第十四話「冒険者達再び」③
「ひとまず、作戦案としては、クロイノ君が出してくれた通り、ボクとユリアちゃんが先行して、飛行船から上空偵察を行う。その上でダンジョンの入口付近にボクの魔法空爆を実施して、まずは外に溢れた魔物達を一方的に殲滅する。軽く千匹くらい居るって話だけど、まだ瘴気が広がってないから、入り口付近から動けないみたいで、いい感じに固まってると思うんだ。付近にもそこそこ散ってるみたいだけど、その辺の細かい掃討は、後追いで出陣する後詰めの冒険者諸君にお任せするって事でいいかな?」
……チョット俺、本気出しちまったぜ。
今回の作戦概要は俺原案、ミレニアムちゃん監修。
飛行船からの魔法での空爆ってのは、どうもミレニアムちゃんも発想になかったみたいなんだよな。
ちなみに、この世界の科学技術は割と進んでて、特に帝国の科学技術に関しては、割と先進的で19世紀から20世紀初頭相当……蒸気機関も実用化されてて、大砲とかもある。
もっとも、蒸気機関と言えば大抵の人が思い浮かべる蒸気機関車は、どこも鉄道が必要なほど広くはないので、鉱山なんかで、トロッコをまとめて引っ張るみたいな感じで、短距離大量輸送手段として使われてるとかそんなもん。
蒸気機関は鉱山の採掘動力や工業生産用、あとは飛行船の動力源として多用されてる感じだな。
帝国は、この蒸気機関を核心技術としているようで、この分野については他国の追従を許さないくらいの勢いで、発展させている。
もっとも、電気関係技術はほとんど発達してない……。
この辺は、魔法と言う代替手段が発展したからなんだと思う。
通信なんかは、通信札や数千キロ離れてても会話が出来る遠話水晶やらがあるから、情報伝達は現代並みに早かったりもするんだがね。
夜の街の明かりも、日が暮れ始めると街中の支柱にランタンを引っ掛けて回ってるなんて調子で、ガス灯すら普及してない……そのランタンの燃料も菜種油とか植物性油脂が主流で、なんともエコロジー。
どうも石油や天然ガスと言った化石燃料資源が浮遊島ではあまり採掘されてないようなんだよな。
石炭なんかは採れるみたいなんだが、質としてはあまり良くないみたいで、蒸気機関の排煙とか割とすさまじい事になってる。
鉱山街とかも採掘の排煙のせいで、住宅とか道も真っ黒になってるし、まともな人間が住むにはキツイ環境ではあるんだが。
俺らナックルはそんな煤煙だらけの劣悪な環境だろうがケロッとしてるので、鉱山街とか行くと人間の方が少数派だったりもする……俺らナックルも大概だよな……。
まぁ、ハンターナイツの設定だと、地上が汚染されて住めなくなった人間がとりあえずの安住の地として、島を空に浮かべる技術を開発したとかなってたみたいだからなぁ。
そんなある意味人工環境で、化石燃料が出来るほどの年月が経っている訳でもないとなると……まぁ、いいとこ石炭くらいしかなさそうだよな。
石炭ってのは、割とどこにでも埋まってて、泥炭なんかも極端な話、たった数年湿地帯に湿った枯草とかを山積みにしてただけで、環境によっては泥炭化するので、日本でも結構あちこちに泥炭地ってのが存在するんだよな。
北海道が割と有名だけど、関東近辺でも荒川や利根川みたいな大河川の河川敷とか土手なんかは、この泥炭地って事も多い。
まぁ、資源が偏ってるから、技術も自然に偏る……そんな所なんだろう。
ちなみに、俺は大学で「地学」を専攻してたから、こういった異世界の自然環境や文明の考察に関しては、むしろ得意分野だし、こう言う考察もすんげぇ面白いって思ってる。
「地学」と言うと河原で石を拾い集めたりするようなのを想像する人も多いかもしれんが、それは「地質学」のことで、「地学」と言えば本来「地球科学」と言う学術分野を指すんだ。
その研究内容は地球の構造や環境、地球史など多岐にわたり、天文学すらも関わってくるような割と壮大な分野でもあるので、夏目雄馬の記憶を取り戻した後も、思わずジジィの蔵書とか読みあさっちゃったし、暇さえあればこんな風に考察したり、ユリアちゃんと近くの河原とかに出かけてフィールドワークなんかもやってるんだぜ?
