もっとも、ドンガメも背中に放火までされて、さすがに怒り心頭らしく、前足を蹴って、一瞬二本足になると、一気に方向転換してこっち向いた!
……うぉっ、そんな器用な真似を! しかも地面が揺れたぞ! さすがヘビー級!
続いて、ドドドドドと突進! なんと言うか、怒り心頭って感じ?
ま、まぁ……タバコでジュッとやられた位のダメージは行ってそうだからな。
とにかく、ちょっと意表は突かれたけど、ドンガメの突進なんて、所詮はにゃんぱらりーん!
「遅いっ! 遅すぎるっ! この俺を轢き殺してぇなら、音速の壁でも超えてみなっ! ニャハハーッ!」
華麗に宙を舞って、クルクルシュタッと綺麗に着地パリィ。
やっべっ! なんて身のこなしだよ! 俺っ!
うーむ、めっちゃ身軽な上にどんな適当にジャンプしても、身体がオートマチックでシュタッと着地する。
猫の着地成功率って、100%に近いって話だけど、なるほど。
あれって、オートマチック……反射行動だったのか。
何も考えなくても、身体が動くとかいいねぇ……。
ドンガメはそのまま、壁にドーンと突き刺さる。
あの巨体で全力突進とか急に止まれる訳がない……。
そもそも、こんな狭いところでフルスロットルとか馬鹿か?
……盛大に自爆ってやんの。
頭から行って、派手に頭をぶつけたらしく、首がグラグラと揺れてる。
俗に言うピヨリ状態っ!
うひょーっ! 攻め時だよっ! 攻め時っ!
ここで必殺貯めアタックとか、10連コンボなり、チャージアタックで一気に持っていくってのがセオリー!
うわぁっ! こんなチャンスに何もしないとか!
ゲーマーの条件反射……すっげぇ、超必とかキメたい衝動に駆られる!
だが……ナックルの攻撃力程度じゃ、どうせダメージなんか通らんからな。
短剣も刺さったまま……一本程度じゃ、毒も意味はないだろう。
……ここは、黙って見てるしか無い。
うん、ピヨってるとこを敢えて、ほっといてタイムアップ狙いってのも戦術の一つだしな。
ここは少しでも時間を稼ぐべき局面なのだ。
冷静に……こいつは、ゲームじゃねぇんだ。
ワンミスであの世行きのガチ実戦なんだからな……。
仲間たち……ティゲルはすでに割れ目に突入して、退路を確保してくれている様子。
サビーネは、アマリリスの隣で待機。
ハラハラした様子でこっちを見てるので、軽く手を振って心配するなと伝える。
アマリリスの方は……なんか、ゲージがギュンギュンと伸びていってる。
なにあれ? クロイノの記憶では全く見覚えない。
俺になってから、使えるようになった特殊能力かも知れんな。
あんま意味ねーなー。
……だが、それどころじゃないっ!
背筋が急にゾクッとしたので、振り返ると、未探索だった右手奥の通路からワラワラと赤いトカゲみたいなのが登場ッ!
サラマンダーッ!
……と言っても別に火とか吹かない。
大きさは、尻尾も入れて2mくらいと結構デカい上に、二足歩行する。
赤くて、炎系の攻撃に耐性がある……デカいトカゲ。
ジャラなんとかパークのラプトルが近いかなぁ……ハンナイにも雑魚で居たから知ってる。
けど基本、集団で襲い掛かってくるし、俺らにとっては十分強敵だ。
「野郎ッ! 増援呼んだのかよっ! タイマンじゃなかったのかよ……クソがっ!」
ドンガメはピヨってるし、コイツとタイマンやってる分には問題ないが。
サラマンダーに囲まれて、連携されたらヤバいぞ!
「な、なんか武器とか落ちてないかー!」
短剣はドンガメの首に刺さったまま。
その辺の石でも拾って殴りかかる……?