もっとも、そんな地学なんか専攻してても、就職にはあまり役に立たなくて、親が東証一部上場企業以外への就職は許さないとか変な縛りを課してくれたので、ものの見事に就職に失敗……ニート化して、家を追い出される羽目になっちまったんだがね。
おまけに、大学の学費は親が俺名義で借金して賄ってたみたいで、その事を知ったのも追い出されてから。
自分の親とは言え、その鬼のような仕打ちには、本気で泣いた。
まぁ、今となってはどうでもいい事なんだね。
恨みつらみもしがらみも全部、向こうに置いてきた……それでいいんだよ。
俺は、この世界でナックルとして、目一杯楽しく生きるんだよ!
当面の目標は、ユリアちゃんのサポートだけど、将来的には地上世界の探索とかもやれないもんかなって思ってるんだよな。
俺が思うに恐らく地上は、お宝の宝庫だろうからな。
ハンターナイツでも、終盤は地上編ってなって、地上世界が冒険の舞台になるんだが。
地上世界は新素材とか、上級アイテムの材料とかの宝庫で、強力な装備や回復アイテムとかが作れるようになるし、浮島編の装備の上位互換装備やらも続々と作れるようになって、それまで使ってた装備やアイテムがごっそりオワコン状態になって、悲しい思いをすることにもなるんだよな……。
ちなみに、地上世界編でもナックルは大活躍する。
元々地上由来の生物と言う説があるくらいには、頑丈でタフな奴らだから、地上世界編ではこのナックル達と一緒に汚染された地上に開拓村を作って、瘴気を浄化しながら、周囲をどんどん開拓していくって街育成の要素もあったんだ。
村も様々なクエストをこなし、襲撃してくる魔物を撃破したり、大物を撃破していくうちに、徐々に発展し、瘴気を生み出すボスモンスターを撃破していくうちに、村を中心に瘴気が浄化された地域が広がるようになるんだ。
そうなると、浮島の住民たちが移住してきて、村が街にと、どんどん大きくなっていくんだ。
そして、最終的に地上の大陸を人類の手に取り戻せって事で、天空の島の国々が一致団結して、人類の総力を挙げた大決戦が始まって、大陸を支配する魔物のボス群との決戦クエストが行われ、その戦いに勝利した人々は、数千年の時を超えて、地上へと帰還し、感動のエンディングを迎える。
これがハンターナイツの大まかなストーリなんだ。
まぁ、この世界の歴史が今後、ハンターナイツ同様の大円団を迎えるかどうかは解らないけど。
そういう筋道も存在する……俺もそんな風に思うんだよな。
そう考えると、このグラドドドス戦なんて、まだまだ序の口。
ユリアちゃんの栄えある冒険の旅路の最初の一ページってところだからな。
まぁ、たとえ1000匹を超える群れが相手だとしても、ミレニアムちゃんの自重しないコピペ魔法陣の大火力。
あんなの避けれるユリアちゃんがおかしいんであって、魔物の群れなんて鎧袖一触!
ミレニアムちゃんが現地の偵察班から聞き出した情報によると、すでにダンジョン前にゴブリンやらオーク、サラマンダーやらが中から湧き出して、ごっそり集まりつつあるらしい……まだ動いてないのは、ダンジョンから溢れる瘴気が広がるのを待ってるからってだけで、もう時間の問題で氾濫が始まる。
むしろ、一刻の猶予もない……。
さすがに、俺もヤバいって危機感くらいは感じてるんだぜ?