一応、爪もあって牙も生えてるけど、こんなん微妙だよなぁ……。
ネコ科の戦闘様式は……飛びついてホールドして、首にガブッ?
でも、ナックル……そんな戦い方してなかったなぁ。
人間みたいに、ちっちゃい武器振り回して戦うとかそんな感じだった。
けど、あのジャンプ力……脚力は相当あると見た。
この場は四の五の言ってる場合じゃない!
思い切って飛び込んで、死ぬ気で暴れまわって、怯ませる!
とにかく、時間だ! 時間を稼ぐのだぁっ!
「やってやらァっ! フッシャアアアアアッ!」
吠えるっ!
姿勢を低くして、地面を蹴る! 目標は先頭のサラマンダーの足ッ!
半ば身体がオートマチックに動いて、景色が流れたと思ったら、次の瞬間巻き付くようにサラマンダーの足に逆さまになって取り付いてた。
「逝ったれ! この野郎っ!」
両腕で足をロックしつつ、両足で思いっきり蹴っ飛ばす!
足首をロックした状態で、人間で言うところの膝関節を横から思いっきり蹴ったもんだから、メキョッとか言ってサラマンダーの足が真横に曲がった……。
「テコの原理! 応用編っ! ヒャッハーッ!」
そのまま真横にすっ飛んでって、背中から別のサラマンダーに激突!
と思ったら……次の瞬間にはグルンと身体が180度回転してて、そのまま跨るようにサラマンダーの首に後ろから取り付いてた。
爪で首をロックして、もう一回渾身のダブル猫キック!
サラマンダーの首がメキョッて言って、真後ろに折れた。
キャメルクラッチ? サバ折り? どっちでもいいっ!
そのまま、グルグルと回転しながら、すっ飛んで両手両足で地面に着地! 勢い余ってたけど、ガッツリ地面を掴んでズザーと後退。
おおお、マジカヨ! 俺っ! 動きやべぇだろっ!
包囲しようとしていたサラマンダーも一瞬こっちを見失って、右往左往してる。
最初のやつは、足を折られて地面でもがいてて、首へし折った奴はビクビクと痙攣しながら横たわってる。
鱗は硬いみたいだけど、意外と骨が脆いらしく、なんかあっさり逝った。
こいつらって、鳥の先祖みたいな奴らで小型敏捷化への進化過程にあって、骨は軽量化の為に、スカスカでそこまで丈夫じゃなかったって話だったな。
ナックルも本物の猫と違って、結構デカイ。
大きさとしては、ヒョウとかチーター並みの図体はあるし、二の腕とか足も割とぶっとい。
ネコ科もこれくらいの大きさになると、人間だって素手だとあっさり殺られるくらいには高い戦闘力がある。
実際、俺もほとんど本能任せで自分より一回りデカいサラマンダーを二匹戦闘不能に陥れてしまった。
あの反応速度、身のこなし、以外なハイパワー。
おいおい、ナックル……普通に強いんじゃね?
サラマンダーはざっと見て、7匹……。
最初は9匹だったのを2匹仕留めた……不意打ちが成功したのは、悪くない。
アマリリス達の方は……ゲージはあと二割くらい。
サビーネがオロオロしてるようだけど、こっち来んな! とジェスチャー。
気持ちは嬉しいが、サビーネが俺みたいにやれるとは思えない。
多分、一連の動きはこのクロイノの持ってる戦闘本能を俺が強制的にオンにさせたバーサーク状態みたいなもんだと思う。
俺の記憶にあるクロイノの戦いぶりは、タンクそのもの。
盾持って、攻撃が来たら踏ん張る……。
御主人様の背中を守ったり、囮として前に出たり……。
ぶっ飛ばされてピヨったり、ビビって逃げたことも多々あり。
痛くて辛くて、泣き叫んだり……あ、うん……その、なんだっ!
……そう言うこともあらぁなぁ……。