飛行船なら、歩きで二日の距離も、ものの一時間程度で踏破できるから、明日の朝イチで出て、ダンジョン前で集会やってるところを、ミレニアムちゃんの空爆で一気に吹き飛ばすってのが、掃討戦第一段階の概要だな。
元神殿関係者のナスルさんにも聞いてみたけど、神殿の言う正々堂々と一騎打ちってのは、あくまで対ボス戦だけで、氾濫しかけてる魔物共を異国の魔法騎士が蹴散らした所で、別に制約にも引っかからないらしい。
なお、ナスルさんにも神殿のこの妙なこだわりは良く解らないらしい。
彼女も聖国で神官やってた頃から、人類の敵である魔物を滅ぼすのに手段なんて選ぶほうがおかしいって思ってたみたいで、その事で上の人に抗議してみたら、あっさり神殿を破門になったんだとか。
その後、冒険者になって帝国に流れてきたってのが、ナスルさん本人から聞いた簡単なプロフィール。
解せない……と言うか理不尽。
聖国もユルくはなったけど、変なとこは相変わらず。
まぁ、帝国も似たようなもんなんだがね。
そのうち、聖国なんかにも遠征する機会はあるだろうし、ミレニアムちゃんの故郷のタレリアだって行ってみたいもんだな……なんと言うか、夢が広がるぜ。
「ああ、それくらいは我々がやらせてもらおう。増援の心配がいらない単なる掃討戦なら、各個撃破してしまえば、損害も出ないだろうからな。ダンジョン自体の攻略とグラドドドス討伐はそちらが行うということだが、どう言う手はずで行くつもりなのだろうか。ダンジョンの前の大群は、空中から一方的な魔法攻撃で殲滅すると言うのは解ったが、溢れた分を蹴散らしてもダンジョン内には、まだまだ多くの魔物が残っているのが通例なのだ……一筋縄ではいくまい」
このギルマス、もう完全にミレニアムちゃんのイエスマン状態だなぁ……まぁ、話が早くていいんだけど。
こいつ、トップ向けと言うより、二番手とかに向いてるとかそんな気もする。
世の中には、そう言うやつもいるからな。
なお、そう言うのがトップに立つと、大抵の場合、途端にグダグダになる。
日本の歴代総理大臣なんかでも、ナンバー2の官房長官が総理の後釜に入ったら、それまで上手くやってたのに、いきなりダメダメになるってのは珍しくないからな。
「そうだな……。ダンジョン攻略自体は、ダンテチームと俺達直属ナックルチームがユリアちゃんとミレニアムちゃんに同行した上で行う。これは飛行船からの空挺降下の上で、敵残存戦力を蹴散らしながら、一気に最深部まで突入するのが一番早いだろうし、ダンテもナスルさん、ダリオの三人はベテランだから、問題ないだろうし、ミレニアムちゃんも言うまでもないだろ?」
なにせ、ミレニアムちゃんは飛行魔法や、浮遊魔法も使えるからな。
ちょっと勇気がいるかもしれんけど、飛行船からダイブしても、フワッと軟着地出来るらしいので、それで飛行船を着地させる手間を省く。
飛行船は、飛行機みたいな長大な滑走路が要らないってのも利点の一つで、だいたい気嚢部分の倍くらいの面積の空き地があれば、どこでも着地は可能なんだが、熱気式だとすぐには浮き上がれないと言う欠点もあるからな。
降りたところを飛行船を魔物に襲われたら、帰りの足がなくなる……さすがにそれは困る。
行きは素早く飛び降りて、空爆で生き残ったのをサクッと片付けて、一気にダンジョンを制圧する予定だった。
「確かに、前回の討伐戦でダンジョンのマップも荒削りながら完成しているからな……。そう言う事なら、最短ルートを脇目も振らずに、一気にグラドドドスの所に向かう……悪くない手だな。だが、そうなると退路の確保が必要ではないかな? グラドドドス戦で、ユリア様も力を使い果たしてしまう可能性もあるのだから、突入班と別に退路確保の別働隊を用意すると言うのが、賢明だと思うのだがな」
「そうさなぁ……。ダンジョン内も最低限の戦闘で一気に駆け抜けるつもりだったが、確かに帰りの退路が確保されてると楽だし、戦で退路の確保は基本だものな。……その様子からして、助太刀を期待して良いのかな?」
このベルガのおっさんも、前回色々しくじってるし、さっきもグダったとこを見せたばっかりで、なんとか失点を取り返したいってのは、見え見えなんだよな。
それに冒険者連中もユリアちゃん達にいいとこ見せたいらしくて、どいつもこいつもやる気満々。
ダンテたちって前例もあるから、ランクを問わず、名前を覚えられたら、もうそれだけで出世の道が開けるようなものだからな。
まぁ、今後も冒険者連中とはよろしくやっていきたいから、ここはひとつ助太刀を期待させてもらおうじゃん!




